【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第6話 海底サバイバリスト


シャベルを手に俺は海底洞窟から出てきた。

まず、俺に必要なのは食料だ。
それと寒さ対策。

これらを何とかする手段を見つけなければならない。

俺はあたりを見渡して、何か役に立つものがあるか探してみた。

最初に目についたものは、発光するあの植物だ。

高さは俺の背丈ほどもあり、先端に淡く光るつぼみがいくつもついている。

俺は「食べられるのか?」と自分に疑問を投げかけながら、植物に近寄った。

植物に近寄り、光るつぼみを触ってみる。

「温かい……!」

発光してるのは何らかのエネルギーが発せられているということ。

これは暖房の道具として役に立ちそうだ。

俺はさっそくつぼみをひとつもぎ取って、かじってみる。

硬かった。
とてつもない硬さだ。

「クソ、この深さの水圧への耐久性があるってことか」

俺はつぼみを食べることを諦めた。

おそらく、この海底に存在するものは、もれなく2トン以上の水圧に耐えうるものしかない。

食べられそうな物があってとしても、いきなり噛みついては、俺の歯がもたない。

俺は危険を念頭において、シャベルで発光する植物を根本から掘り起こし、それをポケットにしまった。

そうして、10株ほど植物を回収して、俺はいったん海底洞窟にもどった。

海底洞窟にもどり、俺はポケットを開いて発光する植物を取りだす。

土に植えればきっと明るく照らしてくれるだろう…………と甘い考えをしていた。

ーーパンパパパン!

危険な音がした。

「?!」

ポケットを開いた瞬間、中で何かが爆発したのだ。

慌ててポケットの中をのぞいてみると、水で満たされたポケット内には、光る破片がたくさん転がっていた。

取り出してみると、それが発光する植物の硬いつぼみの破片なのだとわかる。

「外側から2トンの水圧で押され続けていて、それに拮抗する形で内側からも2トンの圧力がかかっていたのに、俺がその均衡を崩してしまったのか……結果、内側からの2トンに耐えきれずつぼみは割れた、と」

俺はお洒落なインテリアが粉々になってしまったことを残念に思いながら破片を部屋の真ん中にかき集めた。

「ん? 底になにか沈んでるな」

俺は不思議に思い、ポケットの底のソレらを手にとってみる。

「うっ……これって、まさか……幼虫?」

ソレらはまるで、イモムシのようだった。

発光する卵から強制的に出されて、うねうねと苦しそうにうごめいている。

「あれ? 俺は何を……」

俺はじーっとイモムシをつまんだまま持って、そいつらを見つめている自分に気づく。

俺のなかで「やめろ、それだけはやめろ!」と言い聞かせてくる、常時を捨てきれない甘ちゃんと「これは貴重なタンパク源です」と肝のすわった海底サバイバルの達人が同時に話しかけてきていた。

俺はあたまを左右にふり、腹をくくる。
海底サバイバルの達人の言葉に従うことにしたのだ。

このイモムシを食べられなければ、またいつ食料を見つけられるかわからない。

逆に言えば、このイモムシを食べられれば、ここら辺に生えてるひかる植物はみんな俺のご飯になってくれるってことだ。

迷ってる暇などなかった。

「いただきます…………ゔぉえええ!」

俺は一線を越えた。


⌛︎⌛︎⌛︎


ーー約1週間後

俺は静かに目を覚ます。

拡張工事が進んだ我が家(海底洞窟)は、ライト(イモムシの卵の殻)により快適な移住空間へと変貌を遂げていた。

暖房器具としては、魔槍を採用した。

魔力放射が可能な魔槍は、抜身で置いておくだけでも、結構な熱量を放出し続けてくれているので、我が家のなかをそれなりに暖かくしてくれる事がわかったからだ。

どういうわけか、俺はとくに疲労を感じないので、きっと魔槍に備わったパッシプ能力か何かなのだろう。

ありがたいことだ。

俺はまずベッドから起きたら、地面に段差をつけて、削って、作った地下へといき、そこで″朝食″を食べる。

地面をほってつくった、ろ過水がたまる水槽のまえに立つ。

「さて、上手く出来てるかな……おお」

俺は水槽のとなりに置いておいた、創作物を手にとった。

創作物、それは『コップ』だ。

海底で回収してきた砂と泥をつかって、形をつくり、ひかる破片を集めて山盛りにした熱源の、その近くに置いて乾かしておいたのだ。

俺はコップを持ちあげて、縦横上下からそれを眺める。

「はは、パーフェクト」

その完成度に満足して、俺はもう冷めて光の無くなって破片たちを適当に手で払って床に捨てる。

コップで水槽からろ過水をくみ、いっぱい飲んだ。

うん、美味い。

次は別の水槽のまえにいく。
そこにはろ過水ではなく、海水が並々と注がれている。
中には昨日のうちに沈めておいた、ミスター・タンパク源(例の幼虫)が5匹ほど死んでいた。

