記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第80話 冒険者になろう


アヴォンによる怪物講座が開かれた翌日。

俺は王都ローレシアにある巨大建造物ランキングでも、上位に食い込んでくると思われる建物にいた。

そこにいるのは数多くの武芸者たちだ。

剣やら槍やら斧やら槌を携えたたくましい戦士。

大杖をつきながら実戦使用の丈夫なローブを着込んだ、威風堂々たる姿の魔術師。

種族もさまざま。

ネコミミ、イヌミミを筆頭に狐にウサギの耳などを携えた獣人たち。

耳が長く真っ白に透き通る肌をした森の妖精エルフ。
下半身が馬になっているケンタウロスに、大蛇の如き太く長い体をしたナーガなどを含めた各種亜人族たち。

本当に多くの種族が集まっている。
ここは王都ローレシアの冒険者ギルド第四本部。
世界最大級の規模を誇るギルド本部である。

「はい、次の方〜!」

受付の列が進む。

「本日のご用件は何でしょうか」
「えぇと、冒険者登録したいんです」
「はい、ギルドへの加入ですね!」

受付嬢はそう言うと手早く書類を準備し始めた。

「すみません、この紙を受付で見せろって言われたんですけど」

俺はポケットから一枚の紙を取り出した。
今日、俺がギルドへ赴いているのは他でもないアヴォンの指示である。
昨日アヴォンの怪物講座が終わった後に、これからは冒険者としてクエストをこなす様に言われたのだ。

「はい。あ、これは」

今、受付嬢に渡した紙はアヴォンが用意してくれたものである。

とにかく受付に見せれば良いと言われたので、どういう効力のある紙なのかはわからない。

「少々お待ちください」

受付嬢のお姉さんはそう言うと、足早に奥へと引っ込んで行った。

これはギルドマスターでも出てくる展開かな。
しばらくして受付嬢が戻ってきた。

「アルドレア様、3階8番のお部屋へどうぞ」
「ふむ」

自分から行くシステムか。
てっきり、この場に前でギルドマスターが現れて、話題騒然となる展開かと思ったが。
ちょっと残念だ。

3階へ登り、8番の部屋を見つける。
ドアをノック。

「入りたまえ」

中からおっさんの声が聞こえて来た。

「失礼します」

礼節にのっとって部屋へ入室する。

中にいたひとり人がいた。
灰色髪の毛に、口ひげを携えた歴戦戦士という風勢の男だ。なかなかに渋い。いいね。

「おぉ、これはまた若いのが来たなぁ。歳は?」

おっさんはよく髭の剃られている顎に手を当てながら、俺の若さに舌を巻いた様子。

「8歳です。今年で9歳になります」
「8歳っ!? それまじぃ?」

今まで椅子に深く腰掛けて、貫禄を放っていたおっさんがついに貫禄を維持できなくなった。
俺の年齢を聞いた途端に驚きのあまり膝を机にぶつけている。なかなか良い驚きっぷりだ。

「え、えぇ8歳って……ぅえぇ」

信じられない者を見る目で俺のつま先から頭のてっぺんまで注意深く観察している。

「うん、たしかにわかるよ。君、尋常じゃないくらい強いね。ツワモノの気配をビンビン感じるからね」

おっさんは腰を落として、両手で俺を指差しながらニヤニヤと笑いだした。表情豊かだな。

「ありがとうございます」
「礼儀正しく、強く、知性を感じさせる瞳。素晴らしい。おっとと、そういえば自己紹介がまだだったね、
俺の名はアビゲイル・コロンビアス。君が立派に狩人なれるように支援するパドロンだ。よろしくな、アーカム・アルドレア君」

アビゲイルはそういうと浅く敬礼をして、ニコリと白い歯を光らせた。
顔の渋さにそぐわない爽やかな笑顔だ。

「アビゲイルさんってここのギルドマスターじゃないんですか?」
「ん? あぁ、俺はただの事務員だ。狩人協会の存在を知らされてる程度には重要な役職だけどな!」

そういえば、狩人協会自体がそもそも秘密結社なんだよな。
ただの事務員言えども、その存在を知っているだけでギルド内で重役を任されてるという事か。

「というか、狩人協会と冒険者ギルドって仲良いんですか?」

アビゲイルはぽりぽりと頭をかき困った顔をする。

「まぁすぐに知ることになるだろうが、俺の口からはなんとも言えねぇな。アーカムはまだ狩人協会員でなければ、冒険者ですらないんだからな」
「うーん、それもそうですね」

