記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第176話 仲良くなる気はない
我らがギルド顧問ペンデュラムによる、謎の封印処置が巨人にほどこされるかたわらで、人のことを平気で引き倒す男と、隣だって待機する。
「……」
気まずい。
見た感じ狩人、加えてペンデュラムにも言われたように気難しそうな性格。だとしたら、先輩には挨拶したほうがよかったりするかもしれない。
でも、話しかけんじゃねぇオーラ出てるなぁ。
でもでも、この人の足もとにある黒くて紅く脈打つ物体のことも気になるんだよなぁ。
「……」
「ふん、何をさっきから見ている、三流魔術師」
「ぁ、すみません。…………その、魔法、凄いですね」
とりあえず、褒めてみる。
「ふーん、当然であろう。私の作品だ。そこいらの三流魔術師には三度人生をやり直しても辿り着けない境地だ。貴様は拝めるだけ幸運というものだよ、ほんとうにな。ふーん、ふふん、もっともこんな物は移転先での手土産のために、片手間に使っただけの暇つぶしの創作なのだがね」
「は、はぁ」
めっちゃ喋りよるな。
褒めたら喋るタイプなのかな。
にしても、作品とかなんとか言ってるけど、この黒いのは、やっぱり魔導具か何かなのだろうか。
「その魔導具は、えっと、あなたが作られたんですね。錬金術が本業なんですか?」
「ん? 何を訳の分からないことを……ああ、いや、馬鹿なのか。そうであろう、三流魔術師なら、その存在すら知らないとしても不思議ではない。ふん、ドラゴンクランで学んでいるとあの男から聞いていたが、とんだ不足者もいたものだ。魔術大学の優秀生徒といえど、しょせんは三流魔術にしか触れてこなかった半端者か」
すっげぇ言ってくる、この人。
かなり勤勉に勉強してるつもりだけど……。
見たところ杖を媒介として、魔力を放出してるようには見えなかった。
ということは、杖から放たれたのは魔力ではないし、魔法魔術でもないということになる。
杖を使ったにしても、せめて魔力コントロールをするための手段としてのごく基礎的な範囲なはずだ。
もしかして、音に聞く使い魔という奴か?
俺の知らない魔術系統なのか?
少なくとも現状取得してる授業では、まったく触れてないから四大属性式魔術ではない。
さっきの、詠唱の時に魔感覚が反応しなかったのも、ちょっと気になる。
「ふん、封印が終わったようだな。ならば後のことはギルドエージェントに任せればよい。では、さらばだ、三流魔術師。なんの因果で魔術世界に足を踏み入れたか知らんが、決闘に秀でている、などという程度の低い児戯を″これが魔術″とのたまって厚顔をさらすなよ」
ペンデュラム率いる数人の魔術師による作業がおわった様子を見せると、魔術師はスタスタと向こうへ行ってしまった。脈打つ黒い塊が、彼の横にぴったりついて行く様はどことなく、可愛く、従順な小動物を思わせたことも加えておく。
やれ、それにしても初対面の人間に、よくもここまで嫌われたものだ。
魔術世界というものが、表の世界とは独立して存在するとは噂には聞いていたし、知識ではしっていたが、もしやあのような人物こそが、そちらの世界の住人なのかもしれないな。
ローレシア魔法王国を認めず、アーケストレス国内で完結する魔術の世界。なるほど、ここに来てからひたすらに自身の使えそうな魔術ばかり学んできたが、視野を広げ、となりの畑に興味を持ったほうがよいのかもしれない。
せっかく魔術の本場に留学してるんだし。
ー
ゲートヘヴェンによる解読内容をチューリ、シェリーと共有し、俺たちは本格な旧校舎の調査をおこなうことを計画してから、しばらく後。
彼らのリアクションは想定の範囲内。
ゆえに困ったものだった。
「クク、あの古代竜、このチューリ・グスタマキシマムを計ろうというのか……! 面白い。ならば、その挑戦受けてたつまでのことよ!」
チューリのやる気は十二分。
「ふむふむ、ドラゴンクランの過去と、″今起きている事件″とやらには、繋がりがあるとシェリーは見たのですよ! そしていま、タイムリーな事件といえば、もちろん『巨人落下事件』なのですよ! ふっふ、なんだか、面白くなってきました、アーカムくん! さあ、冒険の続きと参るのですよ! おっほん!」
シェリーすらもこんな具合に冒険脳を加速させるせいで、もはや手がつけられる状態ではなかった。
かくして、7月10日が、禁止区域へ再度突入作戦を決行する日と決まったわけだ。
して、現在、俺はクラーク邸のリビングに拘束されている。
「なるほど、そんな下らん事のために処分のリスクを負うというのか、アーカムは。はあ、理解しかねる」
「本当、そうですよね……」
もろもろの計画を練っている現場を目撃したコートニー・クラークによって説教を受けているところだ。
「仮に″今起きている事件″と、ドラゴンクランのかつて、それが結びつくとして、どうしてアーカム達が出しゃばる。なに、楽しそうだから? アホか、顔でも洗ってこい。そんな理由認められん」
俺の身を案じてくれる彼女の言葉は厳しく、とても同意を得られそうな態度ではない。
仕方がない。
これはチューリに言って、俺の脱落を申告すべきだな。
「ゆえにだ、アーカム」
「はい……」
腕を組み、目つき鋭くコートニーはつげる。
「私もその冒険とやらに連れて行くことを条件に、旧校舎探索については目をつむってやる」
「…………はぁ」
なるほど、そういう感じか。
このコートニー、存外にノリノリである。
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