記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第78話 グリードマンの魔術決闘論
入学から早いもので2週間が経過した。
今日も俺は朝の鍛錬を終えて、風呂に入り、懐中時計のゼンマイを巻く。
朝のルーチンワークを確実にこなしていく。
ーーカチッ
時刻は8時58分。
「マリィィイ! 出てこいィィ!」
「うわぁあ! ちょまだ着替え中!」
これも毎朝のように繰り返されるやり取り。
「だからブラなんて必要ないだろ!」
「ひ、必要だもん! 私もう大人なんだよ!」
「バカヤロウ! さっさと行くぞ!」
「あ、あ! ちょっと、アーカムなら10秒で着くじゃん!」
マリを小脇に抱えて今日もトチクルイ荘を飛び出す。
「お姫様抱っこ!」
黙ってお姫様抱っこをしてやり、屋根上を疾風のごとく駆けだした。
ー
「はい、皆さん揃いましたね! それではーー」
「遅れてすみません!」
「すみません! アーカムが寝坊しちゃって!」」
「マリ!? 適当言ってるともう送ってやらねぇぞ!?」
本日もなんとか授業開始に間に合わせることが出来た。流石に終わったかと思ったよ。
「はは、アルドレアくんにトチクルイさん。今日も平常運転なようで逆に安心だよ」
「朝から熱いなー!」
「よぉ! 遅刻カップル!」
「うるせぇよ」
顔なじみの増えた同級生たちに野次を飛ばされる。
寝坊してるのは俺ではなくマリだけなのに、なぜか俺にまで遅刻の罪が加算されていっている。
こんなの理不尽だろ。
「アーク、またマリとそんなくっ付いて!」
「うぉゲンゼ、サティを抑えろ!」
「む、無茶だよ、アークぅ!」
迫り来るサティをなだめつつマリを下ろして、距離を取る。
そして、ゲンゼを盾にしつつサティの杖によるしばきをガードする。
ゲンゼはサティのお仕置きがもらえて、俺は突かれなくて済む。
この2週間で編み出したみんな幸せになれるサティの攻略法だ。
「さて! みなさん! 朝から眠いとは思いますが、今日も元気に決闘について学んでいきますよ!」
『はーい。グリードマン先生』
「よろしい!」
ジョセフ・グリードマン先生の週2回の1限授業、魔術決闘論の時間だ。
朝の眠気を追い払って、寝ぼけ眼をこすっている生徒が多く見受けられる授業とも言い換えられる。
また今年の入学した10歳枠子犬生、柴犬生合わせて117名全員が受ける合同授業とも言えるな。
「さてさて、皆さん。いよいよ皆さんにとっての初めてとなる3月の月間決闘大会が近づいて来ましたよ!生徒みなさんにとっては楽しみで仕方のないイベントと思います。
今日はいつものように私の提示した決められた魔法を唱えるのではなく、月間決闘大会に向けて試合形式の決闘の練習をしましょう!」
『うぇーい!』
「よっしゃ! きたぜ!」
「えぇ、いつものでいいよぉー!」
「俺の考えた最強の即死魔法掛けてやるよ!」
「そんな危ない魔法使うんじゃねぇ!」
グリードマン生徒の試合形式という言葉に反応して、生徒たち騒ぎ出しそれぞれ反応を示す。
ある者はこの時を待ちわびたかのように。
ある者は普段の授業を望み。
ある者は人殺しに手を染めようとしている。
普段は2人1組を作って魔法を掛け合うという授業をしているのだが、今日は決闘をやるらしいのだ。
常識の範囲内で、使用する魔法は自由な試合形式というわけだな。
「なぁなぁ、アーカム」
「ん、なんだよ」
隣に立っていた黒髪の生徒が肘でつついてくる。
「多分よ、人数的に練習ならデュオでやると思うんだよ」
「うむ、だろうな」
「俺と組もうかい! 相棒!」
「はぁ……」
またか、とため息を漏らしつつお前とは組みたくないという意思を、遠回し伝えるように見せつつど直球で伝える。だが、きっと効果はない。
こいつの名はシュゲンドウ・オキツグ。
日本人風の珍しい名前なのは先祖がイストジパングからの移住者だからだ。
最近、サティから聞いたのだがイストジパングとは人間の支配するこの大陸ーーセントラ大陸ーー近くにある大きな島国の名前らしい。
なんでも30年ほど前から国交が始まったらしく、ここ最近は特に活発なってきて世間一般の話題流れとしては比較的新しい部類に入る存在らしい。
