記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第95話 真夏のサンタクロース作戦
夜も更けのレトレシア区。
「≪レトレシア600ゴルゴンゴンゴン≫」
ーージィィ
レトレシア魔術大学の敷地を隔てる結界を一部無力化する。
「あ、アーク、やっぱりこんなのまずいよ」
「なんや、ゲンゼビビっとるんか?」
「おい、静かしろって」
わたくしアーカム・アルドレアとその愉快な仲間たち、ゲンゼ、ギオスの3人です。
「腹くくれ! 親友のためやろ」
「ぅぅ、そうだけど……ひゃっ!」
情けない声を出すゲンゼをひょいっと持ち上げて、柵の向こう側へ投げ落とす。
「よし、どんどん投げるからそっち並べてくれ」
「おっしゃ任せろや!」
「もう、僕知らないからね! どうなっても!」
「共犯のくせに今更言い逃れできるかっ」
「うぅ、ぅ」
おしゃべりしながらも、俺は大量の依頼が入った袋をレトレシアの敷地内へ投げ入れた。
「よし、これで全部か」
すべての袋を投げ終え、俺も跳躍して軽やかに柵を超えた。
さて、ここからが作戦の本番。
作戦実行に当たって本作戦「真夏のサンタクロース」の作戦内容を振り返ろう。
今回の作戦の目的はそのままでは絶対にプレゼントを受け取らないであろう、あるいは受け取っても速攻ゴミ捨て場に安置するであろう、
暴力姫カティヤ・ローレ・ドートリヒトに俺の編んだマフラーを届ける事である。
そのための前準備をこれから始めようというのだ。
作戦内容自体は至極簡単なもの。
とにかく校内にある教室にプレゼントを置きまくるだけだ。
どこかの金持ち貴族が遊びで学生たちにプレゼントをしまくった、という架空の愉快犯を作り上げる。
そうすれば頑固者なカティヤさんでも「ラッキー!」くらいの感覚でマフラーを受け取るはずだ。
作戦準備に金は掛かったが問題はない。
カカテストファミリーを潰した際に事務所から「汚い金」を押収したのと、
大量の杖をオズワールに売り払ったお陰で俺の保持する財産はもはや貴族並みになっているからちょっと出費は許容範囲だ。
「とりあえず2人は正面玄関まで走ってくれ。荷物は全部俺がぶん投げるから」
「了解!」
「わかったよ、アーク!」
駆け出した2人が玄関までたどり着いたのを遠目に確認。
受け取り準備が完了したのを見計らって、敷地の端っこから数百メートル離れた玄関まで沢山の服の入った白い袋を投げていく。
俺がコントロールを誤って変なところに飛んで行った袋をギオスとゲンゼが駆け回って玄関先へ並べていく。
たまにわざと遠くに投げてゲンゼを走らせる。
そうしてすべての袋を投げ終えて、俺も跳躍してひとっ飛びで玄関へ向かった。
「相変わらずエグい身体能力やな」
「アーク、はぁ、はぁ、ズレすぎ!」
ギオスはキラキラした目で尊敬の眼差しを向けてくる。
一方でゲンゼは汗だくなってお疲れのご様子だ。
「ありがとな、ゲンゼ」
「ぇ? ま、まぁ、これくらい余裕だけどねっ」
走らせた謝罪といっちゃ何だが、ゲンゼの茶髪を軽く撫でておく。
彼は結構幼い性格をしているので、男児でもこれが効くのだ。
ギオスにゲンゼ。
今回、作戦にこの2人を抜擢したのは理由がある。
信頼出来るからだ。
三馬鹿の中で一番まともなギオス。
言わずもがなクルクマからの連れ、ゲンゼディーフ。
プレゼントを配置するにはもう少し人手があった方が良かったかもしれないが、ほかにまともな奴がいなかったのだから仕方ない。
シンデロとオキツグは論外だ。
レージェとは良い奴だが肝が座っていないので、途中で逃げ出す危険がある。
ポールは真面目すぎるから多分参加してくれない。
パラダイムはアリだったが、あいつの家はお母さんが吸血鬼より恐ろしいと有名なので、友人の身のために夜中の作戦には呼ばないでおいた。
「ちょっと人が来ないか見ててくれ」
「おう!」
「まかせて」
乗り気なギオスと健気なゲンゼにしれっと俺から視線を外させる。
「よし……」
