【完結】パーティを追放された若き【医者】、実は世界最強の【細菌使い】〜患者を救うより、悪党を殺す方向で世界を良くしながら成り上がる!〜

ノベルバユーザー542862

第18話 銀の剣士


早朝にはまだ暗すぎる空。

音楽ホール廃墟のまえの広場で、黒髪の少女は銀色に輝く剣をぬく。

錆びつき、朽ちるばかりの、過去の遺物とかした銅像を背に、彼女は腰を落とした。

俺は彼女の剣を見て、記憶のなかの情報のひとつとソレを照らしあわせる。

ファントムシティで数ヶ月にわたり収集した、闇の世界の噂に、『銀剣』と呼ばれる凄腕の殺し屋がいると聞いたことがある。

フリーランスで、金さえもらえばどんな対象でも抹殺するとか。

「お前が『銀剣』か」

俺はたずねる。

しかし、少女は意に返さず姿勢を低く落としたままーー。

来るか。

地面を踏み切り、少女の体が、一迅の風槍となって突貫してくる。

俺は半身をひいて避け、おもむろにカバンで彼女と顔をぶったたく。

が、少女は危うげなく体をそらせてかわした。

「……女の子を躊躇なく殴るなんて最低だよね」

少女はボソッとつぶやき、斬りあげてきた。

後方へスウェイし、避けて、俺は足をかるく持ち上げフロントキックで少女の腹を蹴り飛ばす。

「うぐっ!」

「人を斬りつけてくる敵に、性別は関係ない。俺はただ等しく脅威を排除する」

とは言え、だ。

ここはやや風が強い。
それだけで、多くの細菌が使えなくなる。

そして、度重なる襲撃で『人喰いバクテリア・β』も″奴″用をぬいて、ほかは品切れだ。

殲滅タイプのバクテリアたちは、万が一にもケースのなかの瓶が破損することを考えて、大量には持ち歩かないようにしてるため、わずかに残された細菌たちは、アジト内に潜むクズをスピーディに処するため温存しておきたい。

それに……彼女については、即死させる前に、確かめないといけないことがある。

俺はポケットからメスを取りだし、握りこむ。

「『銀剣』、ひとつ聞いていいか?」

俺は鋭く睨みつけてくる彼女へたずねた。

彼女は黙ったまま、ふたたび突っ込んでくると迷わず斬りつけくる。

縦横、左右、あらゆる方向から、まるで俺の技量を確かめるように打ち込まれてくる剣を、メスの刃でそらして受け流す。

「っ、なに、なんでよ、なんで、そんな、ちっちゃい短剣で!」

眉をひくつかせ、イラつく少女は感情のあらわれた突きをはなった。

ーー剣を振る時、一切の感情を捨てろ

子供の頃、父親から何度も言われた言葉が頭をよぎる。

「喋るな、ゴミ人間」

俺は思い出したくもない記憶を封じ込め、少女の甘い突きをかわし、右手親指の筋肉をメスで切断した。

これで剣は握れない。

同時に、流れる動作で、少女の硬い腹筋に膝蹴りをいれ、ひじで顔面を打つ。

「ぐ、っ、調子になるな!」

涙目で鼻血をだす少女は、俺の脇腹に左フックをいれると、下段、中段、上段と息もつかせぬ三段蹴りをお見舞いしてきた。

内側に響いて、体幹を崩してから熟達の蹴りに、思わず目を見開いてしまう。、

この子は強い。

「俺より若いのに、こんなに強くなれるものなのか。ーーまだ、俺のほうが上手だが」
「?!」

俺は少女の最後の蹴りである、上段を、首と肩で白刃取しらはどりし、それに動揺して固まる少女の顔を思いきり殴りつけた。

倒れこみそうになる少女の足を掴み、力一杯振りまわし、錆びた銅像へ投げつける。

「うぐあ!」

背中から銅像に叩きつけられ、少女は悲鳴をもらすと、地面に倒れて、虫の息という言葉がぴったりのように動かくなってしまう。

「っ」
「うりゃああ!」

近づくと、少女は顔をあげて、左手に握った剣で斬りかかって来た。

死んだふり、か。

速さの乗ってないそれを、かわして、彼女の左手首を手刀でたたいて武装を解除させる。

そうして、暴れる少女を無力化しながら、俺は羽交締めにして、拘束した。

「離せっ! このっ、イカれた殺人鬼め!」
「静かにしろ」
「私は、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ! 離せよ、ガブガブっ!」

