【完結】ロリコンなせいで追放された魔術師、可愛い愛弟子をとって隣国で自由気ままに成りあがるスローライフ!

ノベルバユーザー542862

第4話 採用試験


ハゲ男に通された扉の先。
天井はやや高く、奥行きは驚くほどにひろい、広大な地下空間だった。水のしたたる音も聞こえる。

明かりのほとんどない、黒岩の露出する天然の洞窟には、何人もの魔術師然とした者たちがすでにいた。

10人前後が、色とりどりのローブを着ている。
所属する組織はバラバラだろう。
皆がここに集められたわけか。

平均年齢がずいぶん高そうだが……ん、唯一いる若いのが近づいてきた。

「やぁ、キミもこのボクと同じで、なかなか若いね。ボクはトム・マークス、よろしくね」
「俺はサラモンド、サラモンド・ゴルゴンドーラだ。よろしく、トム」

握手をするため、手を差しだす。

トム・マークスは俺の手を見下ろし、「いやいや、待ってくれよ」と、肩をすくめて言うと、指をひとつたてて眉根をあげた。

「握手ってことは、まさかボクとキミが対等な存在だと、思ってるのかな? ボクは今年で22歳だけど、もうすでにマークス家を継いでいる。わかるかい、その意味が?」

「……すまん、俺は家ってものが、よくわからないんだ。親には目が開かないうたに捨てられたし、最近まで家だと思っていた場所からも、追いだされたしな」

「はは、冗談だろ? 勘弁してくれ、手を取らなくて本当によかったよ!
いいか、教えてやるよ、家無し。マークス家は、魔法王国ローレシアの由緒正しき魔術師の家系だ。
この地で100年も前から魔術の研鑽と発展に貢献してきた。
それを家のない……あ、そうだ、さすがにここに呼ばれって事は、魔法学校くらいは出てるんだろう?」

見透かしたように、涼しげな声で聞いてくる。

やれやれ、大陸に4つしかない魔法学校をでられる魔術師が、いったいどれだけいると思ってるんだ……。

「学校は出てない。魔術は独学だ」
「おいおい……マジかよ……お前、なんでここにいるの? ここは名門魔術大学の校長につかえる、家庭教師を選ぶ場だ、お前はふさわしくないだろう」

トム・マークスは「冗談よせよ」と、脱力したようすで首をふり、高笑いをあげながら下がっていく。

部屋にいた老齢の魔術師たちも、鼻で笑いながら、興味をなくしたように地下空洞のおくへ。

「それではまず、皆さまがお嬢様を守るだけの実践魔術をつかえるどうかを、確かめさせてもらいます」
「あ、エゴスさん……」

暗い洞窟のなか、突如としてあらわれた黒服のバトラーへ、魔術師たちは視線をあつめた。

「皆さまには、あちらの大岩を風属性、あるいは火属性の魔法で撃っていただきます」

エゴスは手元のファイルを確認しながら、「うん、撃ってもらいます」と、ふたたび口ごもって言った。

トム・マークスがローブのふところから魔術の杖をぬいた。

「風穴開けちゃったらゴメンねぇー……≪汝穿なんじうが火弾かだん≫!」

力強いは詠唱トリガー。
空気の温度がわずかに上昇し、わざわざ両手をつかって、剣をおしこむように、気取ってかまえられた杖先から、朱い、朱い炎の槍が跳びだした。

ーージュワァァァアッ

洞窟内にそびえ立つ10メートルを越える大岩へ、火属性魔力は砕け散り、霧散して「現象」を終了した。

「ッ」
「この黒石は極めて密度が高く、頑丈な鉱物です。ゆえに、穴をあけるのは叶いませぬ。
ですが、悪くない火力でしたよ。ほら、岩の表面が温かくになっていますね、肉でも焼けるのでは?」

エゴスは皮肉まじりにそう言って、ペンを走らせて、ファイルになにかを書き込んだ。

「んっん、それじゃ次はワシがーー」
「どいてろ、ジジイども」

俺はため息ひとつ、腰のホルダーにかかった杖をぬく。

「貴様ッ! これだから教養のない魔術師もどきは! それに、なんだそのみすぼらしい杖は! そんなモノでまともな魔術などーー」

「≪火炎弾かえんだん≫」

わずかの魔力をやどし、触媒として辛うじて機能する杖のさきに火属性の魔力が集約。

手で魔力を操りながら、発射までの1秒で形をととのえる。

オレンジ色から、赤へ、そして、青くなり、真っ白な色に瞬く間に変貌を遂げた、火の球は、俺の合図とともに、衝撃をともなって撃ち放たれた。

本来なら貫通力をもたない≪火炎弾かえんだん≫は、圧縮した火の魔力で、黒の大鉱石を溶解し、赤々とした軌跡をのこして洞窟のはるかおくへ消えていった。

「……やはり、茶番でしたな。ゲオニエスの宮廷魔術師の実力は、伊達だてではないと言うことですか」

「ッ! きゅ、宮廷魔術師っ! その男がっ! あの帝国の魔術師の最高峰の座にいたとでもッ!?」
「ま、魔法学校も出てない野蛮な魔法使いが、な、な、なんで……ッ!?」

どうもくするほかの魔術師たち。

エゴスは「試験は終了です、お疲れ様でした」と言うと、ファイルを破りをすてて、未だ火の灯る大岩の穴へ投げ入れてしまった。

「では、行きましょうか。サラモンド殿。パールトンの家を案内いたします」

固まる魔術師たちをおいて、俺はエゴスに連れられ、地下洞窟をあとにした。

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