記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第144話 予言の子



意識が精神世界から戻った時、まだ古代竜は土に埋まってのんきな寝息をかいていた。

「まだ起きないのか」
「″アーカムが強く殴りすぎたんじゃないの?″」
「結構イライラしてたから、もしかしたら……」

だんだんドラゴンが目覚めないような気がしてきて、不安になってきた。

鼻で息してるし、生きてはいると思うのだが……。

「うーん、ん?」

ところで、俺の服がかなりぼろぼろだな。

戦って、大きくなって、縮んだせいで、こっちで用意してもらった竜学院ロープがもう着れそうにない。

「これは買い替え、かな」

上半身裸で9歳児にしては筋骨隆々すぎるボディを見せつけつつ、木の枝を集めることにする。

3人がかりで集めた木の枝に火をつけて、ドラゴンのすぐそばで焚き木。

竜が食べるのかはわからないが、捕まえたラビッテを焼いて口の前に置いておく。

あと、森に散っていた折れた牙も拾い集めておいた。

こちらが表せる誠意のすべてを準備して、俺たちはドラゴンの目覚めを待った。

ーーカチッ

時刻は23時59分。

ドラゴンがむくりと起き上がった。
かぶっていた土を器用に前足で払い、四肢をつくと翼を大きく広げる。
伸びをして尻尾がピンと立つのもみれば、こいつが猫なのか疑わしくもなる。

竜の寝起きをみれて感動だ。
なんか思ったより可愛い。

「汝、なにゆえトドメを刺さなかった」

起床より一声、厳格な声音が響く。

「僕は学院に学びに来たのであって、古代竜を殺しに来たわけではありませんから」
「それが答えか……うむ。汝の先ほどの一撃で頭が冷えたようだ。我はやや早計であったのやもしれぬな」

ドラゴンはコロリと寝転がり、前足の先に置かれた自身の牙の残骸を悲しそうな目で見つめた。

「あの、その節は、すみませんでした」
「いや、いいのだ。我は負け、汝が勝った。ましてやあれほどの殺意を向けたというのに、情けをかけられ、助けられてしまった」
「その、牙とかまた生えてきます、かね?」
「案ずるな、生えてくる」

ドラゴンは得意げに鼻を鳴らし翼を広げた。
なんだこの子かわいい生物。

「ところで、どうしてドラゴンさんは、僕に吸血鬼の血が入ってるわかった時、あれほどに怒っていたんですか?」
「……汝、我の名はゲートヘヴェンという。ドラゴンさんなどやめておくれ」
「あ、そうですか。じゃあゲートヘヴェンさん、で」
「うむ、よきかな。我も汝のことを是非、アーカムと呼ばせておくれ」

どうぞどうぞ、と快諾して、ラビッテの肉をすすめてみる。だが、やんわりと断られてしまった。
ドラゴンって焼いた肉食べないのかな。

ゲートヘヴェンは、星々の輝く夜空を見上げ、ため息をひとつ……硬い声で話をはじめた。

「ずっと昔になる。それこそ人の生では足りないほどに、遥か昔のことだ。
我々の祖先が魔人族を、闇の大陸に追いやって以来、この大陸は2000年という長きにわたる安寧を実現した。我の生まれる前の話だ」

「ゲイシャ神話の時代の話ですね。大学で習いましたよ、人類史がはじまる前、魔の軍勢がこの大陸を支配していて、人々はしいたげられていたって。
だけど、たくさんの種族が、みんなで協力することで、魔の者たちを海の向こうへおいやったって」

「吸血鬼とはいわば魔人の意思を継ぐ者たちだ。魔人による人類支配以来の、凄惨な血の時代を作り上げたのが彼ら……つまり、君のおじいさんと、そのまた親の親、先祖たちだ。
狼たちがいなければ、人は永遠に自らの運命を、その手にすることなど出来なかっただろう」

ドラゴンは黒い瞳に怒りを感情をやどしていた。
彼がどれほどの時を生きてきたのかは、わからないが、彼自身の吸血鬼に対する感情は、
歴史に語られる絶対悪としての吸血鬼に対するものではない気がする。

