記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第174話 怪物、鎧の巨人


下角45度に振り下ろした、剣気の刃がほと走る。

修行のサボりを感じさせない、我ながら悪くない鋭利なひと斬りに、巨人の上体はおおきく弾かれ、数歩後退して、たたらを踏んだ。

切断には至っていない。

「なんだ、この風は!?」
「巨人が下がった!」
「効いてる効いてる!」

楽しげに歓声をあげる野次馬たちは、屋根のうえの俺に気がついたらしく、黄色い声援をおくってきてくれる。
魔剣の英雄だの、竜殺し、ドラゴンスレイヤー、アルドレア様、イケメン王子などと中々の持ち上げようをかえりみるに、俺が冒険者として、この場に助けに来たと考えてくれてるらしい。

ふむ、やはり表の顔として名声を集めているとこういう時に動きやすい。
これからの狩人は闇に紛れるだけでは、いけないと言うことを、協会に提唱していったほうがいいかもしれない。

この街での俺の評価は、突如として現れた謎の猫級冒険者ーーの振りをしていたポルタ級冒険者にして、皆を逃すために、ドラゴンとひとりで対決し、遂には討ち倒してしまった絵に描いた英雄だ。

狩人としての実力を遺憾なく発揮しても、怪しまれない足場は整っている。つまり、遠慮せず戦える。

声援をおくってくる者たちへ手をふる。

そして、袖から密かに忍ばせていた『蒼骨剣そうこつけんダング・ポルタ』を左手に握りこむ。

魔力武器の耐久性は一般素材とは比べ物にならないと知ってから、このタングストレングス謹製コンパクト・ブレードは″俺の振れる剣″として持ち歩いているのだ。

「アオノ、コツ、ポルタ」

無機質な棒はひとこと目に従順に、魔力を宿した骨の死刀へと変形する。

ふむ、相変わらず持ちやすいが、狼姫刀の重さに慣れた今となってはちょっと変な感じがする。

「さて、どう戦うか……ん?」

久しぶりに握った柄の感覚と、軽すぎる刀身に一抹の不安を感じていると、「空剣」によって晴れ渡った土煙の向こう側に違和感を感じた。

再びその姿を昼下がりの街中にさらした巨人は、のだ。

欠損の激しかったボディからは、幾つものくうを通していた無残な穴の影すらなくなっている。
さらには両腕とも機能を期待できなかったはずなのに、肩から先には歪ながらも、有機的な腕が確認できる。

金属の鎧をきた巨人は、光沢をやや取り戻し、さらには肉体までも取り戻していたのだ。

巨人がこちらを見上げてくる。
俺をみている。屋根のうえの俺を認めている。

潰れていたはずの顔ではない。よく見れば紋様が刻まれた精巧な兜のなかから、精気を感じさせる瞳で見つめてきている。

どういうことだ? 再生?
鎧も肉体も再生したのだろうか?
吸血鬼的に考えると、不思議なことではないが、超再生能力なんて、一般にはまず存在しないはずなのだが。
それに地上に落ちてきた時には、ボロボロだったんだ。ともすれば落下中には再生せず、地上へとやってきたから再生した理由があるわけか。

「″んんぅ〜なるほどぉお〜。そういうことですかぁ〜″」
「ん、何かわかるのか、居候いそうろう悪魔」

ちょっと期待して、画面左端の霊体にきく。

「″ええぇ〜! わかりますともぉお〜! なーんにもわからない、という事がねぇえ〜!″」
「……イラッ」

霊体の頭を殴りつけて、わし掴み、ぶん投げる。

「″おぉおお!? ご勘弁をぉお〜!? 我輩、貴方から離れすぎたら死んでしまうのですからぁぁあー!″」
「だったら、面倒くさいことしてないで早く臨戦態勢を……むーー」

