【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する
第68話 氷室阿賀斗
「状態変化の勉強からだ」
氷室は内側に空間ができるよう、両手をあわせた。
なにをするのか。
俺が警戒していると、ニヤッと笑いこちらへ向けて手のひらを開けた。
瞬間、俺の体はふっとび、操縦室の壁面モニターに激突させられた。
背中が痛い。
だが、なんの事はない。
槍を構えて立ちあがる。
しかして、俺は何をされたのか?
「水蒸気爆発だ。水は気化するさいに約1,700倍に体積が膨れあがる。急速な水の昇華現象をオーラでつつみ任意のタイミングで圧力を放つとこの通りさ」
小賢しい。
「くだらないな。そんな攻撃何万発喰らっても俺は倒せないぞ」
「だろうな。では、こっちは?」
氷室は氷を握りこみ手にオーラを集中させる。
何かがくる。
そう思い俺は液体金属を展開して、独立状態で自動防御することにした。
氷室が手のひらを開く。
すると、鋭い杭のように形成された氷槍が目にも止まらない速さで無数にとんできた。
その多くは、液体金属のガードにより防げたが、3本ばかり貫通して飛んでくる。
俺は片手でそれぞれ掴み取り、氷室に見せつけながら握り折った。
「素晴らしい反射神経だ。MM4液体チタン合金を使っているのも実にグッドだ」
「空気ではなく、質量のある物質を飛ばす。それだけで破壊力は数十倍にもふくれあがる」
「講義好きなやつだ。今すぐ黙らせる」
俺は手元にポケットを開いて、氷室の側頭部に出口を開いた。
魔槍をポケットのなかに突っこむ。
「っ!」
氷室は目を見張っていた。
顔横のポケットの出口から魔槍が飛びだしてきたからだ。
とっさに彼は、槍の直撃部位をオーラと氷でつつみ、魔槍の一撃をしのぐ。
だが、モロにはいったので、彼の体は思いっきりふっとんだ。
水色の結晶がパリンっと舞い散る。
壁に激突した氷室の動きだした。
壁面を大きく凹ませながら、氷をクッション材としてダメージを抑えたらしい。
氷室の顔横からダラダラと流血している。
完全に防げたわけじゃないらしい。
「確かにそういうものアリか。アナザーといえど創造的な戦い方をするものだ」
間合い無視のゼロ距離攻撃。
名付けるなら『次元槍』と呼ぼうか。
「お前がアルカディア最強の超能力者だかなんだか知らないが、俺は容赦なく殺す。知識自慢も、能力自慢も付き合わない」
「賢明な判断、と褒めておこう」
氷室は薄ら笑いをうかべる。
俺はすぐさま手元と氷室の間近をポケットでつないで、もう一度魔槍で突いた。
「ぐぅッ」
氷室の体が弾かれて、操縦室の巨大モニターに激突した。
モニターに大きな割れ目がはいり、映像が消える。
俺の槍を避けられる者はいない。
俺自身ですら避けられる気はしない。
「船にダメージを与えなくない」
「……なに?」
氷室はつぶやき、ジャケットの内側からスイッチを取りだして、ポチッと押した。
すると、操縦室の上部が変形して、長大な縦穴が出現した。
「ステージを変えようか、終焉者」
氷室は俺の足元からつきあげるように氷塊をつくりだす。
俺が一歩後退して避けている間に、彼は縦穴へと飛んで逃げてしまった。
追いかけると潜水艦の甲板上部にでた。
高さ450mの斜塔に貼りついてる感じだ。
「マクレインもジャクソンもいないか……やれやれ、娘にここまでやられるとは」
氷室は疲れたように首をふりながら再度、スイッチを押して甲板の緊急排出口を閉じる。
「あんたの娘、氷室雪乃か」
「有望ゆえ養子にとったが、やはり血の繋がりのない雌犬ではこの体たらく。恩を仇でかえす痴れ者だ」
裏切り。
ハンターズの指揮権で戦力の多くを撤退させ、いまでは四天王と思われる戦力すらも氷室から引き剥がしたわけだ。
「孤独な王様だな、あんた」
「王とはいつだってひとりぼっちだ。そして、唯一無二、孤高の存在だ」
氷室は甲板全体に霜をおろして氷結の予感を感じさせる。
俺は奴がなにかするまえに、速攻で奴の心臓部位への『次元槍』をはなった。
氷室は避けようとモーションを取るが、かわし切れずに魔槍は深々と肩を貫いた。
回避は困難だろ?
