記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第85話 ラストマンとの戦い



ーーカチッ

時刻は19時10分。
王都ローレシアのマフィア「カカテストファミリー」の本部へ到着。

俺がここへやって来た目的は1つ。
カカテストのボスの首を討ち取るためだ。

今日は午前中からずっとカカテストの事務所を襲撃して回っている。
おそらくこのマフィア組織の構成員は殺傷した人数やデモンの噂を持ち帰らせた人数含めて、結構な数削った感覚はある。

ここまでダメージを与えれば、もうカカテストファミリーに昨日までの組織力は戻らないだろう。

だがここで手を緩める訳にはいかない。
今回の恨みをズルズルと引きずった報復が恐いからだ。

カタギじゃねぇ奴らを相手取る場合において、最もやっかいなのがこの報復と言っても過言ではない。

妙にマフィアの相手に自分に若干の違和感を抱きなら、まずは目標建物の横の路地裏に入り込んだ。

「ふっ!」

人目がない事を確認し、身軽な壁キックで屋上へ。

「っと」

わざわざ、1階から攻めるなんて正直な事はしてやらない。
これはゲームじゃないんだ。

剣知覚を使って建物内の具体的な人数を把握していく。
ペット探しのおかげで、現在の俺の剣知覚の精度は以前とは比べ物にならないレベルにまで上がっている。

数十メートルくらいの範囲ならば、そこにたとえ数百人規模で人間がいようとも、ピタリと数を当てる事ができるし彼らの気配の位置も正確にわかる。
たとえ隣り合って人間が座っていたとしても、そこに2人の人間がいることに気づけるのだ。

「……158……229……流石に多いな」

気配の数がこれまでの事務所と比べてずいぶんと多い。
5000人を従える一大犯罪組織の本部なだけある。
俺の襲撃のせいで警戒度も上がっているらしい。

足下の気配たちから殺気立った感情の揺らぎや、腰を抜かしていまにも挫けそうな恐怖に支配された感情が伝わってくる。

「507人……か」

最終的な建物敷地内の人間の数は507人。
これまでの事務所に居たマフィアの平均的な数に比べて、約15倍とちょっとの数だ。

まあ全員殺す気なんて無い。
銀髪アーカムの事もある。

今回は出来るだけ死人を出さないようにして、相棒に嫌われないように頑張ろう。

足下を睨みつける。
目標はコイツだ。

足下2メートルの位置に鎮座している気配。

最上階の人間の配置からして、俺の立っている足下が一番階段から遠く安全な位置なはすだ。
そして剣気圧を纏ってる護衛が近くに立っていることを考えれば、まず間違いなくコイツがボスだろう。

腰を落として「精研下段突き」の構えを取る。
次の瞬間には、俺は完全に消し去っていた剣気圧を解放して一気に五体に力を漲らせていた。

一撃で決める。

「ハッ!」

ーーバゴォォォォォオ゛オ゛ッツ

「ッ!」
「なに!?」
「天井がぁ!?」
「避けろッ!」

俺の拳が放つ最大の撃力を込めた。
屋上を完全に破壊したエネルギーは、建物全体への強烈な衝撃波となって伝わり、外壁にひび割れを走らせた。

衝撃の発生源である屋上は粉々に粉砕されて、カカテスト本部の最上階は開放感あふれるステキな屋上へと早変わりだ。

ーーゴゴォオッ

石造作りの天井が落下させた。
現に気配の数が50近く一気に減ったのがわかる。
下の階、というか最上階にいたやつらはこれでほとんど潰れたはずだーー。

「出てこい」

ただ2人ほど除いてはーー。

ーーゴバッ

「ふぅ、やはりバレたか」
「このパワー……噂通りの化け物だな」

崩れた天井の瓦礫を押しのけて現れたのはふたつの人影。

1人は老齢の男。
顔のシワが深く、髪の毛の後退もなかなか深刻レベルの男だ。

顔にはみなぎる自信が張り付いており、じじいのくせに歯は健康らしく綺麗に生え揃った白い歯を見せて邪悪笑みを称えている。

左薬指以外には黄金に輝き、赤だの緑だのに輝く美しい宝石があしらわれた、いかめしい指輪をはめまくり。
マフィア構成員のような黒の服では無く、茶色い渋めのスーツに金色のネクタイ。

