【完結】パーティを追放された若き【医者】、実は世界最強の【細菌使い】〜患者を救うより、悪党を殺す方向で世界を良くしながら成り上がる!〜

ノベルバユーザー542862

第14話 新婚感


「あ、アレックス先生!」
「待たせたね、申し訳ない」

娼館の外で白衣を肩にかけて待っていたパトリシアと合流する。

「ファントムシティの夜は危ないです。それにその格好じゃ、悪い者の気を引きすぎるでしょう。家まで送りますよ」

俺は彼女背中を押して、歩きだす。

「ありがとうございます、アレックス先生……横歩いてもいいですか?」

パトリシアは気恥ずかしそうに言った。

「? もちろんいいですが」

パトリシアは俺の答えを聞き、ぱぁっと顔を明るくすると、子犬のように擦り寄ってくる。

存外に気に入られてしまったな。

俺はパトリシア頭をいっかい撫でてやり、彼女をつれて歩きだした。

「アレックス先生って……天然ですよね」
「? なにがですか?」

よくわからない事を言われた。
聞き返しても、パトリシアはクスっと笑うだけで答えてはくれなかった。


⌛︎⌛︎⌛︎


夜のファントムシティを、目を光らせて睥睨へいげいし、パトリシアを無事エスコートして家に送りとどけた後。

気絶させたクズふたりをアルドレア医院からほど近い廃墟に監禁して、いったん家に帰った。

「アレックスさん! 遅いですよ!」
「すまない。治療に手間取ってね」

リビングに入ると、エプロン姿のルミリアが頬を膨らませて、ご立腹の様子だった。

まだ会って、1日しか経ってないのに、やけに安心感を覚えている自分と、ずいぶんと態度に遠慮がなくなった彼女に、不思議な驚きを感じる。

それにしても、

「ルミリア、そのエプロンはとっても似合っているな。俺には合わない貰い物だったから、奥にしまっておいたのに、よく見つけたな」
「えへへ、似合ってる、ですか? そんな、正直に言われちゃうと照れてしまいますよ、アレックスさん、えへへ♪」

ルミリアがにへら〜とだらしなく微笑み、幸せそうに頬を両手で押さえて言った。

よかった。
機嫌を直してくれたようだ。

「ところで、ルミリア、そんな格好しているということは何か作ってくれたということか?」

「むふふ、その通りですよ、アレックスさん。見てください、茹でじゃがです!」

「ほう、茹でじゃが、か…………じゃがいもを、茹でただけか……?」

ルミリアが自信満々にかたむける鍋のなかをのぞきこむ。

俺はどれだけ目を凝らしても、じゃがいもが茹でられた以上の情報は掴むことは出来なかった。

これは果たして料理と言えるのだろうか。

いや、しかし、ルミリアがこんなに誇らしげなんだ。
きっと、俺には知り得ない努力と葛藤が、この茹でられたじゃがいもには秘められているんだろう。

それをないがしろにしてはいけない。
他人の気持ちをふみにじるのは悪党だけで十分だ。

「る、ルミリア、ありがとう。すごく美味しそうだな、ぁぁ、美味しそう、だ……」
「えへへ、そうでしょう、そうでしょう! さっ、アレックスさん、一緒に食べましょう!」

鍋をもち、机へ運ぼうとするルミリア。

俺は覚悟をもっえ彼女の肩をつかみ、食卓に運ばれるじゃがたちの侵攻を静止する。

「待つんだ、ルミリア。もっと美味しくなる方法を教えよう」

ルミリアのじゃがいもを無駄にするわけにはいかない。

とはいえ、流石にこのままいただくのも、料理を多少たしなんだ身としては許せない。

普段は果物などの簡易的なモノで済ませるが、料理できる時はベストを尽くす。

それが俺のあり方だ。

「いろいろ、買ってきたな。こんなにたくさんあるとは」

ルミリアが買ってきたと思われる紙袋の食材のなかから、新鮮なにんじんを取りだす。

スキル〔細菌碩学さいきんせきがく〕で有害なものが含まれてないかチェック。

オーケー、これなら食しても問題ない。

「ルミリア、君はこのにんじん切っておいてくれ」

「はい! アレックスさん、任せてくださいな!」

元気よく返事して、ルミリアは置いてあった包丁をおもいきり振りあげる。

何が始まるのか、戦々恐々としてみていると、ルミリアは包丁を勢いよくにんじんに叩つけはじめた。

狂気。

「待て、待て待て……落ち着くんだ、ルミリア」
「え? どうしましたか、アレックスさん」

俺は正気をうしなってるのか、絶望的に包丁の使い方を知らないのか、イマイチ判断がつかないルミリアを安全にせいするために、彼女の背後にまわった。

錯乱してる可能性もあるが、ここは彼女が料理を苦手としていると推測する。

ならば、包丁の使い方を教えてあげるのが、今後のことを考えてもベターだろう。

愛らしい彼女には『アルドレア医院』のクッキングマスターも務めてもらう予定なのだから。

「ルミリア、力をぬいてリラックスするんだ」

「!?」

ルミリアの背後から小さい体を包みこむように覆いかぶさり、彼女のちいさい手が、懸命に握る包丁に優しく手をそえる。

もう片方の俺の手は、リスのように小さい彼女の手を、猫手がごとく指をやんわり丸めさせ、にんじんのうえにそえさせた。

「あ、あああ、アレックスさん……っ、こ、これは、これは、あわわわわわ……っ!」
「ルミリア、落ち着いてやれば大丈夫だ。ゆっくり手を動かすぞ。さん、はい」
「ふにゃああ! アレックスさんの吐息が耳元に……! 殺す気だ、この人、私のこと悶え死なせる気ですよ……!」

やれやれ、初心者とはいえ、ここまて取り乱すとはな。

これは根気よく教える必要がありそうだ。

「ルミリア、しっかり手元を見ろ、俺を見てどうする。にんじんと向き合うんだ」
「はぁ、はぁ……なんだか、夫婦みたいですね……とか、言ってみたり……えへへ♪」

その後、やけにスリスリしてくるルミリアを押さえながら、俺はにんじんの切り方をルミリアにマスターさせる事に成功した。

この日の夕飯は、茹でじゃがと茹でにんじんと少々の鶏肉を使ったとりがらスープになった。

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