記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第141話 行方不明のドラゴンたち
ドラゴンクランで廊下を歩けば、誰かしらに手を振られるようになってきたある日のこと。
俺はコートニーにつれられて、ドラゴンクラン大魔術学院の広すぎる敷地内を歩きまわり、
魔術の鍛錬と勉強をおこえる、充実した設備や環境を紹介してもらった。
4階からなる、書物の秘匿レベルがわかれるドラゴンクランの大図書館は、この学院が、まさに学問の聖地であることを、よく体現していたとおもう。
見上げる高さの天井までとどく棚が、整然とたちならび、真面目そうな生徒も、おちゃらけた生徒も、そこではみなが意欲をもって勉学にはげんでいた。
誰でも使える修練室は便利だった。
生徒がたくさんいて人気の施設であったが、決闘場のような豆腐型のせっけいのおかげで、
誰かがあぶれることもなく、ぞんぶんに学んだ魔法を行使することができる良い場所だった。
彼女に大魔術学院での過ごし方を教わって以来、俺の魔法への関心は以前にも増して強くなっている。
レトレシア魔術大学に入った時もそうだが、どうやら俺は学校や学問というものに触れること自体が、意外にも好きらしい。俺でも知らなかったことだ。
前世で勉強が嫌いだったのは、魔術という学問がなかったからいけなかったようだな。
由緒正しき魔術の聖地、ドラゴンクランで過ごす日々は、俺の世界を広く深いものにしてくれる。
サボり癖がついてしまい、剣術の修行なんて最近はもうやらなくなってしまったが、その分だけ俺の大好きな魔法の勉強に時間をあてられる。
もちろん今のままじゃダメなのはわかるが、週に7つの必修単位と、留学生として異文化交流会に出席する以外、好きなだけ魔術を勉強していい環境なのだ。
レトレシア魔術大学だってもちろんすごい。
だが、あの街にはすでに俺を縛る修行のルーティンと兄弟子の目が、そして本気で殺そうとしてくるクレアさんがいた。
この場所にはない。
ここには俺を縛るもの何もないんだ。
今まで隙間時間を見つけてやりくりしてた、魔法の勉強にストレスフリーでうちこめる、
最高に幸せな日々だ、留学に来てよかったと思う。
ー
俺はドラゴンクランの大図書館で、ふつうに授業受けてたら、まずならわない魔法と知識がのってる魔導書を読み漁りながら、授業と授業の空き時間を潰していた。
隣にはたまたま空き時間の重なったコートニー。
彼女は勤勉of勤勉な学徒なので、魔術の勉強に関しては、お互いによい利害関係を作れていると思う。
何を隠そう、彼女は魔術言語が苦手らしい。
「アーカム、貴様また竜の書物を漁っているな。どこからそんな古い魔道書を持ってきたんだ。
我が学院の占有するドラゴンの魔法を、習得するためにこの地に来たのは見えすいている、が、すこしはかくす努力をしろ。浅ましいぞ」
「そんなこと言うならコートニーさんの苦手な魔術言語を教えてあげません」
「貴様、私を脅すつもりか?」
「うっ、そ、そんな恐い目で睨んでも、ほら、毎朝の剣の稽古だってつけてあげませんよ?」
「ホームステイの先の主人が私であることを忘れているようだな。貴様がその気なら別に出て行ってもらっても構わーー」
「ごめんなさい、僕が浅ましかったです」
竜の魔法について書かれた魔道書を、近くの返却カゴに入れる。
果てしなく広い図書館から苦労して見つけてきたわけだが、また同じ場所に行けば見つかるので良しとする。
まぁ実は留学生の俺がはいっちゃいけない場所から持ってきたから、すこし手間が掛かるんだけどね。
「家を脅迫材料に使うなんて卑怯ですよ、コートニーさん。歳下いじめて楽しいですか?」
くちびるを尖らせ、コートニーの残ってるかわからない良心に訴えかける。
「最近のアーカムは調子にのって、生意気になってきたからな。立場を思い出してもらう必要があったまでのことだ」