2人がこちらを見てない事を確認し、俺は指先を浅く切り裂いて出血。
その血を使って爪楊枝を作る小技を応用する事で、鍵穴に合わせた鍵をその場で作り出した。
ーーガチャ
「開いたぞ」
「すげぇ! 魔法も使わずにどうやったんだよ!」
予想通りの反応にほくそ笑みながら、俺は左手に握った針金をギオスに見せる。
「これでちょちょいとな」
「おぉ! ピッキング出来るのか!」
「あぁちょっと嗜む程度だが」
「おぉー!」
もちろんそんなこと出来ません、はい。
なんだよピッキングを嗜むって。
「それじゃ気をつけていこう。噂によると夜中はゴーレムが徘徊して侵入者を排除してるらしいから」
「そのゴーレムはぶっ倒していいんかいな?」
「んーまぁ、捕まりそうになったら仕方ないってことで行こう」
ギオスは俺のことにニヤリと笑い杖を取り出し、袋をひとつ持って駆け出した。
「よし、それじゃゲンゼ。まずは作戦通りに玄関前の袋を全部玄関ホール中央に運搬して、終わったら1階から置いていってくれ」
「わかったよ! アーク、それくらいは任せて!」
俺も玄関外から袋を2つ掴んで、ゲンゼにひとつ頷いてからギオスの後を追った。
ー
ギオスと共に順調にプレゼントを置いていく。
もう3階まですべての教室にプレゼント
「ひひ、こりゃ明日みんな驚くで!」
嬉々としてプレゼントを置いていくギオス。
俺も結構楽しんでるのでギオスの気持ちがよくわかる。
明日になってみんなの驚く顔を見るのがとても楽しみだ。
「ところで、これ中身ってなにが入ってーー」
ギオスがニヤつきながらこちらを向く。
一瞬で顔つきが変わった。
「ッ、≪風打≫!」
「≪喪神≫」
ーーガシャン
ギオスは机に置いてあった杖を手に取り、俺の背後に向けて速攻で魔法を放った。
俺も同様に腰から杖を抜いてギオスの背後に迫っていたゴーレムを吹き飛ばす。
「おぉ、わいの後ろにも来てたんかい。ありがとな、アーカム」
「こっちも助かった」
自分の背後で起き上がろうとしているゴーレムを踏みつける。
ーーゴシャンッ
この学校のゴーレムたちは金属製のマネキンのような見た目をしており、気配が薄く、若干浮遊して移動しているため音もほとんど聞こえない。
そのためゴーレムの存在に気づくためには、通常の魔術師は目視しなければならない。
魔感覚でも微妙に存在は把握できるのだが、そこは魔術大学の警備ゴーレム。
かなり直感が効きにくいように工夫されている。
それでも狩人助手であるにとっては何の事は無い。空気の流れでそこにいるのがわかるのだけど。
「それじゃ次の部屋行くで」
「おう、ゴーレムに気をつけろよ」
「大丈夫や。もう雰囲気には慣れたで」
ギオスはそう言ってクールな微笑みを浮かべ走り出した。
月夜に照らされた2枚目な顔に、涼しい笑顔がよく似合う。
そして魔法の腕も達者なのだから、そりゃモテるのもうなづける。
てか、何でこいつが柴犬生じゃないのか不思議に思えてくるな。
オキツグの10倍は優秀だと言うのに。
「おったで。≪発火炎弾≫」
ーーバビュン
ギオスは軽く杖を振って前方に現れたゴーレムを躊躇なく内側から爆発させる。
発火炎弾は俺の師匠も唯一得意としている魔法で、狙った空間にに発火と同時に爆発の「現象」を起こす魔法だ。
今のようにゴーレムの空洞内部に直接に爆発を起こさせてやれば、一瞬でマネキンは分解されて吹っ飛びその役割を放棄させる事ができる。
火災の心配が無いように威力も抑えてあって、対ゴーレムの魔法選択としては100点満点だ。
流石はギオス。
本当、なんでこいつが子犬生でオキツグが柴犬生なんだろう。
ー
用意した在庫も後わずかと言うところで無事1階から6階までの全て教室にプレゼントを置き終えた。
「うーん、この余った服どうするか」
「校長室にでも置いてきたらどうや?」
「確かに校長には結界破るのにお世話になったからな」
という事で残った数着の服はゴルゴンドーラ校長にプレゼントする事にした。
