記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第134話 焼き物調理はお得意?


「調理? 調理なんてどうやるんですか?」
「それは自分の頭で考えなくてはいけないね、アーカム」

グリードマン先生は前髪を揺らし、歯を光らせて笑う。

とりあえず爽やか笑顔でなんとかするクセは健在だな。全部その顔で済ませようとするなよ。

「アーク、わかったわ、私に任かせなさい」
「何かアイディアがあるのかサティ?」

もぞもぞと動きサティは浅瀬に降り立つ。
俺の小脇から解放されたサティはすかさず杖を取り出した。

「≪いし≫≪土操どそう≫≪いわ≫≪岩操がんそう≫」

立て続けに魔法を詠唱し、サティは浅瀬に2畳間ほどの調理場を生成した。

わずか十数秒で作り上げられた簡易キッチンに驚きを隠せない。サティさん凄すぎます。

「アーク、その金属借りるわよ」

サティはそう言うと金の卵に絡まっていた金属鎖に杖を近づけた。

「≪岩操がんそう

サティの真剣な声の詠唱。
金の卵に絡まっていた鎖は、たちまち生き物のように蠢きだし、俺の手の中から逃れるようにサティの手の中へ移っていく。

土属性式魔法では硬度の高いものほど、その形状を変化させるのは難しいのに、よくやるものだ。
流石は天才魔術師といったところか。

サティは金属鎖から金属ボウルを作成した。
形は歪だが十分に使用に耐える品質だ。

「ゆで卵は時間がかかるから、今回は中身を混ぜて焼くわよ」
「スクランブルエッグというわけだな、いいだろう」

サティにボウルを渡される。

「私は残った金属でフライパン作るから、アークはそれ混ぜといて!」
「え、どうやって混ぜんの?」
「杖でも使えばいいじゃない?」
「えぇ……」

露骨に嫌そうな顔をしてサティに考え直すよう説得。
するとサティは面倒くさそうにボウルに魔法をかけて、蓋つきの金属筒に変えてくれた。

「それで振って混ぜれるわ」
「ありがとう、サティ」

俺は足を浅瀬に突っ込み調理台に腰掛けながらたまご割りに入る。

その時、浅瀬をバシャバシャと乱す音が聞こえてきた。
見ればそこには続々と器を持って、グリードマン先生の元へ走り寄る競技者たちが見えた。

「シャア、アーカム、サテラインちゃン!」
「おぉ! サラトラお前生きてたのか!」

浅瀬をデカイへびが蛇行して迫ってくる。

「アーカムたちが戦ってくれたおかげでササっと帰ってくれたのネ」

どさくさに紛れて俺たちを見捨てていた事には言及せず、生き残りのサークル員、サラトラから3個目の卵を受け取った。

「私には調理とか絶対に無理だからよろしくネ」
「仕方のない奴だな、ほらそこで≪≫唱えて、フライパン熱する係になってくれ」

サラトラに仕事を分配しつつ卵の中身を金属筒の中へ3つ入れ、振りはじめる。

ーーバッシャーンッ

「っ、誰か水中から帰ってきたな」

深い水辺から巨大な水飛沫が上がった。

美味しく卵料理を食べサムズアップするグリードマン先生を横目に、
金属筒を振っているところへ遅れて、飛び上がって来たのは黒い軍服の水のしたたる少女。

そしてそれに追従するびしょ濡れドラゴンクラン勢だ。

「はっはは、人の邪魔するのに必死になってからそうなるんだ。残念だったな、三流魔法使い、乙で〜す」

金属筒をシェイカーの様に振りながら盛大に煽りちらす。
先生の手前、堂々と調理妨害するわけにもいくまい。
存分に調子に乗らせてもらうぜ。

「何を勘違いしている。愚かだな、アーカム・アルドレア。我々が何もせずにいつまでも湖底にいたとでも?」
「……へ? 何を言って……」
「水深が深ければそれだけで使えるエネルギー量が増えると言っているんだ。貴様らはこの競技の趣旨を理解してなかったようだな」

