【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第24話 竜騎士の格と不思議な漂流物


酔いの勢いにまかせて遠慮なく剣をぬいたジブラルタに対して、ラナは槍を手に取ることはなかった。

「へへっ、んだよ、俺ごとき相手には武器はいらねえってか?! ああん!?」
「よくわかってるじゃん」
「ざけんな、病気女!」

澄ましたラナへ、ジブラルタは激昂して斬りかかる。
ラナは後方へステップで避けると、足元の椅子をつま先で器用にすくいあげた。

「なにしてんだ、この病気女」首をかしげ、へらへら笑うジブラルタ。
「…はっ!」

ラナは浮いた木製の椅子を殴りつける。
すると、ラナの腕力に、たまらず弾けた木の破片が飛散してジブラルタを襲った。

「ぐうっ、こしゃくな…!」
「たあっ!」
「どぉへぇァア?!」

ひるんだジブラルタへ、ラナが前蹴りをお見舞いすると、彼の体はテラスをめちゃくちゃにしながら、柵を越えて隣の建物まで吹っ飛んでいってしまった。
地震と間違うかと思うほどの激震がおさまると、そこには余裕の表情でたたずむ竜騎士姫がたたずんでいた。
これには周りの冒険者たちもドン引きだ。

「これが影で腕力で竜をしつけるという…」
「うわぁ……筋力おばけ恐ぃ……」

「ん? なに、なんかいった?」
「ぃ、いや、何でもないです…」

テラスで喧嘩を守っていた冒険者が、ラナから目をそらす。
華奢に見えるラナだが、そのステータスにおいてもっとも優れているのは筋力。
アクアテリアスにおいて、彼女以上にパワーのある冒険者は存在しない。
それゆえにラナには、陰ながら畏怖畏敬の念をこめて筋力ステータスをいじった愛称がつけられている。
もっとも本人の前で言うと、くびり殺されるので誰も呼ばないが。

「うぅ、痛ぇ……!」

ジブラルタはあばら骨の粉砕骨折に、口から吐血しながら、なんとか起きあがった。

「クソ、あの女、まじで馬鹿みてぇに強ぇ……このままじゃ、俺は……!」

ジブラルタは必死に頭を働かせて、自分の生存ルートを模索する。
あたりを見渡す。
酒場の隣はアイテム屋なっていたらしく、ジブラルタは自分のまわりにここ数年で流通し出した魔導具の品々が散らばってることに気がつく。
さらに、店内には明日の冒険に備えて、魔法のアイテムをどれくらい揃えるか頭を悩ませるパーティの参謀たちの姿があった。
ジブラルタは酔いの覚めた頭で、そこにいる冒険者たちに目をつけた、

ラナは怒りを顔に宿しながら、アイテムの壁に開いた穴から入店する。

「邪魔するよ」

ラナの言葉に、腰を抜かした店員は首をぶんぶん縦に振った。

「クソ女ああ! てめぇ、一歩でも近づいてみろ! この冒険者の首を掻っ切ってやるからな!」

ジブラルタは剣で冒険者を人質にとっていた。

「ラナ様ぁぁ、たす、助けて…!」

明日の冒険の準備をしていた、まだ駆け出しの女性冒険者は泣きながらお願いする。
ラナは「必ず、助ける! 今は抵抗しないで!」と懸命に呼びかけた。

「へへ、なにが必ず助けるだよ!」
あざわらうジブラルタ。

醜悪に顔をゆがめる彼は女性冒険者の胸をまさぐり、掴み、己の欲望を満たし、彼女の尊厳を恥ずかしめる。
人の心を失ったジブラルタの行いに、ラナの瞳から唯一残っていた慈悲の温度が、急速に失われていった。

「ははははっ! そうだ、それでいい、最強のドラグナイト・プリンセスだってこうなりゃ何もできないよなあ!?」

ジブラルタはアイテム屋から、人質を連れたまま出た。
彼は得意げな顔で夜空を見上げる。
すると、星空から1匹の小さな何かが飛んでくるのが見えた。
それは、ジブラルタの″契約竜″だった。
クラス【竜騎士】たちには、それぞれ竜と心を通わせる能力があり、彼らはその心を通わせた竜とともに大空を駆けまわることができる。
ジブラルタはすでに自分の竜を呼んでいたのだ。

