【完結】ロリコンなせいで追放された魔術師、可愛い愛弟子をとって隣国で自由気ままに成りあがるスローライフ!

ノベルバユーザー542862

エピローグ


差しこむ陽光が、眠気を誘ってくる。

時間には密度があることを俺は知っている。
だからこそ、こんな気持ちのいい天気の日は、のんびりと、ゆっくりと相対的に時間の流れは、おそくなることだって知っているのだ。

「あぁ、だけど、ダメだ。いま眠るわけにはいかない。今日をすっぽかしたらきっとエラスムスのじいさんに怒られる、いや、絶対か」

「チュンチュン、チュチュ、ちゅん」

小鳥のさえずりが俺の意思をくじこうとしてくるが、彼らの思惑に乗るわけにはいかない。
突っ伏していた書斎机から顔をあげ、ぐっと凝り固まった背筋をのばす。

かたわらの棚をひとつあけて、分厚い包みを取りだす。先日、魔術大学から貰ったものだ。

ーーコンコン

軽快なノックとともに、ひとりの若い紳士がはいってくる。

「サラモンド様、お時間でございます。そろそろ行かなければーー」
「ああ、今行きますよ」

分厚い包みを小脇にかかえ、机のうえの書類をカバンに詰めこんで俺は部屋をあとにした。


⌛︎⌛︎⌛︎


突如としておきた不可思議なる大事件ーーレトレシア魔術大学の謎の崩壊も、もう人々の話題には登らなくなった。

街いく人々の顔は平穏の日々を取り戻している。

幸いにもあの事件での、死者は報告されていない。
皮肉なことだが、どこかの悪魔のおかげなのだろう。

「サラモンド様、それでは魔術大学でまた会いましょう。絶対に来てくださいね? 『無断欠勤の魔術師』なんて、不名誉すぎる二つ名は嫌でしょう?」

「ええ、わかってます、わかってますって」

若い男は念入りに釘をさして、角の向こうへと消えていく。

すぐ横の見慣れた豪邸へ視線をむける。

この一年間、変化した生活にも慣れたものだ。

俺がもう、この屋敷ーーパールトン邸に住む事はなくなった。

なぜかって?

それは、立場の問題だ。

「あっ、サリィだ!」

元気な声に、我にかえる。
視線をややさげると、すぐに視界下から青いポニーテールがはえてきた。

やれやれ、まったくこの子は。
相も変わらず、ぺろぺろ待ったなしに可愛いな。しかし、俺はもう彼女の従者のひとりというわけではないのだから、そんな事してはいけない。

もう気安く呼べる仲ではないのだと、わからせてあげなければ。

「んっん、あー、ミス・パールトン、その呼び方はやめなさい。俺たち、いや、わたくしたちはもうそんな気安く接していい仲ではーー」

「何よ、その呼び方! サリィこそ、その呼び方やめてよね! それに、何してるの。はやく入ってこないの? はやく来ないと、もうサリィの事なんて家に入れてあげないんだからー!」

地団駄をふむ青髪のレディーーレティスはそういうと、プイっと顔をそむけてしまった。

まったく、俺もダメだな。
彼女にこうされると、どうにも敵わない。
俺、もうレティスの家庭教師じゃないのになぁ。

「あー……はい、そうですね、すみません、レティスお嬢様。だけど、レティスお嬢様も、もう立派なレディなのですから、あまりそういう振る舞いはーー」

もちろん、俺的には全然問題ない。
むしろウェルカム、ウェルカム、カモンカモンだけれど……プラクティカに彼女のことも任されてしまった以上、その行動には口を酸っぱくしないといけない。

