記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第69話 女子寮の侵入者
俺はサティにウィンクして後を任せることにした。
サティは驚いた顔だったがすぐに取り直し、こくり、とひとつ頷き女子たちを部屋にとどめるべくドアを閉じてくれる。
「ちょ、ちょっとサテリィちゃん! 今男の子が!」
「あ! 逃げられちゃうよー!」
「あれサテリィちゃんの彼氏!?」
後方で勝手な発言が飛び交っているが、そんな事を気にしている時間はない。
今は1秒でもはやく敵地を抜け出さなければならないのだ。
サティのいた部屋は、階段から遠い部屋。
俺は剣圧を発動してすぐに走り出そうとするが、そんな狩人候補者たる俺のスピードにこの寮の番人たちは軽々と反応してきた。
「なにッ!?」
階段までの一直線を突っ切ろうとした瞬間に、通路の左右の扉が次々に開いていくのだ。
ハンターの大量導入である。
「くッ!」
このままでは相手の物量に押されれば、一瞬で捕まり、変態の烙印を押されて俺の学生生活はおしまいだ。
そうでなくでも、顔を見られたら実質的に負けと言えるだろう。
俺はアヴォンと手合わせした時以上の集中力を持って、この窮地の突破法を考える。
すぐさま外套に備え付けられたフードを深く被り顔を隠すことにした。
そして腰からラビッテの杖を取り出して、今開こうとしている扉に向けて≪喪神≫を放つ。
ーーハグルッ
よし、これで扉はしまりハンターが出てくるのは阻止できた。
「うわぁ!」
「なにっ!」
「は! これは魔法の発動よ!」
「誰かが魔法を撃ちまくってるよー!」
「ぁ、やば……」
部屋から出てくる女子たちを止めながら階段へ向かう算段だったのだが、自分の失態に気づいた。
ここは天下のレトレシア魔術大学の学生寮。
生徒達の中には当然あらかじめ魔法を勉強して、練習し「魔感覚」を身につけている者がいるだろう。
それにこの寮に住んでいるのが新入生だけとは限らない。
当然、犬生や狼生などの上級生たちも住んでいるはずだ。
俺なんかよりずっと鋭い魔感覚を身につけている先輩たちが、ワラワラといるのだ。
魔法を使えばその後どうなるかは想像に難くない。
だが、後悔してももう遅い。
俺の≪喪神≫の乱射によって危機感を煽られた女生徒たちが、先ほどよりもさらに勢いを増して部屋から飛び出してくる。
ーーハグルッハハグルッ
「くっ! くっ! 無理ッ!」
必死に≪喪神≫を撃って部屋のドアが開けられるのを未然に塞ぎながら、時には女子を気絶させていく。
だが、とてつもない量の扉をバタバタ、と開けたり閉めたりを繰り返しているうちに、どうしても撃ち漏らしが出てきてしまう。
ーーバタバタバタバタバタバタッ
難易度ウルトラハードのモグラ叩きをやらされている気分だ。
「≪風打≫!」
「うぉあ!」
しまいには部屋から顔を覗かせて来た女子が、そのまま魔法を撃ち返してくる始末に。
均衡は崩れ去った。
飛んできた風の玉をなんとか≪魔撃≫でレジストし「現象」を霧散させていく。
「え、嘘っ!?」
「寝てろ!」
ーーハグルッ
「うっ! ぁぁぁ……」
お返しに≪喪神≫を当てて、女子をまどろみの中へいざなう。
「ふぅ」
魔法を撃ってきた女子を無力化して安心したのも束の間。
気づいたらもう数人が完全に部屋から出てきて階段への通路を塞ぐように立ちはだかっている。
「コラ! そこの侵入者! 抵抗しないで投降するのです!」
「クッ退路をふさがれたか」
背の高い、おそらく上級生と思われる女子が杖を油断なく構え投降を促してくる。
気品溢れる立ち姿で、艶のある金髪の髪の毛が綺麗に肩口で切り揃えられ、ゴージャスな雰囲気をかもし出している。
すでに後方にも何人か女子生徒が集まっている。
絶体絶命のピンチだ。
まさかこんな下らない理由で窮地に立たされるとは思わなかった。
それでも俺は止まれない。
投降など出来ない。
こんな大事になってしまってはきっと酷い処分を受ける。
退学か、逮捕か。
悪気があったわけではないのに、入学する前から退学させられるなんて最悪以外のなにものでもない。
それにこんなところで終わりたくねぇ!
「そう! わかったわ! それでは私が相手になりますわ!」
上級生の目つきが変わった。
「レトレシア新入生! ウェンティ・プロブレム! 参ります!」
「お前、新入生なのかよ!」
てっきり上級生かと思ったが、どうやら同学年だったらしい。
この階にいるやつらは彼女以外は、みんなちみっ子だ。
もしかしたら、この階には新入生しかいないという事だろうか?
