【完結】パーティを追放された若き【医者】、実は世界最強の【細菌使い】〜患者を救うより、悪党を殺す方向で世界を良くしながら成り上がる!〜

ノベルバユーザー542862

第12話 君が思うほど汚くない

「ほら、とっとと行っちまえ!」

娼館のマスターはそういって表口をばたんっと閉めてしまった。

「よお、アレックス」
「ん」

娼館をでると見知った人物に出会った。

ドッジだ。

つい昨日わかれたばかりなのに、やけに久しぶりに感じる。

「アレックス、お前もちゃんとチンコはついてたんだなぁ!」
「……どうした、ドッジ、不安定なようだが」

瞳孔が揺れている。
およそ、まともな精神状態じゃないと見える。

ドッジはへらへらと、薄ら笑いを浮かべ、おかしくて仕方ないと言うように腹をかかえだした。

俺は無視して一旦家に帰るべく、背を向ける。

すると、店横の路地からトタトタと走ってくる少女を見つけた。

「アレックス先生!」
「パトリシアか。いったい、どうしましたか? ……ドッジ、なにをーー」

振り向くと、同時に視界横のドッジが動いた。

「ひゃはぁあっははーっ!」
「嫌っ?! な、なんですか!?」

パトリシアに後ろから抱きつき、ドッジは短剣で少女の服横をスーッと裂いてひらくと、その間から手を差しこんだのだ。

無駄に洗練された手際に、初犯じゃないと直感的にさとる。

「ひゃ?! やめっ、汚い、気持ち悪いっ」
「うるせぇ! てめぇは娼婦だろうが、又開くのが好きなら、黙ってヤらせろよ!」

横暴にもほどがある罵声。

こいつはもうーー。

「動くな、アレックスぅう!」
「ひぃ、痛ぃ、ぅぅ、ぁぁ、アレックス先生……ぅぅ……っ」

パトリシアの胸を力強く鷲掴みにし、ドッジは彼女の金髪に顔をうずめて匂いを嗅ぎながら、短剣を白い喉元につきつけた。

「動いたら、この売春娘を殺す。いやだったら、そこで服脱いで土下座しろォオ!」

意味不明なんだが。

「……やっぱり考えてもわからないな。意味不明なんだが」
「うるせェェェェエ!」

謎の行動に対して率直な感想を述べても、ドッジは聞く耳をもたない。

まあ、どのみちパトリシアに手を出した時点で殺そうとは思ってた。

「さっさとしろ、アレックスぅう! 俺様はこれ以上待たな……う゛ぅ?!」

パトリシアの服をさらに裂いて、ほとんど脱がしかけたところで、ドッジは短剣を取り落とし、心臓を押さえて倒れた。

恐怖に泣くパトリシアを抱きとめて、ドッジを見下ろす。

「な、なんで、またか……! いつ毒を盛られたんだッ!」

ドッジは血眼ちまなこで見上げてくる。

「昨日も説明しただろう。強欲菌がお前のなかで息づいてるかぎり、すべては無意味だ。一度、不活性化させたせいで、効果が現れるまで時間がかかったが、まだまだ効力はある」

地面のうえ、ドッジがのたうち回る横で、パトリシアの怯える瞳を覗きこむ。

幸いにも怪我はなさそうだ。

「ぁ、ありがとうございます、アレックス先生……あぁ、アレックス先生の腕のなかなら、凄く安心出来ます……」
「そうですか。それは良かったです」

パトリシアは裂けた服からのぞく乳房を恥ずかしそうに隠し、頬染めて疲れた笑みを向けてきた。

白衣を着せてやる。

すると、パトリシアはぶかぶかの白衣を胸に抱きしめるように着て、深く白衣の匂いを吸い込んだ。

普通に臭いと思うのだが。

「ああ、幸せです……アレックス先生の匂いがします……ふふ」
「俺が着てたから当然ですよ」

「アレックずぅう! てめぇぇ、尻軽女といちゃ、ついてんじゃ、ネェェェェ!」

えらく満足げなパトリシアから、目を離すとイモムシみたいに這いずって、ドッジが足元までやってきていた。

顔面に一蹴りいれて静かにさせる。

「それで、パトリシア、何か用があったんじゃないですか? 今夜の仕事はもう終わりですか?」
「っ、そうでした。はい、今夜は終わりですよ、アレックス先生。……それで、その、みんなを代表して、みたいな感じなんですけど……またここへ来てくれます、か?」

パトリシアは自信なさげに、歯切れ悪く聞いてくる。

「また来るかはわかりません。患者がいれば来ますし、いなければ来ないでしょう」
「……そうです、よね。すみません、つまらないこと期待して……」

ひどくテンションを下げて、パトリシアは言った。

ふむ。

彼女の感情の起伏が起こるわけは察するにあまりあるが、気になることがひとつ。

パトリシアは危険性を知ってなお、この仕事を続けるつもりなのか、だ。

「パトリシア、君はまだ娼婦を続けるつもりですか?」
「っ……軽蔑しますよね、すみません。私なんて、アレックス先生に話しかけることすら、おこがましいのに……私たち、いえ、私は特に汚い女ですし……」
「?」
「…………アレックス先生も、わかってると思いますが、娼館で働いてる子たちは、多くが訳ありなんです。こういうのが好きで、進んでやってる子ももちろんいるけど、そういう子は、多くはなくて、ほとんどは″選択肢がない″子ばかりです」
「……」
「でも、私は……貴族の令嬢たちみたいな綺麗な服が買いたいって、そんな理由で、体を売ってるんです……すみません、こんな余計なこと話してしまって」

パトリシアは視線で地面をなぞり、押し黙った。

「軽蔑はしませんよ。人が何をしようとすべては、個人の選択ですからね。綺麗な服が着たい、貴族じゃないから着れない道理はない。そのための手段が、人を殺したり、あるいは尊厳を傷つけ、欲望を満たすようなものならともかく、報酬のために心と体をトレードするのは、十分に健全です。……娼婦は、選択肢がない子がいきつく場所であるべきじゃない。さっきも言ったように、それはある種の合法レイプです。むしろ、パトリシアのように目的があって、それを容認できる女性が集まるべきでしょう。その意味においても、やはり君は健全だと思いますよ」

パトリシアの肩を白衣のうえから押さえて、彼女の瞳をまじかでのぞきこむ。

彼女は顔を真っ赤にそめて、瞳からうっすらと涙をこぼした。

思い悩む人の心も救いたい。
正義のヒーローなら、貪欲にそう願ってもいいだろう。

「君は君が思ってるほど、汚くなんかない。むしろ、とっても綺麗じゃないか」
「っ、アレックス先生……だめですよ、そんな、どこまで……」
「ただ、危険なことには違いないです。さっき、また来るか、と聞いてましたよね? その答えを修正しましょう。また来ます、と。定期的に健康診断したほうがいいですから。みんなで多数決でもして、話し合ってみてください」

「っ、はいっ! 絶対に満場一致ですけど、あはは……アレックス先生が来てくれるなら、みんな、喜びます」

パトリシアは夜に咲く花のような、綺麗な笑顔をさかせて言った。

「それはよかった。それじゃ、家まで送り…………いや、その前に片付けておくか……」
「? アレックス先生、どうしました?」
「パトリシア、さっきのマスターはまだ店にいますか?」

パトリシアの返事を聞き、彼女を店のなかで待つように伝え、俺は″ドッジを抱えて″路地裏へはいった。

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