記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第105話 2人のバケモノ



エレナを正面に捉えた状態で静かに刀を抜き放つ。
薄暗いドームを壁や床の青い燐光があわく照らしだす。

清廉とした空間に姿を現したのは細く長い黒銀の美しい一振り。
それはとうてい人の作り出したものとは思えない神秘なる輝きを、その場にいる者たちの目に引いた。

修練場内にいる3人の狩人たちは、この刀の刃の美しさに目が釘付けになっているーー気がする。

ただその3人とは別に刀を持つ当の俺が、その静寂の支配するリングの上で焦りにあせっているのだから何ともみっともない。

「いい刀だねぇ~アーカム」

観客席から賞賛の言葉が放たれ静寂が終わる。

なんでエレナがあんなに速く動けたのかわからず冷や汗が止まらない。

だが、そんなことはおくびにも出さずに平静と取り繕って笑顔でアンナに応じる。

「でしょう。今朝、プレゼントされたんですよ」
「へぇ、プレゼントかい。本当に良い刀をもらったね」
「私に言わせれば、武器が良くてもそれを扱うのがカス野朗じゃどうしようもない。犬に金貨」

エレナは首をかしげて嫌味な笑顔を送ってくる。

「言ってろ」

傲慢な高校生におしおきの時間だ。

「アンナ、よろしく」
「あいよ」

エレナは巨大な鎌を不思議な型で構えた。

鎌の尻の方に手を添えて、棒の中腹を脇に挟んだ奇妙な構えだ。
剣とは武器術の理論に大きな違いがあるらしい。

どういう理屈でその構えになるのかぜひとも聞いてみたくなるな。

観客席のアンナはポケットから銀貨を取り出すと指で弾いた。
銀貨はクルクル回りながらリングの中央へ向かって飛んでくる。

狩人になれるかどうかが決まる戦い。
勝てばエレナを説得が成功する。
そうすれば王都にいるとかいう残り2人の現役狩人人含めて5人の了承を得ることができる。
つまり晴れて狩人(仮)になれるのだ。

エレナの瞳をまっすぐ見つめる。

「キリッ」
「うぅ」

むこうはすごい恐い顔でにらみつけてきている。

る気十分ってか。
恐いねぇー。
気楽にいこう。
へへ、よし、ビビッてないぞ。
俺は冷静。
クールでクレバーにいこうぜ。
俺たちの力を見せてやろうか、この傲慢な梅女に。

ーーカッ

銀貨が、
地面へと落ちた。

「死ね」

目にも留まらぬ死神の刃が確実に首を狩りにくる。

「ひぃ!」

やはり速い。
てかさっきよりもっと速い!

