記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第11話 与えられた才能


シヴァとのぶらり旅が始まると早速見覚えのある建物が近づいて来た。
この町一大きな武器・防具屋のレンガ倉庫だ。

「あっ看板あったんだ」

この店どうやら「タングストレングス」と言うらしい。なんとも強そうな店の名前だ。

「あのジジイいるかな?」

タングじいさんとは、これまででそれなりに仲良くなった感触は持っている。
トニースマスやポテトデデステンと呼ばれるポテトを投げ合う祭り、その他イベントがあるたびにタングじいさんとは顔を合わせてきおかげだ。

大体が両親に無理やり同行させられたイベントでの遭遇だったわけだが知り合いなのだし、俺も挨拶くらいしたほうがいいかもしれない。

「よしっタングさんに挨拶してくか」
「わふわふっ」

体の向きを変えて店へと歩みを進める。

「でもここ入るのか……」
「くぅーん」

レンガ倉庫へ入ろうと思ったところで本能が警笛を鳴らし始める。
この中はまずい、むさ苦しい筋肉ばかりのこの店は危険だ、と。

「さて、どうするシヴァ?」
「わふっ!」

愛犬に意見を求めるがシヴァは、こちらに判断を任せる、と言った顔をしている。

いいや、違う
この顔は「わい、この店入れんの?」の方の顔か。

「うーん、確かにお前はちょっとデカ過ぎるよなぁ」

シヴァのサイズだと間違いなく店内で邪魔になる。
でも、外にシヴァだけ待たせたくのも可哀想だ。

「うーんよし、決めた」
「わふぅ」

今回は仕方ない。
スルーしていこう。

「わふっ! わふっ!」
「よしよし、わかった。筋肉ジジイはまた今度会いに行こう。今回はスルーだ」

レンガ倉庫はスルーで行くことに決め歩き出す。

「またいつか会いにくるぜ、じゃあなタングーー」
「寂しいことを言うんじゃないわい! 坊主!」
「っ、うわぁっ! ジジイ!」

噂をすれば巨大なジジィがどこからとも無く現れた。

「3歳のガキがジジイじゃと!? うやまわんか!」
「ジジイには、ジジイだけで十分ですよ……はん、今日は服着てるんですね」
「なんてガキじゃ。というか訳の分からんことを心配するでない! わしが裸になるのは鋼と向き合う時だけであって、常日頃から脱いどる事は無い、ちゃんと訳があるでの」
「エンジンが掛かって気持ち良くなって来て、良い剣が鍛えれるでしたっけ?」
「変態チックな言い方するじゃないわい。ちゃんとした理由じゃて」

全裸に理由なんてあったのかい。

「全裸になることに意味なんてあるんですか?」
「意味もなく全裸になる変態があるか!」
「いや、目の前にーー」
「坊主、そんなに早死したいのかッ?」

何と言うことだ。

鍛冶場で全裸になる理由……まさか熱いからなんてありふれた理由じゃないだろう?

「何で裸になるのでしょうか?」
「うむ。坊主には刺激の強い話かもしれないが、アディの息子であるお主には話してやるとしよう」

「ぇ……刺激……? ちょっと……」

いったい何を話し始めるというんだッ!

「坊主、道端で話すのもなんじゃから、暇じゃったらわしの家に上がってくといい。というか、どうせ暇じゃろ坊主は」

筋肉、全裸、刺激、家に連れ込まれる……ッ!

「ァァァッ! このジジイ3歳の子供相手に何しようとしてるんですかッ!? ショタ萌えかぁあ!?」

あまりにも危険すぎる。こんな筋骨隆々のジジイに組み伏せられたらとても抵抗出来そうにない。

「待て待て、坊主! 勘違いするな! 茶を出してやろうと言うだけじゃ!」
「わふわふッ!」
「怪しい……本当ですか?」
「本当じゃ」
「……お茶、ですか?」
「茶じゃ」
「わふわふっ」

うーむ、しかし、本当に大丈夫かぁ……?

