【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第53話 救出作戦 前編


拳闘場に戻ってきた。

先ほどのグランドマザー・タンパク源の襲撃のせいか、案の定トーナメントは続いてはいなかった。
天井が大きく崩落し、壁には穴が開いている。

「誰かが戦った跡? ここでやりあって……そのまま外へ行った?」

破壊跡から察するに、戦っていた者達はバトルフィールドを拳闘場のそとへと移していったようだ。
また、壊れ方の規模から人間レベルの戦いじゃないように思えた。ともすれば、答えはひとつだろう。

「ラナと超能力者が戦ったのか。敵は追跡してきてたハンターズ……まずいな」

拳闘場には誰もいない。
ガアドとファリアも戻って来ていない。

俺はスマホを取り出して、唯一持っている連絡先に電話してみる。

「……なんで出ないんだよ」

10回ほどコールしても、ガアドが電話に出ることはなかった。
俺は行き詰まり、遠隔でつけておいた結界索敵網のための、液体金属の位置をさぐる。
しかし、それにも引っかかる影はない。
すぐ近くには誰もいないらしい。

──トゥっトゥルー

「着信!」

ガアドから折り返しの電話がかかってきた。
俺はすぐに出て、マイクに語りかける。

「ラナを見失った。トーナメントは中止だ。『クィーン』も運営も観客達もみんなどっか逃げたみたいなんだ。すぐに合流したい。今どこにいるんだ?」

早口にまくし立てる。
しかし、向こうは黙っているだけだ。
遠くで荒い息遣いが聞こえた。
マイクの奥の奥……ガアドがうめく声のように聞こえた。
じゃ、電話に出てるのは誰だ?

俺は薄気味悪くなると同時に、なにか異常が起きたのだとさとる。

「お前が終焉者か」

電話越しの相手は言った。
やはりガアドの声ではない。

「……お前…誰だ?」
「私か? 私は少佐だ。ハンターズを率いてちょうど君を探しているところでね」

ハンターズ?
追跡者のリーダーか。
それが、なんでガアドのスマホを……。

俺は理由に思い至る。
なにやら、トラブルがあったと見える。
ガアドとファリアとキングが戻って来ないのは、道中でハンターズに襲われたからなんだ。

「キングは生きてるのか? ガアドとファリアはどうした?」
「生きてるさ、今はまだな。だが、君の行動次第で彼らの命がこの先もあり続けるかは、わからない」

俺は考える。
口ぶりから察するに、ガアド、ファリア、キングは彼らに捕まっている。
では、ラナは?
ハンターズと戦ったラナはどこにいる?

手がかりは現状ではなにもない。
脱出のための潜水艇へのカギは、ガアドしかないのだ。今、彼を失うわけにはいかない。

「……どこにいけば、会える」
「良い心掛けだ。我々が君に、とても会いたがっていることは理解していただけているようだ」
「御託はいい。さっさと教えろ」
「そう焦るな、終焉者、今はまだ──」

少佐はそこで言葉を切った。
マイクに布がかすれる音がする。
さらに、奥から瓦礫が崩れるような崩壊音と、金属が弾けたような炸裂音、火薬の爆発音などが聞こえてくる。

激しい戦闘を行なっている?

「失礼。取り込み中なんだ。また電話する。すぐに出られるようにして起きたまへ」

通話は一方的に切られた。

「今の音……」

俺は揺れるアルカディアの原因の、グランドマザーの方角を見る。耐圧ガラス越しにもわかる超スケールの節足で、今も海底都市を破壊し続けている彼女の足音で、巨大な高層ビルがちょうど真っ二つに折れるところだった。

