【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第52話 大出産の報告


耐圧ガラスの向こう側に見える影。

「な、なんだ、あれ?!」

水深20,000mの世界でいろいろ見てきた俺だが、数百メートル級の深海生物はそうそうお目にかかっていない。
ダイダラボッチ海峡の主人である、あの巨人に比べれば高さは低いが、それでも横幅、奥行き、全部がデカい。途方もない質量で構成されたモンスターの中のモンスターだ。
どことなく、キングやミスター・タンパク源に似ている。彼らが数十年…数百年……あるいは、もっと長い、途方もない時間をかければ、もしかしたらあんなサイズまで成長するのかもしれない。

「おっとっと」
「ぐぅっ!」

グランドマザー・タンパク源が少し前足の節足を動かした。先端が海底高層ビルを叩き折ったせいで、アルカディア全体が揺れた。

スケールが違いすぎる。

「信じられない…あれが、アルゴンスタ…なのか?」

義手の男はほうけた顔をして、未曾有の事態に動揺を隠せないでいるらしい。

「はは、凄いな。お前たちアルゴンスタを高値で売買してるから、おばあちゃんが怒ったんじゃないのか?」
「……」

義手の男は歯噛みして、俺の顔を見る。
彼のポケットから着信が聞こえる。

「出ていいぞ」

俺の冗談に、義手の男は無表情をつくる。

──トゥっトゥルー

「ん?」
「はっ……お前のスマホ鳴ってるようだな。出たらどうだ、終焉者」

俺のスマホも鳴っている?

「……」
「……」

俺と義手の男は、グランドマザー・タンパク源がアルカディアを端っこからぶっ壊してるの背景に、お互いの電話にでた。

「誰だ? 今、取り込み中だ」
「あっ! やっと、超能力者様と繋がったぞ!」
「おお、ついにか! はやく代われって!」

懐かしい声が聞こえてくる。
ただ、どこで聞いたのかは思い出せない。

「こちらアルカディア東部マナニウム採掘場です! 超能力者様き大至急伝えたいことがありまして!」

東部採掘場……あ。
うちの子たちを3匹預けてきた、あの魔力溜まりの施設のことか。

「どうしたんだ、こっちは取り込み中なんだが。いや、まて、それより、うちのミスターたちは無事なんだろうな?」
「あ、それに関しては問題なく! みんな魔力溜まりの近くでスクスク遊んでますんで。ただ、なんか、最近、こいつら卵を産んでるらしいんですよ!」
「……なに?」
「大至急伝えたいことって言うのは、まさにそのことでして、あのアルゴンスタたち魔力溜まりのまわりにたくさん発光する植物を植えつけてて、そのつぼみを割ってみたら、中からちっこいアルゴンスタが出てきたんでっせ! これはアルゴンスタの繁殖のメカニズムをつかむ偉大なる発見でっすよ!」

深海20,000m、我が家近辺にあった発光群生地と同じ環境に近づきつつあるのか。
ていうか、あいつらミスター呼びしてたけど、やっぱりメスも混ざってたんだな。

「それで、この小さいアルゴンスタ達を僕とトムで分けてもいいか、許可をいただきたく連絡をさせていただきました!」
「分ける? 分けるってなんだ」
「もちろん、お金に変えるって意味でして……」
「却下だ。金輪際、1匹もつぼみから無闇にだすな。食べるものがなくなって、彼らを食べる事でしか希望を繋げない……そんな状況になって、初めてそいつらを糧にする覚悟をしろ」
「っ、す、すみません……! ですよねぇ…超能力者様、以外とアルゴンスタ欲張りだから分けてくれないと思ってましたよ……」

しょんぼりしていじけるフラッド。
電話越しに「馬鹿野郎! 超能力者様は殺生与奪について高尚な理念を説いて、俺たちに新しいベクトルでの対話を教授してくださってんだろーが!」とトムの声が聞こえてくる。

「はっ! 言われてみれば、確かに! 申し訳ありません、超能力者様! このフラッド・エインリル、深淵なるお考えに気づかず目先の浅ましい利益にだけ飛びついてしまっていました!」

まったく何言ってるかわからない。

「……まあ、そういうことだ。わかったなら、いいさ」

俺は耳にスマホを当てたまま、耐圧ガラスの向こうに見える、グランドマザー・タンパク源を見やる。
あれがあのまま暴れてくれるのはいい。
アルカディアが困るなら喜んで協力する。
だが、きっと、あの災害のような怪物は俺とラナが使う予定の、脱出用潜水艇のことまでは考えてくれない。

はやく見つけないと、手遅れになる。

「超能力者様? もしもーし?」
「……とにかく、今はアルゴンスタに対して慎重に動け。アルカディアは大変な事になってるんだ」
「あ、もしかして、深海生物の対処ですか……?! 取り込み中ってつまりそういう事なんですね!」

フラッドは勝手に話を進めて、ポジティブに納得し電話を切った。

スマホをしまう。
また足元が揺れて、耐圧ガラスにヒビが入った。このあたりも長くは保たなそうだ。

顔を横に向けると、ちょうど向こうの電話も終わったらしく、義手の男がスマホを懐にしまっていた。

「事情が変わった。終焉者、お前の対処は後回しだ」
「ビビって逃げるのか?」
「言っていろ。世界には2種類の人間がいる。退ける人間と、退けない人間だ。俺は前者だ」

義手の男はそれだけ言って、建物の向こうへと跳躍して消えてしまった。

「あー……クソ、めちゃくちゃだ」

俺は頭をかいて、混乱した頭を整理する。
ハンターズは俺たちが思っていたより、すぐ近くまで迫ってきていた。

そして、顔も見られた。
おちおち拳闘場で試合して『クィーン』とやらに会ってる余裕はなくなっただろう。
というか、トーナメント事態がどうなるのかわからない。

「ああ、もういい。とりあえず、ガアド達と合流だ」

俺は拳闘場に一旦引き返す事にした。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品