あ、コイツ絶対マフィアのボスだわ、という素晴らしく模範的な悪党の要素をすべて取り揃えている。
流石はマフィアのボスといったところか。

瓦礫から現れたもう1人の人物へ視線を向ける。
線が細く長身の男だ。
身長は200センチくらいありそうだ。

となりに立っているマフィアのボスと比べると、その身長差が顕著に現れてより大きく見える。

服装は一般マフィン構成員の黒服だ。
しかし、ところどころお洒落な刺繍が施されていたり、露払いのマントが付いていたりと下っ端構成員とは一線を画す役職に就いているのが一目でわかる。

手には細長いレイピアような剣を持っており、すでに臨戦体勢を整え終えていた。

コイツがアビゲイルから注意するように言われただろうか?

「お前がここのボスか?」

シワの深い邪悪なジジイに問いただす。

「はは! 見ての通り、と言っておこうか?」
「わかった。お前がボスだな」

邪悪ジジイをボスと断定する。

「お前がアーカム・アルドレアだな?」

カカテストのボスは葉巻に火をつけながら、ニヤついて問いかけてくる。

「ん? 誰だよそれ」
「とぼけなくてもいい。調べはついてるんだ。襲撃者の候補者は何人かいてな。対象を絞りあぐねていたがふと、お告げが来たんだ。トリスタ区のアジトの襲撃者はお前で間違いない」

俺は心底「誰そいつ」という感情を込めて演技派狩人助手の実力を見せつける。

「お前がアーカム・アルドレアなのはわかっている」
「だから誰なんだよ」

カカテストのボスは訝しげな表情になって葉巻を手に持ったまま静止した。

「お前、もしかして本当にアーカム・アルドレアじゃないのか?」
「だから、そう言ったんだろうが。誰だよそいつ」
「ふん、まぁいい」

葉巻をくわえて仕切り直すカカテストのボス。

「お前がアーカム・アルドレアでも、そうじゃ無くても、この先の未来は変わらん」
「ほぉ。どうなるのかな、俺の未来は」
「死ぬんだよ。お前は」

カカテストのボスは煙を豪快に口横から溢れ出させながら、葉巻を使ってこちらを指し示してくる。
まるで俺の心臓に狙いを定めている、とでも言いたげな仕草だ。

「いいや、そいつは違うな。俺の死は100年後に孫囲まれて天へと召される、老衰による死だろう」

肩をすくめておどけてみせる。

「はっ! ふざけた野郎だ。老衰で死にたかったから俺たちカカテストに喧嘩を売るんじゃなかったのに」

ボスは凶悪な笑顔で、自身の傍にたたずむ長身の男を葉巻で指し示した。

「こいつは俺様の用心棒だ。天井を落としたくらいでいきり立っているところ悪いが、お前みたいに自身を強いと勘違いしたカスどもはな、今までに何人もコイツがぶっ殺してきたんだ、はは」
「……ふん」
「昔話をしてやろう。3年くらい前の話だ。かつてこの街で名を馳せた腕利きのオーガ級冒険者どもが正義をうたって、うちの事務所を襲ってきた事があった」

凶悪ジジイは葉巻を振り回しながら、身振り手振りで盛大に語っていく。

「皆殺しにしてやったよ」

唾を吐き散らし口角をめいいっぱいあげるじじい。
セリフと共に葉巻を軽く投じてくる。

ーーシュパ

飛んできた葉巻を軽く腕を振って斬りはらった。

「全員、ひどい後悔の表情で死んでいったぜ? 何か勘違いしたクソ男どもはドレッディナの毒沼へ生きたまま突っ込んでやった。女どもは四肢を切り落としてオーガに犯させてやったよ。あいつらは散々オーガを殺してきたんだ。復讐されても仕方ないよなぁ?」

