記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第199話 悪魔 対 古代竜


悪魔が笑いながら、姿をかき消す。

残響する悪意があっちこっちへ跳ねかえり、竜へと収束していく。

ほぼ同時に、チェンジバースが黄金の輝剣をふりぬいた。

ーービギィ

「アーハハッ!」
「……? 非力なものだな」

チェンジバースは眉をひそめ、怪しむように首をかしげる。

大振りの黒ナイフと、輝く刃が火花を散らし、薄暗い廊下を一息できえる明るさでうつ。

悪魔の突進力を完全に受けとめたチェンジバースの顔を見るに、パワーでは悪魔より古代竜に分があるらしい。

「アーハハハハッ、流石は老害トカゲモンスターということデスネ! 半分とはいえ耐えるのは凄いことデスネェ」
「ほざけ」

チェンジバースの横なぎ払い。
刃に押しのけられた空気が、廊下を胸ほど高さで水平にスライス。
悪魔はのけぞって回避。
大振りの黒ナイフを数本なげながら笑いつづける。

「″アーカム・アルドレア、逃げちゃうんですかぁあ〜? 我輩、あの悪魔とすこーしお話したいのですがねぇえ〜″」
「″馬鹿言ってると、こう! 聖遺物ないて倒せないじゃん!″」
「お前ら、戻れ。壁をのぼるのに剣圧が足りない」

背後で大爆発が巻き起こる。

振りかえるよりはやく、コートニー達をかばい、熱風から守るべく鎧圧を気持ちおおきめに展開する。

衝撃がおさまり、背後を見てみると、そこには直径10メートルほどの巨大なたてあな空間ができていた。

かつてのソロモンとの地の底の縦穴にそっくりだ。

縦穴の壁面は、無数の階層で構築された、迷宮校舎の断面図となっていて、異空間の異常さがよくわかる。
天井などどこにもない、ひたすらの暗闇が頭上には広がる。

これだけの規模の破壊、魔力の臭い。
チェンジバースが純魔力を爆発させたのだろう。

「あの威力でやりあうのか……巻き込まれるとただじゃ、済まないな」
「″あーあー、聞いてますか? アーカム・アルドレア、戦いましょうよぉお〜、今ならかなりの確率で勝てますよぉお〜! なにせ、あの悪魔、イキッテいますが、『源泉』のなかでも最弱ですのでぇえ〜!″」
「ダメに決まってるだろ。聖遺物がないと、まず戦うなんて選択肢が発生しない」
「″それ、貴方がおっしゃいますかぁあ〜″」
「学んだんだ、てめぇにな」
「″ふーん、仕方ありませんねぇえ〜、知らなそうなんで、あんまり教えたくないんですけど、お教えしましょうぉお〜。……あの古代竜はでぇえす。ゆえに、ここで悪魔でも天使でも倒せる可能性はありますねぇえ〜″」
「……なに?」

ここまで落ちてきた縦穴の壁に、手をかけたはじめた俺は、すぐ横の白塗りの顔をみかえした。

「属性? それがあると悪魔を倒せるのか?」
「″ええ、そういうことですねぇ″」
「″属性って、なんでもいいの? 火属性式魔術とか″」
「″はぁ〜い、三流魔術師は黙っててくださぁいねぇえ〜! 属性っていうのは、そんな最近できた貧人のゴミ魔術のことではなくーーとりあえず、戦いをご覧なされぇえ〜!″」