「いィッ!」

刀を血管模様の致命の軌道にギリギリ滑り込ませる。

ーーギィィイイイ

黒銀の刃にそって死の軌道を上方へそらし、自身もエビ反りになって剛風に髪の毛を持っていかれながらなんとか初撃を見切る。

まさか踏み込み一歩でこちらまで届くとは。
なんてリーチだ。

「ふん!」

エレナは鬼の形相で体ごと回転しながら踊るように鎌を振り回す。
彼女の身の丈よりも大きいその鎌が鈍い紅色の残像を残しながら空気を切り裂く。

回転威力の乗った刃が再び迫る。

「はは、こういうリーチ武器は懐に入れって相場が決まってんだよ!」

初撃を凌いだことでできた自信が俺を前へと進ませた。
再び鎌に髪の毛を持っていかれながらも姿勢を低くして避ける。

頼むからもう俺の髪の毛持ってかないでくれよ。

「ッ!」
「せい!」


エレナの蹴り上げが直線軌道で飛んできた。
回転する鎌は横合いからの攻撃に限定されていたため、これまでとは軌道の違う突然の蹴りに一瞬反応が遅れる。

ーーギャン

「うっ!」

やくざキックを腹にもらいながら、地味にエレナのパンチらを期待して視線をスカートの闇へ。

「短パンかぁ!」
「バカ野郎ね」

エレナの姿が消える。

「ッ!」
「こっち」

視界の隅にエレナを捉える。
吹っ飛ぶ俺を「縮地」で追い越したとでも?
あんな長物を振り回しておいて、それほどの速度を出せるのか。

鎌を構えなおすエレナに感心と戦慄を器用に両立させながら、空中で姿勢制御する。
だが、間に合わない。

回避をあきらめて刀を使ってガードに入る。

「甘い」
「なっ!?」

エレナの鎌は刀を斜めに構えたガードに対し、軸回転するように滑り込んできた。
これはまずーー、

ーーギチィイ

「くう!」

硬質の装甲層を突破して、たやすく首の肉が持っていかれる。
肉をえぐられると同時にすぐさま血式魔術による血液硬化もおこなって、ついでに止血もしておく。

「はっ!」
「ぐぅうぅう!」

エレナは俺の首に刺さったままの鎌先を腕力に物を言わせて振り回しはじめた。俺の体ごと恐ろしいほどの剣圧によって思いっきりぶん投げられる。

強烈な衝撃。
揺れるドーム。
端までぶっ飛ばされ遺跡の壁を盛大に破壊されていく。

亀裂が観客席の直上から等分した際の、4分の1もの範囲に広がっていき天井も崩壊している。

ここは地下だって言ってんのに容赦がない。
まったく、嫌になるね。

「がはぁ」

口から大量に吐血。
尋常じゃない衝撃が俺の内臓をいくらか破壊したようだ。

「ちくしょう、あの女ーー」
「なに休んでんの」

耳元で声がした。

「はぅッ!?」

ーーギャン

鞘を放り投げ反射的に両手で刀を持ってガードする。
衝撃を鎧圧へ逃がすも、その全ては殺しきれない。
空中後転しながら壁際からドーム中央へ再び吹き飛ばされる。

両足ついてしっかり着地。
中央リングへと戻ってきた。
休ませてくれる気はないらしい。

大きくえぐれた遺跡の壁が爆発し、恐い顔した少女が目にも止まらぬ速度で飛んでくる。

本当にコイツあかんわ。

「オラぁ!」

突っ込んでくるエレナに高速の刺突を放つ。
だが、エレナは何でもないように刀の切っ先に鎌先を合わせて、打ち落としてきた。

馬鹿かよ。
数ミリしかないの刃先に、もっと細い鎌の刃先を合わせて来たのだ。
何さらっと神業してんだ。

「まじかよ!」
「マジ」

彼女は刀の刃先を軸に、鎌を使ってそのまま空中前転した。
まじで人が死ぬタイプの前転かかと落としを躊躇なく打ち下ろしてくる。

なんかこれだけ思いきりがいいと逆に気持ちよくなってくるな。
寸止めすることとかまったく考えてない一撃だ。

あぁもういいや。
俺もそっちのスタイルでいくわ。

「クソガキがぁあ!」

エレナのかかと落としを思いっきりぶん殴る。

ーーバゴォン

「イっ!?」

エレナは驚いたような目を見開いた。

俺の反撃が予想外だったのか、はたまた歳下の8歳児ーーいや、9歳児にクソガキ呼ばわりされたのにショックを受けたのかはわからない。

エレナの体は衝撃に素直に反応し、今度は後ろ回転しだす。

しかし、こんなんじゃ終わらせない。
こんなんで終わらせてたまるか。