カカテストのボスはゲラゲラと笑って、再び葉巻を懐から取り出した。

なんだよ
アーカムのためにちょっと遠慮した俺がバカみたいじゃないか。

この野郎、噂に違わぬ悪党っぷりだ。
とんでもない鬼畜下郎だった。
反吐が出る。さっさと殺そう。

「はっ! もう後悔しても遅せぇぞ、アーカム・アルドレア。てめぇも絶望の中で殺してやる」

鬼畜下郎は両手を広げて、最後にニヤリと笑うと長ったらしい脅し演説を終えて一歩下がった。

「もう十分だ。殺すな。生け捕りにしろラストマン」
「努力はする。さっさと逃げろ」

外道ボスはウキウキ、と楽しそうにしながら階下へと走って行く。

「ん? お前はよかったのか。こんな簡単に逃してくれて」

ラストマンと呼ばれた長身の男は不思議そうに問いかけてきた。

「あぁ。あのクズの気配は覚えた。どこに逃げても確実に殺せる」
「そうか。やはり相当の使い手というわけだな」

ラストマンはそれだけ言うと軽い足取りでこちらへ近づき始めた。
俺も油断なく長身の男を睨みながら間合いを詰めるべくなんとなしに足を踏み出す。

この男がラストマン。
アビゲイルが警告してきた要注意人物。
闇の世界では有名な一流の殺し屋兼用心棒だ。

ここ数年はカカテストファミリー専属のボス護衛としてこの組織に重用されている模様。
アビゲイル曰く、ラストマンもまた常人とは異なる領域に到達している超人らしく負け知らずなんだとか。

