【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第39話 統括港都市へ


ウォルターから〔スキル〕とレベルを返してもらった俺たちは、ガアドとファリアとキングが私兵部隊の追撃を抑えてくれていた廊下に戻ってきた。

「エイト様! 無事でしたか!」

ファリアが綺麗な瞳に涙をためて走ってくる。すかさず俺とファリアの間に体をはさみこむラナ。ラナ越しにファリアにタックルされて壁に挟まれる。ラナの髪から良い匂いがした。素晴。

「はい、あんまり、うちのエイトに近づかないでねー、ファリアちゃーん」
「あっ、ちょ、何するんですか、ラナ! ファリアはエイト様の疲れを癒そうと──って、なんか腕力強くなってないですか?!」

フフフっと不敵に笑うラナは、ファリアを片手で押さえて自信ありげだ。筋力ステータスを遺憾なく発揮している。

第三者からは微笑ましい光景を横目に、俺はキングの無事を確かめて、彼の隣で壁にもたれかかって休んでいたガアドに近寄る。

「ウォルターは殺したか」
「いや、それがな、カクカクシカジカ──」
「そうか、そういう手もあるか……まあ、どのみちウォルターから能力を取り返せたのなら良かった」

ガアドはうーん、とうなり、顎に手をそえる。
俺はどんな戦闘があったのか、真っ黒に焦げた壁や床、隆起した尖った岩石、凍結して破損した天井などを見た。

「コカスモークの影響か。煙吸うだけで、強力な武器になるなんて不思議だ」
「まあ、お前たちには、まだまだ新鮮に見えるだろうさ。ただ、コカスモークが製品化されてもう20年になる。アルカディアじゃ生活の一部だ」
「思うんだが、こんなに強い兵器があるならソフレト共和神聖国と割と良い勝負しそうだが」
「ソフレト……」

ガアドは遠い目をして、天井を見上げる。

「……まあ、そう良い事ばかりじゃない。廃人になるリスクとともに、生物進化の前借りを行うんだ。まさしく、悪魔とのトレード」
「ふーん。でも、あんたは使ってる」
「こうでもしないとアルカディアじゃ生き残れない」
「これ、俺にも使えたりするのか?」
「どうだろうな。異世界人がコカスモークを使用してるケースは聞いたことがないが……試してみるか?」

ガアドから一本受け取り、火をつけて思い切って吸い込んでみる。だが、猛烈な苦さが口のなかに広がって、俺はむせかえかってしまう。

「なんだよ、これ、マッズ……!」
「はは、子供にはまだ早かったか」

ガアドは薄く笑い、俺から煙草を取り上げると、それを口にくわえた。

「コカスモーク以外に戦う手段があるなら、こんなもの使うもんじゃない。俺はお前には長生きしてほしいからな、エイト」
「……? なんで、あんたがそんな事を気にするんだ?」
「いや、なに、ただのお節介だ。歳を取ると、若い者にはいろいろ口出ししたくなるのさ」
「そういうもんか」
「そういうものだ。……さて、それじゃ、行こうか。長居は無用だ。早々に『統括港都市』に行こう。そこで潜水艇を奪って、お前たちを逃す。それで私のミッションは完了だ」

ガアドは煙草を床に捨て、足で踏みつける。彼は俺、ラナ、ファリア、キング、と見渡してうんうん、と頷いて歩き出した。

が、俺はガアドの肩に手を乗せ、水族館の奥を指さした。

──しばらく後

俺、ラナ、ファリア、ガアド、キングはウォルターの部屋へ戻って来ていた。
彼が教えてくれた『統括港都市』への近道を進む為だ。
部屋に戻ってくると、そこにはもうウォルターの姿はなかった。

「右肩から先、欠損してたはずだけど……」

ラナは机の下、カーテンの裏にウォルターが隠れていないか探す。

「『★★★:トリプルスター』以上のランクを持つ超能力者は殺し切るのが困難だ。奴らには『ゲート』がある。物理的な死は、さしたる意味がないのさ」
「『ゲート』……? 物理的な死が意味ないんだったら、どうすれば殺せるんだ?」
「不明だ。超能力者は超能力者にしか殺せない。脳にある『ゲート』と呼ばれる部位に『符号的電気信号』を送る事で殺しきれるらしいが、詳しくはわからん。超能力者たちも自分らを″滅殺めっさつ″できる手段は公にするはずないからな。ただ、わかるのは尋常の手段ではそれを実行することは出来ない、という事だけだ」
「なんだよ、じゃ、結局なにしても無駄なのか……」
「いや、それがそうでもない。肉体を破壊しきると蘇るまで数年単位で時間がかかるという報告は聞いてる。半身が吹き飛ばされた程度じゃ死なないが、″滅殺″できずとも、仮に殺せたなら十分な屈辱を与えることは出来るさ」

ガアドはそう言いながら『統括港都市』への通路へと入っていった。

──しばらく後

ウォルター部屋からの近道で、それほど時間が掛かることなく、俺たちは『統括港都市』にたどり着けていた。

「よし、戻すぞ、せーの」

俺とラナは慎重に、音が出ないように、近道として通った石壁をずらして戻す。どうやら、ウォルター部屋から続く道というのは隠し通路の事だったらしい。
俺たちは隠し通路の出口である倉庫をでる。