「義手の男も事情が変わったとか言ってたな。ハンターズが俺より優先してるのって、グランドマザーなんじゃないのか?」

口に出してみると、すんなり納得できた。
ともすればグランドマザーが今襲っている付近に、ハンターズと少佐、そして、捕われたキングとガアドとファリアがいるはずだ。

迷っている暇はない。
俺は一番危険な地域を目指して走りはじめた。

ラナのことが気になったが、闇雲に探すより、目に見える目標へ向かうべきだと理性が告げた。

グランドマザーが攻撃してる地域はすぐ近くだった。おそらく同じ区画内なのだろう。

途中、通路が閉鎖されていた。
ガアドがハッキングして開いていたタイプの電子ロックの扉だ。

「たしか、電気を操れるとか何とか……」

俺は扉に近づき、操作パネルに触れる。

何かが息づいているのがわかる。
妙な感覚だった。頭ではなく心で理解すると言うべきか。

尋常ならば、極小の世界すべてを知ることは出来ない。
けれども、俺になら電子世界に、他者よりも優れた支配を行えると本能で察した。

「……」

無言で集中する。
機械のなかに潜む息吹き。

さあ、扉をあけるんだ、エイト。

科学は勉強してないが、それを上回るセンスは女神が与え、俺が昇華させたんだ。
出来ないことはない。

さあ、扉を、開けて見せてくれ。

「…………チッ」

俺は額の汗をぬぐい、手首を軽くならし、パネルの操作を諦める。

そして、閉鎖された扉の前に立った。

流石に勉強すらしてない俺には、進化したスキル〔電界碩学でんかいせきがく〕を使っても機械の操作は無理だった。

「金属も操れるって言ってたな」

俺は閉鎖された扉そのものに語りかける。
スキル発動、さあ動いてくれ……。

ん、おや、こいつは動きそうだぞ。

俺は道中、ガアドに教えてもらった磁界の基本を思い出す。
そして、がっしりと磁力で出来た腕をイメージして、扉を掴み思いきり引き剥がした。

「左手の法則だぞ、と」

閉鎖扉が勢いよく剥がされ、後ろの壁に突き刺さる。

おお、磁力の操作、すごい力だ。
今までは液体金属だけ操っていたが、もう目につく鋼すべてが俺の操作対象というわけか。

俺は背後に突き刺さった扉を見る。

「練習は必要だな」


──しばらく後


揺れが激しくなってきた。
深海が震えるような咆哮も聞こえる。

「グランドマザーが怒ってるのか……?」

あたりに人影はなく、アルカディア市民達は避難しているようだった。
だが、それにも関わらず人影を発見する。
そいつは負傷した肩を押さえながら、走って来る。
だいぶボロボロになってるが、間違いなく寂れた酒場の主人ガアドだった。

「ガアド、平気か…!」

俺はとっさに叫んだ。
ガアドは虚な眼差しでこちらを見る。

「手を貸してくれ…」

ガアドは弱気につぶやくと、膝を折って、地面に倒れた。
すぐに駆け寄り、抱きおこす。
出血がひどい。治療ポーションなり、白魔術による処置が必要に思われた。

「ガアド、しっかりしろ! あんたが死んだら俺たちどうすれば、いいんだ……っ」
「ああ…そうか、やはり、ガアドは、終焉者を支援していたか……」

「……?」

意味わからない言葉をつむがれ。
俺は眉をひそめる。

その瞬間──、

──ピギィイ

「ぁ、ア……ッ?!」

腹部から強烈な痛みが襲って来た。
這い登ってくるひび割れる恐怖。
それは一瞬で全身に広がり、皮膚の感覚をなくし、筋肉を万本の針で突き刺すような、鋭い痛みとなって自我すら侵してくる。

寒い、寒い、寒い……ッ!

俺の体のすべてから熱が奪われて、いつしか『冷たい』以外の思考が消えていた。

こもった声がかろうじて機能する耳に聞こえてくる。

「存外にたやすかったな、終焉者」
「ぁ、ぁ」

視界が8つにひび割れた。
眼球が砕けたらしい。薄氷張った俺の目の前で、ボロボロだったガアドは、奇特な銃を片手に、立ち尽くす。

どうして?
なにが?
なにをされた?

何が起こったか、思考すら叶わないなか、ガアドの姿が一瞬、紫色の煙に包まれた。
煙が晴れた時、黒いコートの男がそこに立っていた。

「驚いたかな、終焉者。ガアドが得意とするコカスモークの一種だ。私もなかなかのものだろう」
「ぉ、ぅ…」
「絶対零度、喋ることすら叶わんか」

残念そうに男は言い、奇特な銃を腰にしまい、代わりにハンドガンをホルスターから抜く。
薬室に弾が込められているのを慣れた手つきで確認して、俺に銃口を向けた。

「わたしが少佐だ。名も知らない終焉者」
「ぁぅ…ァ」
「こんなにたやすく始末できるか……やれやれ、もう少し楽しめると思ったのだがな。君には失望したよ。──では、さよならだ」

少佐はそう言い、引き金をひいた。

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