記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第212話 世間のストレス
王都アーケストレス、第1段層、冒険者ギルド。
ビジョンパルスから借りたローブを身にまとい、腕がない事と、″アーカム・アルドレア″であるということ隠しながらギルドへと足を踏み入れる。
王都が物騒になってから、ここの人の出入りも少なくなった。
多くの市民が暴徒に怯えるなか、誰も彼もが身を守るための盾を必要としはじめたからだ。
ここ数日でもっとも多い冒険者ギルドへの依頼は、護衛クエストという名の自宅警備だ。
貴族の多くが、暴動の矛先が向かないよう領地に引きこもるなか、名のある冒険者たちほど、本業の魔物退治とは、かけ離れた事をやらされ、今では冒険者たちのほとんどは、領地に避難していない貴族の屋敷を守っているありさまだ。
そうなると、必然的に上位冒険者からどんどん売れていくことになる。
ただ、一連の事件で″ソロ″ドラゴン級冒険者になっても良いレベルの、前代未聞の伝説を残している俺は、とある世論と、竜学生ということであまり売れ行きはよろしくないらしい。
世間では「アーカム・アルドレアは本当にドラゴンを倒したのか?」という議論がここのところまた熱をもってきているのだ。
実はこの議論はある程度の終着を、俺のいないところで迎えてるらしく、混乱の破滅的世論ゆえか、「アーカム・アルドレアはインチキをしていた」というのが現状の一般論として定着しつつある。
よくよく考えれば、俺はドラゴン退治の証拠を折れた牙しかギルドに提出してないので、こうなる事は必然的ではある。
その場のノリで盛り上がった夜以降、わずかずつ世間の俺への風当たり厳しくなっているのも、俺は納得してるし、あんまり気にしてなかったので、今まで放置していた。
結局、ローレシアのポルタ級冒険者なのがバレたのも別にいい。
ドラゴン冒険者昇格が見送られたのも、まあいいだろう。実際討伐してないし。
ただ、ギルドに来たら関わっちゃいけない人みたいな顔するのやめろよな。
特にオーガ級冒険者パーティは、ポッと出の俺に上の等級いかれてるのが面白くないのか、アーカム・アルドレアインチキ冒険者説を強く押しやがって。
「くそ、ドラゴンくらい無双魔法使えば楽勝だってーの、このこの……」
「あらあら、アーカムちゃん、いらっしゃーいませぇえって感じかしら。なんだか、ご機嫌斜めじゃなぁい?」
隠し通路を通って狩人協会の地下へと降りてくると、外へ出て行こうとしていたアーケストレスのギルド顧問インファ・メス・ペンデュラムに出会った。
目の下にクマが出来ており、なんだかひどく疲れているように見える。
「こんにちは、ペンデュラムさん。今まで触れてこなかったインチキ・アルドレアの話ですよ。僕がポルタ級になったのは実力を認められてだっていうのに、まったく失礼しちゃいますよね」
「あ〜ん、たしかにここ数日でその話よく聞くわねぇ。ドラゴン退治の直後はそんなことなかったのにねぇん。たぶん、みんなの心が悪い方向にストレスのはけ口を探した結果なんでしょうねぇん。今、アーケストレスは本当に大変だから」
人々の心が疲弊した結果か。
つまるところ日常の崩壊が及ぼす影響は、それに関わるすべての歯車に波及していくということなのだろう。
やっぱり、なんとかしないといけないな。
「ペンデュラムさん、今時間ありますか? めちゃくちゃ大事な話があるんですけど」
「あー、ごめんねぇ、巨人がひとつ上の段に落ちたらしいから、今から回収しなくちゃいけはいのよねぇえん。まったく、暴徒ときどき神造兵器の雨、なんて笑えない天気よねぇ……」
ペンデュラムは膝を抱いて、「話があるなら、個室で待っててねぇん、アーカムちゃん♡」と魅惑の眼差しを残して地上へと出ていった。
またしても、巨人が降ってきた。
それはつまり、暗黒魔術教団がアーケストレスの環境をつくり変えているということだ。
そして、どこかでまた蒼い花が咲いたということだろう。
暗い影のなかから、見えない手がじっくりと日常をくしゃくしゃに握りつぶしている。
蒼い花がはじめて見つかった日には、もう始まっていたんだ。
のうのうと生きていた自分たちの、平穏の時間が汚くおぞましい闇に包囲されていた。
自分のうかつさ、世界なんて当たり前に危険に犯されるものなのだと、自分の常識が失われていくことに、気がついたら、沼に足がはまっていたかのような、手遅れの焦燥感をこれまで以上に感じる。
認識する必要があるんだ。
何も当たり前のことなんて、この世界にはないことを。
「やっぱ、なんだって起きるな、世界って」
「″そうだねぇ……ぐっちゃぐちゃとしたモノを、無理矢理キレイに見せかけてるんだろうねぇ……″」
「……わかりそうで、わからない事言うなよ。それで、ソロモンは起きたか?」
不意に顔をだしたアーカムの銀髪を撫でながら聞いてみる。
銀髪アーカムはニヤリと笑みを深め、俺の胸に手を突っ込むと、黒服の奇人を取り出した。
「″はぁあ〜い、全然生きてまーすぅう〜!″」
タップダンスを踏み、俺の顔に、白塗りの顔をめり込ませながらデカい声で喋る野郎。
脳内に不快な声が響き渡ると、俺は青筋を額にうかべ、反射的に目の前の首根っこを掴んで協会地下の長い廊下のさきへ、悪魔をぶん投げた。
心配して損したな。
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※ストックが無くなって来たので、
1週間ほど更新をお休みします
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