「はぁ、はぁ〜あ〜オキツグかよ……」
「おま! そんなため息つかなくてもいいだろうに!アーカム、お前にはカティヤさんの件で俺に恩があるはずだい!」
「おま、ば、バカヤロウ、それだけは静かにしろ!」
この野郎、バカなくせに物覚えだけはいいんだ。
入学したての頃、女子のスカートが覗けるポイントをリークした事で、カティヤさんの御下着を拝められたことを未だに覚えてやがる。本当に厄介だ。
「うへへ、いいのかい、アーカム。カティヤさんにお前があのポイントで2時間も張ってたことをーー」
「わかった、組む! 組むから!」
オキツグがあの話題を持ち出すことによって、俺はこのバカの提案に逆らえないようになっていた。
欲求に負けたがばっかりに、なんたる屈辱だ。
「それじゃペアを作って。デュオで練習だ!」
グリードマン先生は手を叩きぬがら、近くの人とペアを組むように言ってくる。
「アーク、組むわよ!」
サティが意気揚々と袖を引っ張って来た。
「すまん、サティ。オキツグに捕まった」
「はは、悪いなエルトレット。アーカムは頂いたぜ」
オキツグに首根っこを掴まれて力なくうなだれる。
「な!? バカ言ってないで私のアーク返しなさいよ!」
「おぉ? どしたんだい、エルトレット、そんなにアーカムが好きなのかい?」
オキツグは嫌らしい笑みでサティを挑発する。
「ふん! べ、別にアークじゃなくても平気よ! ゲンゼ!」
親分サティはそう言うと子分のゲンゼの名を呼んだ。
親の顔より見た会話の展開だ。
「あ、ごめんサテリィ、サムラくんと組んじゃった」
「え?」
「なにっ!?」
サティの呼びかけをゲンゼが断っただと!?
ありえない!
いや、違う、ゲンゼがペアを組めているだと?
もしや友達が出来たのか?
「あはは、悪い、エルトレット。僕がゲンゼと組ませてもらいました」
ゲンゼの隣に立つ少年が爽やかな声音で言ってきた。
黒髪黒瞳、平たい顔、こいつもイストジパングの出だな。
たしかミヤモト・サムラとかいう名前だったか。
「くぅ!」
悔しそうに歯噛みをするサティ。
絶対の子分ゲンゼの独り立ちが受け入れられないようだ。
ゲンゼが今までサティを頼りにして来たのと同時に、サティはゲンゼに頼られることが当たり前になっていた。
その絶対の関係がこのレトレシア魔術大学に来て段々と変わり始めている。
変化はいいことさサティ。
ゲンゼは今まで君に依存しすぎてた。
これでいいんだよ。
「あ、あのサテラインちゃん、私と組まない?」
サティの背後からなにやら可愛らしい幼い声が聞こえて来た。
「だ、ダメかな?」
「ぁ、べ、別にいいわよ。組みましょ、テラ」
「っ、ありがと! サテラインちゃん!」
サティに話しかけたのは小さな女の子だった。
頭一つ分くらいサティと比べて背が小さく、妹のエラを見ている気分になるこの少女の名前はテラだ。
テラ・ツールである。
学年で話題の妹にしたいランキング1位の座を守る絶対の妹属性を持つ、ある種男子の間で有名な子だ。
ただ、男子のことは酷く苦手なようだが。
「おっしゃエルトレットのベアも決まったようだい。俺たちの作戦会議と行こうかい、アーカム」
「おう、そうだな」
オキツグと共に教室の反対側へ移動する。
「シュゲンドウ! ぶっ飛ばしてやるから逃げんじゃないわよ!」
「あいあい〜」
サティが後ろから宣戦布告してくるが、オキツグはひらひら、と手を振って軽く受け流す。
こいつはなかなかサティの扱いがうまい。
恐ろしいほどのバカ野郎だが、流石は柴犬生になるだけはある。
「よし、そんじゃ作戦はこうだい! 俺は三式を詠唱するから、その間アーカムが時間を稼いでくれい!」
「ほとんど俺に丸投げじゃねぇか。作戦でもなんでもねぇよそれ」
オキツグのゴミみたいな作戦に落胆を隠せない。
「よーし、そろそろペアは組めたかな? 準備できたチームから『決闘魔法陣・改』に入って入って! 勝ち抜き制で行こう! 勝つたびに成績に追加点だ!」
「えぇー! 先生それ先言ってくださいよ!」
「うわぁ……こいつ組んだの間違いやったわ」
