記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第131話 久々のクソガキ
決闘魔法が発展しだした近代の魔法群に「カウンター魔法」と呼ばれる種の魔法体系がある。
その名の通り相手の魔術師が害意のある魔法を使用してくる前提で作られた、攻撃反応型の魔法だ。
習熟難度は相対的に高く、本人のセンスに傾倒することから、実戦では滅多にお目にかかれない珍しい魔法であるーー。
「≪反撃効果≫!」
迫る高速の飛翔魔力。
魔法の速度、杖の連射性を考慮。
レジストは間に合わない。
ここは耐えるか。
上体を固め、腹に力を入れ、僅かに腰を落とす。
ーーハグルッ
右肩に着弾。
「ッ!?」
強烈な眠気が襲ってくる。
間違いない、俺は今≪喪神≫を食らってしまった。
なるほど、厄介な魔法を使う、奴だ……。
「へへ! びっくりしてレジスト出来なかった〜? まぁ仕方ないよね、だってこの僕のカウンターなんだもん! 対応出来るわけないもんね!」
「クソ、が、き……」
ダメだ、意識が持ってかれる。
「噂通りのロマンチスト気取りだったけど、この僕にかかれば、アーカム・アルドレアなんてボロ雑巾と大差ないね! ほら、これでトドメっ、食らって田舎に帰りな! ≪ルビテクト≫!」
ペラペラとよく喋るガキだ。
それに聞き覚えのないトリガー。
魔感覚が知らせる魔法の接近。
だが、ダメだ。
眠すぎてまるで対応出来ない。
ーーゴワッ
「ぼぉっぐッ!」
抗えない衝撃。
浮遊感に見舞われ、横っ跳びに飛ばされる。
頬に当たるはチクチクした感覚。
あぁ、俺、芝の上に寝てるわけか。
なんか、目、覚めて来たな……。
「はは、馬鹿だぜお前。俺が意識を失うまで待っとけば、お前の勝ちは確定だったのによ」
ゆっくりとクリアになっていく思考。
よし、これなら行ける。
「へへ! アーカム・アルドレアの使う速攻が気絶魔法なことくらい、この僕が知らないとでも思ってるの〜? ぷぷー、滑稽なり滑稽なりですね〜!」
「チッ……」
あぁ?
なんだこの感じ。
久々な感覚だ。
無性にイライラして来たぞ。
完全にクリアになった思考で、二本足で大地を踏みしめる。
「……あれ?」
今、気がついた。
目が見えないんだけど。
どんなに瞬きを繰り返しても、ただ瞼の筋肉が動いている感覚だけで一向に視界が確保できない。
「へへん、どうしたのかな〜? もしかして目が見えないのかな〜? 一撃で視覚を奪い取る魔法を使える魔術師がいたとしたら、きっとその子はすごい天才なんだろうなぁ〜……そう、この僕みたいね!」
「ッ……クソガキめ」
俺の中で、何か糸のような物が切れた音がした。
「さぁ、向こうから恐〜い龍が近づいてくるから僕はもういくね! それじゃアルドレアくんはそこでひとり暗闇の中突っ立ててね☆ ばいばーい!」
人間の主な外界からの情報取得手段は目と耳に頼られる。
特に目を潰されると人にとってなかなか辛いものがある。
ただ、その他の知覚が発達してる場合はその限りではない。
俺は常人の持たない知覚を持っている。
剣知覚じゃない。
そんなもの使うまでもない。
微細な空気の流れを肌の触覚で掴む。
いた、あの小さい奴だ。
体を向け狙いを定める。
引き絞られたバネ、基本移動術「縮地」で芝の一部爆発させた。
もう魔法とか関係ない。
あのクソガキだけは普通に殴って教育する。
「ふんふふーん、ん……ん゛ッ!? ≪水撃≫!」
効かない視界の先で魔法の反応。
身を振って飛翔体を回避する。
「ッ、魔感覚だけで避けたのか! この僕が聞いたもうひとつの噂も、どうやら本当だったんだらしいね! ≪水撃≫≪水流≫!」
次々とトリガーだけの詠唱を行い、水を辺りに放ちまくるクソガキ。
俺は全ての攻撃をニアミスで避けて生き、見えない術者へ迅速に近づく。
「かかったね! これで今度こそ、この僕の勝ちだ! ≪水流≫≪氷結≫!」
ん、あたりの気温が急激下がった。
体が動かない。
「ふはは! 撃つ魔法にしか慣れてない典型的な決闘魔術師だね、アルドレアくんは! こんなのが子犬生No.3の実力派魔法使いだなんて、レトレシア魔術大学なんて大したことないないなー!」
なんかうるせーこと言ってんな。
よし、本気で黙らせにかかろう。
全身を本能に従って力ませる。
すると体を固定していた何かが、パリパリと音を立てて一気に砕け始めた。
視界が効かないせいでなんとも言えないが、十中八九、氷かそこいらの固形物だろう。
「ふぇ!?」
3メートル前方から聞こえる驚愕の、ふぇーー。
肉体を剣気圧で強化し鋼鉄と化した、ちっちゃい重機を乗せたような肩でチャージタックルを敢行する。
「うわぁあああ! 魔術師のくせに魔法で戦わないなんてなんて卑劣なんだ、アルドレアくんは! 来ないで、来ないでよぉぉ、≪風打≫! ≪ルビテク、ぼっへぇえッッ!?」
物体と俺の肩メロンが衝突。
気配が遠ざかっていく。
はい、一丁上がり。
なんも見えないからよくわかんないけど、10メートルくらい飛んだんかな。うん、飛んでたらいいな。
「アーク! ちょっと何してんのよ!」
「ちょうどいいところに、サティ。実は目が見えなくなっちゃったから困ってたんだ。回収してくれないか」
遥か頭上から「はぁ!?」と疑念の声が降ってくると、共に水も降ってきて、俺のことを包み込んでくる。
優しく持ち上げられ、水龍の頭に戻ってきた。
大人しくあぐらをかいて座る。
今は水を生成する係に徹することにしよう。
「おかえり、アーク、あの軍服の男の子凄い強かったね!」
「いや、全然強くなかったけど? ゲンゼはまさか俺があんなクソガキに負けると思ったのかな?」
「え、いや、そういうわけじゃ、ていうか多分あの子はアークより年上だと思うけど……」
まごまごして口ごもっていくゲンゼの声。
失態だ、ゲンゼに八つ当たりしてどうするんだ。
この怒りは然るべき相手にこそ向けるべきだろうな。
「サティ」
「ん、なによ、アーク、もうちょっとゴールだからどっか行かずに我慢してなさいよね」
「いや、ドラゴンクランの奴らには絶対ボコボコにしようなって思って」
「……そんなのとっくに確定事項だから!」
威勢の良い返事が返ってきた。
サティの闘志はまだまだ熱々だ。
志を同じにする仲間と共に、俺たちの乗る水龍は罠だらけの陸上トラックを突き進んでいった。
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