記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第156話 ハンセンーアルドレア同盟



ーーコートニー視点ーー


竜をひとりで倒す。
その功績がどれだけ凄いのか説明するには、まず竜について知る必要がある。

人よりはるかにおおきい竜。
人よりはるかにかしこい竜。
人よりはるかに長生きな竜。

ドラゴンを形容する言葉はたくさんあるけれど、それらすべてが、とっても「強い」のは自明のこと。

火を吹き、空を飛び、魔法を使い、鋭い爪と、尖った牙、魔力をおびた鱗はどんな魔法も刃もとおさない。

歳をとり、古代竜オールド・ドラゴンとよばれるようになると、扱える魔力量はもはや人とは比べ物にならないだろう。

はたしてそんな最強の代名詞のような存在を、いったいどこのどいつが、人間ただのひとりで退治するなどという、与太話をまに受けると言うのか。

「アーカム、私は関心したぞ。まさか本当にドラゴンを退治してしまったとはな」

透きとおった水色の碧眼をキラキラ輝かせ、机上で討ち取った竜の大牙を掲げる少年へハキハキと話しかける少女がひとり。

コートニー・クラーク、ドラゴンクラン四天王のひとり、そして学院に6人しかいないエルデストの等級を持つ者だ。

「あはは、だから言ったじゃないですか。僕は竜殺しのアーカム・アルドレアだって」

酒場中から聞こえるのは拍手喝采の嵐、仲間をにがし、ついでに偉業を成し遂げた、絵に描いたような英雄譚を作りあげた者をたたえる、称賛の声たち。

この夜、王都アーケストレスの冒険者ギルドの酒場は、若き伝説の誕生にたいへんな賑わいをみせていた。

「魔術、そして剣術の2つ道を修めた若き魔法剣士! 魔剣の英雄よ、ぜひとも握手してくれ!」
「えぇーずるい、私にはハグしてください!」
「まだ11歳なのにすごいね、ぼく! お姉さんがギュッとしてあげる!」

「あっはは、うへへ、そんなに押さないでくださいよっ!」

うるわしい女性冒険者たちの熱線に、1ミリの抵抗なく、くみする魔剣の英雄。

豊満な胸に顔をうずめて、だらしなく鼻の下をのばす英雄へコートニーは無の感情をやどした冷たい目を向ける。

(結局、大きさか……)

コートニーはやや残念そうにため息をつき、自身のスレンダーな体を見おろす。
やがて、自分の心の声に無性ないらだちを覚えた彼女は、背後から魔剣の英雄の膝裏をなぐることした。

「うぎゃっ……って、コートニーさん、な、なにするんですか!」
「このケダモノめ。デカければいいのか」
「……へ?」

イライラを隠さないコートニーは、眉間にシワをよせ、愛らしい顔をキリッと男前にすると、垂れ幕をくぐってテラスへと出てきてしまった。

背後からバタバタと追いかけてくる足音。

「こ、コートニーさん! すみません、ほったらかしにして機嫌を損なわれてしまったんですね」

慌てて追いかけてきたアーカムは、彼なりに頑張ってコートニーの気持ちを察したうえで、派手に火に油をそそぎはじめた。

「どうしてこの私が、貴様にほったらかしにされたら機嫌を損ねるんだ。
訳の分からないことを言ってる暇があったら、あの女子たちにでも可愛がってもらってこい」

「……っ、なるほど。わかりました、コートニーさん、僕も頑張ってみます」

垂れ幕ちかくにいたアーカムは、そう言ってテラスの手すりに寄りかかっていたコートニーへ近寄ると、彼女の煌めく金髪のうえに手をおいた。

「……なにをしている」

規則的に動かされるアーカム手のひらに、コートニーは目を見開きながら問うた。

「コートニーさんの頭を撫でてるんです。ちょっと恥ずかしいですけど、
コートニーさんが誰かに褒められたがっているのは、わかっているので、遠慮はしなくても平気ですよ」

(なぜそうなったのか、わからないな……)

コートニーは内心で疑問を抱きながらも、存外に心地よいなでなでにリラックス。

「悪くはない」
「それは、ようございました」

(ふふ……これは極楽、アーカムの手のひら、ざらざらしててゴツゴツしてる手……)

触れてくる少年の手をとり、ふにふに触って気分よく頬をゆるめるコートニー。

目の前でアーカムが気恥ずかしそうにしていることに気づく。

コートニーはハッとした表情で、手をはなし、ペチンッ、と手の甲を思いきり叩いた。

「痛っ!? な、なんでですか!?」
「貴様は年下だろう。私からのご褒美を勝手に受け取っていいと思うな」
「えぇ……コートニーさんがふにふにして来たのに……」
「私は先輩であり、ホームステイ主。立場を忘れたのか。私にはいつだってアーカムの手のひらくらい、ふにふに触ってもいい権利がある」