眼前の男のたたずまい、圧、身のこなしを見れば否が応でもこの男が強いのはわかる。

まさに終わりを告げる者Last  Manだな。

「へ、緊張してるか?」
「軽口を聞けるのも今のうちだ、アーカム・アルドレア」

互いの距離がどんどん、と縮まっていく。
長剣を握る手に力が入る。

ーースタスタスタスタッ

ーーコッコッコッコツ

瓦礫の山をお互いに歩み寄っていき、互いの距離がわずか1メートルの位置まで近づた。

「……」
「なんだ、振らないのかよ?」

カウンターで叩き潰そうと思っていたのに、なかなか斬り掛かってこない。慎重なやつだ。

「ふん、お前こそどうした。マフィアを襲撃しておいて、いまさら怖気付いたのか?」

長剣を握りしめる。
大きな開きのある身長差で、上から見下ろしてくるラストマンを見上げる形で睨みつける。

「……」
「……ッ」

来るか。

「フッ!」

ーースパンッ


ラストマンの前蹴りによって戦い火蓋は切って落とされた。
まるでやる気のないような脱力した状態から、長い足を生かした前蹴り。恐ろしく鋭い一撃だ。

半身になりながら避けてカウンターに剣を突き出す。

ーーギャンッ

「クッ!」

手始めの「精研突き」はラストマンの鎧圧を強烈にぶっ刺し、甲高い悲鳴をあげさせた。

けれど突破には至らず。
防御力はなかなか高い。

それに突きの瞬間に後ろに飛んで威力を殺したな。
ラストマンは胸部からわずかに出血しながら壁際まで吹っ飛んで行く。

「くっ、はぁ!」

だが、空中で身をひる返して突きの衝撃を殺すと、間髪入れずに「縮地」を行なって再び突貫してきた。

俺は迎え撃つべく剣を構えてーー。

「喰らえ……ッ!」

ラストマンは俺の数メートル先で足を石床にぶっ刺して急ブレーキをかけた。
意図読めず俺の体が固まる。

ーーグゥゥォオンッ

異常な気配を纏った剣撃。

「まずっ!?」

ラストマンから飛来したそれを間一髪横っ跳びに大きく避ける。

飛来した見えない刃はそのまま直進していき、アジト最上階の壁を何の抵抗もなく破壊すると貫通していった。隙間から王都の夜空へ消えて行くのが見える。

「斬撃か!?」
「チッ!」

舌打ちをし顔を歪めるラストマン。

目の前でタイミングを外して斬撃を飛ばしてきやがった。

斬撃なんてモーションが大きすぎて、俺は苦手としているのだが、どうやらラストマンは実戦レベルで斬撃を扱えるらしい。

今のは余裕で死んでいた可能性がある。

「おわっ!」
「ぬっ!」

ーーゴォオッ

ぐらつく視界。
足元に視線を向ければ建物床が割れ崩れ始めたているのがわかった。

最初の俺の下段突きで崩壊しかけていた建物が、今のラストマンの斬撃のせいでついに耐えきれなくなったのか。

ーーゴガァオッ

「フラァ!」

崩れる床に「縮地」して間合いを詰める。
ラストマンが斬撃を高いレベルで使える事がわかった以上、距離を開けておくのは危険だ。

「させるか」

だが、簡単に間合いを詰めさせてはくれない。
ラストマンの連続の斬撃飛ばしが炸裂する。

ーーギィィイ

飛んでくる斬撃の軌道に剣を沿わせて受け流す。
髪を巻き込まれながらも首を振る。
耳をえぐり飛ばされても突き進む。

そうして一気俺はラストマンの懐へ飛び込んだ。

「くぅ!」

ーーギャンッ

「ファ!」

最高速度での「瞬閃」をレイピア回すように受けられ、流される。
俺の体が「縮地」の突進力そのままにラストマンの後方へ向かってしまう。
これでは通常、隙がでかすぎるーー。

「はっ! いただいた!」

ニヤリと笑うラストマン。
返すレイピアが鋭く光る。
俺のことを背中から串刺しための致命の逆手持ちだ。

「やられて、たまるかぁあぁあ!!」
「ッ!?」

ーーゴギャンッ

全力の集中。
「縮地」の突進力を生かした「前転かかと落とし」。

回りながらラストマンの顔面にかかとをお見舞いする。
ラストマン後方へ向かって飛び込む自身の体を、上半身の「鎧圧」を全開し重心を落とすことで下方向へ向かわせたのだ。
必然的に頭は下方向へ、足は上方向へと浮き上がる。

「ぐぶぅッ」
「フルゥア!」

前転かかと落としをぶち当てたラストマンの顔面を逃がさない。
しっかり巻き込み、下方向への叩き落としへ繋がる。

崩れゆくカカテスト本部最上階から、一気に地上までの人力高速エレベーターを体験させてやろう。

「しねぇえぇええ!」

ーードガッゴンッ

無慈悲にも重量加速度の数万倍の加速をラストマンの顔面に与えて地面に突っ込ませた。

上階から下方へ豪速で打ちはなたれたラストマンの体は、崩壊する最上階床を容易く貫通する。

未だ無事なはずの4階、3階、2階の床を減速すらせず突破。

ついには1階の地面すら一瞬でぶち抜いて、腕利きの用心棒は地下フロアに消えて行った。

ーードガラァァァアア

「よっと」

ラストマンが消えていった所へ、容赦なく崩壊したアジトの瓦礫が降り注いで行く。
落下途中の瓦礫を足場として借りて跳躍し、俺はアジト隣の建物の屋根に避難した。

「うっわ、やり過ぎた……」

アジト周辺の通りや建物を見て冷や汗が止まらない。
ラストマンを打ち下ろした衝撃によって、カカテストのアジト地下から放射状に亀裂が広がり地面がバキバキに割れてしまっているではないか。

「な、なんだ!?」
「何が起こってる!?」
「建物が!」
「天災だぁ!」

阿鼻叫喚の地上の人々。
正面の通りでは街行く皆が崩壊するアジトを見て驚愕の表情をしている。

中には悲鳴をあげて泣き出している子供もいる。

広がる亀裂から子供を抱えて逃げる母親、逃げ遅れて地割れに落っこちそうになっているおじいちゃん。

まさにこれでは自然災害だ。

「きゃー!」
「亀裂に落ちるぞ! みんな助けろー!」
「踏ん張れよぉー!」
「いっせーの、せっ!」
「ダメよ! そっちに危ないから近づいちゃダメ!」
「ママぁー!」