「うわ、なんか生臭い……エイト、この臭い覚えてる?」
「懐かしいな、アクアテリアスの『灯台』の下にある港と同じ匂いだ」

俺とラナは目の前に広がる倉庫エリアを見て、かつて一緒に、港の野良ネコにエサをあげにいった思い出をふりかえっていた。
倉庫がずーっと向こうまで並んでいる様は、まさしく海湾の風物詩とも言うべき景色だ。ノスタルジックな気持ちになる。

「あの時は、わたしもエイトもちっちゃかったよね」
「そうだな。俺は槍の修行に飽きてきてて、やさぐれてたんだ」
「うんうん、可愛かった…」
「ぇ?」

「んっん、お2人さん、すこし良いかな?」

俺とラナはビクンっとして、背後から声をかけてくるガアドと、ジト目を向けてくるファリアへ振りかえる。

「悪いが、いいかげん、お前のペットのキングが目立ちすぎる」

ガアドはそう言って、倉庫の入り口で待機してるキングを見やった。倉庫から出たそうにしてるところをガアドが足で進路妨害している。
勢いで連れてきちゃったけど、確かにキングは目立ちまくり、市民たちの気を引きすぎる。今までは荒廃した『水道管理区』だったので、襲ってくる落伍者を撃ち殺して進んでいたが、この区画はまだまだ都市としての機能が保たれていると言う。
流石に正常な人間を、誰から構わず殺して進むなんて野蛮なことは出来ない。

「私とファリアはキングをカモフラージュする手段を探してくる。それに、この先に進むなら、ディザステンタと氷室が本格的に強力するまえに、ナノマシンを無効化していくのが賢い」
「まだ、協力してないのか?」
「氷室の私兵部隊『ハンターズ』たちが追ってきていないのが良い証拠だ」
「『ハンターズ』? なんだよ、それ」
「氷室の組織する超能力者で構成されたエリート私兵部隊だ。ほかにも氷室は強力な戦力を保持してる」
「どうして、まだその『ハンターズ』は追ってきてないのよ?」
「説明すると長くなるが……まあ、大方、ディザステンタがアルカディアの実権を、氷室に掌握されたくないから渋っているんだろう……この海底都市は一枚岩じゃないって事だ」

ガアドは「おいおい、話してやる」と言って、いったん説明を終えた。

「でも、『ハンターズ』もそのディザステンタも氷室ってやつも、俺が倒して進めば、問題ないんじゃないか?」

俺は心配そうなガアドに、その悩みの種を吹っ飛ばすべく景気よくガアドに言う。
ウォルターをラナとのコンビネーションでボコボコに出来たので、同じリーダー達も大したことはないさ。その下についてる超能力者ならなおさらだ。余裕だろ。
ガアドは力なく首を振り「お前は氷室を知らない」と一言もらした。

「とにかく、少し待っていろ。この『統括港都市』なら、ナノマシンを一時的にごまかせるキットを調達できる。さっ、ファリア、行くぞ、少しパパとデートしようじゃないか」
「むぅ…別に嫌じゃないけど……」

ファリアは心配そうな目でラナを見る。
ラナは鼻を鳴らして「楽しんで〜!」と言うと、俺の腕をつかんで肩に頭を乗せてきた。

「ぬぐぐ! エイト様、すぐに、ほんともうすぐに戻りますからね!」

ファリアはガアド仲良く手を繋ぎ、ゆっくり散歩したそうな父親を引っ張って、倉庫エリアから賑やかな市街地のほうへと向かっていった。

「ぐぎぃ!」
「キングも少し待ってるんだ」
「出てきちゃダメだよ、しー、しー」

倉庫のなかにキングを残す。
少し可哀想だが我慢だ。
俺とラナは倉庫エリアから船着き場のほうへ行ってみる。

船着き場は流石に俺たちが持つ思い出の中の風景とは違っていた。
直線に伸びる広く長い通路の両脇に、何個も金属製の扉があった。それらがガアドの言っていた潜水艇だとわかるのに、そう時間は掛からなかった。

「この潜水艇ってやつで、魚を取ってるのか。ほうほう、この前の部分が開いて、網を回収するのか」
「これで地上まで戻れないのかなー? なんだかいけそうじゃない?」
「でも、ガアドは『海の神秘』に捕まるって言ってたぞ。普通の潜水艇じゃ海面までたどり着けないんだろ」
「うーん、いけそうだけどねー……」

ラナはハッチの窓から、潜水艇のなかをのぞいたり、拳でガンガン叩いてみたりしながら言う。やめて。それ大抵トラブル起きるから。

「エイト、こっちこっち。すこし歩こっか」

ラナに手を引かれる。
調子を取り戻して、すっかり元気になった彼女の笑顔はまぶしい。

俺たちは2人で港を散歩しながら、ファリアとガアドの帰りを待つことにした。

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