記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第193話 ただいま、世界


あ、あ、ああ、あああ。

なん、なんだ、これは!
腕が、足が、視界も狭い、耳も遠い!

「先ほどの血の操作、あれは人間の鍛錬によって得られる精度を越えているように感じました。やはり、血が混じっていると見て、間違いなさそうです。吸血鬼は強力ですが、弱点もある。たとえばこういう武器に弱い」

炎のなか揺らめく人影が、銀色の杖を掲げる。

「でも、ええ、やはり、生きている。おめでとうございます。聖火杖せいかじょうによる浄化を、あれほど近距離から受けて、原型をとどめ、なおかつ生きている怪物は、そう多くありません。人間としてのあなたが自身を救ったのでしょう」

あたりが赤い炎に包まれている。

鈍い肌の感覚が、空気の熱さを、黒い煙の熱さを、いや、違う、俺が感じているのは痛みの熱さか。

「ぁ、ぅ、が、……が、ほっ……」

喉が痛い。
視界のなかが真っ赤だ。

あれは、宣教師……注射器のようなものを首に刺しながら、のんびり歩いてくる。

ぁ、腕が……再々していく。
かつて見た、アディのように……。

「神の祝福です。人は信仰の力でもって、恐ろしい脅威に立ち向かい、生還することができる。はい、ええ、そうですとも。狩人狩りなど初めてでしたが、あなたが熟達の者でなかったおかげか、このあとのができました。ありがとうございました」

宣教師はすっかり回復した右腕をぐっと伸ばしたり、手を握ったりして動作を確かめると、ふところから3本の杖を指にはさんで取りだした。

殺される。
確信した。

また、負けるのか、俺は?
まだ負けるのか、俺は?

宣教師、これが、教会の超武力のチカラ。
人間の限界、修行を怠ける俺が、及ぶ道理がない。

戦うべきでは、相手ではなかった。
おごっていた、つけ上がっていた。
またしても判断を、あやまった。

俺は、俺が思っている以上に、弱く未熟だった。

「う、ぐっ」

脳の働きが鈍い。

きっと脳みそが一部無いせいだ。欠けてるんだろう。さっきの炎熱爆破にやられたんだ。

「ぁー、か、ム、たの、ム……」
「″ぅぅ、大丈夫だよ、アーカム、心臓は無事。時間があれば再生できる、だから、ここは私が『霊体れいたいパンチ』でなんとかする″」

銀髪アーカムは涙ぐみながら、健気に宣教師へと顔を向ける。その小さな背中が今は、とても心強い。

「″マスター、あの宣教師を舐めてはいけませんねぇえ〜。我輩たちの『霊体パンチ』はおよそ、存在するあらゆる生命に対して絶大な効果を持ちますが、ゆいいつはダメですねぇえ〜。宣教師せんきょうしは、我輩からすれば愚かしくて目を当てられない存在ですからしてぇえぇ。ま、今、一番目を当てられないのはアーカム・アルドレア、貴方なんですがねぇえ〜!″」

アーカムが俺から体を生やして、準備してる間も、ふわふわと浮遊して、減らず口を叩く悪魔。

俺からは怒る気力も完全に失われてるので、ただ霞む視界に黒服姿の霊体をとらえるだけだ。

霊体、パンチ……ぁ、人狼からもダウンを取った、誰にでも聞くスーパーパンチ……か。

それで、倒せるなら……。

「″こいこい、こいこい! 一撃でぶっ飛ばしてやるぅう!″」

四肢をうしなった俺の、胸あたりから生える涙目の銀髪アーカムは、レザー流拳術の構えをとって、今か今かと宣教師の接近を待つ。

そんな時だった。

宣教師の背後から、紅い槍が飛翔してきたのは。

宣教師は復活した両腕の金属の杖ーー聖火杖せいかじょうで、連射される魔力の塊をはじき飛ばす。
旧校舎の壁や床に、火属性の魔力が飛散して、次々に燃えひろがる。

「ちっ! 隙をついても、速さじゃ届かないか! グスタム、クリストマス! ありったけの水を生成しろ! 私が操作してやつを捕縛する!」
「それはもしや音に聞くサテライン・エルトレットの……」
「いいから早くしろ!」

あれは、コートニーたち……?
わざわざ下の階まで降りてきてしまったのか?