自分が作り出してしまった光景に、非常に申し訳ない気持ちになる。

最初の突きを上手く受けられたせいで、少し焦っていたかもしれない。

あの男の斬撃の威力にも恐怖した。
ゆえに回りへの被害などには気が回らなかった。

「はぁ、やっぱやりすぎ、たか」

屋根の上に尻餅を着くようにしてヘタリ込む。

「″やりすぎだよぉぉおー!″」
「うわぁああ!」

突然目の前に現れたキュートな顔に驚愕。

「な、なんだよ、驚かーー」
「″全員死んじゃったよ! 絶対、絶対みんな死んじゃったってぇ!″」
「う、ぅぅたしかに。途中から殺さずの努力を忘れてた……」

銀髪少女は腰に手を当てて、ふわふわと空中を舞う。
これはかなり怒っていらっしゃる様子だ。

「″もう! 建物崩壊させるなんて信じられない!″」
「い、いや、でもね? 建物にトドメ刺したのはラストマンの斬撃だろ? 直接俺が殺したわけじゃないよ」

若干、言い訳くさく言ってみたが案外これは正論な気がする。
だって実際に建物を崩したのラストマンじゃないか。
俺は悪くない。

「″うーん、確かに、そうかも。お? ってことは今回は誰も殺してない?″」
「あや? ということは実質俺の殺害数はーー」
「″あ、でも最初屋根を落として最上階のマフィア皆殺しにしてた!″」
「ぁ、そっか……」
「″そもそも天井落とすなんてーー″」

なんと面倒なことだ。
銀髪アーカムの説教が始まってしまった。
アーカムはがみがみと口うるさく、浮遊しながら怒り続ける。

「″で! 肝心のボスは?″」

ひと通り俺の戦いへの不満を吐き出したアーカムは腕を組んで、くるくる浮遊しながら聞いてきた。

「生きてると思う。地下深く。動いてない」
「″えぇー! 今ので生きてるの!?″」

銀髪アーカムは驚愕の表情を浮かべて肩を揺すってくる。

「建物の崩壊より早くラストマンを地下に叩き落としたからな。ラストマンの気配も生きてるし、多分あいつが守ったんだろ」
「″うっそぉ……あのすかした若造生きてるんだ……″」
「なんでお前ってちょいちょい年上目線になるの、仕様ですか?」

