記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第34話 舞い降りた死因


画面の向こう側でしか聞いたことのない強烈な破裂音がエレアラント森林の木々の間をとどろき突き抜ける。

「クアァッ!」

軍人から飛来する高速の射撃に対し、回避を一瞬考えるがーー即座に防御へ移行。
銃弾なんて速すぎる。
避けるなんて不可能だ。

「鎧圧」を全開にして衝撃を覚悟した。

静寂を突き破るその音は軍人右手によって、目にも止まらぬ速度で引き抜かれたハンドガンの発砲の音。

弾丸の軌道をとこちらに6発、師匠に2発の弾が放たれたのがわかる。

軌道を確認したのとほぼ同時。
弾丸の到達に合わせて腹をくくるーー。

「っっ、グォオ!?」

すさまじい衝撃が全身が全身を駆け抜ける。

「ぁ、ぁ、あ、よし、いき、てる?」

弾丸6発すべてを「鎧圧」で防ぎきれたみたいだ。

足元の地面が踏ん張りにより盛り上がっている事、頭部から出血していることを考えるとやはり俺は撃たれている。

死ぬかと思った……というより諦めてたけと……。
人って撃たれても案外なんとかなるものなんだな。

「ぁ、あれ!?」

しかし、上手く防御できたと安心したのも束の間、事態は既に変化し始めていた。

視界の端の師匠が軍人の傍へと瞬間移動したのだ。

あまりにも速すぎて、瞬きした瞬間に師匠が突然に軍人のとなりに出現したようにすら見えた。

「うぉお! 流石ーー」
「wーー」
「フッ!」

目にも留まらぬ居合斬いあいぎりが容赦なく軍人を斬り捨てるーー。

ーーギィンッ……ッ

硬質な金属同士が打ち付けられるような甲高い音。

軍人はその体をくの字に折り曲げ、宇宙船っぽい金属の塊の外壁に凄まじい勢いで叩きつけられた。

大きく陥没する軍人を中心としたクレーターから宇宙船全体に亀裂が走る。
ただの一撃で宇宙船の崩壊が始まった。

「わふッ!」
「シヴァ?」

シヴァの鳴き声が聞こえたかと思った次の瞬間ーー今度は隣の地面が急に弾け飛んだ。

色々爆発しすぎだろ。
ちょっと待ってよ、何が起こったんだい?

「わふ!」

は?

いつの間にか軍人の隣に移動していたシヴァを視界に捉える。意味がわからない。移動したのだろうか。

常に俺の知覚を越える動きするシヴァは全然待ってくれずーー軍人に顔を近づけてかと思うと、再びその姿がかき消えてしまった。

かろうじて豪速で軍人が地面に叩きつけられたのは確認。

ーードギャアァァンッ

「うぁぁぁあぁあ!? なんだこれぇぇえ!?」

震源地ーー眼前の地表。マグニチュード不明。

すさまじい振動が眼前の地面から伝わってくる。

軍人の衝突した衝撃は爆弾のような空気圧をもって、あたり一帯の木々を根こそぎ吹き飛ばししまった。

森が……禿げていく……。
やばい、こんなところにいたら死ぬ。

命の危機を感じてしまう味方の強烈な攻撃に戦慄せざるを得ない。
こっちサイド俺以外強すぎだ。

四肢をつき、土ぼこりの晴れた視界に映るのは地面にできた巨大なクレーター……そして、まわりに広がる地面を蜘蛛の巣のように割く亀裂たち。
戦いの規模が俺やって来たことと違いすぎる。

「これは流石にやった、か……?」

あれ、これフラグじゃね?
すごい自然にやっちゃったよ。

圧倒的な回収率を誇るフラグ。
人って本当に「やったか?」って思ったら「やったか?」って言葉で出ちゃうんだな……。

こだまでしょうか?
いいえ誰でも。

心の中でフラグを立ててきたキャラクター達に、共感しつつも巨大なクレーターから目を離さない。

「Holy, shit......」
「やっぱりな。知ってた」
「今のでダメかい。手強いねぇ」
「わふッわふッ」

今回も例に漏れずしっかりとフラグは回収されたようだ。

軍人がクレーターから飛び出してくる。
そして空中で停止した。

「……ん?」

こいつ空中に立ってね?