このジャリガキには対戦相手へのリスペクトというものを、しっかり教えてやらなければいけない。

つま先に力を込めて「縮差」を使い、間合いを微調整。

そして半円を描きながら上っていく白いエレナの足首を、さきほどパンチを打った手をそのまま伸ばして掴みとる。

「んあ!?」
「うらぁあ!」

地面を蹴り上げて、こちらも空中に体を投げ出した。
そして掴んだ足首を離さずに空中で極め技に入る。
フットロックだ。
エレナの足首を脇に挟み固定した。

どうせポーションで回復できるんだ。
ぶっ壊しても文句は言うまい。

「ぐぬぬ!」

足首を極めたまま地面へと落下する。
へへ、悪いなエレナ。
俺はもう怒ったからな。
お前の決闘相手への思いやりのない攻撃はーー。

「離せ!」

ーーガンッ

エレナは鎌の柄を槍のように突き出してきた。

「うぎゃあぁぁああ!」

頭蓋骨が粉砕されたかのような強烈な痛みが脳を直接襲う。

「破廉恥!」
「くぼへぇ!?」

すかさず隙を突かれた足蹴りを顔面にお見舞いされる。
高速の連撃にひるみフットロックを解除して、足首を離してしまった。

「うぅ!」

半端ない痛みに耐えながら立ち上がる。

「このカス!」
「ぇ」

再び消えたエレナに瞠目。
だが、それも一瞬ーー。
次の瞬間、俺の首は健康的すぎるふとももによって押しつぶされていた。

ーーバギィイ

「私にだって出来るから」
「ぁあああ!」

腕ひじ十地固め。
刀を持った右腕を完全に極められていたことに気がついたのは完全に関節技が極まった後だった。

「あああ、ダメ! 折れるぅう!」
「折るのよ!」

剣圧を全開にして悪魔の笑みを浮かべるエレナに抗う。

ダメだ。
ぜんぜん腕がまがらねぇ!

ーーギィィイ

クソ。
コイツ強いわ。
このままじゃ勝てねぇ。

腕を折られそうになっているにもかかわらず冷静な自分。

俺って案外ピンチに強いんだよね。
追い込まれたときはいつもこうやって時間がゆっくり流れていって、やけに思考がクリアになるんだ。
何が最善なのか、追い込まれてやっとわかるようになる。

とりあえず暗唱だ。

暗唱が出来たらーー。

「捨てるか」

腕の力を抜き鎧圧も剣圧も全カット。

ーーボギィッ

「ふふん、もらった!」

俺の腕を破壊して喜ぶエレナを尻目に杖を抜く。

最後に使ったのが4日前。
あの形態は俺の体内魔力量に依存する。
ただの4日では一度枯渇した魔力は回復しきらない。
ならば強化しすぎず、良い感じに急に強くなって調子に乗った生娘をぶっ倒す力が手に入るはずだ。

「解除、≪最後のThe Goal場所Of All≫」

体内の魔力を解放して急速に元のナイスガイなボディへと戻る。

「な、なに!?」

エレナはすぐさま俺から距離とった。
血管模様の浮きあがる鎌を脇に挟み、引き絞るようにして再び初期の型で構えたようだ。

その間も俺の手足はどんどん太くなり、身長も伸びていく。
新調したばかりのレザーの装束はピチピチにはり、危ない犯罪者予備軍の香りを大解放だ。

ふむ、破壊エネルギーは漏れていない。
魔力の蓄積量が多くないためだろう。

「アヴォン、平気だ」

背後で腰を浮かしたアヴォンへ静止をかける。
きっと周囲への影響を危惧して止めるつもりだったんだろ。
もっともアヴォンごときじゃ今の俺様たちはとめることなんてできねぇだろうがよ。
なんせ俺様たちには神をも殺す最強なんだから。

「あ、あんた、何者?」

訝しげな視線に、震える声音の生娘。

ザコがさえずってんな。
生意気なガキだ。
俺様たちの腕を折りやがって。

「遊びは終わりだ。本番といこうかジャリガキ」
「私の質問に答えろ。お前ーー」

一歩踏み込む。

ーーバギィイ

「ッ……ぁ、ぇ、ぁ」
「どうした。質問したいんだろ?」

急激に顔色が悪くなり、薄い胸を押さえて膝をつく少女。

軽く胸部への「心的掌底」しただけだろう。
大げさな奴だ。

「これは、驚いたね……アーカムもなにか血統を持ってんのかい」

観客席のアンナは踏ん反り返って席に座り驚愕の顔をしている。
なかなかムカつく態度だな。

「そんなチャチな等級があるわけないだろう。俺様たちが強いのは俺様たちが俺様たちだからだ」

指先でエレナをつつく。

ーーボギィ!