「オメェ、それはこっちセリフだっての!」
「そんなんペア組んだ時点で勝負決まったようなもんじゃねーか!」
「アルドレアー! アルドレアはどこだー!」
「見ろ! アルドレアが馬鹿野郎に捕まってるぞ!」
グリードマン先生が生徒たちからもうバッシングされる。ついでにオキツグもディスられている。
いいぞ、もっと言え。
「はは、こうなる展開を先読みする力も立派な魔術師、いや大人になる為には必要なことだよ!」
生徒たちのバッシングにも爽やかな笑顔で余裕の表情を見せるグリードマン先生。
うん、カッコいい。
クールでクレバーだな。
「へへ、俺はこうなる事が見えてたからな。アーカムと組んだってわけだい」
自慢げに鼻の下を擦りながら、流し目を送ってくる。
「お前バカなのか頭良いのかわからねぇな」
肩組んでくる友人を奇怪なもの見るまで凝視する。
「お、最初のペアきたな!」
「誰と誰だ?」
オキツグの言葉に反応して、教室中央のリングを見やる。
「あ? あれギオスとシンデロじゃねーか! おい行くぞオキツグ! あいつらなら余裕で勝てる!」
「へへ、最初にリングに入って行くあたりやっぱアホだい、あいつら」
俺とオキツグは喜色満面の笑みで魔法陣の中へ足を踏み入れた。
「あー! ちょっとアーク! あのカモネギたちは私たちの獲物よ!」
リングに入った後に外から怒声が聞こえて来た。
予想通りのサテラインさんだ。
「悪いなサティ、この雑魚たちは俺たちの獲物だ」
「すまんねい、エルトレット!」
「くぅっ、シュゲンドウ、後で殺す!」
「なんで俺だけなんだい……?」
ペアを組んだテラに慰められながら、悔しそうにするサティを尻目にリング上の男どもに向き直る。
「人のこと雑魚だの、獲物だの! ほんまお前らエグいな!」
「俺たちのこと舐めすぎだっての!」
相手のチームが何やら吠えているな。
この見るからに弱そうなペアはオキツグの幼馴染であるギオスとシンデロ・コンダスだ。
この2人ギオスとシンデロとは、校内でオキツグと一緒にいる時間が長いため地味に付き合いがあるメンツでもある。
レトレシアで俺がよく話す人ランキングをつけるなら一桁には食い込んでくるだろう。
「いやなぁ、ギオスは優秀でも、シンデロはマジで雑魚だろ。完全に右側が穴だろ」
「オイ、アーカム! お前マリちゃんに毎朝嫌らしい事して、侍らせてるからって調子乗るんじゃねっての!」
シンデロ・コンダスはマリに惚れている。
その為アパート関係で何かとマリと接点のある俺に殺意を隠さずぶつけてくるのだ。
すまないな、シンデロ。
悪気があるわけじゃないんだよ。
「よし、それじゃ両チーム中央へ!」
グリードマン先生の合図で、お互いのペア同士歩み寄る。
「はい、握手!」
オキツグがギオスと、俺がシンデロと握手をする。
「悪いなぁオキツグ、幼馴染でも手加減はできへんわ」
「はは、こっちには天下無双のアーカム・アルドレアだぜい? 負けるわけねぇよい」
隣の相棒からすべてを人に丸投げしているにも関わらず、自信たっぷりな訳の分からない決め台詞が聞こえてくる。それカッコよくないからな。
「ぶっ飛ばすぜアーカム、いや、ぶっ殺すっての!」
「やれるもんならやってみろ。マルフォイ」
「誰だよそれ!?」
お互いに背を向けて線までさがる。
これがもし決闘がリングの上でじゃなかった場合は、中央で握手をした位置から5歩の離れるのがルール上正しい。
今回はちゃんとした魔法陣の設置されているリングの上での決闘なので、予め引かれた線までさがるだけで良い。
「よし! それでは3つ数えます! 杖を抜いてはいけませんよ!」
「ふぅ」
「頼むぜ、アーカム」
グリードマン先生がカウントを始める。
「ワン!」
「アーク、あんな雑魚に負けんじゃないわよ!」
「頑張ってアーク!」
「アーカム様ぁ!」
「トゥー!」
「オキツグ! 足手まといになるなよ!」
「ギオス! アーカムを倒せー!」
「シンデロ! ギオスの足引っ張るなー!」
「スゥゥーー」
グリードマン先生のカウントが終わろうとする。
その瞬間、リング上の4人全員がホルダーから杖を抜き放った、
「ッ!」
「ーーリィィ!」
≪喪神≫!