話の真偽を見極めるため、廊下をもどり、激音ひびく崩壊のたてあなを見あげる。

何十階も続いてるような木造の旧校舎を、断面図で見てるような光景のなか、蒼い閃光が道化師のまわりを飛びまわっていた。

空気中をほとはじる、電雷でんらいのようだ。

「ぐぅう! 速い、デスネ……」
「君が遅いだけだ」

「″あれ、案外、あのまま勝てそうな……″」
「″うーん、悪魔の面汚し的ザコムーブですねぇえ〜……″」

霊体たちは、厳しいコメント。
ただ、俺も意見はさして変わらない。

あの悪魔……そんな強くない、かも。

黄金の輝剣がふりまわされるたび、受け止める悪魔が踏んばれずに吹き飛ばされている。

この戦い、蒼雷の軌跡をのこし、目にも留まらぬ速さで跳ぶチェンジバースに、幾ばくか分があるよだ。

「なら、これでどドウデスカネ?」
「ッ」

三日月のように口を裂き、実に悪魔的な笑顔をうかべて、指が鳴らされる。

すると、チェンジバースはなにかを悟ったように、その場からすぐさま飛びのいた。

息呑む間もなく、チェンジバースが避けた地点が、虚空から発生した赤い火球につつまれてしまう。

さらに、火球は一気に熱量を増してふくれあがり、たてあな空間を爆炎が呑み込んでしまった。

熱さに顔を覆い、再び視界を取り戻すと、火の手は断面図の上の階まで広がっていて、自分がおおきな炎柱のなかを錯覚する光景に目を見張る。

なんて火力だ。
一瞬でこんな破壊……俺は凌げるか?

「″ですかぁあ〜。単純な破壊衝動は、悪魔由来の秘術ではありませんねぇえ〜。どこの世界で拾ってきたんでしょうかねぇ〜″」

ソロモンが呑気に観戦してるあいだも、戦いはつづく。

爆炎をしのいだチェンジバースは、焼ける白い上衣を脱ぎ捨てて、お返しとばかりに手のうえに高密度の純魔力を精製、爆裂飛散させ、複数の弾幕にわけると、悪魔に喰らいつくケモノのようにホーミングさせて、確実に敵をを滅ぼしにかかった。

殺意の高すぎる攻撃に、ギョッとする悪魔。

長い手と足をおおげさに振る、一見バカにしてるようにしか見えない非効率な走りと、投げナイフの連続投擲で、魔弾のスコールをかいくぐり、チェンジバースへせまっていく。

走る黒い刃。

迎え撃つチェンジバースは、一瞬だけ背中から片翼をはやし、風をすくい投げるように羽ばたいて、旧校舎の床を剥がしつくす風圧で、もろともすべてをふきとばす。

床のうえを残骸とともに転がる悪魔へ、今度はチェンジバースの黄金の重打が大上段から襲いかかっていく。

黒ナイフを叩きつけて、しっかりガード。

悪魔はふたたび指を鳴らして、自身とチェンジバースの間を爆炎で飾り、戦況をしきり直した。

「″……やけに、弱いですぇえ。彼、弱いには弱い悪魔なんですがぁあ、あんなでしたかねぇ……″」
「″いやいや、悪魔が弱いんじゃなくて白タキシードが強いんだよ。ほら、蒼い雷みたいな纏って高速移動? あれ私たちも覚えたいね、アーカム″」
「うん、そうだな……多分無理。ところで、さっきから悪魔が攻撃にちゃんと対応しすぎてないか? ソロモンは俺の攻撃をほとんど喰らってたが……」
「″ああ〜そこに気付いてくれてどうもぉお〜、いや、だってアーカム・アルドレアには″属性がなかった″ので、避ける必要性を感じなかったんでぇすぇえ〜。ゆえ、我輩かなり適当にやってましたけど、ほら、あそこの彼はちがう。属性の有無は、悪魔と戦うことを選択肢にいれるだけでなく、悪魔に″ちゃんと戦う″ことを強制する手段でもあるのですねぇえ〜″」

チェンジバースの攻撃は、悪魔に通じる。
属性の有無とやらが、関わってるらしい。

顔をあげ、刃をぶつけ合う怪物達を見やる。

戦いは古代竜がやや優勢。
悪魔も強力な能力で対応してる。

この天秤てんびんはもう一押しがあれば、安全な勝利を古代竜サイドにかたむける事ができる。

「あとで、詳しく話を聞かせてもらうぞ、ソロモン。さ、戻れ、俺たちも加勢する」

俺は悪魔化した時から来ていた、窮屈きゅうくつな黒スーツのジャケットを脱ぎ捨てて、シャツの袖をまくり、黒銀の厚い刀を抜きはなった。

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