「なんじゃその目は!」
「いえ、なんでも」

まぁ信用してやるか。
いきなり3歳児相手に変な事をする様な人じゃないはずだしな。



タングじいさんに通された無骨マックスな居間。
目に付くところにはとにかく武器が沢山ある。

壁には剣、槍、斧、槌、鎧などさまざまな武器・防具が飾ってあるし、そこの床には盾っぽい物が転がっている。
簡素なものから鮮やかな彩の美しいものまで実に多彩だ。

タングじいさんの部屋を感心しながら眺めていると、ふと視線に気づいた。

「わふ」
「お前はいつでも可愛いな」

視線をたどってシヴァを見やると、彼女は窮屈そうに2人がけソファに体を押し込めていた。

2人分のスペースでも収まらないデカ柴である。

「わふ」
「よーしよしよし」

シヴァの頭をナデナデしてのどをカイカイしてやる。
するとどうだ。途端に柴犬スマイルが顔に出てくるのだから面白い。

「カイカイカイカイ」
「わふわふッ」
「本当にデカい犬じゃの」

タングじいさんが湯気立つカップを持って居間に入ってきた。

「ほれ、茶じゃ」
「ありがとうございます」

一口。

「ズズゥ」

うん。
味も見た目も紅茶だな。
ホットストレートティーだ。

ミルクと砂糖が欲しくなってくる。
まぁ無理だろうが。

クルクマでは砂糖や甘味類は非常に貴重で、めったに食べられるものではないからだ。
この世界において甘いものを食べれる機会は町のイベントやお祭り、何かの記念日くらいだろう。

「はぁ、チョコ食べたい……」

心からの願いがボソッと溢れ出る。
そして紅茶をもう一口。

「ズズゥ」

あれ?
ここでふとある事が気になった
そういやこの人ここにいていいのか?

「お店良かったんですか。こっち来てますけど」
「別に大丈夫じゃろうよ。店の経営自体は別のもんがやっとる。それにあれはわしの店じゃ。
好きにやらせてもらうでの。それより今は坊主、お前さんに聞きたいことの方が大事じゃ」
「僕に、ですか?」

あれ?
俺に聞きたいこと?
全裸の秘密を教えてくれるんじゃなくて?

ん、待てよ、おやおや、これは不思議だ。
今から知ろうとしてるのがジジイの全裸の秘密って思った瞬間、帰りたくなって来たって来ちまったぜ。普遍的人間の心理だよね、これ。

「タングさんの秘密を教えてくれるんじゃないんですか?」
「ん? あぁそうじゃったな。そっちも、もちろん教えてやるわい。焦る必要もないしの。ではまずはわしのほうから話すとするかの」

なんだか気になる言い回しだったがとにかく流れに身を任せよう。

「わしの全裸の秘密にはわし自身の生い立ちが大きく関係しておる。まずはじめにじゃ、わしはなコチラス族という亜人と人間のハーフなんじゃ」
「ふむふむ、タングさんはコチラスの混血と」
「コチラス族というはなゲオニエス帝国の山間に住を構えとる原始的な亜人での、めっぽう野蛮な種族なんじゃ……わしを見ればわかるじゃろ?」

「まぁ、えぇ……」

自虐ネタかよ。
あまりジジイをいじるのは好きじゃないんだが……本人がやってくれと言うなら仕方ない。

「脳みそまで筋肉で出来てるんじゃないかと思える程、とても野蛮そうで知性感じられない顔をしてますよね。すごく頭悪そうです」
「ぇええぃ! そこまで言うとらんわい! 少しは否定せんか、馬鹿者!」
「……あれ?」

自分で言っておいて肯定されると怒り出すとは、なんて恐ろしい人なんだろうか。
コチラス族が恐い種族だとよくわかったぜ。

「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて、3歳児のかわいい戯言ですよ」
「こんな器用な3歳児がいてたまるか、本当にアディと似ておるのぉ」
「それ母さんによく言われます」

実際エヴァは、ことあるごとに俺をアディに似てると言ってくる。

「そうじゃろうな……おほん、気を取り直して行くぞ? あーそれでじゃな、とっくに死んでしまったわしのお袋なんじゃが、実は当時あるコチラス族に襲われてなぐさみ者にされておった事があったらしいんじゃ」

いきなり話が重くなってきた。
どうやら刺激は刺激でも胸糞な刺激だったらしい。

3歳児相手に話す内容なのか疑問に思いながら、俺は適当に相槌を打ちながらタングじいさんの話を聞いた。
タングじいさんの話を要約するとこうだ。

当時、冒険者だったタング母は山に入りコチラス族にさらわれた挙句、何日も監禁され酷い目にあったのだそう。
しかしそこへ助けに行ったのが当時救援隊として送り込まれた冒険者のタングじいさんの義理の親父だったと言う。
タング母はコチラス族から助けてくれたタング父と恋に落ち、そのまま結婚。
既に身ごもってしまっていたタング母は、子に罪はないと孕んだ子を産む事にしたという。