クラークは短い金髪をかきあげ、眉間にしわを寄せたままグリードマン先生の下へ。

「勇者トラ・ルーツよ、どうぞ万能薬の卵をお食べください」

クラークは後ろのひとりから受け取った、金の卵を5つグリードマン先生に献上した。

「はは、残念だったな。その勇者はブルジョワだから調理した食べ物しか食べないんだーー」
「うん、上手い! 通過者5名追加だ。第三種目進出おめでとう! 流石はドラゴンクランの使節団員だ」

そう言い、グリードマン先生は、拍手をしはじめる……片手にゆで卵を持って、ほぼ張りながら。

「なっ!? あんた達どこでゆで卵を!」

サティがフライパン片手に怒鳴る。

「魔法の工夫の仕方を知っていれば誰でも出来る方法を使ったまでだ、サテライン・エルトレット」
「湖の底で調理したのか……?」
「さぁな。ん、どうした、アーカム・アルドレア振る手が止まっているぞ?」

クラークは無表情を卑猥にゆがませ、空手でシェイカーを振るマネをすると、コートを翻し歩き去って行く。煽られた。あんな真面目そうなやつに。

「あぁ……そうそう。それともうひとつ。アーカム・アルドレア、お前に湖底からのお客様が来てるぞ」

振り返ったクラークの指差す方向。
悔しさに眉をひくつかせながら首を傾ける。

ーーバッシャーンッ

巨大な水飛沫。
同時に浮上して飛び上がった大きな影。

「デカイ、魚……?」

ーーンンゥゥゥゥ

背後で神秘属性式魔術の発動を察知。

「おぉーと! どうやら誰かがこの沼地の怪物を怒らせてしまったようです! 今大会での『ドローゴーン』の逆鱗に触れる違反、ひとりで卵を2つ持ち帰って来てしまうを行ってしまった者がいるようですねー!」