「よく来たぜ、俺様のドラゴン!」

ジブラルタの隣に、体長3メートルほどの小さなドラゴンが着地して主人を背中に乗せるように首を地面につけた。
ジブラルタは勝ち誇った顔で、人質を投げつけるように解放して、そのままドラゴンで飛びたとうとする。

「あばよ! 病気女! あははは、もしエイトが見つかったらよろしく言っといてくれや! まあ、とっくに魚の餌になってる、だろうけどよ!」

ジブラルタのは高笑いしながら、契約竜ヨークに乗って飛び去る。
と、思った瞬間、

「エイトならもう来てるわ」

ラナは泣く人質の女性冒険者を抱きしめてあげてながら、夜空を見上げた。

ジブラルタはそれに気がつき、顔色を青くしながら、ラナの視線の先を追いかける。

「グァアアっ!」

月を背追い、夜空をゆっくり降りてくる威容にその場にいた全員が釘付けになった。
威厳ある白い竜だった。
ホープテールと呼ばれる、竜騎士たちが騎乗可能と言われるドラゴンの中でも特に強力な種である。
体長は5メートルほど。
ジブラルタの乗るラギアフライより、ずっと優れた飛行性能と狩猟能力をもち、また見た目もラギアよりだいぶカッコいい。

「ひぁ……ぁ」

ジブラルタは喉をひきつらせ、目のまえに着地したラナの契約竜にすくんだ。
ホープテールを従えるラナのもつ戦力は、同じ【竜騎士】のクラスであるジブラルタとはもはや″格が違う″と言わざるおえない。

「エイト、よく来てくれたね。よしよし」

ラナは人懐っこそうに鼻を出してくる、ホープテール──名をエイトという──を優しくその白い手で撫でてあげた。
エイトはラナと触れ合えて凄く嬉しそうだ。
ジブラルタは余裕をかますラナに、怒りを再燃させながら、小さな声で「おら、飛べ、飛べよ……!」と自分の竜を拳でたたく。
ジブラルタの契約竜──ヨークは困ったような顔で、乱暴で優しくない自分の主人に降参の声をだす。だが、ジブラルタはここで降参する事など許すわけがない。
ヨークは自分がどうしたら良いのか、わからなく、よわり果ててしまった。

「ヨーク、ほら、おいで」
「っ、がお?」

人間から優しくされたことがないヨークは、ラナのその意外すぎる言葉に目を丸くした。
目の前で、自分より強大な竜を召喚し、そのまま喰い殺されるところまで予想していたヨークにとって、それは感激の誘いだ。
主人であるジブラルタと敵対してるらしい、目の前の美しい竜騎士──竜は美少女がわかる。あと大好き──はあろうことか、ヨークのことを助けてくれると言っているのだ。

「ん、あ、おい、てめぇ、何してやがる! てめえは俺様のドラゴンだろーが!?」
「がおー!」

まだ幼いドラゴンであるヨークには、乱暴する男より、優しい美少女のほうがよほど魅力的に映ったらしい。
ヨークはジブラルタを振り落として、ラナの横につくと、人懐っこそうに尻尾をふって、鼻を撫でてもらうことにした。大満足。

「ふざけんな! ふざけんなよぉ……!」
「ふざけてるのはどっちよ。ジブ」

ラナはヨークとエイトを下がらせて、ジブラルタの元へ高速で駆け出した。
追い詰められたジブラルタは覚悟を決めて、剣を構えた。

──しばらく後

「ぅ、ぐぁ…ごめん、、なさい、許して、ゆる、して、ぇ……」

顔中に青アザを作ったジブラルタが、アイテム屋のまえに吊るされていた。
当然のように彼では、ラナとまともに戦う事すらできなかった。もはや一方的にラナがジブラルタをぼこぼこに殴っただけだ。

