【未完結】異世界帰りした英雄はソシャゲ運営で最強ビジネスはじめます!

ノベルバユーザー542862

第16話 警備主任


騒々そうぞうしいサイレンの音が、表の通りに響き渡る。
窓の隙間から美しい夜景をのぞめば、街のあちらこちらを赤いサイレンの反射が飾りつけているのが見えた。

グンホー本社から離れたはいい。
だが、都市の警戒度がグッとあがってしまった。
本社であれだけやれば、当たり前ではあるが……しばらくは、外を歩くことも出来まい。

ーーコンコンッ

鈴鹿すずかです」

名乗りとともに、緑水髪を流したスズが部屋へ入ってくる。
両手にはこの家の冷蔵庫からかっさらってきた、飲み物食べ物の類がたんまりだ。

さきほど眠ってもらい、ただ今俺たちの潜伏せんぷくにご協力いただいている老夫婦には、しっかり被害分を送金しておくとしよう。

最近流行ってるエナジー紅茶ティーを、ごくごく飲み喉をうるおす。

「アギトさん、これ持ってきました」

スズの手の抜身の包丁を確認。

「その、これからどうするんですか?」
「当面の目的はグンホー警備主任・氷室ひむろ阿賀斗あがとから情報聞きだすこと。まぁ、その辺は任せておけ。他人から情報を聞きだすのは初めてじゃない」

エナジーチャージを終え、椅子に縛りつけた男を抱えて、浴室へ移動。

冷水の貼られたバスタブの脇に椅子をおく。

「グッドモーニング」

椅子ごと氷室ひむろをバスタブのなかへ突き落とし、頭の冴えわたる感覚をご堪能してもらおう。

「ッ! あばば、ばぉあっ、っ!」

水にもがき、ぷるぷると暴れ始めたあたりで、浴槽から警備主任の体を引きあげる。

「ぶぉあ! ぁ、ぁぁあ! はぁはぁ、はぁ、はぁっ、はぁ、はぁ……!」
「目が覚めたか。それじゃ、グンホーでの続きといこうじゃないか、氷室アガト」

びしょ濡れの髪の隙間から、こちらを睨みつけてくる赤い瞳。まだ反抗的だ。ふたたび浴槽に椅子ごとつっこみ、適度に殺してから引きあげる。

「ぶはぁぁあああ! ぁああ! な、なぜ、なにか、はぁはぁ! なにか、質問、はぁ……っ、はぁはぁ」

「今のは腹いせだ。それじゃ、今度こそほんとうに質問を始めようか」

かたわらで見守るスズから包丁を受け取り、心配そうにする彼女には、老夫婦の様子を見にいかせる。

あまり見て楽しいものでもないからな。

「はぁ、はぁ、はぁ、ナイフ? あまり、馬鹿にしてくれるな。そんな物で超能力者であるわたしが傷つくとでもーー」

刃先を思いきり、振りおろす。
鋭利な先端は、俺の筋力と共にいかんなく威力を発揮して、氷室のスーツと、皮膚と筋繊維、太骨すら破壊して、たくましい太ももに穴をあけた。

「ゔゔんぅぅうんー!? ぁ、ぁぁああぁあガぁァアアあッ!」
「両腕はもどしてやったが。変わりにお前からあらゆるステータスを奪った。まったく、グンホーが訓練された超能力者を警備主任に据えていたなんて驚きだよ。もっとも、都市の管理社ともなれば、私兵部隊をもつくらいだから、強力な超能力者くらい確保できるのかもしれないが」

「俺の能力を奪った、だと……! ぁ、が、ぐぅう!」

遠慮なく包丁をぬいて、もう片方の太ももに突き刺す。

「あがぁぁああ! ぐぅう、ぅう!」

「もうお前は特別じゃない。お前の目の前にいる男は、いつだってお前の命を吹きけせる死神だ。そのことをよく理解したうえで、質問に答えろ」

氷室は苦痛に顔を歪めて、ただ沈黙でもって理解をしめす。

ある種、特別だった存在が、特別ではなくなることには独特の悲壮感と、喪失感な伴うらしいと俺はある例から知っている。

異世界でそんな連中をたくさん、たくさん……それはもうたくさん見てきた。
それも、それが他者に剥奪されたとすれば、その絶望のほどは想像に難くない……。

「では、まず俺が狙われていた理由から聞かせてもらおうか」

それからの質疑応答は非常にスムーズにいった。

氷室から嘘をつく力と、質問を無視する力を奪っていたので、当然ではある。俺の質問には何かしら答えるし、彼の文言のすべてが真実だ。

彼の話を要約すると、どうやら俺のことをリークした情報もとがいるらしいとわかった。

能力を使ってこないからおかしいとは思ったが、どうやら氷室自身は、異世界帰りの英雄ではなかったようだ。

つまり情報はすべて、どこかの異世界帰り野郎が、俺のことを監視して行ったものと言うことになる。

接触してきた男の容姿は特徴的で、バケツのような鉄仮面てっかめんを被っていたらしい。
彼は、異世界と呼ばれる不思議な世界が存在すること、大英雄と呼ばれる者が魔神を倒したこと、その男の名が重課金アギトということ、また顔写真やら今夜千代田の街に入ることなどもすべてを、グンホーの最高経営責任者CEOへ告げたらしい。