横暴な論理を展開するコートニーは、鼻を鳴らし逃げるように酒場のなかへはいってく。

途中、立ちどまりアーカムを見るコートニー。

「しかし、よくぞドラゴンを打ち倒した。私も褒めてやる」

コートニーは意趣返しとばかりに、アーカムの黒髪に手をのせると、慈しむようにゆっくりとひと撫で。

「あはは、コートニーさんも褒めてくれるなんて、今日はなんだかご機嫌ですね」
「なにを言っている。これが平常だ」

コートニーは黒髪を撫でる手をとめ、一撃チョップをいれると酒場の中へ戻っていった。



ーーアーカム視点ーー



「たった今、すごく機嫌のいいコートニーを見た。珍しいこともあるものだ」

平坦な声が聞こえる。
やさしい夜風の吹くテラスへやってきた新しい客は、現界の超能力者ジョン・ハンセンだ。

彼はビールの入った木杯をふたつもって、テラスに背をあずける俺のとなりにやってくる。

「酒は?」
「まだ9歳ばぶー」
「中身は?」
「27歳でそうろう」
「なんだ、私と同い年じゃないか」

木杯を受けとり、勢いよくのどに通す。

「ッッ、げほっげほっ……無理」

俺は9割ビールが残っている木杯を手すりにおいて、喉からのぼってくる熱を逃すため、輝く星の散りばめられたくらい夜空を見あげた。

3つの月たちはそれぞれ中途半端に欠けて、トリプルフルムーンデイは、当分おとずれないだろうと思わせる。次にくるのは半年後、はたまた1年後か。

「ジョン……超能力者ってなんなんだ」

夜空を見あげたまま熱する声帯を震わせた。

「私にもわからない。この1年、その答えを元の世界に求めていたが、なんの手掛かりもなくては、そこにたどりつくことなど出来るわけがない」

「……なんで俺たちは異世界に来たと思う? 俺に記憶はないが、これはラノベ的知見から言わせてもらえば、神秘のおもしべしだと思うんだ」

「私には船があった。新しい地平線を目指すための希望船NEW HORIZONがあったんだ。どこかの超能力者に壊されてしまったが」

「だから、悪かったって」

やはりジョンも肝心なことは覚えていない。
知っているのは力があって、その力が強力な武器になると言うことだけ。

記憶がなくなっているんだ。

もしかしたら俺はジョンと同じく、なんらかの船に乗ってやって来たという可能性も否めない。

なぜ赤ちゃんだったのかは、はなはだ疑問だが。

「NEW HORIZON……新しい地平線……、ジョン、やっぱりお前には、
なにか大事なミッションがあるんだな。それがこの世界の侵略とかだったら、ゲートヘヴェンが怒るだろうけど」

「事実がどうであれ、それらすべてはもはや闇の中だ。アーカムも、私も、己に課せられた使命を思いだせずに、この故郷からはるか離れた魔法の大地で死に絶えるのは避けられない」

「悲観的だな。あんまり嫌な言い方するなよ。それにお前にはだいじな仕事があったかもしれないけど、
俺にはなにもない可能性だってある。ほら、ラノベ的楽しい異世界転生です」

「それは、私たちが記憶をうしなっている可能性が高い以上、楽観的だと言わざるおえない。私たちは失敗したのだ、アーカム」

ビールをあおり、目もとに影を落とし、自嘲げうすら笑いをうかべて俺に流し目をおくってくる。

こいつ、本当にネガティブだ。

ひどく臆病なうえに、悲観的、それでいてラノベが好きだったことだけは、その大事な使命とやらよりも鮮明に覚えているときたものだ。

そろそろ、ジョン・ハンセン、実はインドアオタク説が立証されてもおかしくはない。

「まぁ、でもさ、それって悪いことなのかなって……思ったりしないか?」
「思わない。自分の責任をまっとうすることは、何よりも大事なことだ」
「……責任ねぇ」

テラスより見えるアーケストレスの街に視線をおとす。

段層都市の1階層にいちする、冒険者ギルド第三本部からの夜景は、それは、それは絶景のひとことに尽きる。

国土の多くを森に囲まれた豊かな土地を切りひらき、建設されたのが魔法都市アーケストレス。

ここは人の力強さ、人類文明と自然領域の最前線を都市のすぐ外にもつ、戦いと知識の首都なのだ。

こんな美しい大地に連れてきてくれた神がいるのなら、俺はそいつを抱きしめてチューして感激してやってもいい。

だけれど、もし、もし仮に俺になにかを託して、大事な知らせを持って帰ることを願って、
俺を送り出した者たちがいるのならば、俺はこのままで本当にいいのだろうか。

ジョンの悲観的すぎる、自分の使命への忠誠。

かつてカカテストファミリーのアジトを襲った時、思いだした体験的経験、殺人の慣れ。

前世を知りたいと渇望かつぼうする俺がいる。
使命を思い出したいと羨望せんぼうする新しい友がいる。

「ジョン、俺も自分の責任ってのにすこし興味が湧いてきたな」
「……?」
「どうだ、ここはひとつ俺たち2人で同盟でも組まないか?」
「……なるほど、それはグッドなアイディアだ。私たち2人が、力を合わせれば……あるいは、この悲劇の運命から逃れることができるかもしれない」

手すりに置いておいた木杯を手にとる。
音をたて、俺たちは快活にさかずきを交わした。


第七章 竜学院の柴犬 〜完〜

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※次章以降、投稿頻度を落とさないために、一話分の文字数を減らしていきます。
1話:1000〜3000文字程度
たびたびオーバーする事はあると思います

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