俺は相槌を打ちアビゲイルの向かいの席に腰を下ろした。

「おし、冒険者ギルドの登録だな。まずはこの紙に必要事項を記入してくれ」

アビゲイル渡された書類を書き進める。
種族、性別、年齢、略歴、言語などなど。
本当に簡単な情報だけエーデル語で記入する。

「よし、登録料として銀貨2枚いただくぜ。これは規則だ。将来的に狩人になるからって特別扱いはできねぇからよ」
「それでいいですよ。僕、超お金持ちなんで」

懐から銀貨を取り出してアビゲイルへ渡す。

「銀貨をはした金みたいに放るとはな。8歳のくせに金銭感覚がぶっ壊れてやがる」

アビゲイルそう言いながら銀貨を軽くチェックしためらいなく自分の財布へ入れた。

待て何が規則だ。
堂々とピンハネしてじゃねーか。

「さぁてと、ここからが少しばかし普通の冒険者ギルドへの加入と異なる」

アビゲイルは羽根ペンで書類を書きながら、ゆっくりと喋り出した。

「アーカム・アルドレア君。君は冒険者ギルドの冒険者ランクの仕組みはご存知かな?」
「いえ、まったく。Cランクが一番下でSが一番上とかですか?」
「何を訳のわからん事を言ってるんだ」
「……すみません」

アビゲイルが疲れたように首を横に振った。

「たが、ランクがあるのは間違っちゃいない。どこの国の冒険者ギルドでも統一された、冒険者の質を証明するために等級が使われてる」
「ふむふむ」
「下から猫級、熊級、オーガ級、ポルタ級、ドラゴン級、最後に柴犬級、神級と続いてる」
「……柴犬級?」
「柴犬級だ」

なんか色々言いたいランクの分け方だな。
このランクの感じだと、柴犬ってドラゴンよりも上っていう事になっちゃってるけど。

「説明を続けるぜ。冒険者ギルドへ加入した場合は、基本的には猫級からだ。ただな、ここはただの冒険者ギルドじゃない」
「冒険者ギルド……本部?」
「その通りだ」
「ふむふむ」
「ゆえに月に一回実力昇格試験がある。ほらこの建物の裏手にデカイ庭があったただろ?
あの庭でベテランの冒険者を講師としての技能検定が受けれるんだ。
講師役に認められれば等級を飛ばして上の等級に上がれる。実力に見合ったクエストが受けれるって訳さ」

ほほう。
なかなか効率的な仕組みである。

実力のある者が初心者だからって下位クエストに労力を割かなくていいってことか。
適材適所ってわけだな。

ただ、少しだけ気になる点はあるが。

「そんなことしちゃったら、下のクエストを受ける人減っちゃうんじゃないですか? 猫級の冒険者とかがポンポン上に上がっちゃうと」

実際に起こり得そうな問題だ。
みんな次々に成り上がって行って、初心者クエストが蔑ろにされる。
それでは冒険者という名前の便利屋の意味がなくなってしまうだろう。

「大丈夫さ、問題なんかなにもない。猫級から熊級への昇格率は毎月10%を下回ってる。10人に1飛び級できるか出来ないかの計算だ。それ以上の等級なら語るまでもないな?」
「システムだけある感じですか」
「あぁ例外への措置というだけだ、基本は地道に努力してもらうことになってる。冒険者ギルドに加入してる冒険者の等級割合は、3年前の一斉調査だと最下級の猫級が5割、熊級が3割、オーガ級が2割ってところだな」