「おやおや、これは参ったねぇ……」
「mtjmt」

飛び上がった軍人は空中で静止していたのだ。
ふわふわという感じではない。

それはピタッという具合に、空中にある透明の足場に立っているのかのように完璧に静止している。

剣気圧って鍛えれば空も飛べるのだろうか。
凄く気になるが疑問は後回しだ。
現状を正しく分析していこう。

先ほどの師匠とシヴァの攻撃を受けてもこの軍人に目立った外傷は見受けられない。
ダメージ自体入っているとは思うが、軍人が涼しい顔をしているところをみると大したことはようだ。

きっとテゴラックスと戦った時の俺のような気持ちなんじゃないだろうか?
食らっても大丈夫、というやつだ。

本当にとんでもない「鎧圧」を持っているらしい。
師匠の完璧な「居合斬り」に、シヴァのあの一撃を受けてなお全くほころびが無い。

てかそもそもこいつが元の世界の人間ならなんで剣気圧を使えるんだろうか。
しかもこれほど強力なレベルで使うなんて、どこかで修行でもしていたのか?

疑問は尽きない。

なぜ異世界にいるのか?
何で攻撃してきたのか?
先ほどの銃撃でなんで俺に6発で師匠に2発しか撃たなかったのか、何か意味があるのか?
なんで空に立っているのか?