「ならば、もう突かせなければいい」
「っ」
手元のポケットに刺しこんだ魔槍が、すごい勢いでポケットのなかへ引っ張られる。
氷室を見ると、奴が槍の突く勢いそのままに槍を掴んでひっぱっているのがわかった。
あやうく持っていかれそうになる。
だが、氷室との綱引きならぬ槍引きは俺の圧勝に終わる。
「っ、この俺よりもパワーが強い……?」
「過酷なトレーニング、良質なタンパク源。こっちは鍛え方が違うんだ」
俺はきちょタンの真価を発揮し、槍を思いきりひっぱった。ミスターたちを忘れない。
「ぐっ!」
氷室はポケット空間に頭を突っ込みそうになりながら、執念深くはなさない。
彼の腕がこちらのポケットから出てきた。
その瞬間、俺はポケットを閉じた。
次元のねじれは正常に戻る。
空間の断絶は、氷室阿賀斗の右腕をひじからさき、綺麗に切断させた。
前腕が俺の足元をころがって、かたむいたNEW HORIZONの下層へと落ちていく。
「槍の突きだす勢いが強すぎると思ったが、肉体スペックが異常なのか……これほど強いアナザーは神殿にもいなかったか……」
氷室は痛みに顔をゆがめながら、腕を凍らせて止血した。
俺は遠慮なく、もう一度『次元槍』を行い今度こそトドメを刺そうとする。
「させん」
氷室は俺と彼の間に氷の壁をつくりだした。
だから、なんだと言うんだ。
俺の『次元槍』はこんなもので防げない。
「っ」
しかし、発動してみて気がつく。
俺が狙った位置に槍をついているのに、透明な氷の向こうにいる氷室に俺の攻撃が届いていない。
なんでだ?
「氷は光を屈折させる。お前の位置から見える氷室阿賀斗は、虚像にすぎない」
「くっせつ? きょぞ、?」
知らない単語をだされて認識が追いつかない。
「所詮は原始人。お前のその空間能力はその目で敵を直にとらえていないと、効果を発揮できないといっているんだ」
自分の能力の欠点を知って「なるほど」と納得すると同時に「まずいのでは?」という焦燥感が襲ってきた。
氷室の身体左手が真っ赤に燃えはじめる。
「エネルギーは移動の際にロスが発生する。電気エネルギーだったら、送電線を通っているあいだに本来活用できるはずのエネルギーの多くが失われる」
氷室の後方に太陽が出現した。
思わず目を閉じるほどの極光だった。
「見たまえ、これがエネルギーロスを極限まで抑えた王の怒りだ」
氷室の後方の太陽が消えうせる。
瞬間、俺は足に鋭い痛みを感じた。
穴が空いていた。
人差し指が入るくらいの穴だ。
「っ、見えない?!」
液体金属の自動防御すら、まったく反応していない。それほどの速さ。
そして、俺の体に穴をあける威力。
「どうした? さっき海洋生物を凍らせた際に保存した熱量を束ねてレーザー照射しただけじゃないか?」
知らない単語にイライラする。
俺は意識を傷口に集中させて再生させた。
「超再生能力。つくづくお前の人間ではないな、終焉者」
「ぬぐッ?!」
何かがキラッとだけ一瞬光った。
とたんに俺の左腕が吹っ飛んだ。
瞬きのあとには右腕がふっとんで、魔槍が斜塔のしたへ落ちていった。
「電磁波としてのエネルギーロスも、分厚いオーラでつつむことで92%カットしている。光として俺の超熱線を認識することは不可能だ」
よくわかんねえけど、見えないって言いたいのか?
「そうでも、ない、けどな」
俺は両腕を黄色い繊維から、骨、赤色の筋肉、ピンク色の皮と肌と生えさせる。
「無駄なことを」
またキラッと光った。
俺はその光にあわせて身をかがめた。
避けきれず、頬がすこしだけ焼き斬られる。
しかし、それは氷室にとって大きな誤算だったらしい。
「なっ、対応、してるのか……?!」
「地味に見えるぞ。そろそろ慣れてきた」
ほら、また光った。
俺は光の角度にあわせて身をひねる。
今度は完全に避けれた。
俺は得意になって目の前の氷の壁を蹴りわって、氷室に接近戦を挑む。
「進化速度がはやい……っ、いずれ追いつかれるとでも? この俺が?」
氷室はぶつくさ言いながら、氷の壁を幾十にも展開しまくり、距離をあけて逃げる。
俺は氷の壁をタックルでぶっ壊しながら、飛んでくるレーザーとやらを避ける。
──ヂィ
「痛ッ!」
「光がみえているなら、あえて見えやすい熱線と見えにくい熱線を混ぜればいいさ。流石は俺、天才すぎる」
見えるレーザー。
地味に見えるレーザー。
氷の壁で屈折して見えるレーザー。
そうでないレーザー。
たまに足元から氷槍が突き出してくる。
氷室はさまざまな能力の組み合わせを試すように逃げながら攻撃をしかけてきた。
俺に『次元槍』を打たれないように、常に氷一枚、俺との間にはさみながら。
しかし、そのどれも致命傷にはならない。
なぜなら、見てれば慣れたから。
「ほいっと」
──戦闘開始から10分