実際には校長とレトレシアの結界を一部解除する神秘属性式魔術≪レトレシア600ゴルゴンゴンゴン≫はなんの関係もない。
俺が授業中に発見した。
オリジナルスペルだからだ。なぜ発見と言う言葉を使っているかと言うと、例に習ってあの魔法は勘にしたがって出た魔法なので、魔術式もその詠唱もわからない。
この魔法を使える事を知っているのは、今の所ギオスとゲンゼだけだ。
その他の誰にもこの魔法の事は教えていない。
もし先生に知られたら、再び集団に囲まれてちびるぐらい恐ろしい目に合うのは目に見えているからな。
「≪発火炎弾」
「≪喪神≫」
ゴーレムを片手間に排除しながら、職員室や校長室が集まっている南棟へやってきた。
「ここか。わい、初めて来たな校長室」
「ん? そういえば何気に俺も初めてだ」
校長室の手前は黒光りする綺麗な石を使って作られた広間になっていた。
壁も床も黒く輝いており、木製の味ある校長室の扉がやけに浮いて見える。
ここをデザインした奴はセンスが独特だ。
だが、実を言うとそんな妙なデザインの事は俺には気になっていなかった。
それよりも不思議な事が起こっているのだから。
広間の中央に佇んだ俺とギオスはお互いに顔を見合わせる。
「え? ギオスが場所知ったんじゃないのか?」
「いやいや、アーカムが走り出したからついて行っただけやで」
一体どういう事だろうか。
俺たちはどちらも校長室の場所など知らないはずなのに、なぜ迷いなくここへ辿り着けたんだ。
数秒考えると答えはすぐに舞い降りてきた。
「……魔法、か」
「そうやろな」
額に冷や汗がにじむ。
「ギオス、撤収するぞ。目的は果たした」
「賛成、行こか」
俺たちは一目散に校長室前から立ち去るべく、来た道を戻って駆け出した。
が、しかしーー。
ーーガンッ
「っ!」
ギオスを押し飛ばし迫る危険から逃れさせる。
代わりに先ほどまでギオスの体があった場所に移動してきた何かへ躊躇なく拳を打ち込んだ。
「なるほど。簡単には逃がしてくれないか」
壁にめり込んだなにか。
それはよく見るとマネキンだった。
構内を徘徊するあのゴーレムと同じと考えるのが妥当だろう。
ただしボディは黒く、今しがたの攻撃速度はゴーレムのそれを大きく上回っていたが。
「攻撃してきたって事は攻撃される覚悟があるってことだよな……っ!」
ーーバゴォンッ
黒いマネキンに「縮地」で近づきもう一回ぶん殴ってトドメを刺す。
黒色の体パーツが弾け飛び、あたりに散らばった。
「アーカム!」
ギオスの悲鳴を聞いて俺はすぐさま振り返る。
「おぉ、デカイな」
「こりゃ大物やで」
先ほどと同型の黒マネキン3体に、2メートル級の巨漢黒マネキンがいつのまにか校長室の扉を塞ぐようにして佇んでいた。
この2者にはいくつか違いがある。
比較的細身の3体黒マネキンたちは警備ゴーレムと同様に微妙に空中を飛んでいるのに対し、
巨漢黒マネキンは太い脚でしっかり大地を踏みしめていることだ。
「ギオス、三式の混沌系得意だったよな?」
「あぁ、オキカスのエセ混沌とは違う、本当の混沌魔法使えるで」
「頼む」
「おう!」
俺はひとつ頷いて「縮地」で一気に、巨漢黒マネキンへ距離を詰めた。
まずはどれくらいやれる口なのか確かめてやろう。
ーーゴン
腰を落として巨漢黒マネキンの水月にあたる急所を正確に右拳で打ちぬいた。
しかし、拳に響いてくるのは芳しくない感触。
この黒い金属ーー硬い。
「それに重いな」
巨漢黒マネキンは俺の突きで僅かに体を浮かし後退。見た感じダメージが入れられた感じはしない。
通常の人体なら10メートルくらい軽く吹っ飛ばす力で殴ったのだが。
「せっ! オラぁ!」
周囲を迂回してギオスへと迫る黒マネキンたちを蹴ったり、殴ったりで追い払っていく。
「弾力がある。耐久性も抜群か」
俺の打撃を食らって盛大に吹っ飛んでいくマネキンだが、どのマネキンも一撃では死んでくれない。
壁に体をめり込ませながらも、気力十分にゆっくり起き上がってくるのだ。