腕を凄い噛まれてるが、まあいい。

「ひとつ質問していいか」

「ガブガブっ!」

「……少し話をしよう。『銀剣』、お前は闇の世界の住人を殺しまわってる、フリーランスの殺し屋と聞いたが」

「ガブガブ、ガブガブぅ!」

「俺はこんな噂も聞いた。『銀剣』には先代がいたと」

「ガブガブ、ガブ……っ」

「先代の名前はロンギス・パトリ。俺の調べじゃそいつは表向き、果樹園を営む普通の男だったそうだ。ただ、ある時、こつぜんと闇の世界から姿を消し……そして、また現れたという『銀剣』は姿が違っていた」

「ガブガブ……」

少女の噛みつく力がだんだん弱くなってくる。

俺は昨日の昼に『アルドレア医院』に届けられた果実のことを思いだす。

あの果実をもってきたのは少女の名前はマア・パトリ。

話によると、彼女の果樹園はどうやら『火炎病』という、木が燃えた後のようになって、枯れてしまう恐ろしい病に見舞われて、数シーズン前から閉園の危機に瀕しているらしかった。

同時に彼女と、その妹は自分たちと同じで身寄りのない子どものために、孤児院を運営してるらしいが、果樹園での収入がなくなり、極めて危険な状況らしい。

どうやって、果樹園と孤児院のふたつを維持しているのかと、俺が聞くとマア・パトリは、父親から剣術を継承した妹が、冒険者をしてお金を工面してくれていると答えた。

俺が聞いたのはそこまでだ。

その後、人間の病気以外にも興味をもって、かるく調べた結果『ハイアラキ・インフェンサ』という細菌に果樹が感染することで、例の『火炎病』が引き起こされるらしいと知った。

俺は、かいつまんで、腕のなかで暴れなくなった少女に俺の考察を言い聞かせていく。

「ひとつずつ紐解くと、あることに気がついてな」

俺は腕のなかの少女の衣服に付着した『火炎病』を引き起こす細菌を、すべて彼女から除去してつづける。

「最初の質問をしよう。『銀剣』、お前の名前はレイス・パトリ。マア・パトリの妹だな?」
「……がぶ」
「無駄な抵抗はよせ」

少女ーーレイスは噛みつくのをやめ、キリッと睨みつけてくると膝で俺の腹を叩いてきた。

かなり痛いが、我慢する。

「お姉ちゃんに手を出すなっ! このイカれた殺人鬼め! 殺してやる! 離せ、離せよ!」
「ぐふっ……落ち着け。俺は敵じゃない。明らかに冒険者の報酬じゃ、果樹園と孤児院の経営なんかできないことも、お前の姉には黙っておいてやる。この仕事をしてるのも、孤児院と家族を守るため……お前の思う正義のためなんだろう? 俺は味方だ」
「……がぶ」
「もう噛むな。……いいだろう。お前もまた俺と同じ正義のために、手を汚す道を選んだとわかった以上、仲間を見捨てるわけにはいかない」
「?」

俺はレイスを離してやる。

すると、レイスはすぐさま銀の剣を拾いあげ、思いきり突きをはなってきた。

俺は避けず、微動だにしない。

ーーギィン

「……」
「……」

ペストマスクの横をかすめて、銀の剣の先端が背後の銅像に突きささる。

「……港の8番倉庫。そこに、大金がある。犯罪者どもが取引しようとしていた金だ。それをやる。アブナイ葉っぱもたくさんあるが、そっちは持っていくな」

俺がそう告げると、レイスは目を見張り、ポカンとして年相応の少女の顔をする。

「雇い主は『百面』か」

俺の質問。

「……」

レイスは答えない。

ただ、

「……この先、『犯罪顧問』が逃走の準備をしてる。殺したいなら、はやくするといいよ」

レイスはそう言って、銀の剣を鞘におさめた。

「……私は、闇にひそみ、悪を断つ″銀のつるぎ″だよ。お前みたいなイカれた殺人鬼なんかとは違う。『白衣の死神』、今回は見逃してやるけど、時が来たらお前の命がどっち側なのか、見定めて……必ず……」

「ああ、そうするといい。せいぜい、君を殺すことにならない事を祈ろうか、レイス」

レイスは目線鋭く俺を睨み、銀剣を片手に、音楽ホールまえを立ち去った。

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