【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第49話 ゼロ番目の息子

──ガアドの視点

声をかけられたガアド。
険しい顔をしてファリアを見る。
ファリアはうなずいた。父親を信じ、選択肢をゆだねる決意の表情だった──。

超能力者から走って逃げるのは困難。
正面から戦うのは愚の骨頂。
複数戦ならば言うまでもない。

超能力者と人間には決定的な差がある。
それは新人と旧人という呼び方が、アルカディアに存在していることが示している。

超能力者らが恐ろしいのは、速く、腕力が強く、不可視の高密度装甲を持っていることだけではない。
むしろ、これらは超能力者すべての標準装備だ。個人差はあれど、皆、超能力者の生まれであれば、速く、強く、硬いのだ。

真に恐れるべきは、従来の科学では説明できない『超能力』そのものにある。

見ただけで発火させるパイロキネシス。
触らずに物を動かすサイコキネシス。
未来を予見するプレコグニション。
遠方を見通すクレヤボヤンス。

他にも数多の超能力が発見され、研究され、開発されてきた。

その中でも未来の予見は極めて貴重な超能力だった。
いまだかつてアルカディアには、ただ一人の超能力者しか『未来予知』の覚醒には至っていない。
もちろん、コカスモークもない。氷室グループはこの力を欲しがったが、その男は決して首を縦には振らず、やがて姿をくらました。

「ファリア、エイト達と合流したら潜水艇を探せ。拳闘場のオーナー『クィーン』は、必ず潜水艇の場所を知っているはずだ」

ガアドは「拷問につかえ」と言って、煙草ケースをファリアに渡した。
中には膨大な種類の煙草が入っていた。今では製造されていない貴重品もたくさんだ。
ファリアはそれがガアドの趣味であるコカスモーク収集のコレクションであると知る。
コレクターにとって命に換えても手離すことのない、大事な大事な無二の品だ。

「パパ……?」
「愛しているよ、ファリア」

ガアドはそう言って娘のおでこに口づけし、ギュッと抱きしめた。父親の温かさ。ファリアはガアドが何をしようとしてるのか悟る。父親の手の甲には漢数字の『四』が浮かび上がっていた。

近づいてくる足音。
ガアドは最後の時に思い出したように、ファリアの耳に口を近づけた。

「いいかい、ファリア。よく聞くんだ」
「パパ、やめてよ、いっしょに戦おうよ……2人くらい余裕だよ…」
「違う、そうじゃないんだ」

ファリアは目の端に涙をためる。
ガアドは最後まで言うか、言うまいか迷いながら続けた。

「エイトを信じなさい。あいつはお前の助けになる。やつは……お前のお兄ちゃんなのだからな」

父親の言葉。
こんな時に冗談を言うわけない。
ファリアは目を白黒させる。

ガアドはそっと耳元から口を離した。
彼の手の甲の漢数字が光る。

その瞬間、ファリアとキングの姿は光の粒子となって、空間のねじれに吸い込まれるように消えてしまった。

それは『ブリンク』の応用技だ。
画数を4つ消費してなせる、他者の長距離テレポート……アルカディアでもこれが出来るのはガアドだけだった。

「少佐、『死神』を発見しました」

娘を逃した父親は、いつしか黒いコートを着た男たちに取り囲まれていた。
正面と背面、路地、屋根のうえにいたるまで、ハンターズ達はいる。
彼らはとっくにガアドの匂いを嗅ぎつけ、すぐそこまで迫っていたのだ。

ガアドは取り囲んでくる集団を睥睨へいげいする。
人数は9人。とても娘とダンゴムシの協力があっても、倒せる物ではない。

「見事な超能力だ、流石はガアド」
「っ、お前は……」

野次馬たちが二つに割れて、人混みの真ん中に綺麗に道ができる。念動力で雑にどかされたロードを顔に傷がある男が歩いてきた。

ガアドは懐かしい顔だと思いながら、苦虫を噛み潰したように状況の最悪を知る。

「『ライトニングボルト』……父親に見捨てられた、ろくでなし息子が今じゃ、ハンターズの長とはな、ずいぶん出世したじゃないか」
「父親がろくでなしなら、仕方ないことだろう、ガアド。いや……親父殿」

顔に傷にある男は不敵に笑った。

「ゼロ・メンデレー…この親不孝者が…ッ」

ガアドは歯を砕くほどに噛みしめ様々な感情に顔を歪め、ホルダーからフリーズガンを抜いた。

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