【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する
第65話 拳者と剣王
「人ノ型──龍葬三連脚」
直立姿勢から、ぴょんと飛びあがり、回転しながらの連続回し蹴り。
側頭、ひじ、脇腹へ段階的に強力かつ高速打撃をくわえて、体格のデカい落伍者を壁にたたきつけて動かなくさせる。
達人の動きだ。
「だいたいこんなところか」
リーシェンは床に伸びてる落伍者たちを一ヶ所に集めてエリア制圧を完了した。
「これで4ブロック分は退治したと思うよ。ここら辺に爆弾設置するばよさそうだね」
「そういうのはよくわかんないんだ。そっちで勝手にやってくれ、リーシェン」
俺はおざなりに手を振って、ポケット空間からファリア謹製の拠点防衛爆弾をだして、リーシェンへとわたす。
設置はまかせて一足先に休むことにした。
自動販売機とかいう機械の扉を磁力操作でひきはがして飲み物を手にいれる。
俺が一服していると、リーシェンが爆弾を設置しおえてやってきた。
「これいらない」
泥水のように苦い茶色い飲み物をリーシェンにおしつける。
「コーヒー飲めないのか?」
「海底人はそんなものを飲み物としてるのか。やっぱり地上へ連れていくのは危険だな」
「苦いのが嫌い、か。それじゃこっちのほうが好きなんじゃないかな」
コーヒーとやらの代わりに、リーシェンは自動販売機から別の飲み物をわたしてくる。
シャワシャワして美味しいやつだった。
これはうまい。
「ところで、エイトくん」
「ん?」
隣あってベンチに座っていると、リーシェンはおもむろに立ちあがった。
「さっきので動きは見れた。もうだいたいわかったつもりなんだけど、どうだろう、ここらで手合わせしておくのは」
リーシェンの黒い瞳をみつめかえし、俺は缶を握りつぶして答える。
俺たちは防衛ラインからほどよく離れた広間にやってきた。
「一応、仲間だと思ってたんだけどな」
なんとなしにつぶやく。
友情を感じてた訳じゃないが、敵だとも思っていなかっただけだ。
「はは、別に手合わせするから敵になるってわけじゃない。僕みたいな武術家というのは、より強い者とたたかって自分を磨きたいものなんだよ」
「難しい生き物だ」
「そうでもないよ。単純極まるだけさ」
そういえば、ソフレトの外の国にはその手の人間はいると聞いたことがあったな。
鍛錬に明け暮れ、剣の道を極める。
求道者と言ったか。
「カッコいい生き様だと思う」
「ん、ありがとう、エイトくん。僕たち友達になれたかな?」
「いや、それはない」
「あ…そう? 残念だなぁ」
ほがらかに微笑み、リーシェンは構える。
大地に根をおろすような深い構えだ。
俺には近接格闘の心得はないので、棒立ちでいどむ。何となく腰を落とすくらい。
「なんで今なのか、聞いてもいいか」
「それも単純なこと。エイトくんはもうすぐ地上へ帰ってしまうんだろう。なら、獲物に逃げられるまえに挑むのは当然。ね?」
言われて「そうだな」と淡々とした声でかえした。
「それじゃ始めるよ。僕が納得するか、君が負けを認めるまでやろう」
「怪我はさせないぞ。お前には潜水艦に乗ってるやつらを相手してもらわないと」
俺の言葉に返事をかえさず、リーシェンは地を蹴っていっそく跳びに距離をつめてくる。
ポケット空間をひらいて、俺は独立状態の液体金属を展開した。
「ツァ!」
リーシェンの拳撃が銀の壁にふせがれる。
気合いとともに突進力の乗った拳。
それでも、ハンターズの質量弾をもふせいだ俺の液体金属自律防御はとおさせない。
リーシェンは続いて四、五回打撃をくわえたが、そのすべては俺の皮膚から均一1mに展開される壁を越えることかなわなかった。
「終わりにするか?」
