記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第192話 必滅の火力


パラパラと崩れる上階の破片が、雨のようにふって焼ける臭いを運んでくる。

火がついてるらしい。
そういえば、さっきチューリが炎を放っていたか。

俺の視線の先、黒い煙が落ちてくる上階から、一段下がった大廊下がはじけ飛ぶ。

宣教師が短く踏みこんで、一足飛びにきた。

カルイ刀に剣圧けんあつを乗せて、斬りあげの斬撃を放ち、撃ち落とさんと迎撃する。

だが、肉弾がごとき聖職者な、たやすく杖で剣気を防ぎはらい、俺の目のまえに接近。

三又槍のごとき杖が突きだされる。

カルイ刀を振り下ろして、打ちはらい、刺突線上からのがれ、あいてる左手で『貫手ぬきて』を喉元にながす。

ーーゴキャッ!

瞬間、視界が切り替わり、俺の身体が認識の位置から、ズレた。

吹き飛ばされことに気づき、すぐさま重心をおとして、飛距離をおさえ、さらに、カルイ刀を旧校舎の床に突き刺すことでよりブレーキを強める。

歯の噛み合わせが悪い。
顎に膝蹴りを食らったらしい。

ブレる視界を頭をふって強制的に正常化。

宣教師を探す。

「ぅッ!」

間髪入れずまっすぐ飛んでくる銀の槍。

ーーバギァ

上体をそらし避けようとしたが、間に合わず。

ほほを数センチそらられ、耳がふき飛び、脇腹に銀のひかりが一条突き刺さる。

たまらず、膝をつく。
3カ所に同時の激痛だ。

身体が危機を覚える痛みに、視線をおろし、銀色に輝く鋼鉄の杖が、外腹斜筋から生えているのを確認。

この尖った金属杖、剣圧けんあつもまたってないのに、どうして俺の装甲を突破できたんだ……ッ。

この世界で投擲、遠隔武器が普及しない理由ワケ
剣気圧けんきあつに頼りきる戦士たちが、武器を投げるなんて、普通はない。

だって、そんなものに鎧圧がいあつを突破できる期待は薄いから。

俺の声にならないクレームに答えず、無表情で新しい3つの柄をふところなら取りだす宣教師。

ふたたび指の間にはさんで、杖身を展開してつつ、空気の壁を、そなえられた怪物並の肉体エンジンで、ねじ伏せながら、異常な速度でせまってくる。

悠長ゆうちょうに杖を抜いてる暇がない。

仕方ないので、荒技だ。

出血部分の血を吸血鬼のチカラで凝固させ、瞬間的に全剣圧をつかって腹筋を収縮しゅうしゅく、フルパワーのりきみで、身体にめりこんだ金属杖を半ばでへし折る。

床におちる、二つに折れた金属杖。

吸血鬼ならではの武器破壊術だ。
主人の手をはなれた武器は、必然的に剣気圧との接続が切れ、それゆえにこういう事もやろうと思えばできる。ただし猛烈に痛く、消耗が激しくなる。

「ラァア!」

縦横斜め、縦横無尽にふるわれる銀のひっかきを、さばく、さばく、さばいて、しのぐ。

短剣の小回りと、名前負けしない圧倒的な手軽さで、相手のパワーをまともに相手せずに受け流すことに徹底するのだ。

レザー流剣術『柔上やわらあげのかまえ』

柔術を応用した徹底迎撃で、相手の攻撃にクセを見つけんと粘り、粘り、粘りまくる。

ただ、それでもキツイ。

この男、片腕のハンデをまったく感じさせない。

それどころか、さっきより重く、速い?
普段から両手武器で戦ってるから、片腕を壊された際の支障が小さいのか?
それとも、単に馬力が違うのか?

疑問は尽きない。
目の前の男の強さが、加速度的に増しているような、嫌な感触はぬぐえない。

「……よく動くものだ」
「くっ、こっちも身体が温まって来てな!」

眉をひそめる、宣教師。

ここだ。

タイミングをはかって、金属のじょうをやや大きく弾き、脇腹の血に意志をあたえる。

喰らえ、射程20cm、ルビースプラッシュ!