だとしたらみんな魔感覚、鋭すぎない?
レトレシアってこんなレベル高いの?
俺ならちょっと良いところまで行けるとか思ってたけど、最悪、底辺かもしれないな。
「あなたも名乗りなさい! ≪風撃弾≫!」
ーーグオォォォンッ
「名乗るアホがいるか! よっと!」
プロブレムからトリガーだけの≪風撃弾≫を≪魔撃≫で受けず、に半身になってかわす。
「っ、ぐはっ!」
ーードサッ
後方の通路を塞いでいた女子に命中したらしく、人の崩れ落ちる音が聞こえる。
魔感覚がそれなりに磨かれて来た今の俺なら、戦士の反応力に身体能力も合わさって、真正面から撃たれる単発の魔法なら避ける事くらい出来る。
「あ、あ、あなた! なんてことを!」
「撃ったのお前だろ!」
「あなたが避けるから! あなたも魔法決闘者ならば正々堂々と受けなさい! もうー!」
プロブレムはプンすかと怒りながら地団駄を踏みはじめた。
「≪風撃弾≫!≪風撃弾≫!」
ーーグオォォォンッグオォォォンッ
「うわぁ!」
「きゃ!」
ーードサッドサッ
またしても後方で人の倒れる音がする。
「ちょっと! 避けないでよ!」
「はは、ちょっと面白いな」
プロブレムは顔を真っ赤にしている。
怒り心頭といったところだろうか。
こちらは至極真面目に最善手を選んでいるのだが、プロブレムがあまりにもからかいやすいので緊張感が抜けてしまう。
だが、人をからかっている暇などはない。
俺が魔法を避けているせいで、俺が優勢のように見えているが、実際のところ俺のピンチは何も変わっていない。
早くしなければ他の階からも人が集まってきてどうしようもなくなる。
後方は完全に塞がれている。
前方の階段もすでに人壁が出来てしまっていてとても通れそうにない。
しかも物騒なことに何人かの女子たちは杖をこちらに構えている。
これは実力での突破は難しいだろう。
だれかひとりの魔法でも、隙ある体へ命中を許した時点で俺の負けだ。
≪風打≫くらいならば耐えられるが、先ほどのプロブレムの使った≪風撃弾≫みたいなのは一発でアウトだ。
「コラ! もうあなたに逃げ道はないのだから! 大人しく投降しなさい!」
「……ふん」
「なんか答えてよっ!」
俺は1つの案を思いついていた。
すぐ横の部屋の扉を見やる。
うん、てか最初からこれしかなかったんだな。
「ちょっと! 人の話はしっかりと聞きなーー」
「ハッ!」
ーーバガァッ
「うわぁっ!」
「えぇえっ!」
扉のドアノブをつかみ壁から扉ごと引き剥がす。
そして住人に許可なく俺は部屋に転がり込んだ。
「きゃあ!」
「うぅ! ごめん! ごめん、ごめんなさい!」
「窓は壊さないでぇ!」
「はいっ! 壊しません、はい、ごめんなさい!」
部屋の中に隠れていた女子に枕で叩かれながらも、部屋の窓をぶち破らずに、ゆっくりと開ける。
「あなた! ここは7階よ!?」
部屋の壊れた入り口に佇むプロブレムが驚愕した顔で語りかけてくる。
「はは、では! さらば、諸君! また会おーー痛いッ! 痛いッ!?」
「変態を逃がすなぁ!≪風打≫!」
「≪風打≫!」
「≪風打≫っ!」
ーーブウゥゥブウゥブウゥゥゥンッ
女子たちからの容赦ない≪風打≫の嵐に全身をぶん殴られる。
「う、うわぁああ!」
「あぁちょっと! あなた達やめなさい!」
窓際に立っていた俺は否応無しに≪風打≫に押し出され窓から落下。
「くっ! フルゥア!」
ーーバギィイ
空中で姿勢制御し、なんとか石畳みを割りながら着地に成功だ。
頭から落ちても別に怪我しないだろうが、見た目は大事だからな。
きっとアーカムも「和室」でヒヤヒヤしながら一部始終を見ていることだろう。
チラッと上方を見上げる。
7階窓からはたくさんの女子たちがこちらを見下ろしていた。
「えぇ! すご! あの子立ってるよ!」
「なんて変態なの!」
「足腰丈夫なんだね~」
「そういうレベルじゃないでしょ!?」
「よしよし追ってこないな。一件落着っと」
もしかしたら誰かが勢いあまって落ちてくるかと思ったが、誰も落下する子はいなそうなので一安心だ。
俺は外套をパサッとひるがえして逃走させてもらうことにしたい。
そうしてすぐに寮すら小さく見えるくらいまで距離をとり、夜の闇に紛れることで女子寮の侵入者は姿を絡ませるのであった。
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