「まさか」
「攻撃していいか?」
「……もちろんさ」
許可をいただいたので、攻撃を開始する。
思えば俺もいろいろとやれる事が増えた。
実験もかねて試してみようか。
「まずは、こんな感じで」
俺は液体金属を変形させて、鉄球を生成する。そして、それをリーシェンへ撃った。
「ぐぁあッ?!」
「思ったより威力ありそうだな」
目にも止まらぬ速さの鉄球に、リーシェンはふっとんで10メートルほど転がった。
「ぅ、ぅ、それ、ズルくない……かい…」
「れっきとした俺の力だ」
さて、次は液体金属以外にも金属オブジェクトを操れるんだったか。
「ほいっと」
俺はさきほど破壊した自販機を手元に引き寄せて、磁力で引き絞って、加速させて投げつけた。
もちろん指いっぽん触れない磁力操作だ。
「ツァアッ!」
リーシェンは掛け声とともに、手刀で自販機を叩ききる。
白い蒸気となった汗がパシャンッと音をたてて、さわやかな汗が宙に散る。
真っ二つにわれたスクラップたちは、彼の背後の壁に穴をあけて突き刺さった。
「やっぱり、液体金属がパワーもスピードもコントロールも最大に発揮できるっぽいな」
原理はイマイチわからない。
「慣れは大事だよ、エイトくん。信じて貫いてきたなにかは、必ず答えてくれる、必ず力になってくれるんだ」
「覚えておこう」
ならば、俺にとっての信頼は、ともに海底を渡って来た液体金属ということになるな。
では、コイツだけで完封してみるか。
リーシェンが軽快な足取りで間合いをつめてくる。
俺はオートガードを解いて、ふたたび鉄球をつくって撃ちだした。
しかし、同じ技は喰らわない。
リーシェンは目をカッと見開いて腕を素早くまわして鉄球の軌道をそらした。
鉄球が遠くへ飛んでいってしまう。
「回し受け」
「あ、やば」
「胴体ガラ空きだ、もらった!」
液体金属をすぐに手元にもどせない。
無防備な俺のふところへ入りこみ、リーシェンは、地面を砕くほどの踏みこみとともに
渾身の一撃を打ちこんできた。
視界が揺れ、内臓に振動がひびく。
「──龍葬咆哮拳」
身体を衝撃がぬけていった。
俺はふわっと浮いて、数メートルほど地面を摩りながら後退させられる。
かなり痛い一撃だった。
「ぅぐ……」
「どうした、リーシェン?」
殴られた腹部をさすっていると、リーシェンが手を押さえてひざまづいた。
彼の拳から血がでているのがわかる。
「硬いよ、エイトくんは」
「ハンターズもそんなこと言ってたか」
「だろうね。あぁ、なんか僕が思ってた戦いと違うなぁ……」
リーシェンは残念そうにこぼして「もういいや」と開きなおった表情になる。
「満足したか?」
「僕の負けでいい。あの攻撃で君の防御力を抜けないとなると、現実的にダメージを与えること自体が難しいからね」
「わかった、それじゃ港に戻ろうか」
俺はリーシェンに肩をかして歩きだした。
一応、俺が勝者という事でいいだろう、
ふふん。
「待たなさい、そこの終焉者」
背後から声がかかる。
俺たちは共にふりかえった。
見ると黒いコートを着た人が立っていた。
精悍な顔つきの黒髪黒瞳の……少女だ。
かなりの美人さん、俺よりやや若い。
男勝りな気配を感じるが、ラナというボーイッシュを知ってる手前なんとなくわかる。
細身の直剣をもち、それ以外には銃ひとつもってるようには見えない、
ブーツで足元の空き缶を蹴りとばしながら、こちらを見つめて近寄ってくる。
「あなたが終焉者、そっちは『龍葬』」
俺とリーシェンを順番に指差して聞く。
「違うが」
とぼける。
「嘘をおっしゃい。影から戦いを見ていましたよ。落伍者たちをああも一方的にほふるのに、あなたたちからはオーラを感じない。超能力者でなく、あれほどの戦いができる者はごく限られてきますよ」