めちゃくちゃな痛みを唇を噛み切りながら我慢して、脇腹の傷口を固めていた血の結晶を、膨大な出血による圧力でもって噴射ふんしゃする。

「っ!?」

予想外の攻撃に宣教師は、目を見張り、なんとか避けようとする意図を見せるが、わずかに遅い。

機をてらった珍撃は、見事に宣教師の顔面に直撃して視界を壊滅させた。

痛みの価値はあった。

宣教師の顔面へ、カルイ刀を思いきりふりぬく。

反応出来てない!

獲ったーー。

ーーギイ

「グゥゥ!」
「はっ!?」

そんな、バカなことがあるのか!? 驚愕ーー。

寸前でとめられた、カルイ刀の刃。
カタカタと言うだけで、引いても動かない。

まことに信じがたいが、顔を俺の血に染めながら、宣教師が筋筋が張りつめたアゴの力だけで、俺のカルイ刀を噛んで受けとめたのは、くつがえらない事実だ。

想像を絶する咬筋力こうきんりょく
こんな戦い方ができる事への畏怖畏敬いふいけい
宣教師ってもっと綺麗な戦いをするイメージがあった。

いろいろ合わさって、ワンテンポ遅れるが、すぐに我にかえってカルイ刀を引くことを諦める。

手を離しかわりに抜くのは、ここ一番の隠し武器。

「アオ、コツ、ポルタ」

高速詠唱で魔力をまとった刃を展開。

「仕込んでんのはお前だけじゃねぇ!」

後方へステップし逃れようとする宣教師。

それを、大上段からの振り下ろし「精研斬り」を寸分違わず、頭から、かち割ってやるべく正眼に打ちこむ。

ーーグシャッ

はいった!
ただ、浅い!

「ぐぼ、ぉ!」

口にくわえたカルイ刀を吐き捨てて、宣教師は前面を赤く染めながら数歩下がる。効いている。

ダメージは多量。好機を逃すな。
油断せず、一気に仕留める。

繊維をみなぎらせて地面を蹴り、いまだ視界が戻らず動きの鈍い宣教師へ、蒼骨剣を突きだす。

レザー流剣術『瞬閃しゅんせん

瞬間移動術の勢い乗せた刺突攻撃。

「……わかった、このままでいい」

耳奥に聞こえる、低く響く声音。

「っ」

指にはさんでいた杖を捨て、徒手になっただと?

嫌な予感は的中する。

宣教師は正確な動きで、半身をひいた。

体の軸を俺の突きから逃しやがった。

刃は肩をほんの少しかすめただけ。

足先で木床を踏み抜きながら、なんとか止まり、すぐに『回転斬り』で真横の男を斬り捨てる。

だが、またしても相手が速い。
一歩詰められ、剣が触れなくなってしまう。

近すぎる、速すぎる。

何かが

もう目を開けるための努力すらしてない。

現状で、戦闘を継続すると割り切っている。

宣教師が深く腰を落とす。こいつ体術まで?

剣より内側の間合い。
逃げても、調整され、避けきれない。

ならば、打ってでよう。

蒼骨剣を手放して、俺も頭のモードを変更する。

けんではなく、けんだ。

「ふんッ!」

えぐるような左フック。

俺の負傷した脇腹を爆破する気だな。

膝を打ち下ろし、左フックをブロック。

ーーっ

が、おかしな事に、予想位置に拳がこない。

「、フェイントか!?」
「シッ!」

腰のはいった顔面への左フックが、軌道を修正。

打ち直され、俺のアゴが砕ける音がした。

身をひねり衝撃を逃がす。

「うぐぐ、ぐそォ……っ、」

噛み合わせの悪くなった歯を食いしばり、宣教師と向かい合う。

もう次の攻撃がくる。

今度はミドルキック!
脇腹、違うーーまたフェイント!

