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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり 2 

 
 そして、担当編集から連絡が入った。
 担当編集からのメールが到着したと思ったらほぼ同時に携帯電話が鳴りだして、アタフタと携帯電話を手に取り、今度は何を言われるのだろうとビクビクしながら、電話に出た。

「お疲れー、谷野さん。頑張ったね。朝倉先生からOKが出たよ。打ち上げには来てね。メールで詳細送っているからよろしく!」

「ありがとうございます!」
 私は、電話を持ったまま見えない担当編集に向かって何度も頭を下げた。
 心血を注いだイラストがやっと認められたのだ。
 この喜びをどうしよう。

「美優ちゃん、ママは、すっごく頑張りました。美優ちゃんもお利口さんで頑張ったものね。大好きですよー!」

 娘はキャッキャッと笑った。母親がご機嫌さんだと娘もご機嫌さんなのである。娘の笑顔を見ているだけで幸福感に包まれる。
 シングルマザーになって、大変なことも多いけれど幸せな事がその分増えた。この先、色々な問題が出て来るだろうけど、娘のためにも乗り越えていこう。その力も娘がいればこそだ。

「美優ちゃん、ママこれからも頑張るよ!美優ちゃんも応援して、お願いよ。先ずは、今度の打ち上げお留守番していてね」

 子守を頼むため、いとこにメールを打った。


それから数日後。
 ピンポーン!

 ドアを開けると近所に住むいとこの紗月が立っていた。今日の打ち上げのため、娘・美優の子守をお願いしてあるからだ。

「夏希ちゃん、まだ、そんな恰好しているの?たまに出かけるんだからちゃんとおめかししないとダメじゃない」

 私は、まだ、部屋着のままで上下スエットに頭ボサボサのノーメイクだった。

「いや~、美優がグズッて大変だったのよ」

「言い訳は、いいから早く支度をする。ただでさえ夏希ちゃん、女サボっているんだから戻りが甘くなっているんだよ!」

 姉妹のように育った紗月は、気の置けない仲だ。そして、その分容赦がない。

「なに? 戻りが甘いって?」

「化粧した後の女の完成度が低いってことだよ!」

 くはーっ! キツっ! 刺さった!

「ヤバイ、これから出かけるのにHPが、減った」

「女は、どんなに疲れててもキッチリ化粧すれば誤魔化せるの。ほら、バカな事を言っていないで早くしな」

 一見キツイ様に見えるが、これは紗月の性格だし私の事を思って言ってくれているのがわかる。心の中に裏表がなく、ズバズバ言う。
 紗月は、テーブルの上に転がっている朝倉翔也の本の背表紙を眺めてニヤリと笑いながら私に話し掛けた。

「今日、会う予定の作家先生なかなかのイケメンだねー。夏希ちゃん頑張れば?」
 
「何、バカな事言わないで! この悪魔と会うだけで、頭沸騰わきそうなんだから!」

 思い出すだけでイライラして、おろしたてのパンストを電線させてしまい、ゴミ箱に投げ捨てる。

「悪魔って、なんかあったの?」

「もう、訳の分からないリテイクを鬼のように出されて、マジ悪魔」

「ふ~ん。でも、仕事でしょ?」
 
 ぐっ。そうなのだ。鬼リテイクの後、送ってOKを貰えたイラストは、確かに構図や色合いなど完成度が高く自分の作品では、一番良い物になった。
プロとして一切妥協の許されない仕事は、私の今後の糧となるだろう。

「出来たよ」

「うーん。80点。やっぱり戻りが甘いな」

「すいません」

「まあ、せいぜい営業しておいで」

「はーい」

 80点の私は、悪魔に会うために打ち上げのお店に向かった。

 

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