「≪炎壁≫!」
「≪炎壁≫!」
「≪風打≫!」
ーーハグルボボワッゥゥゥンッ
一瞬のうちに大量展開された魔法によって魔法陣の内側が騒がしくなる。
顔を焼くような熱量の壁に向かって打ち込まれる風の玉によって、陣内は膨れ上がった炎に包まれた。
だが、そんな魔法の密集地から吹き飛ばされて飛び出す影が2つ。
俺の≪喪神≫を受けたギオスとシンデロだ。
「はは、俺たちなら余裕だい! アーカム!」
「お前の≪風打≫は防がれてたけどな」
「アーカムとオキツグの勝ち!」
「あーあ! やっぱアルドレア残ったじゃん!」
「もっと頑張れよギオス!」
「シンデロ! おまえ魔術師やめろォ!」
グリーンマン先生の勝敗コールをきっかけに、敗者へ容赦ない罵声が浴びせられる。
彼らの戦い方は間違っていなかった。
すでに俺のオリジナルスペル≪喪神≫の発動速度がとんでもない事は、学年中が知っている。
ギオスもシンデロもそれを見越して、初手に早撃ち勝負をせずに速攻でレジストに入ったのだ。
俺の≪喪神≫に対するレジストに関しても、実は学年の間で研究が進んでいて、どうやら炎系の魔法がレジストにピッタリらしいと結論が出てしまっていたりする。
そのためギオスもシンデロも火属性一式魔術≪炎壁≫を使ってのレジストを試みたんだろう。
だが、それでも俺の≪喪神≫の方がまだ早かった。
放たれた俺の気絶魔法は奴らの炎が展開された時には、すでにギオスとシンデロの懐へ入っていたのだ。
壁の内側に入られてしまっては防げるものも防げないだろう。
「おらおら! 敗者はリングからどけぃ!」
「ちょ、やめ、ろってのッ!」
オキツグが足を使ってシンデロをどかしていく。
ギオスはすでに立ち直り、自分足で魔法陣の外まで移動していた。
「アーカムとオキツグペアがまず一勝だ。さぁ、次はどこのペアかな?」
グリーンマン先生は嬉々として司会を務める。
しかし、誰も魔法陣の中に踏み込もうとはしてこない。
「おい、お前行ってこいよ」
「無理だろ、あのアルドレアだぞ?」
「オキツグ最初に潰せばいけるって」
男子生徒たちがお互いに俺たちの相手を押し付け合いを始めた。俺のことがよほど恐いらしい。
「私が相手になる! アルドレア! 私と戦いなーー」
「アークの相手は私たちがするわ、テラ!」
「う、うん!」
「やっぱそうなるよな」
カティヤさんが名乗りをあげようとしてくれた所へ、焦げ茶色のポニーテールが躍り出てきた。
カティヤさんを遮って飛び出してくるなんて、なんて事をしてくれたんだサティ。
ほら、見ろよ。カティヤさんが黙って手を下ろして何事もなかったかのように口笛吹き始めちゃったじゃないか。かわいそうに。
「よし、次はサテライン・エルトレットとテラ・ツールだね。両チーム中央へ!」
先生の指示で魔法陣中央へ移動する。
「アーク! 勝負よ!」
「お手柔らかに、サティ」
「よろしくね、シュゲンドウくん」
「俺たちはケガしないように横にはけるってのはどうだい、ツールちゃん?」
俺はサティと、オキツグは名前の割に背の小さいテラと握手を交わす。
背を向けて、線まで下がる。
「オキツグ、相手はサティだ。絶対に最初はレジストだからな」
「言われなくても、わかってるってい」
線に戻るまでにオキツグに軽く指示を出しておく。
「位置についたね! 3つ数えますよ! ワン!」
「初撃を防いだら、すぐに俺の後ろだからな。オキツグは後ろから三式を詠唱して範囲攻撃すんだ」
「なるほどな。混沌系でいいか?」
「トゥー!」
「あぁ、あの溶岩ばら撒くやつがいいだろ」
「20秒持ちこたえてくれ」
「任せろ」
「スリー!」
カウントが終了する。
さぁ時は満ちた。
≪魔撃≫!