信じられない軌道修正からの蹴り直し。

本命はハイキックの頭部への打撃。

前腕の甲で受けとめ、鎧圧がいあつに衝撃を流して、旧校舎の床へ放出、俺の接地する足のかかとを中心に、このフロア全体に広い亀裂が刻まれる。

体の芯にジンジンとした響きが残るが、すかさず「精研突き」で反撃する。

宣教師は片腕で俺は拳をずらし、凌いだ。

俺の拳が届かないーーいや、そんなはずがない。

次はもっと上手く。
反射速度も、精度もあげろ。
レザー流の狩人は、こんなものでは終わらない。

つまさきに力を込め『縮差しゅくさ』でもって、近接から超近接へ、さらに間合いを詰める。

肘打ひじうちで、宣教師のアゴを横から穿つ。

攻撃のインパクトに宣教師は、ぐらつくが、すぐに立て直して俺の腹へ一撃、こっちの首根っこをデカイ手で掴み、さらに膝蹴りを溝落みぞおちち。

骨格がきしむ、肺の空気が空っぽになる。

体が浮いて、自由が効かない。

宣教師は隙を見逃さず、続けざまに左ストレート。

これ、喰らうと死ぬ。

ここしか、この一撃。これしかない!

決定打がはいる瞬間。

勝者と敗者が決まる瞬間を見極めた。

そして、俺はそこに細くかよわい勝機を見いだした。

やるしかない、これでしか勝てない。

苦しさを強引にねじ込めて、空中で姿勢を制御。
バケモノ聖職者のストレートを右腕でガード、流れてきた爆発力を流体のようにめぐらせて、衝撃の波紋を左腕の推進力に変換する。

レザー流狩猟術・柔拳の型『操力鎧圧波そうりきがいあつは

ストレートにも関わらず、わずかに打ち込まれるポイントをズラされたので、全変換とはいかない。

ゆえに体は飛ばされる。

だが、威力は十分すぎる。
宣教師のパワー+俺のパワー。
これに耐えられる人類はいないはずだ。

当てるだけでいい。
必要なのは速い拳。

ゆえに用意していた脱力状態へ移行しつつあった腕をしならせて、神速のむちを放つ。

因果応報。

返報の知らせを乗せたフリッカージャブは、負傷していた宣教師の右肩へ喰らいつくように叩きこまれる。

「ぐぅううッ!?」

苦しそうにうめき、宣教師は初めての致命打の感触に、悶えくるしむ。

ーー致命の一撃、必殺の火力だ。

同時、ふわっと吹き飛ばされ、数十メートル床を滑って止まる。

ここで倒れろ、宣教師。

心のなかで相手が先に倒れることを祈り、俺は顔をあげてーーーーその刹那、視界のなかの映像が、とても美しく、俺はきらめく銀閃ぎんせんに魅入られてしまう。

俺にミスはなかった。
最善手を選びつづけ、ギャンブルにも勝った。
なのに、どこかで間違えた。

痛熱が肉に穴を空ける。

「うが、ぁ、な……!?」

投擲される三条の槍を、反射的に、鼻先で受けとめる。

「ぅ、くそ、どうして、こんな速く、反撃が……でき……!」

腕は2本、受け止められた金属杖も2本。

1本は俺の足を撃ち抜いて、旧校舎のボロボロ床に釘付けにしている。

視界の先、ほぼ千切れかかっている右腕をだらりとさげ、苦痛を感じさせない顔でたたずむ宣教師。

なんであんな顔で立ってられる。

それに、なんだ、あの顔は。
痛みに強く、気力の充実した戦士の顔。

いや、違う、あの顔はまるで「ひと仕事終えた」かのような結末を悟った顔ーー。

「主よ、かの者に祝福を、ライプン。若き狩人よ、ここで終わりなさい。それともーー必滅の火力、あなたに耐えられますか?」

宣教師は真っ赤に染まった顔で、いっそ安らかにも見える形相のまま目蓋を閉じている。

それが示すものは一体ーーあ。

いつか感じた俺の一番嫌いな地獄じごく
香る、トラウマの再来に細胞が生存を拒絶する。

直後、許容オーバーした各種感覚器官の情報に、俺の脳は焼き切れるようなな痛みに襲われた。

痛い痛い痛い痛痛痛、熱い痛いあつい、あつい、アツイ、アツイ、アツイッ!?

「滅びなさい、吸血鬼、ここは墓場にふさわしい」

亜ァァァァああ、ああああ、ああァッァアアーーーーーーー

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