いったい何の目的があってそんな事をしたのか、氷室にたずねたが、彼は結局のところ鉄仮面の男が何を望んでいたのかわからなかったという。

ただひとつ、鉄仮面の男は報酬として顧客の名簿の閲覧をすることを要求してきたとか。グンホー・オンライン・エンターテイメントのもつデータバンクは巨大だ。
具体的な目的があれば、それは極めて有用なものとなる。

つまり、鉄仮面の男はそちらに興味があったのだろう。
俺はそのための餌にされたのだ。

「なるほど、情報の出どころについては概ねわかった。で、どうしてお前たちグンホーは俺を襲おうとしたんだ?」

「ミスター・グンホーの考えは深く、知略に富んでいる。そのすべてを推察するのはい難しいが、彼は異世界を新しい市場、と呼んでいた。ひとりの経営者として開拓の余地がある世界に興味があるんだろうな」

すっかり素直になった氷室は、そう言い、ため息をついた。

「お前を殺さずに連れてくるよう指示された。だが、割りに合わない仕事だった。地球でいう超能力者のような存在だとは聞いていたが、冗談じゃない。……超能力者よりよほど恐ろしい化物ばけものじゃないか」

「そうか? お前が弱いだけじゃないのか……氷室アガト、お前は超能力者としてどれくらい強い?」

「俺の超能力レベルはAランク。時間さえあれば、地球上の人類を半分くらいは殺せるくらいに強い。日本の企業に属してる超能力者の用心棒たちと揉め事になった時にも、負けたことがない」

「おお、それは頼もしい。流石はグンホー。一流を雇ってたわけか」

やはり、で正解だった。

痛みに顔を歪ませながら、喋ることをすべて喋ったとばかりに、氷室アガトはぐったりとうなだれた。

聞きだした情報をスマホのメモ帳にまとめ、今後の思案事項として保存。浴室をでる。

「アギトさん……」
「ぁ、スズ。老夫婦は平気だったか?」

今にも泣きそうな顔のスズは、涙をぬぐいながら顔をあげる。

「恐ろしい叫び声が奥まで聞こえてきました。何で拷問なんかしたんですか? アギトさんの能力なら、痛めつけなくても十分に答えを書き出せはずですよね……? 私は、恐かっですよ……」

不安そうなスズの肩に手をおき、氷室に聞こえないよう浴室から離れる。

たしかにスズの言ってる事はもっともだ。
俺の『能力化コンプレッション』をもちいた、アビリティ・ツリーで、あらゆる対象から目的の情報を間違いなく聞きだすことができる。

拷問より確実で、手軽で、道徳的……かはわからないが、少なくとも絵面はひどくはない。

俺が拷問をした理由は他にある。

「仕方のないことなんだ。を植えつけることが、必要だった」
「恐怖、ですか?」
「ああ……」

俺は背後で絶望してるだろう氷室へむけて、指を弾いて乾いた音をならす。

能力発動ーー『恐怖掌握テロリズム

能力化コンプレッション』は最強の汎用性と応用力を兼ね備えた神級能力ドームズ・アビリティだが、それをもちいても他人の洗脳という分野においては、かなり苦手な部分がある。

もちろん、嘘をつけなくできるし、俺への犯行する能力を奪ってしまえば、洗脳したような状態にはできる。

だが、俺の『能力化コンプレッション』ができるのは、相手から奪うことだけだ。つまり能力のデザイン上、マイナス方向へ能力がかかっている。

ゆえに、他者に能動的に行動を起こさせる力が極めて弱いという弱点をもっているのだ。

そこを補うために異世界で多用していた補助能力のひとつ、そのなかでもまぁまぁ使いやすかった物のひとつがこの『恐怖掌握テロリズム』だ。

スズとともにびしょ濡れの氷室のもとへ戻る。

そして俺は彼へ、剥奪していた能力返還した。

「い、いいんですか?」
「ああ、もう大丈夫だ。だって、今日から彼は、グンホーの警備主任ではなく、ウチの警備主任だからな」

拘束縄をみずからひきちぎり、しびれた手首の感覚をたしかめる氷室。彼は眉根を寄せながら、諦観を感じさせる渋い表情で、億劫そうに口を開く。

「気に食わないが、仕方あるまい。重課金アギト、これからはお前のもとで働こう。あまり無理をさせてくれるなよ?」

氷室アガトはそう告げると、ぐじゅぐじゅと音をたてて再生する二の足で立ちあがった。

デジャラスシティ・千代田にて3人目の社員確保である。

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