リーシェンは「バレてるぞ」と耳打ちしてきた。
これは隠せなそうだ。
「ああ、まあ、個人的には終焉者なつもりはないんだが、結果的にそうなるかもしれない。いや、本当に最初はアルカディアを滅ぼす気なんてなかったんだけど」
全部、結果論だ。
アルカディアにたどり着いた、あの瞬間から偶然がかさなって、今こうなってる。
「事実確認をしましょう。さっきゼロから連絡がありました。終焉者と『龍葬』が手を組んでハンターズへ敵対したと」
俺はリーシェンの顔を見る。
彼は「あの男、生きてるっぽい」と苦虫を噛み潰したような顔をした。
ゼロ、ハンターズの長。
なんとなく死んでない気はしたけど。
「間違いなさそうですね」
ハンターズの少女は直剣をぬきかける。
俺は肩を貸していたリーシェンをはなして、お互いに臨戦態勢にはいった。
「ところで、ひとつ確認を」
少女はキョトンとした顔で指をたてる。
「なんだ」
「終焉者、あなたはどうしてアルカディアを滅ぼすんですか。昔から理由を聞いて見たかったんです」
「……アルカディアを滅ぼしてるつもりはない」
被害はだしているかもしれないが、それは副次的なものにすぎない。
「今は氷室阿賀斗を殺せればそれでいい。そこから先は俺の仕事じゃない」
奴を倒せば、グランドマザーは聖戦を成し遂げて、そのあかつきに俺たちを地上へ帰してくれると約束している。
「ほう、氷室阿賀斗を殺す、ですか」
少女はほくそ笑む。
「ならば止めないといけません。四天王の一員として」
「っ、氷室の懐刀か」
リーシェンはまずそうち舌打ちした。
俺はやっかいな敵対者の登場を予感する。
速攻で片付けよう。
液体金属を無数のちいさな刃に変形させ、そのすべてに電磁力を蓄える。
「MM4液体チタン合金。どこの超能力者から奪ったんですか? それ高いんですよ。かわいそうに」
「海底で指パッチンする男にもらった」
「意味のわからないことを」
「うん。俺もいまだによくわかってないんだ」
射撃命令。
直感的に磁力のチカラをつかって加速した液体金属の刃がふりそそぐ。
少女は剣をぬくと、目にも止まらぬ速さで俺の広範囲攻撃を斬りはらって回避した。
嘘だろ?
「えいっ」
ぴょんと飛んでこちらへ来る。
彼女の後方で、さきほど仕掛けた防衛爆弾が爆発して、まっかに燃えあがった。
炎の熱に、俺はわずかに顔をしかめた。
と、その瞬間。
少女は息を吸って身体をバネのように縮めて、空気を蹴って、銃弾のように飛びこんでくる。
液体金属を攻撃にはなった手前、またしてもオートガードが間にあわない。
俺は突きだされる高速の剣先に、ポケット空間をひらいて、先端をしまっちゃうことにした。
「っ!」
少女は目を見開き、とっさに剣をひく。
「ツァ!」
リーシェンが横から回し蹴りをいれる。
しかし、少女は機敏に体をそらしてかわして、お返しに剣をひとふりした。
「なっ……」
途端にリーシェンの肩から血が吹きだす。
彼は大きく後退して、片膝をついた。
「不思議な術をつかうものですね。それが噂に聞くアナザーの魔法ですか」
「さあ、どうだろう」
俺は液体金属を手元にもどして、適当にはぐらかす。
よくない状況だ。
リーシェンは拳がつかえず、なおかつ剣で斬られてしまった。
戦闘を継続させないほうがいい。
「終焉者、もうすこし戦いますよ」
「リーシェン、さがってろ」
俺は心のうちで槍を呼ぶ。
すると、手のなかにオレンジ色の粒子が集まってきて黒くて細長い魔槍が召喚された。
「ラナ、力を貸してくれ」
「複数の能力を保有しているのですね。槍もつかえるのですか?」
魔槍に魔力をあたえてオレンジ色のスパークを発生させる。