危険に泡出つ肌。

直感にしたがって、地上からこちらへ向けられる破壊意思を、のけぞって回避をこころみる。

ーージリィ

産毛を焼き、肌さき数センチを抜けていく灼炎の熱線。

危機一髪で凌いだが、食らえば終わっていたかもわからない危険な収束魔力だ。

「ッぶねぇ!」
「″あーっはははははっははは〜ッ!″」
「″コラ! ソロモンさっさと戻るんだよ! ていやぁあ!″」
「″ぐぼはぇ!?″」

銀髪アーカムにさらわれて、精神世界へ退去する居候悪魔。

ほんとうに邪魔しかしない奴だ。

悪魔なので当然ののこと、と納得してしまっている自分にすら辟易しながら、熱線の一撃で溶解する足場から、人々が散って逃げていく通りへ飛び降りる。

「″ああ! 退去するまえに一言ぉお……あの巨人はもれなく怪物かいぶつの香りがするのですねぇ〜! 貧しい人間である貴方は気を引き締めて掛かるのがよろしいかと存じ、ふべぇ!? く、首、…首はやめて、マスター……っ″」
「″おら、戻るぞ、こら!″」

完全に精神世界へ退去したふたり。

それにしても、怪物ときたか。

「アーカムさん! 大丈夫ですか!?」

地上へと着地するなり、落下してくる瓦礫を風魔法で吹き飛ばしてセレーナが駆け寄ってくる。

「ええ、大丈夫ですとも、セレーナさん。それより、早くここから逃げたほうが良いですよ、あの魔物は魔法の効果が薄い」
「むぅ……確かに、そのようですね。ここはアーカムさんに一旦任せた方がいいでしょうか。その、えっと、アーカムさん、どうか無理しないでくださいね」
「大丈夫、僕は竜殺しですよ?」

渋々の表情で、応援を呼んできてくれると約束してセレーナとエッズを送りだす。

「頑張って耐えるんだよー! 魔剣の英雄ー!」

隣で吠えるエッズへ片手でこたえる。

ーーさて、では最速でしとめて美女の度肝をぬくか。

「ぐ、ごご、ご……」
「さあ、いくぞ。覚悟しろ」

正眼にとらえた巨人のヘルムが、わずかに煌めく。

「来るーー」

ほとばしる熱線の予感を、ステップひとつで身軽にかわす。

案の定、焼かれ、熱膨張に爆発する背後の空気。

蒸発する地面を置き去りに、影を落とさない「宿地」、一気に巨人の足元へ移動。

両腿をバネにして踏みきり、地面を破りながら、垂直に飛びあがり、ダングポルタと全身を一振りの剣にしてチカラいっぱいに斬りあげる。

狙うは巨人の右脇みぎわき、腕の切断だ。

刃が金属装甲のない脇に入るなり、適度な重量感が乗ったのを感じる。

いい感じの重さ。
うん、やはりこの剣はよい武器だ。

俺は薄く笑みを浮かべ、刃を引きながら、飛びあがりの勢いを殺さずに、巨人の右腕を斬りとばした。

「どぅら!」

「ご……!? ご、ごぉ、お、ぉ」

ひるみ、たたら踏み、鈍い動きで数件隣の建物にもたれかかる巨人。

畳みかける。

「アーカム!」
「″ほいさ!″」

息をつかさずに、霊体アーカムの腕を足場として、バレーボールのトスの要領で体をうちだす。

追いすがり、肉体に戻ってきたアーカムのチカラを噛みしめ、今度も鎧のない関節部、巨人の首元へと、背後から凶刃をふるう。

さきほどの「空剣」では通らなかったが、直にきればーーなおかつ、このダングポルタならば叶うだろう。

華の首切り殺法だ。

「ふらぁあ!」

気合いの一閃。
筋肉質と骨格を一撃で断ち切る手応えーーあり。

剣の軌跡がすぎたのち、巨大な頭部がぼとりと肉体から乖離かいりされた。

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