「では、まずあなた方から片付けましょうか。若き魔術師たちよ、3秒後には終わります。さ、神さまへのお祈りは済ませましたか?」

宣教師が踵をかえし、くるりと体の方向をコートニーたちへ向ける。

「だ、めだ、にが、ろ……こいつは、バケモノ、だ……」

敵の脅威がわかってない。
宣教師は熟達の狩人でもって五分ごぶ
通常人類が敵うわけがない。

「″おんやおんやぁあ〜、貧相な人間の魔法が羽虫のように飛んでいますなぉあ〜。……マスター、どうやらあの聖職者は我輩たちの宿主より、あっちの三流魔術師たちを襲いにいくようですよぉお〜!″」
「″あぁあーッ! おい、ハゲ、ふざけんなるなよー! 私の霊体パンチはアーカムと接続してないと打てないんだからぁあ! 戻ってこい! おーい、戻ってこいって、ねえ、ホントやめろー! おいッ!″」

頼む、頼む、逃げてくれ、コートニー、チューリ、シェリー!

皮肉にも、神に彼らが無事にいられることを祈ってしまう。

居候悪魔のソロモンは、そんな俺を冷めた瞳で見下ろし、おおきなため息をついて、しゃがみ、倒れふす俺の顔に、白塗りのピエロのようなその顔を近づけてきた。

「″アーカム・アルドレア、彼らを救いたいですかぁあ〜?″」

当たり前だ、あいつらは友達だ!

「″そうですかぁあ。それでは、悪魔としてこんなおいしい機会に、選択肢を与えないわけにはいきませんねぇえ〜″」
「″ん、ソロモン、何を言ってんの! 今はあんたの遊びに付き合ってる場合じゃーー″」
「″我輩があの宣教師を殺しましょう、代わりにアーカム・アルドレア、あなたは寿命を全うしたら、。これは悪魔との契約。これで手を打ちましょう″」

悪魔は口を三日月のようにひろげて、凶悪極まりない悪徳の表情で、せまる。

悪魔との契約、それが危険なものだとはわかる。
だが、同時に約束が果たされる可能性は、とても高い。悪魔自身が契約に縛られることから、証明されている。

ならば、彼が提示した「宣教師を殺す」という、対価は必ず払われるはずだ。

コートニーたちを助けるにはこれしかない。

どう果たされるのか、わからぬ究極の約束。

俺は悪魔とちぎりかわした。

「″あーっははははっはははは! やりましたよぉお〜ッ! これで我輩は至高の未来を手に入れましたぁぁあ〜! 憎き人間の体に閉じ込められ、奴隷のように働かされ、早いもので7ヶ月が過ぎ、ようやく、ようやく我輩の将来に一筋の光が差しこんだぁあ〜!″」
「う、ぐ、盛り上がってるとこ、悪いが、はやく、宣教師を……!」

高笑いする悪魔の霊体の足へ、手を伸ばし懇願する。

どうやって殺すのか。

用法がわからず契約したが、その効果はきっと果たされるはずだ、果たされなくては困る。

「″あぁ〜そうですねぇえ〜時間がない、時間がないのでぇえーー″」

悪魔の声の性質が変わるーーいや、響き方が変わったというべきか。

「これでよし。……んふふ、あーははははっはは! それでは、まずは試運転ですよぉお〜! 我輩の手で直接的にゴミ掃除するといたしますかねぇえええ〜っ!」
「″なに、お、俺が立ってる……?″」
「″あれ、アーカムが霊体に? あの悪魔は?″」

目のまえで、超がつくほど悪そうな顔する黒スーツを着込んだ俺が、不敵な笑い声をあげる。

俺は最悪のことが、今起こっているのだと悟り、目を見張った。

なんてことだ。
悪魔ソロモンが復活してしまった。

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