呆れたように嘆息して浮遊しているアーカムを、首を傾げて見上げる。

「まぁとりあえずトドメ刺しに行かなきゃな。最後までやり切るんだ。アーカム内側に戻ってくれ」

立ち上がって長剣を握り直し俺は休憩を終えた。
まだ戦いは終わっていない。

「″うん、おっけ。あの腐れ外道変態カスオヤジは必ずぶっ殺してね!″」
「可愛い顔で怖いこと言うなよな」

辛辣なあだ名をボスにつけるアーカムを呆れて見上げる。

「さて、とっ!」

アーカムが内側に戻って剣気圧が正常値まで戻ったことを確認し、崩壊した穴へ飛び込んだ。

「あぁ! 誰か飛び込んでいくぞ!」
「なんだ!? 顔怖っ!」
「キャァアッ!」

通りから俺の姿を見た者たちが「忘却のペストマスク」を見て悲鳴をあげる。

やはりこのマスクは人をビビらせるというか役割において、かなり優秀な効果を持っているらしい。

ーーザッ

アジトの地下空間へ降り立った。
剣知覚を使ってボスの気配をマーキングする。
後は気配を辿って行くだけだ。

歩くこと数十秒。

「よぉ、また会ったな」

悪党との感動の再会だ。
暗い地下通路で立ち往生していたマフィアのボスへ片手を上げて軽い調子で挨拶を済ませる。

休日の公園で知り合いに会った時くらいの本当に何気ないフランクな挨拶でな。

「クソ! てめぇ!」
「ここまでか」

先ほどまで余裕の表情で邪悪な笑みを称えていたシワの深いボスの顔には、今となっては焦りと怒りだけに支配されていた。なんとも憐れな男だ。

血だらけで佇むラストマンは重症だ。
右目は閉じられ、右肩からの出血量はなかなか。
検診すれば早めの治療の推奨されるんだろうな。

「にしても、どうしてさっさと逃げなかったんだ? いざって時のための隠し通路とか無かったのか?」

逃げ道を塞ぐよう陣取りながらたずねる。
もう詰ませたようなものなのだから、少しくらい俺の質問に付き合ってもらおう。

「はっ! 誰がお前などにーー」
「この通路は遺跡街から王都地下へ広がる広大な地下遺跡へ繋がっている」

カカテストのボスが怒りの表情で、最後の足掻きとばかりに「教えてやるもんか!」をするのに対し、用心棒のラストマンは存外に素直に口を開いた。

「くっ! ラ、ラストマン言うんじゃねぇよ!」

醜悪ジジイは歯ぎしりしながら、自らの用心棒へ不満をぶつけている。

「なるほどな。建物の崩壊で通路が塞がっちまったってことか」
「そういうことだ」
「でも、それってお前がいれば通路くらい斬り開けるんじゃないか、ラストマン」

俺の言葉を肯定するラストマンであるが、なんだがチグハグな感じがする。
この男の力を持ってすれば、瓦礫で塞がった通路くらい開通させる方法は幾らでもありそうなのに。

普通に「圧の怪力で通路に風穴あけてもいいし、斬撃を飛ばして文字通り、道を切り開いてもいいだろう。

なのに何故この男はこんな所で立ち往生しているんだ?

「なっ、出来るのか? ラストマン!?」
「出来る」

希望を見つけたとばかりに用心棒にすがりつくジジイ。
ラストマンは静かな声音で答えた。

「そ、そうか! ならさっさと、やるんだ、早くやれぇえ!」

マフィアのボスは八方塞がりだった状況に光明をを見つけて、再び余裕の表情を作ってこちらを見てきた。

「はっは、まだ手はーー」
「やらん」

ボソリと呟かれる低い声。

「…………は?」

カカテストのボスはぽかんと固まり、自分が何を言われたのか気づくと同時に慌てふためき始める。

「な、ぇ、な、ど、どうし、てだ、どうして、やらんの、だ?」
「アーカム・アルドレア、この男は好きにしろ。俺は現時点を持ってカカテストの用心棒をおりる」

ラストマンはレイピアを鞘に収めると、両手を挙げて降参とばかりに近づいて来た。

敵意はない。
意図して隙だらけの姿を晒している。

「だから誰だよ、それ」
「そうか。最後までお前は認めないのだな」

俺は演技派狩人助手だった事を思い出して、ゆっくりと呑気に歩み寄る。
それこそ散歩中に出会った友人に近づくように。

「ま、まてぇ、なにを、なにを言っている!? ラストマン! そんな事は許さんぞ! 戻ってこい!」

マフィアのボスは絶望した表情で地団駄を踏みだした。
サティが踏む地団駄は心底可愛らしいものだが、こんな醜悪なジジイが地団駄なんて踏んだ所で殺意が加速するだけだ。

「悪いな、スクナカラズ。俺は俺の生き残る選択をさせてもらう」
「ふ、ふざけるなぁ! ここでしか生きられなかったお前を拾ってやったのは誰だぁ!? 誰のおかげでここまでやってこれたと思っているんだぁぉあああ! 恩を忘れたかぁ! ラストマァァアン!」

喚き叫ぶカカテストのボスーースクナカラズの元へ俺は歩調を緩めることなく歩み寄る。

こちらへ歩いてきていたラストマンと交差。

「この借りはデカイぞ」
「感謝する。アーカム・アルドレア」
「だから誰だって、それ」

ラストマンは俺の背後へと歩いていき振り返らずにどこかへ行ってしまった。
俺もまたスクナカラズの眼前に辿り着く。

「く、くっそォォォォオーー」
「じゃあな」

ーーグシャッ

「お前は用心棒を間違えたんだ。あいつは薄情者だ」

スクナカラズの心臓に突き刺した「貫手」を引き抜く。

「スクナカラズ、来世じゃ人殺しなんてするなよ」

倒れ伏すスクナカラズを見下ろし≪≫の魔法を放つ。

後ろを振り返るとラストマンの姿はもう無く剣知覚を使ってもその気配は追えなかった。

ーーカチッ

時刻は19時16分。

「任務完了」


この日、王都の犯罪組織「カカテストファミリー」は襲撃から8時間51分で、狩人助手アーカム・アルドレアの手によって完全に解体された。


「ふーん、やるじゃん、あいつ」

その若き狩人の姿をずっと監視し続けていた視線があることに、2人のアーカムは気づいていなかった。



第四章 巡り合う傑物達 ~完~

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