【完結】ロリコンなせいで追放された魔術師、可愛い愛弟子をとって隣国で自由気ままに成りあがるスローライフ!

ノベルバユーザー542862

第67話 託された思い


灰の振る空のした、半身を影に染めたイチゾウへ歩みよる。

「ぁぉ、魔法屋の、旦那……ごめんなぁ……おらが、おらのこころが、弱かっただ、ぁ……死ぬのが、こわかった、だべ……ごめんなぁ、ごめんなぁ……」

滂沱の涙で灰を湿らせながら、イチゾウはゆっくりと声を小さく、弱くしていった。

彼はすぐに息絶えた。
目をむいたまま動かかなくなった彼のまぶたを閉じ、俺は残る黒い液体ととも彼の遺体へと火を放った。

「おわったか……」
「ぇぇ、師匠、暗黒魔術の傀儡かいらいでしたよ」

ゆっくり息を吐く師匠は、すこし腕をもちあげて近くに倒れこむ騎士団長を指差した。

「遺体はやいて、おけ……悪魔化あくまかするかもわからない……からな……」
「師匠、もう喋らないでください。あと歯を食いしばって、しっかり踏ん張ってくださいよ、剣を抜きますから」

腹に深々と刺さった長剣の柄を握る。

師匠は首をふりながら、俺の手のうえへ血糊のついた手のひらをかぶせてくる。

「あーらら、ぁ……そんなに師をいじめたいのかな、どこで教育を間違えたのか……ぐふっ……サラモンド、もういいから、ただ、さいごに、ひとつ話を……聞いて、くれ……」

「師匠、だからもうーー」

「サラモンド、頼む……」

弱々しい言葉で俺の声を上書きし、師匠は細く息を吐きながらも、まだしゃべりろうとする。

一歩先にせまった死を迎えることを恐れず、ただ最後の仕事を果たそうと言うのか。

「サラモンド、お前を置いていったのにはわけがある……私は、友を……救ってやらなければ、いけなかった……」

「友?」

「あぁ、だが、私は失敗したんだよ……私では彼女を救ってあげることが出来なかったんだ……だから……ーー」

「……? 師匠……? 師匠!」

傾聴する耳へ入ってくるはずの言霊はもういなかった。

師匠の瞳は見開かれたまま、濁り、そこに光はない。

かつて伝説的魔術師として殿堂に名をつらねた男は、静かに眠りつつあったのだ。

「ぁぁ……これが、死、か……ぁら、らら……はは、たしかに、これは……おそろしいねぇ……」

焦点のあっていない瞳で天を見上げ、灰が光彩をふさぐことさえ気にとめない。

師匠はただひとこと最後に言葉をつむぐ。

「死だ……『死の悪魔』を……おま、ぇ、なら……」

師匠の体から完全に生命の息が絶えた。

もう動いてはくれない。
もう何も教えてはくれない。
もう何を語っても聞いてくれない。

そうわかっていた。

「師匠、お疲れ様でした。あとは、任せてください」

俺は無意識のうちに師匠の言葉に答えていた。

視線をずらせば、灰の積もるうえに師匠の大杖だいじょうが横たわっていた。

まるで真白い雪のように振る舞う灰たちをかき分け、俺は曲げ木の捻くれたその大杖を手にとるのだった。

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