それはもっと個人的で、人間くさいものなはずだ。

「何か大切なものを、吸血鬼に奪われたんですか?」

俺は思い切って聞いてみた。

「……おとぎ話をしよう。アーカム、きみは秘密結社を信じるかな?」
「突然ですね。秘密結社ですか……まぁあったらカッコいいですよね」
「その昔、吸血鬼の力が弱まった時代、人間社会の創世記、ひとりの男が人々を守る為に、世界中の英傑を集めてある狩猟組合しゅりょうくみあいを作り出した。
彼の名はスカラー、生まれたばかりの我を育て、そして守る為に吸血鬼に討たれた男だ」

これ狩人協会のことかな。
知ってはいたけど、だいぶん昔の時代からあるんだな、うちの秘密結社。
てか初代狩人、ドラゴンをペットにしてたのか。

「スカラー・エールデンフォートですね。まさかゲートヘヴェンさんの家族が殺されていたとは……」
「それだけじゃない。奴ら、吸血鬼には他にも煮え湯をのまされてばかりだ。
奴らは生まれたその時から魔をやどし、邪悪に満ちている。人の血をすすらなけば生きられぬ、迷惑きわまりない不良種族なのだ」

すごい言いようだけど、人間がゴキブリ扱いするんだもんな……たしかに不良種族かもしれない。

自宅に帰ってきた時、そんなやつが勝手に上がりこんでたとなれば、ブチ切れても仕方ない、か。
女狩人エレナから俺は血が薄いから「血の呪いなんてないオーケー」みたいこと言われてたけど、あれは嘘だったんだ。

この竜はかなりの吸血鬼アレルギーだ。

「アーカムよ、我は感謝し、そして謝らなければならぬ。ためらいなくアーカムを殺そうとした我に、情けをかける、その慈悲に礼を、そして勤勉な学徒に非礼を取ったことをわびよう」

ゲートヘヴェンは大きな頭をゆっくり下げた。

正直言って、天候操って雷撃ったり、思っきり食べようとしてきたり、非礼なんて言葉じゃなまぬるい。

けど、まぁここは許してやろうじゃないか。
度量の大きさを見せて、この親人家の竜と交流を持つのだ。
そうすればきっと、ドラゴン魔法のひとつやふたつ心良く教えてくれるに違いない。

俺は打算的に頭を働かせつつ、手を上げて鷹揚にこたえた。

「えぇ、いいですとも。全然、気にしてないです」
「その懐深さ。我は感謝するぞ」
「へへ、ただ、代わりと言ってはなんですが、いくつか聞いてもいいですか?」
「よかろう。何を聞きたいのだ?」

俺はドラゴンにゲオニエス帝国国内で起こった、大規模な森林破壊についてたずねた。
彼はだまって質問を聞いてくれたあと、じーっと俺の顔をみて、何か考えてから口をひらいた。

「それは我がやった。間違いない」

あ、犯竜確保です。
この竜、焼き逃げしてます。

「どうしてゲートヘヴェンさんは、そんなことをしたんですか?」
「それをアーカムに話すために我は、我とその仲間たちが受けた啓示について語らねばなるまい。すこし長くなるが、よいかな」

古代竜ゲートヘヴェンの話は10年前にさかのぼった。

ドラゴンクランには8匹の智慧者、竜のなかでもとくに歳をとった、
古代竜からなる学院の意思決定委員会「竜神会議りゅうじん かいぎ」があったそうだ。

竜神会議はふるくよりこの地にあり、人とともに魔法の発展に努めてきた。

ある日、彼らのうち、時の解釈に秀でた1匹の竜が未来の観測をおこなった。

それが全てのはじまりだったという。

未来視の奥義≪ポーラーフェイト≫によって観測された未来は、強大な侵略者によってすべてが破壊される凄惨なものだった。

竜はただちに竜神会議にそのことを伝えた。

竜たちは驚愕し、彼らは未曾有の危機を、各国の長たちに伝えようとしたが、そこに「待った」がかかった。

「我が友は聡明な竜だ。時間と運命というものを誰よりも知り、理解している。
彼は悲劇の未来の運命力はきわめて強いのだと語り、かならずその未来は訪れるといった。
我らはうなだれた。だが、予言はそこで終わりではなかったのだ。
我が友は言ったのだ『ある人間だけが、その未来を変えられる。その者は幼く、まだこどもだ。竜たちよ、宿命の子どもを探すのだ』……とね」