何だまたこのガキの体を壊してしまっーー。
ん、折れてるのは俺様たちの指、か。

「あ?」
「はは、油断したねぇアーカム。ぼうや終わったよ。エレナを完全にキレさせたみたいだ」

アンナの言ってる事の意味が分からず、眼前の少女を見下ろす。

「なんだ、俺様たちとやんのか?」
「当たり前だろ。私に言わせればあんたはここで死ぬ事になる」

なんだ?
さっきと雰囲気が違うな。
このガキーー。

「ふん!」
「おっと」

突然のハイキックを首にもらう。
こんなに距離が近いのによく上がる足だ。

柔らかい関節に感心しながら、とりあえず折れた人差し指と右腕を再生させておく。

ーーコキコキ、ゴギキキッ

「再生?」
「驚くな。俺様たちなんだぞ」
「そんなの誰でも出来るよ、調子乗んな変態」

エレナは上げた足をゆっくり下ろし、胸部の骨を再生させながら首を鳴らしている。

「俺様たちが言うのもアレだが、お前本当に人間か?」
「本当にお前が言うな」

右腕を無造作に振り抜く。

「おっそ」

ーーバゴンッ

エレナはニヤリと微笑み、腰の入った鋭い突きを水月にぶち込んできた。

目が良い。
避けられた。
なかなかいいパンチを打ちやがる。
てか、鎌使えよ。

今度は左拳を振り抜く。

ーーバゴンッ

「のろま」

またしても避けられた。

別にこんなの痛くも痒くも無い、が少々エレナの変貌が気になる。

ジャリガキに何か起こってるな。
さっき「血統」とか何とか言ってたが、これがその血統ってヤツなのか?

エレナの後方、もうボロボロの崩れ行く遺跡を眺めながら何となしに考える。

「何、もう終わり? このカス」
「いいや、ちょっと可哀想に思えてな」

眼前で見上げてくる女に哀れみの目を向けてやる。

「お前、それで強いつもりなのか?」
「ッ!?」
「ッ、アーカム! やめろーー」

こちらの殺気に気がついたのか、すかさず距離を取ろうとするエレナ。

そんな逃げるジャリガキの白足を捕まえて思いっきり握りつぶす。

「ぐっ!」
「まだまだぁぁああ!」

粉々に砕けた足をそのまま壁へぶん投げてやろう。

ーーバゴォォォォォオオッッ

「ぁ、ぬぅ!」

エレナの体は一瞬で壁の中へ消えていき、彼女の消えた地点を起点に修練場の爆発的な崩壊が始まった。

壁を貫通して地下遺跡の通路へ消えたエレナにただの一足で追いつく。

「なにしてる。俺様たちがまだ死ぬ事を許可してないだろう?」
「や、やめーー」

全身から出血し、顔の潰れた哀れな勘違い女。
自身が強者だと勘違いしたのが、お前の罪だ。

すでに満身創痍、片足を紛失したエレナを真上からぶっ叩く。

ーーバゴォォォォォががァァアン

遺跡の床を容易く突き破ったエレナの体は何回層も下に突き抜けるように沈んでいった。

今度は遺跡の通路の天井を蹴って、一足でエレナに追いつく。

もはや俺様たちにとっては地面のあるなし、そこに物質があるかないかなど移動を制限する要素にはなり得ない。

かつての俺様たちでも来たことがないほどの地下空間にやってきた。
やはりこの遺跡は馬鹿みてぇに広い。
真っ暗な空間を見て肘を抱いて勘違いジャリガキを探す。

「クソごぁああ!」
「!?」

崩れいく遺跡の、遥か地下で遭遇したエレナに落下ざまの強烈な拳をもらった。

「ただの、ラッキーパンチだがーー」

反撃する気力があるなんてな。
このジャリガキ、まだこんな力があったのか。

「いいじゃねぇか。俺様たちに抵抗してみせろ」
「ーー」
「ッ!?」

背筋に悪寒が走る。

なに、俺様たちが恐怖している?
ありえない。
俺様たちは最強なんだ。
もうとっくに狩人なんて神の領域にいるんだ。

なのに、なのに何故こんな人の感情などーー。

「もう飽きた。不快だから死ね」
「はぅッ!?」

距離のあったエレナを、刹那の間も目を離していなかったのに見失った。
だが、次の瞬間には全身に血管模様の浮き出たエレナが目の前にいた。

ありえない、この俺様たちの知覚をーー。

ーーグシュウァ

「ぁ?」

胸部に違和感を感じる。
止まったような時間の中、鈍重な動作で自身の胸元を見下ろす。

「ぁ、ぁ、あ、ぅ」

そこには血管模様が全身に浮き出たエレナの細腕が、深々と突き刺さっていた。

コイツ、俺様たちの、俺、さま、たちの心臓をーー。

「ねぇ、アンタも心臓を潰せば死ぬの?」

暗闇で目を光らせ首をかしげる少女。
心臓を握られてる。

「ぁ……」
「どうしたの。怖いの、死ぬのが」

言葉が出ない。

「や、めろ」
「やめない」

あ、俺様、俺、死んだーー。

「記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く