そしてその子供こそがタングじいさん……と。

「マジすか……」
「くぅ〜ん」

重い。
自分がレイプされて出来た子だなんて……俺だったら絶対トラウマだ。
自然と暗い気持ちになってしまう。

「なにを暗い顔をしておる! こんなのむか~しの話じゃよ。今更、何にも悩んでることなどないわい。
ま、時々わしの母や、父にとって忌々しいコチラスの子であるわしのことを、よくぞ生んでくれたものだと感謝することはあるがの」

両親の愛情か……あるいは時間が解決してくれたのかわからないが、すごい軽いじいさんだ。
本人にしかわからない苦悩があったに違いないのに。

ところで、

「タングさん、この話って全裸で鍛冶仕事するのと関係あります?」

率直に疑問をぶつける。

「関係大有りじゃ。最後まで話を聞くんじゃよ、すぐ終わるからの。してその理由じゃが、これはコチラス族の体質が大きく関わっとるんじゃな」
「体質ですか」
「そうじゃ体質じゃ」

これは多分あれな気がする、遺伝とかそんな奴ではないだろうか。

「コチラス族の体質というか特性かの。それは口で呼吸をしない事じゃ。コチラスは体で呼吸をする。この感覚を伝えるのはなかなか難しいんじゃがの。つまりコチラスと人間のハーフたるわしは、このも受け継いでしまっておるんじゃ」

やっぱりそういう感じだった。
でも……体で呼吸、か。
ちょっとフワフワしすぎててわからない表現だ。

「体て呼吸ですか」
「訳がわからないのも仕方ない事じゃな。わしも上手く言葉で説明できそうにないわい」

体で呼吸……あーそういえば。

それはもしやアレか?
アレじゃないのか?

体で呼吸という言葉を聞いてひとつピンとくるものがあるじゃないか。
理科の授業で皮膚呼吸というものを聞いたことがあった気がする。
書いて字のごとく皮膚で呼吸することだとは思うが、多分これと関係あるんじゃないか?

「それでの、わしが鍛冶場で服を脱ぐ理由じゃが、あそこで服を着ていると息が苦しくてしょうがないんじゃよ。そんじゃから、服を脱いだら解決したというわけじゃ」
「なるほど、それで犯行に及んだという訳ですね」
「人を犯罪者のように言うでない!」

原理はよくわからないが、イメージは伝わった。

鍛冶場というなんか酸素薄そうな場所では満足な皮膚呼吸? を行えないということだろう。
でも、皮膚呼吸ってそれだけじゃたいした酸素吸えないんじゃなかったっけ? 違ったか? いや、ダメだ全然覚えてないぞ。

まぁ考えても仕方ないか。
異世界だし何でも同じと考える方が不自然だ。

「それにしても裸で鍛冶場なんて大丈夫なんですか? 火の粉とかでも結構熱いんでしょう?」
「よし! わしの話はこのあたりでいいじゃろう。次は坊主に聞きたいことがある。こっちがわしにとっての本題じゃ」

は?

「へ? いや待てィ! こっちの質問はスルーッ!?」
「大丈夫じゃ安心せいちゃんと答えてやるわ。坊主に聞きたいこととも関係あるしの」
「そういう……こほん。ではどうぞ」

ジジイの全裸と関係のある質問されることに不安を感じつつ質問を促す。

「ではズバリ聞くが……お主はなぜ『剣気圧けんきあつ』を纏っておるんじゃ?」

「……ん? なんですと?」

まーたら訳の分からないことを言いだしたな。
このジジイは。
俺は昼飯を食った事忘れてそうなジジィへ諦観の意で首を振った。
心なしかタングじいさんが額に青筋浮かべてるが、まぁいいだろう。ここは老人の話に付き合ってやるか。

「はいはい、それでケンキアツってなんなんでしょか?」
「む、やはり無意識というわけかのこれは。しかし、こんなことがありえるのか? 3歳の子供が……」

1人でぶつくさ呟きつつ自分の世界に入ってしまった。
質問に答えず話を進めないで欲しい。
どんだけタチの悪いボケじじぃなんだ。

「タングじいさん! ケンキアツってなんですか!」
「うぉ? すまんの少しボーっとしておったわ」
「まったく、話の途中で勝手にボケないでください。このジジイ」
「ぬぅあ!?」