わからないことだらけだが……軍人から意識をそらさずに集中だ。

敵は強大、考え事をしている余裕は無い。
疑問はすべて後回しさ。

「まぁ良い。とりあえず我々に敵対した事を後悔させるだけだ」

師匠による高速の攻撃が始まる。

「アーカム!」
「はいっ!」

空中に立つ軍人を地面に叩き落とす、師匠の「双天一流そうてんいちりゅう」による連続の剣撃が軍人に襲った。

軍人は師匠の動きにほとんどついていけておらず、体中に剣撃を受けまくっている……が、分厚い鎧圧と師匠の刃が火花散らした後には、その素肌には斬り傷は見受けられない。

防御力、防御力だ、この軍人の強さは。

「アーカム、やるんだ!」
「ッ!」

師匠は軍人をこちらへ蹴り飛ばしてきた。
サッカーボールかて。強固なるよろいを突破するために右半身に剣圧を集中させる。

「フルァ!」
「atpj!」

引きしぼった右腕を全力で軍人の背面から脊髄へ打ち込む。

ーードギァンッ

「くッふぅッ!? ぐぅぅうっ!」

右拳うけんが完全に砕けた。

「グッソ……ッ! 硬すぎる!」

軍人への「精研突き」による防御力突発攻撃のはずが、逆に返り討ちを食らう始末。
まるで重厚な金属の山をぶん殴ってるような……そんな不毛な気分。

果てしない「鎧圧」層をこの軍人は誇っている。
次元が違う装甲、桁違いの防御力とはこのことだ。

「フッ!」
「mwッ!」

軍人が空を自在に浮遊しながら剣を避け始める。
見えない足場ーー空気を蹴って移動しているのか。

だが、それでも師匠の高速の一撃が頭に、首に、胴体に、足に叩き込まれまくっているのは変わらない。

一方で軍人も逃げるばかりではなくなっていた。
軍人がいつのまにか手にしていた不思議な輝きを放つ剣ーー大型のナイフで師匠に反撃しているのだ。

「アーカム! 離脱しなさい!」
「ッ、はいっ!」

2人のスピードついていくのに精一杯だったので、やはり素直に離脱するべきだったか。

無理に戦闘に参加しては足手まといになる。
それに俺の右拳は現状使い物にならない。
やはり逃げるのが懸命だ。

「fuッ! ttyu!」
「ッ! アァッ!」

ーーギギギィンィィ

少し距離をとって2人の戦いを傍観。

師匠の攻撃に対し険しい顔をしているところを見ると案外、軍人に余裕はないのかもしれない。

しかし、軍人の攻撃を避けながら師匠は攻撃を当てまくってるのに、出血させることすらできていない。

軍人は師匠の横一文字での強烈な一撃が入っても、空中を数メートル泳ぐだけで剣撃のインパクトすらも殺しきってしまうのだ。

圧倒的な防御力に、衝撃を逃がす空中浮遊。
やっかいな能力だ。

攻め切れない師匠に加勢したいところだが恐らく俺では足手まといになってしまうし、そもそも俺の「剣圧」じゃどうすることもできそうに無い。

あまりにも「剣気圧」に差がありすぎる。

今の俺の剣気圧を1とするなら、軍人の「剣気圧」は100万か? 100億か? はっきり言って測定不能だ。

途方もなく大きい剣気圧なのはわかるが、具体的にどれくらいの「距離」が俺と軍人の間にあるのか測れないのだ。

チラリと愛犬を見やる。

シヴァも距離をとって2人の戦いを傍観している。
戦況が動くタイミングを狙っているんだろうか。

「hha!」
「ッ!?」
「あっ!?」

軍人が吹っ飛ばされた?
衝撃を殺してさっきまですぐに戻ってきてたのに?

勢いのまま急速に師匠から距離を取っている。

一体なにをする気なのかーー。

「huaaaaaaaッ!」

軍人の手のひらに膨大なエネルギーが収束されていくのが感じ取れた。信じられない量だ。
視界はコマ送りの映像のようにゆっくりはっきり。

これアレじゃん……走馬灯…………ッ。

死ぬ間際に今までの記憶が一気に再生されるとか、時間が遅く感じるとかいうアレだ。

まさか本当に体験することができるとは。
ちょっと嬉しい……けどさ。
これつまり、俺もう終わったってことなのか?

コマ送りの世界で遠くに見える軍人が、確実に俺を狙って手のひらを向けているのがよく見えた。
やはり俺を殺すつもりらしい。

あーあ、せっかく夢の異世界に転生できてさ、剣も頑張って練習しててさ……これから大きくなって旅をしてさ……ドラゴンとかと戦ったりさ……美人なエルフとかと恋とか始まっちゃったりしてさ……そんな楽しいファンタジーライフが始まると思ったのに……。

わけのわからない金髪軍人野郎が急に出てきて、わけのわからないまま死ぬのかよ?

こんなのあんまりだろ。
お前にどうして俺を殺す権利がある?

ふざけんなよ……。
ふざけんじゃねぇよッ!
クソがッ! 本当にお前はクソ野郎だよ!

ゆっくりとコマ送りなった世界で、軍人野郎の顔を睨み付けてやる。
クソ野郎は必死そうな顔をしていた。

なんだよ、8歳のガキ殺すのにそんな必死になっちゃってさ! みっともねぇなぁ!

もういいよ、てめぇのその馬鹿みてぇに必死の表情見れただけで満足だ。
俺が死んだってどうせ師匠とシヴァがお前を殺してくれるに決まってる。

流れ行くスローモーションの世界は過ぎた。
時間が加速し始める。

走馬灯は死ぬ瞬間にそれまでの記憶の中から生き残る手段を見つけ出すため、脳が頑張る現象だそうだが……この感じだときっと生き残る手段が、これまで俺の記憶の中に見つかんなかったんだろう。

はぁ……なんなんだよ……こんなところで……。

スローモーションが完全に終わる時が俺という存在が終わる時だ。
師匠……どうかお願いします……ーー。

「わふッ!」
「ぇ……」

輝きに包まれる視界に急遽割り込んできた影。
刹那の後に圧倒的熱量が森林に爆誕した。

「ヤメロォォォォォォアァァァァァァァァッ! ああ、ああ、あぁぁぁ、ぉ、ああ、ああぁ、ぁ、ぁ、ぁあ、ぁ……ッッーー」

体中のすべて水分が蒸発し、血が瞬く間に沸騰する。
皮膚が水分を失い裂け、筋肉繊維が直接焼かれる。
身体中の細胞が悲鳴をあげて、一気に死滅ーー。

生きたまま火葬される地獄と形容しても生ぬるい、ことわりの存在するこの世で味わう最上位の痛み。

そのあまりの激痛に俺は一瞬で意識を手放す。

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