魔力エンチャントで炎属性と貫通属性を強化したバーストモードだ。
ラナが使ってるところは見たことある。
けれも、俺には魔力が足りなくて、いままで使ったことがない機能。
うまく使えるかわからないが、やってみないと何もはじまらない。
バーストモードを実践形態に固定する。
体にチカラが沸きあがってきた。
体のまわりで液体金属を独立状態にたもちながら、槍を手に猛スピードで突貫する。
「はっ!」
槍の冴えは健在だ。
重たい金属がぶつかり火花が散る。
少女は直剣をさゆうにふって、巧みに槍の刺突をそらす。
だが、わずかにかすり傷を与えることができている。
強力な魔力エンチャントは、超能力者の高密度装甲すら意味をなくさせている。
本当にこの槍すごいな。
「小賢しいものですね」
少女は嬉しそうに声をもらした。
その一瞬。
彼女の上半身の実像がブレた。
姿をわずかに置きさりにするほどに速い斬りかえしの応酬だ。
液体金属のオートガードでは間に合わない。
俺は意識で直に操作して、剣の軌道に液体金属のシールドを張る。
しかし、彼女の斬撃は莫大なオーラをまとっていた。液体金属では守りきれない。
たやすく突破された。
俺は覚悟を決めて素手でつかみにいく。
「え…ッ」
少女は俺の奇行に目をまるくした。
口からは困惑をこぼれている。
掴んだ剣と、俺の皮膚はまっかになって、激しい火花をちらす。
その隙に魔槍で少女に攻撃をしかける、
彼女は目ざとく反応して、剣を強引にひねると、俺の魔槍を、直剣の根本ではじいた。
──バギィン
だが、あまりにも無理にひねったせいで直剣はなかばでひび割れて砕けてしまった。
真っ二つに折れた剣の先端を、俺はそこらへんに投げ捨てる。
少女はしょんぼりして悲しそうな顔で剣に視線を落としていた。
「わたしの剣が…」
なんだか気まずい。
「おほん。勝負あったな」
勝ち宣言をしてさっさと立ちさる。
「わたし、負けてないもん」
「ん?」
「だから、わたし負けてないです」
「……」
少女は涙を目の端にうかべていた。
俺の勝利宣言に物申そうというらしい。
「でも、この感じは俺の勝ちじゃないか? それとも命を奪うまでが戦いっていうやつか」
「違います。シンプルに負けてないんです。だって、剣が折れてなければ、わたしは次の斬りかえしであなたを倒せていたんですから」
「それは……わかんないだろ。俺がまたガードしてたかもしれないし」
「武器の性能差です。ああ、こんなことなら素直に父様から高周波ブレードを受け取っておくんでした。アレなら絶対に素手でつかむなんてできないのに」
少女はぶつくさ言いながら折れた剣を鞘にしまうと、踵をかえして歩きはじめた。
「おい、どこ行くんだよ」
「家に帰ります」
ぇぇ。
「俺は氷室阿賀斗を殺すんだぞ? とめなくていいのか? 四天王なんだろ」
「ええ、構いませんよ。あなたならちゃんと彼を葬ってくれそうですし、これでわたしの計画も進むというものです。あ、この事は氷室阿賀斗には内緒ですよ?」
少女は口に人差し指をたてて、下手くそなウィンクをしてくる。
計画?
アルカディアは一枚岩じゃないと聞いたが、氷室派閥のなかでも、対抗組織があるってことなのか。
「そうそう。忘れてました、それともうひとつ。ハンターズは引きあげさせました。これで氷室阿賀斗を守る布陣はありません」
「っ……お前、ハンターズを指揮できるのか?」
「あれはわたしの部隊です。ですから、これ以上彼らを攻撃しないでください。そうすれば、彼らもあなたを襲いません」
少女はそう言って、酸素街へと消えていった。
なんだったんだ、あのジャリガキは。
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