まわりのマネキンに気を取られていると、ふと中央の巨漢黒マネキンが腰を深く落とした。
「まさか、武術使える……?」
少し本気を出そうか。
ほくそ笑みながらこっそり鎧圧の形状変化を行う。
しかし、相手が動き出すのは予想より早かった。
「ッ!」
俺がその威風堂々たる姿に刮目出来たのは一瞬。
巨漢黒マネキンがいた石の床は弾け飛び、気がつけば超重量のメタルボディは豪速で目の前に迫っていた。
ゴーレムめ、タックルを打ちかまそうというのだ。
「くぅお!?」
どっしりと深く構え衝撃に備える。
ーードギャァアッ
衝突のインパクトに耐えられず放射状に割れる床。
重い。けれどなんとか一歩も引かず豪速で突っ込んできた巨漢マネキンを受け止めきった。
「オラッ!」
ーーィィィィバゴンッ
タックルを止められムキになった巨漢黒マネキンの右ストレートを首を振って避けて、カウンターの「響撃拳打」を思っ切り顔面に打ち込む。
先ほどとは訳の違う科学の拳だ。
今度は真面目にぶん殴ってやったぜ。
デカイ体が10メートル程吹き飛んで校長室の扉を突き破っていく。
だが悔しいかな、攻撃を加えた頭部に損傷は見られない。
「ギオス、トドメを!」
「ーー普遍の命を源へと帰還させよ
≪混沌なる精霊の羅刹岩弾≫!」
ギオスの30秒におよぶ詠唱。
「死ねやぁ!」
杖と手を器用に使って留められていた破壊の構築魔力が放たれた。
混沌魔法。
一般的に若い男子たちに大人気の火属性式魔術のとある一系統の魔法。
主にマグマを生成して、凶悪な攻撃を行う事が出来る。
ギオスの選択した火属性三式魔術≪混沌なる精霊の羅刹岩弾≫は、範囲攻撃の多い混沌魔法の中では珍しい、一体の標的を確実に殺すことを考えて開発された対大型魔物用の魔法である。
この魔法は魔力で生成した先端の尖った岩の塊を膨大な熱量をもって溶解し、
回転エネルギーを加えて溶岩の塊に貫通能力を付加したーー簡潔に言えばエグい魔法である。
ーーグチュルァ
魔法自体が回転しているので、あたりにマグマが飛び散って校長室の中はもうめちゃくちゃになっていた。
「いい、ぞっ!」
細身の黒マネキンに手刀を食らわし、首と胴体パーツを切り離して投げ捨てる。
「我ながら上手くできたで。褒めてくれや」
残りの黒マネキンをぶん殴って壁にめり込ませ、校長室前の警備隊を全滅させ終えた。
「これで全部、だな」
「やな。いやぁレトレシアもチョロいわぁ〜」
ギオスは袖で額の汗を拭いながらご機嫌だ。
未だ熱残る胸部に大穴を空いた巨漢黒マネキンを見下ろす。
「すげぇな。初めて見たよ混沌なる精霊の羅刹岩弾」
「おう。すごいやろ? 五回生で習える魔法やで。時代の先言っててすまんのぉ。それよりアーカムの手、大丈夫か?」
「俺は平気さ。少し硬かったが、この通りさ」
軽く微笑み返し俺は右手を持ち上げてひらひらと振ってみせる。
超振動で破壊力あげた拳でダメージを与えられなかったのは結構ショックだったが、勝てたので結果オーライだ。
「やっぱり溶岩飛び散ってんな」
「調子乗って魔力込めすぎた……」
何気なしに見渡した室内の光景は酷い有様だ。
ところどころ溶岩が飛び散ってしまぅたせいで溶けていて、絨毯なんかは穴だらけだった。
本棚にも一部燃えた跡があり、大事な魔導書なんかが燃えていないか心配になる。
これじゃまるで襲撃があったみたいだ。
「……せめてもの償いにプレゼント置いていくか」
「せやな」
俺たちは不本意にも幸せを届けるサンタクロースから、ただの襲撃者になってしまった事のお詫びとして、プレゼントの箱を5つ程、校長机の上に綺麗に積み上げた。
「すみませんでした、校長」
「合掌」
両手を合わせ誠意を持って謝罪。
本当に申し訳ないです。
そうして俺たちは夜中に学校に入って校長室を襲撃し、マグマをばら撒いて部屋をめちゃくちゃに挙句に、机にプレゼントを置いてトポトポ帰ったのであった。
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