グリードマン先生が嬉々として、俺の顔を見ながら競技場全体に声を響かせた。

なるほど、あの巨大な魚は俺のせいで湖に解き放たれたのか。

6つのヒレを側面に持ち、全体的にホホジロザメでもイメージさせるビジュアルの巨大魚。

体調はレトレシアの聖獣モチモチより遥かに大きく見える。

「8、9メートルはあるか」
「シャア!? 浅瀬に這い上がってきたのネ!」

瞳に涙を溜めて飛びついてくるサラトラ。

「安心しろってサラトラ。あとの調理は任せたぞ?」
「あ、アーカム、無理なのネ、あんなバケモノどうにもならない、シャア……」

元気なくなったサラトラの並々ならぬ胸に金属筒を挟み、俺は調理場から浅瀬に降り立った。

「アーク! あと30秒耐えてくれれば言いわ! 無理するんじゃないわよ!」

心配性な俺の保護者サティに裏グッバイで応える。

さぁて、どうしたものか。

「ドロォォオオオ!」

浅瀬に巨体を乗り上げて猛スピードで向かってくるドローゴーン。
濡れた黒髪の毛をかきあげて、湿ってまとわりつく左手袋を外して捨てる。

そうして俺は歩きながら杖を抜き撃ちした。

ーーハグルッ

尖ったサメ頭に命中。

しかし、ドローゴーンは何事もなかったかのように突き進んでくる。

やはり対人用の≪喪神そうしんでは効果はない。

俺は杖をホルダーに素早く仕舞い、距離を詰めるべく軽く走り出した。

目の前に迫るドローゴーン。
人間くらい簡単に丸呑みしそうな大口を開けて突っ込んでくる。

とりあえず殴ってみよう。

「オラァアァァアア!」

ロケットのように尖った頭を腕力任せに打つ。

「ドロォオ!」
「ッ」

だが、ドローゴーンは止まりはしなかった。
やや速度は落ちたが、体格差がありすぎたようだな。

「ドロォォオオオ!」

突進力の衰えないドローゴーンの頭にしがみつき、浅瀬を縦横無尽に駆け回る。

このままではサティの調理場に被害が出るのは時間の問題だ。

「よしっ、いいこと考えた!」

俺はしがみついていた頭から、ドローゴーンの背中へと駆け上がる。
そして、鋭い刃の様に切り立った縦ヒレ目掛けて、サメヘッドを足場に全力の「縮地しゅくち」を行う。

「ドロォォオ!?」

縦ヒレをがっしりキャッチ。

俺という突進とは反対方向に向かう超質量によって、ドローゴーンの体は一瞬止まった。

だが、静止したのはほんの一瞬だ。
次の瞬間、ドローゴーンはヒレの先っぽの重心となった、俺を中心として上体をそらしはじめた。

全身の筋力、剣気圧、バネを総動員して、ドローゴーンのヒレを地に足つけ全力で引っ張る。

「ぐぬぬぬぅう!」
「ドロォォ、オ、オオッ!?」

エビの様にそり返ったドローゴーン。
魚類としてあまりにも無理な姿勢は長続きするはずがない。

巨大ザメは弾かれたように空中に舞い上がった。

競技場全体から驚愕の歓声が聞こえてくる。

さて、では調理と行こうか。

俺は素早く杖を抜き、頭上6メートルの低空を舞う巨大ザメに狙いをつけた。

「トラ・ルーツはたまご料理に飽きたらしいぜ」

俺は呟き、そして唱えた。

俺の全霊の火力を。

「≪≫!」

杖先に灯る、はじまりの種火。

俺はこの構築された原付のエンジンに、脱法ニトロをたんまりと注ぎ込む。

そうして俺は、杖先から爆発的に膨れ上がる煉獄の火炎砲を解き放った。

「ドロォォ、オオオ、ぉぉ、おおおおーー」

熱い、否応なしに熱い。

≫の魔術式に組み込まれた本来の安全装置は働かない。
はなからこれほどの魔力を注ぎ込んで使う事を、魔術式で設計されていないからだ。

それゆえに、本来は起こらない杖の先端の発火から始まり、あまりの水は一瞬で温水に変わり、そして蒸発し始める。

「ドロ、ォ、オ、オ、ォ……ォ……ーー」

轟々と燃え盛る炎の中で消え行く声を聞き、俺は魔法への魔力供給を絶った。

数十メートル立ち昇った獄柱の「現象」が霧散して魔力に還っていく。

ーーバッシャーン

溢れかえる蒸した水蒸気、その中で赤い属性魔力の粒子が舞い、自然に還っていく光景はなんとも神秘的で、
魅力的で、落ちてくる巨大焼き魚の水辺への帰還を極上に仕立てあげた。

風が吹きあれ、水蒸気が晴れていく。

それとともに競技場全体からどわっと拍手喝采の嵐が、膨れ上がるように巻き起こった。

焼けた袖を引きちぎり、俺は大変に満足した爽快な心地で、調理の完成を報告しに調理場へ向かう。

スクランブルエッグもそろそろ焼きあがってる頃合いだろう。

「ふっふふん、サティ、サラトラ、それじゃ俺たちも第3種目進んじゃおっか♪」
「なにが『進んじゃおっか♪』よ。……アーク、本当にアークはアークなんだから……これ見なさいよ」

水蒸気のなかから現れたサティは、大きなため息をつき頭を抑えながら、背後を親指で指し示した。

そこに居たのは未だ熱の燻る香ばしい焼き魚。

「シャア、調理場が……全部台無しだなのネ……」
「…………え、まさか、やっちゃった?」

焼き魚が横たわっていたのは調理場のあったはずの場所だった。

すぐ近くで打ち上げられる競技終了の花火。

同時に俺は理解した。
俺たちのレトレシア杯が終わったことを。

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