レティスには、プラクティカの魂の一部が溶けこんでいる。
それはつまり、少なからず悪魔の秘術の影響を受けていることを意味する。

彼女の年齢にそぐわない幼さは、老いから遠ざかる悪魔の力の影響だ。

その影響は、レティスの中にプラクティカがいる証でもあるが、同時に生涯つきまとう呪いでもある。

幸いにも、ゆっくりではあるが精神年齢も成長している。話もわかるので、教育次第では十分に年相応の振る舞いをすることができるはずだ。

だからこそ、俺たちは頭を悩ませなければいけないのだがーー。


⌛︎⌛︎⌛︎


再建された荘厳なる校舎。
迅速な手回しにより、ローレシア王家と密に連携を取ることで、復活した魔法王国最高の学び舎。

わちゃわちゃと、混雑する廊下で出番をまつ。

「緊張していませんか、サラモンド先生」

すぐ傍で、格好が付くようにと、ついて来てくれた黒髪のメイドが、小首をかしげて聞いてくる。

「緊張、なんてしてませんとも。ミス・アヤノ」

「その呼び方やめてください」

「……さいですか。本心を言えば緊張してますよ。けれど、これは先をいく偉大な魔術師が譲ってくれた務めです。それに俺の生涯の使命である、魔法の普及、のためにも、ここ以上の場所はありませんしね」

「たしかに。ん、どうやら出番が来たようですね」

アヤノはまっすぐ前を向き、チラリと黒瞳をこちらへ。

「では、いってらっしゃいませ、旦那様」

やや大きめの声で、しっかりとそう告げ、アヤノは淑やかに、ぺこりと一礼をする。

目を見張り、呆気にとられていると、アヤノがスッと顔をあげた。

「ぁ、あの、恥ずかしいので、はやく、行ってきてください……っ」

気恥ずかしそうに頬を染め、背をぐいぐい押してくるアヤノに促され、たたらを踏む。

まったく、なんだよ、旦那様って……。

最高の学び舎、その中庭、以前よりずっと大きくなった『オオカミ庭園』に設営された壇上を、ゆっくり歩く。

1年前の出来事より、プラクティカから継承した役割が、ついに今日よりはじまるのだ。

ひろく広がる芝生のうえ、多くの生徒たちが真新しい装いを着込み、席に座して、俺の登壇に息を呑んでいる。

春の日差しが気持ちよく、なんだか眠たくなってきた。

ああ、いいリラックス具合だ。
誰のおかげだろうか。

ほくそ笑み、睥睨する生徒たちへ口を開く。

「長らくお待たせいたしました。一年前の不幸な事故を乗り越え、今日、ここに皆さまとお会いできた事を、そして、このレトレシア魔術大学に迎えられたことを大変嬉しく思います。
えー、ではこれより本大学の第399回入学式ーー」

声の張りを意識しながら、一言一言、練習通りに声にしていく。

ん、いや、待て、何か忘れたような。

「サリィ! サリィー! まずはサリィの名前を名乗らないとよー!」
「お嬢様ぁぁぁああー! お下がりくださぃぃい!」

目を覆いたくなる大事件。
青髪ふりみだす少女を、血相変えた老紳士が追いかけてこちらへ向かってくる。

なんで、入学式なのにいるんだいって叱りたいが、今反応したら負けだ。

このまま行こう。

「おおっと、これは申し遅れました! わたくしが、先代、故プラクティカ・パールトンに代わりレトレシア魔術大学、
第35代校長を務めさせて頂くことになりました、サラモンド・ゴルゴンドーラであります。よろしくお願いいたします」

どこまでも澄み渡る空の下、懐におさまった杖をローブの上からなでる。
いくたの偉大なる魔術師から、継承し、運命的奇跡の果てにたどり着いたこの場所で、俺は高らかに式の開会を宣言した。

中庭の端で、青い少女が取り押さえられているの横目にみる。

彼女と彼女が見守っているのだ。
俺もまた無様には終われない。

「はてさて、俺は何を積みあげられるのか、ふふ」

自嘲げに、小さくつぶやき、俺はそっと練習していた台詞回しを忘れるのだった。


追放のロリコン宮廷魔術師 〜完〜

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