毎秒数十発と飛んでくるレーザーを無傷でかわすことが出来る様になっていた。
「ん、どうした、もう終わりか」
氷室が立ちどまり、こちらを睨みつけてくる。
「これ以上は不毛だ」
「だろうな。どちらかと言えば、あんたに不利だろう。俺はあんたのすべてに適応する」
「アルゴンスタの食用化を本格的に進めるべきだった。他の生物へあたえる環境適応および進化能力ならば、お前に引けを取ることもなかっただろうに」
「へえ…」
アルゴンスタの力だったのか。
なんかやけに俺も自分の要領が良すぎると思ったよ。
ミスター・タンパク源たちを食べまくってたおかげで、いつのまにか進化能力がついてたみたいだな。
「お前を殺すには必滅の一撃を用意する必要がありそうだ」
「必滅の……なにをする気だよ」
「俺の真のチカラを見せようと言っている」
氷室が氷壁を向こう側で、強大なオーラをまとっていくのがわかった。
内側からとてつもないエネルギーが放出され、足場の斜塔NEW HORIZONが凍てついていく。
次の瞬間──
「《永久凍土・極点召喚》」
白い吐息とともに、空間をきしませる、悪魔のささやきが聞こえた。
──視界すべてが白に終わる
体の芯まで鼓動を停止する。
本能が生存を諦める。
アルカディア全土をつつみこむほどのオーラの爆発は、およそ誰一人として例外なく、すべてを絶対零度の凍獄に収監した。
音が消えた世界だった。
「ぁ、ぅ、ぁ」
俺は五感の全てが効かなくなっていたが、それでも必死に身体を動かした。
やがて、全身をつつむ氷を砕いて、一定の空間を確保できた。
足元から熱を感じる。
俺の立っているNEW HORIZONは、表面を緑色のエネルギーでおおって、今しがたの絶死絶命の攻撃から船体を守っていたようだ。
「核兵器を撃ちこめば、流石の終焉者も死ぬだろう。だが」
俺は凍りついて動かなくなった顔を、声のする方へむける。
全方位氷におおわれた、幻想的な雰囲気さえ感じさせる洞窟のなか呑気に歩いてきた。
「今は手元にアルカディア・コードがなくてな。慣習的に厳重なロックを課していたが、こんなことなら指先ひとつで撃てるようにしておくんだった」
「ぁが、ぅ、ぅ!」
体の抵抗力を信じて氷を溶かす。
「氷結耐性だったか。そろそろ、動けるようになるだろう」
「ひむ、ろ、ぅ、おま、え……ッ」
凍りついた脳裏をラナやファリアの姿がよぎる。
いったいどれほどの範囲を凍らせた?
この凍結能力、シャレにならない。
耐性がある俺ですら、このザマだ。
では、港にいたみんなは?
どうなったんだ?
「残念ながら、君は絶望に沈みながら死ぬことになる」
「っ」
「今の能力発動でアルカディアの都市面積63%を凍りつかせた。『酸素街』は全凍結。周辺区画も摂氏-230度前後でホワイトアウトだ。叛逆市民たる君の仲間たちが港にいたのなら、生存は諦めるがいい」
無慈悲な宣告に俺のこころは握り潰されそうになる。
俺が間違っていたのか?
最強の超能力者に勝てるとおごっていた?
「らな、らな…ぁぅ…」
こぼれる涙が凍りつく。
結晶となってNEW HORIZONのエネルギーシールドのうえに落ちて砕ける。
何のために、ここまで頑張って来たんだ。
ラナといっしょに地上へ帰ろうって約束したのに。
「憐れ終焉者」
氷室は無くした腕を、輝く氷の義手で補うとスマホを取りだして、どこかへ電話する。
「衝撃にそなえろ。今から″リリース″をつかう」
氷室はそれだけ電話をすると、こちらへ向き直る。
俺はうつろな眼差しで氷室を見あげる。
「まだ、何かする気なのか……」
「終焉者を殺すためには氷では足りない」
氷室は胸のまえで片手を開く。
「では、理科の授業にもどろう。俺の能力が熱操作にすぎないと言ったな。では、いったいアルカディアの半分を凍らせるために消えた熱量はどこへいったのか。こつぜんと姿を消すわけではないぞ」
氷室阿賀斗は氷を生みだした、空気や水から奪った分だけの熱を溜めこんでいる。
とすると、
「ここだ」
氷室は手のひらを開く。
極光とともに猛烈な熱さを感じた。
「南極の氷の10,000分の1にも満たないが、すべてを昇華させればさぞ面白いことになる」
──水蒸気爆発
氷室が最初に言った言葉がよぎる。
「素直に交渉に乗ればよかったものを──残念だ、終焉者」
人生の記憶が高速で脳内を流れていく。
走馬灯というやつか。
俺がこれまでに経験したすべて。
死ぬんだな、俺。
ラナも守れず、仇も打てず。
俺はすべてを諦めていた。
(ぐぎぃ)
グランドマザー?
思念体で話しかけているのか。
(ぐぎぃ)
なに?
俺の知らない記憶?
グランドマザーの言葉を受けて、俺は自分の記憶のなかに″俺の知らない記憶″があることを知った。
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