さりげなく毒を吐きつつタングじいさんの話を続きを待つ。

「こほん。そうさな、すまんの。それでじゃ坊主は『剣気圧』についてはどれくらい知っておるんじゃ?」
「知ってるも何も今まで聞いたこともありませんよ」
「そうか……まぉ隠す事でもないし教えてやろう。アディは気づいてないだけかもしれんしの」

なんでここでアディが出て来たんだ?
理解が追いつかない。

「そうじゃの『剣気圧』の説明か……いざ聞かれると難しいものじゃの。言うなれば人類の遺産……は何か違う気がするしの……そうか、簡単に言うと剣士の強さそのものと言ったところかの。剣士達、いや戦士達は、圧を持って風のように舞い、圧を持って敵を打ち滅ぼし、圧を持って魔物の膂力りょりょくに耐えるんじゃ」
「…………それが『剣気圧』ですか?」
「簡単に説明するとそうじゃな」

なるほど、全然わからん。
中国のホームレスが使いそうな気功って事でオケ?

「普通はの、『剣気圧』は長い鍛錬のを経て身につけることができるものなんじゃよ。それを何故子供のお主が『剣気圧』を纏っておるのかが不思議でならん」
「そんなこと言われましても、ねぇ」
「お主、剣の修行をしていたりするのか?」
「僕3歳ですよ?」
「じゃよな……」

剣の修行なんてやる訳がない。
そんな運動好きじゃないし、絶対に面倒くさいに決まっている。絶対に魔法がいい。
ただ、まぁその魔法がダメだったとしたら……。

「でも、それにしてもなんで僕はその剣気圧なんて纏ってるんですかね?」
「坊主にわからんことはわしにもわかりゃせんよ」
「ですよね、ともしたら、あとはーー」

原因の究明は後でじっくり考えるとして一旦おいておこう。
もはや俺の興味はそこではないのだから。

「そうですね、それで、3歳で剣気圧纏うのって凄いんですか?」

大事なのはこれが特別かどうかという事さ。

「凄いというか、聞いたことも見たこともないわい。父親のせいなのかなにか別の理由があるのか……とにかく坊主は特別な存在なのは間違いなさそうじゃ」

「ふふ……そうです、かッ!」

Good! Great! Fantastic!
凄い! 凄いぞ! 素晴らしい!
良いぞ! いきなり楽しくなって来たぜ!

「タングさん! この剣気圧って何ができるんですか!?」

やっぱ俺すごいんじゃね!?

「剣気圧で出来ることか……」
「そうです! 何が出来るんですか!?」
「そうさな、基本的に強い戦士たちの誇る、高い運動能力はすべて剣気圧あってのことだと言われておる。じゃから、跳んだり、跳ねたり、駆けたりが速くなるかの」
「はいはい、ほかには!」
「あと斬撃を飛ばす輩もおるの。それと殴られても痛くなくなるぞい」
「な、なに? ざ、斬……撃……?」

聞き逃せない単語があった。

Japanese ZANGEKI……?

斬撃を飛ばすってあれ、お前、ちょ、アレじゃねーか! 絶対アレだろ! アレ!!

「斬撃を飛ばすんですか!? すごぉお!」

完全にフィクションの世界ではないか。
魔法もそうだが、なんて心踊る響きなんだ。

「そうかぁあ、斬撃かぁー! あぁ! 魔法以外にもその手があったかー!」

ルンルンと楽しい気持ちになって来る。
俺は今、魔法以外にファンタジー世界に新しい可能性を見つけたのだ。

「わしも少し圧を纏えてな。『剣気圧』のおかげで全裸での鍛冶場も余裕というわけじゃ」
「そういうことですか! 剣気圧ってめっちゃ凄いですね!」

きっと剣気圧があれば壁にクレーターが出来るような、攻撃されても効かなくなるに違いない。
これは是非とも「剣気圧」の真価を見てみたいところだ。よし、ちょっも実験してみるか。

「タングさん!」
「なんじゃ?」

よし、言うぞ。軽く小突いてもらうだけだ。
大丈夫だ、子供相手なら手加減してくれるさ。
俺は息を大きく吸いキリッとした顔でタングさんに向き直った。

「タングさん、ちょっと殴ってもらっていいでーー」
「よーしッ! わかった! 坊主がそこまで言うなら仕方ないのうゥゥウア、10連釘〇ンチ!」
「即決!? てか、え、ちょ今、釘パっ!?」

決断早すぎだろ、と俺が心の中でツッコム前に俺の視界はもみくちゃに蹂躙され、天地は勢いよく切り替わってしまっていた。

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