古代竜たちはその日をさかいに、ドラゴンクランを大魔術師レティス・パールトンに託し、予言の子を探す旅に出たという。

「それが学院を去った理由ですか」
「そうだ、我らには使命があったのだ。大事な大事な使命がな」

ゲートヘヴェンはまず、大国ゲオニエス帝国を徹底的に調べることにしたという。
彼は何も見つけられずに長い時間を使った。

だが、彼はある日、めぼしい者を見つけたのだ。
才能ある若い少年魔術師だった。
彼は帝国の田舎町で冒険者をしており、その冒険者パーティはまだ未熟だったが、彼の才能は飛び抜けていたという。

ゲートヘヴェンは人間の姿にばけて、冒険者パーティの仲間入りを果たした。
そうして彼が救世の子どもかどうか判断しようとしたのだ。

ある日、彼らのパーティは深い深い森の奥地まで、クエスト対象を追ってきてしまい、迷子になってしまったという。

ゲートヘヴェンは魔法をたくみに操り、仲間を導いていたが、パーティはどんどん帰り道がわからなくなっていく。

やがて日も暮れ、彼らは森の奥地で世を明かすしたくに入った。

その時だという、ゲートヘヴェンが森の中にただならぬ気配を察知したのは。

「我は仲間の冒険者たちに、いち早く森を抜けるよう伝えた。だが、彼らは決して我を置いて逃げようとはしなかったのだ」
「いったい何が現れたんですか? 上位種のポルタ、とかでしょうか?」
「ポルタもまた恐ろしい魔物だ。だが、違った。我らのパーティが森の奥地で会ったのは人間だった」

ゲートヘヴェンはその者が不思議な格好をしていたのを覚えていた。

現れたその男は、ゲートヘヴェンですら聞いたことのない言葉で何かを叫んでいたという。

「だが、彼は、我らに言葉が通じないとわかるや否や、パーティの仲間を瞬く間に殺してしまったのだ。
ためらいのない意を消した攻撃に、我の見込んだ少年は命を落とした。
我は怒り、竜の姿となりて、その者にあいまみえた。あの人間は我の姿にかつもくし、驚愕していたか」

ゲートヘヴェンとその者は数時間にわたり戦いあったが、最後には消耗した人間を森ごと蒸発させることで、勝利をおさめたという。

「それがゲオニエス帝国での森林破壊の真相ですか」

ゲートヘヴェンはゆっくりと首を縦に振った。

「我は気づいたのだ。未知の言語、文化、武器……破滅の侵略者たちはすでにこのセントラ大陸の地に降り立っている。
我ら古代竜ですら油断ならない強者たちだ。上位列強種たちの中でも負ける者が出てくるやもしれぬ」

ゲートヘヴェンは夜空を見上げながら言った。
俺もまた同じ空をみて、狩人協会の怪物図鑑を閲覧したときのことを思い出していた。

古代列強種、あるいは単に列強種。
それは初代狩人スカラー・エールデンフォートが協会を作る理由となった、生態系の覇者に君臨する者たちを並べたてたものだ。

今の時代ではさしたる意味は持たなくなっているが、当時はこの列強種の討伐は危険すぎるため、
狩人協会の下位組織、冒険者ギルドでは討伐の制限がかかっていたという。

記憶が正しければ人狼、魔人、吸血鬼、柴犬、悪魔、眷属、竜、ポルタ……みたいな順番だった気がする。大事ではないので、よく覚えてはいない。

人狼に近づくほど種として強いんだったか。

だが、それにしても森の奥地、ドラゴン相手に数時間ねばれる耐久性ーーもしかしてそれって……。

1年前のエレアラント森林が頭をよぎる。

「しかし、我は幸運だ」
「……ん、いきなりどうしたんですか?」

夜空を見上げていたゲートヘヴェンはこちらに向き直って、つぶらな瞳をパチクリさせた。

「アーカムよ、真に強き者よ。我は見つけたのだ、予言の子を、世界の救世主を」
「あ、もう見つけてたんですか。おめでとうございます」

冷めたラビッテの肉を食べながら、俺はそれが誰なのかたずねた。
ゲートヘヴェンはそんな俺を見下ろし、牙のかけた口をニンマリご機嫌に曲げた。

「今、我の目の前にいる」

「へぇ〜…………え?」

俺はラビッテの肉を取り落とし竜の目を見つめる。
ゲートヘヴェンはただ嬉しそうに、やはり俺のことを見つめ続けるのだった。

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