「……ポルタとドラゴン、柴犬と神は?」

「それだけ少ないってことだ。ポルタ級なら国を見渡せば少しはいるかもしれないが、ドラゴンまで行ったらもういねぇな。
各国に5パーティ入ればいいな。柴犬級に関しては俺の記憶が正しければゲオニエス帝国とヨルプウィスト人間国に2パーティずついるだけのはすだ。
少なくともうちのローレシアにはいねぇ。神はかつての勇者が冒険者をやってた頃の名誉等級だ。実質存在しない」
「はぁぇ……上位等級は狭き門ですね」
「あぁ恐ろしく狭めぇよ」

上位の冒険者たちの少なさに口が開きっぱなしになってしまう。
アビゲイルの言葉が真実だとすると、ドラゴン級の冒険者は大陸に50億人の人間がいて、そのうち数百人しかいない事になる。
柴犬級はもっとだ。
50億分の二桁の割合しか到達できない頂。
とんでもない希少等級である。

「あの〜ちなみに僕ってどこらへんまで行けますかね?」

伺うようにアビゲイルの顔を見上げる。

「そりゃ、アーカム君の努力次第さ」
「まぁそうですよね」

模範的な回答が返ってきた。

「ただ、ね」
「……?」
「彼がアーカム君をうちに寄越したって事は、それはの力があるとアヴォンが認めたという事だとは思う」
「ポルタ級ですか!」

さっきの話だと、たしか結構いい感じの等級だった気がする。

「うむ、そういうわけでアーカム・アルドレア君、君にはポルタ級から冒険者になって貰おうと思っている」

「へへ、はい! わかりましたぜ! おやっさん!」

ポルタ級か。
国を見渡してちらほら見つけられるレベルに数の居ない等級の冒険者。
俺って結構いい線いってるかもな!

「ってなわけで、はいこれ」

アビゲイルはポケットから光沢の美しい緑水色のメダルのようなものを取り出した。
500円玉を2回りくらい大きくしたサイズの重厚感のある円盤だ。

「これは?」
「ポルタ級冒険者の証だ。通称『ポルタのコイン』。貴重な金属で出来てるから金に困ったら売っぱらってもいいぞ」
「ほほぉ、ポルタのコイン」
「まぁお前さんはすぐ昇格しそうだから、昇格時には返還してもらえると助かる。さっきも言ったがこれ結構高いんだよ」
「わかりました。その時が来たら返しに来ますよ」
「あぁ頼んだぜ」

アビゲイルがニコリと笑った。

「よし、これで手続きは完了だ。これで晴れてお前さんも冒険者ってわけだぜ」
「ふふ、ただの冒険者じゃないですよ? ポルタ級冒険者です」
「……やっぱそれ返せよ」
「嫌ですよ」

一度人にあげたものを返せだなんて。

それは通らない。
通らないぜアビゲイル。

「はぁ、まさか8歳の子供にポルタのコインを渡す時が来るとわな」
「ふふ、珍しいですかね?」

「珍しいっていうか初めてだ。そもそもいきなりポルタになる奴なんて将来的には狩人になる奴ばっかだからな。大抵の狩人は成人してからくるもんだ」
「成人……18歳くらいですか」

良いことを聞けた。

狩人になる者は平均して大体18歳で単騎ポルタ級の実力を備えるらしい。
ともすれば、今の俺はかなりのエリートコースを歩めている事になる。
まぁそもそも18年も人生フライングスタートしてるから当たり前っちゃ当たり前かもしれないけど。

「そうだ帰る前に少しだけ注意をしておこう」

部屋から退出しようとして、アビゲイルに呼び止められる。

「君がの狩人を目指しているのならば、あまり目立つことはしない方がいい。
狩人になった時に名が知れていると行動が制限される場合がたまにある。
だから冒険者ギルドでのクエスト受注の仕方にも気をつけろよ?突如として現れたポルタ級冒険者が、
高難易度のクエストをこなしまくったら、話題になること間違いなしだからな」
「たしかにそうですね」

部屋を飛び出して早速有名人になろうとしていた身としては、出鼻をくじかれる忠告だ。

俺は将来、狩人になる。
ということは今うちから目立たず、闇に紛れる練習をしておけってことかい。

「うーん、不本意ですが承知しました」
「はは、わかってくれたか。よし、それじゃ良い冒険者ライフを!」

アビゲイルの力強い言葉に押されて俺は部屋を後にした。

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