「死ね! このクソ男!」

胸をもてあそばれた女性冒険者は、石を投げつける。女の怒りは怖い。
そこに酒場とアイテム屋の店主も続いて、鬱憤を晴らした。彼らサンドバックを叩いて気持ちよく遊んだ。

「はあ、なるほど、たしかに悪い噂は聞いていましたが、まさかそこまでとは」

現場整理をはじめた衛士たちを見ながら、衛士長はラナから事情聴取をとっていた。

「うーん、パーティメンバーの偽装殺害……これはとんでもなく重たい罪だ……」
「あんまり無さそうな事件だけど、そんな酷いことするやつ、ジブラルタの他にいるの?」
「判例があります。わりと最近の記録で『崖の都市』にて【英雄】だった男が、パーティメンバーの偽装殺害を行い、結局のところ未遂で終わりましたが、その罪はひどく重たいモノでした。ので、たぶん、ジブラルタの刑は『オーメンヴァイム』が堅いですかねぇ…」
「あ、そうですか。よかったです」
「凄い嬉しそうですね、ラナ様。でも、すこしだけ顔が恐いですよ…?」

衛士長はラナのざまあ見やがれと言わんばかりの顔に、苦笑いをしていた。
ちなみに『オーメンヴァイム』とはソフレト共和神聖国における最悪の監獄の名だ。
疫病が放置され、囚人同士の殺害沙汰など当たり前、死体が放置されるせいで呪いが蓄積し魔物すら出没するという。
まさしくこの世の地獄。
無法地帯のなかの、無法地帯として知られ、外道の極悪犯罪者のみが集められたその場所は、また脱獄不可能の檻でもある。
もはや″人ならざる看守″たちによって管理され、一度入れば、死ぬまで出てくる事はない。

「では、これで。数日のうちに審問会が開かれると思います。神殿に確認を」
「はい、わかりました」

衛士長はそれだけ告げると、ジブラルタに『沈黙の聖鉄』をつけて衛士たちとともに彼を連行していった。
その手枷は、あらゆるスキルとレベルの祝福を女神へ返還する魔導具だ。ジブラルタにはもう何のチカラも無くなったのである。

──しばらく後

ジブラルタは審問会の結果、大監獄オーメンヴァイムへの収監が決まった。
胸のすく思いだったが、正直言ってラナにとっては、彼の事などどうでも良いことだった。

パーティ『竜騎士クラン』は、ラナの意向で一時的に活動停止をすることにした。
ラナはエイトの捜索にチカラを入れたかったからだ。
効率的なレベルアップと素潜りの訓練。
ラナの生活はいつにも増して、ストイックを極め、毎日が高い熱量によって消化されていく。

カインはひたむきに付き合ってくれた。
彼はラナがはやく、より深い海に行くことを望み、ラナのために時間も労力もさくことをいとわなかった。

ある日、ラナは聞いてみることにした。

「どうして、カインはそんなにエイトの事を思ってくれるの?」
「それは…………まあ、だって、友達じゃないっすか。はぐれ者だった俺を、心良くパーティに入れてくれたラナとエイト。俺は忘れないっすよ」
「カイン…ありがとうね!」

ラナは全面的にカインを信頼していた。
それは心細さを紛らわせるためか、あるいは喪失と裏切りによって心が疲弊していたからかもしれない。

──またしばらく時間が経った

エイトの失踪から5年が経った頃。

今年も夏がやってきた。
ラナは去年の夏は深海2,000mへの到達に成功している。
それによって、わずかに魔槍の気配に近づいたような手応えを感じていた。
今年こそはもっと近づく。
ラナは意気込みを新たに、相棒が消えてから5回目の夏に挑もうとしていた。

「ん? あれなんだろ」

ラナがいつもの通り、家裏の浜辺にでると、彼女は不思議な物を見つけた。
浜辺からほんの遠い海面に何かが浮いているのだ。
それはまるで、船のようであり、しかして水に浮く金属の塊のようにも見えた。

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