「≪炎ーー」
カウントと同時に、サティの神速の早撃ちを≪魔撃≫でレジストすることに成功する。
「よし!」
だがオキツグがレジストに失敗した。
「ぐはぉあ!」
「ッ!? オキツグぅう!」
視界の端に捉えていたオキツグの影が、うめき声と共に一瞬でフェードアウトするのを確認する。
まずい、これはオワタかもしれない。
ーーブゥブウゥゥブウゥ
「あはは!」
「≪風打≫! ぅぅう……≪風打≫!」
高笑いを上げながら驚異的な連射をお見舞いしてくるサティと、地味に火力支援するテラの猛攻撃。
こんなのただのイジメだ。
「くぅあ、あぁ、うぁ!」
「動くんじゃないわよ!」
「ふ、≪風打≫!」
ーーほわっほほわっほほわほほほわっ
嵐のような風の連弾を紙一重で凌ぐが、それでもレジストが間に合わない。しまいには横移動して魔法陣を外周付近を走って≪魔撃≫で耐えていく。
「おぉ! アーカム走り出したぞ!」
「すげぇ! エルトレット相手に2対1で持ちこたえてる!」
「魔法を避けてるぞ!」
野次馬生徒たちの歓声が騒がしい。
何だかんだ、俺のことを称賛してくれてるみたいだが、こんな無茶な凌ぎ方がいつまでも続くわけがない。
今回は厳しいな。
とてもじゃないが反撃なんて出来そうに無い。
というかオキツグがまだ生きていても、全ての魔法を≪魔撃≫で受けるのは無理だったか。
頭の片隅で「どちらにしろこれは勝てねえ」という結論が出る。
「あ、無理、ぐふぅほ!」
ーーブウゥゥゥンッ
結局、魔法の嵐を凌ぎきれなくなり、強力な衝撃波に襲われて魔法陣の外まで吹っ飛ばされることになった。
本来の風属性一式魔術≪風打≫の威力じゃない。こんなんドラゴンでも撃ち落とせそうな≪風打≫だ。
「ぁ、うぅ」
衝撃に動転しながら、被弾した魔法がサティのものだと推測。完敗だったな。
「イエス!」
「や、やったぁー! サテラインちゃん!」
「よくやったわ、テラ!」
「うぅぅ」
結局勝てなかったか。
まぁ相手がサティなら仕方ない。
「いやぁ負しかったな、相棒!」
1発で飛ばされたクソ雑魚柴犬生、オキツグが笑いながら歩み寄って来た。
「お前、一撃で飛ばされやがって」
「いやあれは本当に悪かったい。てか、エルトレットが速すぎだい」
「うん、それは同感」
敗者同士で傷を舐め合う。
サティの魔法はとどまるところ知らずに成長し続けている。
一瞬手が届きそうかな? っと思った次の時にはすでに遥か先に彼女はいるのだ。
ただでさえ強いのに、本人の向上心も相まってもう手が付けられないレベルで強い。
本当の本当に彼女は強い魔法使いなのだ。
「おぉアーカム、見ろよい! お前のカティヤさんが出るぞ!」
「な、なに? オキツグそこをどけぇ!」
「うわちゃ!」
視界を塞いでいたオキツグをはたきどかしてカティヤさんのご尊顔を拝める。
「あぁ〜今日も素敵だ」
毛先だけ金銀色に輝いている藍色の艶髪のショートヘアを、今日は短く後ろので束ねているようだ。可愛い。
うなじの褐色肌が妙に色気を放っていて、本当に10歳の子供か疑わしくなる。ふつくしい。
その金色の凛々しい瞳で眼前の焦げ茶ポニーテール娘を射抜いている。カッコいい。
「おぉカティヤさんのペアはダイヤリーダだ」
「あぁ」
「うはは、いやぁ眼が幸せだなぁアーカム」
「そうだなぁオキツグ」
未だに痛む腹部を気遣いながら、俺たちはリング上の美少女たちの盛り合わせを眺める。
元気な犬みたいな愛らしさを持つサティと幼い子犬のテラ・ツール。
対するは狼のごとき凛々しい姿の女神カティヤさんに、美しい金髪碧眼美少女のダイヤリーダ・グローリア。
学年中の男子たちは興味の無いふりをしてガン見しないように、チラチラと魔法陣の上の女子たちに目が釘付けだ。
そんな中で俺とオキツグだけは恥ずかしげもなく彼女たちをガン見するのであった。
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