記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第188話 過去の焼影
礼拝堂をうめつくす視覚情報に目を見張る。
すぐさま抜刀、鞘をすてて皆を守るために前にでる。
「下がってて」
一言つげ、3人は俺の背後へと移動した。
1秒、2秒……観察していると、おかしな事に気づく。
いやはや、まったくもってこの状況こそ摩訶不思議だが、そのことではない。
礼拝堂を占める木の長椅子の列、そこに現れた人影たちは俺たちを見ておらず、礼拝堂の後方、おおきなスペースにたたずむ2人の人間を眺めているのだ。
それはまるで、喧嘩をはじめた当事者たちを、好奇の目で傍観する野次馬たちのようだ。
華美のない礼服に身をつつんだ男たちが、胸ぐらに掴みかからんとする勢いで、大声をあげる。
「ふざけるな、ふざけるな! あのような醜い者が尊き神であるはずがない!」
「いいや、あれこそがいと尊き方、その降臨でなくしてなんだという。君には本質が見えていない」
「見えてるものだけが真実だ! それこそが騎士団の教えだ! 測れない高さこそが神であり、昏きにこそ神ありき。お前たちはイカれている!」
「エルリック、ここではやめよう。皆が見ている。またあとで落ち着いて話をしないか」
二者のうち、より興奮した様子の男は礼拝堂の扉を押し開けて出て行ってしまう。
言い合っていた男は、礼拝堂の面々に「お祈りを続けるように」と言い残し、彼もまた扉からそとへと言ってしまった。
途端、礼拝堂の全体像がぼやけるようにして、ジリジリと音をたてながら、ズレて、脳にじかに響くような耳障りな音が聞こえる。
耳鳴りがやむと、礼拝堂にはもはや人の影などひとつもなく、ただほんのり淡く青染んだ、静謐な廃墟があるだけでだった。
「一体、今のは?」
チューリが困惑した顔で誰かに質問をなげる。
だが、答えられるものはいない。
とりあえず危険はなさそうだ判断して、狼姫刀をさやに納める。
「言葉の趣が私たちの使うものとは、ずいぶん異なっていたな。もしや、今の幻はこの礼拝堂がまだ使われていた時期のものなのではないか?」
「シェリーもそう思うのですよ。過去に起きた出来事がなんらかの理由で投影されていた、と。かつてここにいた魔術師が組みこんだものなのでしょうか?」
過去のビジョンがこの場に再現されただと?
魔法って炎を撃ったり、風で斬り裂いたりするだけな認識の俺からしたら、想像しにくい芸当だ。
いったいどんな魔術式をくめば、そんなことが可能になるのやら。
「現代より古い魔術。となると、必然的に時代も古くなる。ふむ、これは図書館が解放されたら、すこし調べてみる必要がありそうだな」
コートニーは薄く微笑んだ。
「クク……やれやれ、俺たちを興じさせるには、いささか役不足だな。もうすこし楽しめるような仕掛けがあるとよかったのだが。クク、妨害もないのでは、学院側の陰謀を暴くのも苦労しなさそうだ」
チューリは肩をすくめて、礼拝堂の外へと足を向ける。
「それにしても、あの人たち一体なにをあんなに喧嘩していたのですかね」
「うーん、神とか尊さがなんとか言ってたんで、宗教的な方向性の違いとかじゃないですか。歴史を紐解けば、よくあったみたいですよ」
高校時代の世界史知識を思いだし、シェリーへ答える。
にしても、彼らの言いぐさ。
まるで現物があるようなニュアンスだったが……神に類するなにか、御神体について揉めてたのだろうか。
あごに手を添えて思い悩む。
思考、思考、思考。
ん?
礼拝堂から俺たちが出ると、先にでたチューリが立ち止まっている事に気づいた。
どうしたのか僅かに疑問に思うが、その理由はすぐに理解できた。
礼拝堂を出たさきの吹き抜け廊下。
彼の目線のさきに人が立っていたのだ。
こんな場所で出会う人間だと?
もしやドラゴンクランの教員が?
「先生……いや、違う、それよりも、ずっといかめしい雰囲気だな」
「シェリー、あんな人ら学校で見た事ないのですよ」
「クク、まさか組織の者とここであいまみえようとはな……(ぇ、これやばくね?)」
竜の学生たちがいうならば、奴は教員ではない。
では、いったい何者なのか。
なんにせよ、ここで人に見つかるのは良い事ではないし、穏やかな事でもない。
とりあえず、いつでも狼姫刀は抜けるようにしておいた方がよさそうだ。
奴は俺の知覚に引っかからなかったしな。
すくなくとも剣知覚をさけ、意図的に気配を遮断してあそこに立っているーーつまり、相当な手練れだ。
沈黙の後、立ち尽くしてこちらを凝視していた影は、スタスタと歩きだした。
薄ら明るい校舎に、スキンヘッドと緋眼が目立つ。
やがて近づいてくるにつれ、影が異様に体躯のたくましい男である事に気づく。
彼の特徴ある灰色の司祭礼服には見覚えがあり、その分厚いオーバーコートの内側からは、わずかに光るものが見え隠れしている。
嘘だろ……?
なんで、こいつらがーー。
「こんなところに迷い人が。学生さんが遊び半分で来るべきではなかったですね。いけません。本当にいけません」
スキンヘッドの男はそう言いながら、懐から素早く何かをとりだす。
左右の手、指の間にはさまれた計6本の柄からスーッと細い角ばった棒が伸びていく。
殴れば撲殺、押せば刺殺の鋭利な杖。
凶悪な金属の煌めきに、シェリーは蒼白し口元をおさえ、コートニーとチューリは眉をひそめて、迷わず杖をむけた。
……なんでだ、どうして、こんなところに『宣教師』がいる?
そして、なぜ、これほどの厚い闘気を放つんだ?
どちらかと言えば、仲間だと思ってただけにショックが大きい。
だが、動揺を顔にださす。
俺は震える心を叱咤して覚悟を決める。
わからない、だが、向こうはやる気だ。
ならば、俺が出るしかない。
一歩前出て、俺は狼姫刀に手を伸ばした。
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