コートニーはグイッと顔を近づけ、戒めるように指をたてた。
「決闘魔術だけでは魔術師の優劣は決まらないことを、いま一度おもいだし、ゆめゆめ忘れぬことだ」
きらびやかな碧眼はけわしく、彼女が先日の授業で俺がドラゴンクランの時の話題になったことを、心よく思っていないのは明らかだった。
うむ、それにしてもいい匂いがするな。
眉間にシワがよっているが、彼女は、元来とても愛らしい顔の持ち主なので、こうも近づかれると中身27歳童貞には気恥ずかしいものがある。
「わ、わかり、ました……その、離れてください」
「……ふっ、ゆめゆめ忘れるな」
コートニーはそう繰り返し言い、スッと身を引いた。
「では、そろそろ行こうか。貴様の大好きな神秘魔術の源流、ドラゴンの智慧にふれる時間だ」
「っ、そうでしたね! はやく行きましょう!」
澄まし顔のコートニーに続いて、俺は図書館をあとにした。
ー
竜系神秘学。
生徒たちに竜系と呼ばれるこの授業。
てっきりドラゴンが教えてくれるとか期待していたが、別にそんなことはなく、ふつうに人間のおっさんが教鞭をとっている。
教壇を往復しながら、配布した教科書を読み上げるだけのおっさんに、
時折、生徒から質問が入ったり、逆におっさんから質問したりして授業は、ふつうに進んでいく。
「なんか拍子抜けしました。本物のドラゴンが見れると思ったのに……はぁ」
隣に座るコートニーのカンに触るように、わざと大きなため息をつく。
「ドラゴンクランが期待以下だった……とでも言いたいのか?」
案の定、引っかかってくれたコートニーを釣り上げ、俺は眉間にしわを寄せまくり、にらんでくる少女へと顔をむけた。
「いえ、別にそういう意味はないです。かのアーケストレスの最高学府、ドラゴンクランなら本物のドラゴンが、
人相手に大きなお口を開けて教えを与える、ファンタジーな事が行われてるんだと夢を見ていたんですよ……魔術の聖地ドラゴンクランならね」
眉をひくつかせコートニーは、頬をわずかに緩まてくれた。気持ち眉間のしわも薄くなった。
彼女は堅物で、愛国心が強く、学院愛もとても強い。
もし怒ってしまったとしても、彼女の場合はその誇りの部分を褒めてやれば、大抵のことは好転する。
こんな風にね。
「以前は、魔法の智慧者オールド・ドラゴンたちが授業をとおして魔法を教えてくれていた」
「え、本当ですか? ドラゴンが先生やってたんですか?」
「あぁ。私はドラゴンを見たことは無いが、たしかにこの学院にはドラゴンがいたようだ。
だが、皆、ある日をさかいに姿を隠してしまった。彼らがこの学院からいなくなってもう10年近くなると聞く」
コートニーはいつもどおりの堅い表情のまま、わずかな寂しさを感じさせる声で言った。
本当にドラゴンが教鞭をとっていたとなると驚きだ。
だが、今となってはそれは叶わない。
なぜ彼らはいなくなってしまったのだろうか。
10年近くも姿を現さないドラゴンたち……つまりこの世界での俺の人生と同じくらいの期間、彼らは失踪したままなのか。
「どこか、野生の魔物にやられちゃったとか……いや、ないとは思いますけど」
なんとなく可能性を口にしてみる。
「……」
無視された。
それほどにありえないということか。
はたまた、ただ単に俺のことが気に食わないだけか。
多分、後者だろうな。
それにしてもドラゴンの魔法を教わるなら、直接大きな翼と体を持った伝説のドラゴンから、教わってみたかったものだ。
俺が学院にいる間に帰ってくるかな。
「早く帰って来て欲しいですね、ドラゴンたち」
「あぁ、そうだな。是非とも一度くらいは私も授業を受けてみたいものだ」
コートニーは空返事で答える。
さて、俺も彼女を見習って授業を聞くとしよう。
俺はこの授業、そのほかのドラゴン魔法を修めるためにここへ来たのだから。
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