物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

英雄譚

第5話 「他人なんですけど」



 この学院には主要人物たち以外にも区別されている小役たちがいる。
 モブAチーム、モブBチーム、モブCチームだ。
 ランクがAに近いほど主人公たちに認識される機会が多くなるが、生憎と俺はモブC以下に位置するモブDである。
 他のモブたちにすら認識されない悲しい存在だ。

 そんな底辺の中で、何事もない日々を過ごす俺の元に自ら干渉してきたのはメインヒロインのドロシーだった。
 幼馴染を主人公に取られたばかりの俺の元に主人公の幼馴染がやってきたのだ。

「グラン・イグニッション!!」

 入学初日。
 彼女が披露した攻撃魔術の威力があまりにも膨大で、平原が焦げて更地になったのを覚えている。
 雲が割れ、空から全てを焼き尽くすほどの真っ赤な光線が放たれ、大地を焼いたのだ。
 そのとき苦笑いしながらドロシーは言った。

『これが一割です』と。
 本気を出すと土地ごと木っ端微塵らしい。
 強すぎる、可愛さだけが彼女の武器ではなかったのだ。

 そもそもドロシーはあまり自分を自慢するような子ではなかった。
 無意識ナルシストのリュートと違って、なにか凄いことをやってのけても驕ったところを見たことがない。
 自己肯定感が低いのか、それとも常識的に物事を捉えているから自分の成していることが普通の事ではないことをしっかりと理解しているからなのか。

 そこ含めて異様な魅力も兼ね備えるドロシー。
 ただでさえメインヒロインという勝ち確のポジションにいるというのに、溢れんばかりに贅沢な人物なのである。
 そんな人が俺に話しかけていいの?
 答えは決まっている、ノーだ。
 何かしらの悪いイベントが発生する前兆なのかもしれない。

 なので全力で無視することにした。
 何故、どうして、彼女がこんなに近くにきたのかという疑問の解消よりも、俺は俺の役割を全うするだけ。
 背景に溶け込むぐらいの透明人間になるだけだ。
 そしてドロシーの発言はすべて無視。
 どれだけ声をかけられようと距離を詰められようと全力回避だ。



 昼食の時間。
 校舎裏、別棟の間にある暗い空間で一人パンを食べていた。
 教室にいても一緒に食べる友達なんていないし、なにより人の前で食事を取ることが恥ずかしい。
 なのでココを俺の特等席として認定した。
 誰もいないこの空間が気持ちいい。
 先程の件で疲れているので次の授業が始まるまではココで身を癒そう。

「あれれ、偶然だねぇ」

 人の気配がした。
 顔を上げると、いつの間にかそこには満面の笑みを浮かべる少女がいた。
 何をそんなに嬉しそうなのか、不気味でしかたなかった。

「お隣いいかしら? あ、これ本日二回目だね」

 返事も聞かずに隣に座られる。
 すぐに距離を離すが、笑顔のまま彼女は近づいてきた。
 引き離そうと、また距離を離すが遠慮もなくグイグイ詰められる。

「さっきから何なんですか……?」
「んー別に」

 楽しそうにしていた。
 脇役の俺との謎の勝負にドロシーは楽しそうにていたのだ。

 いや、そんな事よりも。
 どうしてリュートと一緒にいないんだろうか。
 学院生活が開始してから彼女がリュート以外の男と昼食を共にした光景を見たことがない。

「教室でも言ったけど仲良くしたいだけ。それなのに君はどうしてそんなにお堅いのか、私には分からないわ」
「こっちの方が意味不明な状況に陥っているんですけど……」

 唐突に彼女はムスッとした表情をみせた。

「さっきから他人行儀な態度と喋り方だけど、せっかくお友達になるんだから気軽に話してもいいんだよ?」

 事実、他人ですけど。
 ちょっぴり怒っているドロシーの顔を見れて、幸福な気分になれたけど、そろそろ脇役との干渉に幕を下ろしてほしい。


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