この1週間にわたる食レポートの結果、俺はこのイモムシが生きたままより、卵から出して死んでいたほうが、歯応えが強く、美味しくいただけることを掴んでいた。

「いただきます。うーん、デリシャス」

近頃は、もう昔の自分に戻れない感じを、ひしひしと感じるが、過去への未練など海底サバイバリストにはいらない感傷である。

俺は朝食を終えて、武器であるシャベルを手に取り、我が家の玄関から外へでた。

この1週間、俺はルーティンを作りあげてきた。

起きたら、海底を散歩して近海底のマップをつくりあげることだ。

俺は家のまわりになにもいないことを確認する。

「今日は大丈夫か……」

ホッと息をつき、俺は地面に突き刺さったままの魔槍へ視線をうつした。

俺はこの1週間のあいだに、ここが恐ろしい怪物の世界だと思い知った。

出来れば、あの槍を持ち歩きたいが、まだ俺には海底であの槍を振り回すだけの能力が備わっていない。

今の相棒は、このシャベル一本だけだ。

「よし」

俺は気持ちを新たに、1週間前よりもスムーズな動きで海底を歩きはじめた。


海底を歩いていると面白いものを見つけられる。

「お、でたな、美味しいやつ」

俺は岩陰に身を潜めていた、動きの鈍い深海魚を素手でつかまえて、ポケットに放りこむ。

この魚も、イモムシだけでは飽きてしまうだろう深海の食卓に色を添えてくれる大切なミスターだ。

俺はそうしてミスターたちを、ポケットに回収しながら、海底を1日に10時間ほど散歩する。

ここらへんの海底は、発光する植物によって、かろうじて視界が保たれているが、もちろんこの植物の群生地から離れれば、そこは完全なる暗黒の世界だ。

そのために、俺は服の内側には緊急食料と非常灯の両方の役割をこなえせるミスター・タンパク源(殻付き)を持ち歩いている。

殻はヒビを入れておけば、そこから内側の圧力が逃げるので、携行可能な仕様となっている。
イモムシが入ったままだと、発光が長持ちすることが判明したための工夫である。




発光植物群生地をしばらく進むと、俺は遠くでうごめく巨大な影をすぐさま察知した。

「……」

呼吸ひとつみださずに、俺は迅速に岩陰に隠れる。

「のぞのぞ、のぞのぞ」

そいつは巨大な攻殻をもっている。
この海底でも自由に動きまわるタフネスを備えている。
無数の足も生えている。その数をのんきに数えられる暇人はそうそういないだろう。

ありていに言ってーー巨大ダンゴムシだ。

「のぞのぞ、のぞのぞ」

高さ1メートル、長さ3メートルは下らない超ビッグサイズ。

やつはこの発光群生地をなわばりとしているらしく、つまりは俺のライバルでもある。

近海底をマッピングして判明したことで、我が家はこの発光群生地の辺境に位置しており、巨大ダンゴムシたちは数百匹、あるいはそれ以上の数が発光群生地の中央付近に集中していると思われる。

そのため、こいつらは滅多に我が家のほうまでは来ないのだが、こうして中央付近に足を運べば、必然的に遭遇するというわけだ。

俺は岩陰に潜み、巨大ダンゴムシが近くにやってくるのをじっと待つ。

数日前は追いかけまわされ、トラウマになる恐怖を植えつけられそうになったが、今の俺は以前よりもレベル、ステータスともに上昇している。

それに、毎朝ミスター・タンパク源をを摂取することで、俺の体は活力に満ち満ちているのだ。

本当のこと言うと、ミスター・タンパク源のもつ、異常な栄養素のおかげで、おそらく俺は寝なくても休憩しなくても活動できる。

ただ、人間的な本能の部分で寝たりしているだけだ。
「のぞのぞ、のぞのぞ」

来た。

まわりには他の巨大ダンゴムシはいない。

向こうは俺に気がついたない。

やるならここだ。

「のぞのぞ、のぞのぞ」
「ふっ!」

俺は黙って巨大ダンゴムシの前へおどりでて、そのあたまを、全身の筋肉を連動させたシャベルの一振りで思いきりたたいた。

「ぐぎぃ!?」

巨大ダンゴムシはびっくりして丸まってしまった。

よし、計画通り。

「こっちに来い」

俺はシャベルの先端を地面に指して、コテの原理で、とてつもない重さの巨大ダンゴムシを地面を転がして、我が家のほうへと運んでいく。

この堅物を倒すには時間がかかる。
発光群生地の中央にいては、いつか別の巨大ダンゴムシに見つかってしまう。

俺はコロコロと巨大ダンゴムシを転がして、我が家の前へ帰還した。


⌛︎⌛︎⌛︎


「ぐぎぃ?」

我が家の前に帰還した俺は、巨大ダンゴムシを家のまえに放置してしばらく待機した。

そうして待つことしばらく。

1分、2分……3分くらいは待っただろうか、巨大ダンゴムシは丸々ファームを解いて、あたりが安全と判断したらしい。

くりっとした瞳が特徴の愛らしい顔をこちらへ向けてくる。

瞬間、俺は心を鬼にして、あらかじめ構えていた魔槍を突き刺した。

「ぐぎい?!」
「ごめんな、俺が生きるためだ!」

俺はそういって魔槍の魔力を解放する。

「≪ラナ・スティンガー≫」

ゼロ距離からのオレンジ色の魔力放射に、巨大ダンゴムシはたまらず爆散した。

あとに残るのは虚しさだ。

食糧が少ないこの地で、俺たちは互いをむさぼり食うことでしか生きられない。

久しく忘れていた、人間も生態系のなかに属しているのだという野性の感覚を胸に、俺は、ほくほくに焼けた巨大ダンゴムシ肉をポケットの中に回収した。

「ん、身体が軽くなった……一気にレベルアップしたのか?」

俺は巨大ダンゴムシを回収しながら、自分のステータスの変化を確かに感じた。

我が家へ戻るなり、俺は『ステータスチェッカー』に血をセットする。

ーーピピッ

『ステータスチェッカー』が起動した。

エイト・M・メンデレー
性別:男性 クラス:【槍使い】
スキル:〔そよ風〕〔収納〕
ステータス:正常
レベル54(St35+EX19)
体力 406
持久 659
頑丈 406
筋力 491
技術 589
精神 685

「レベル54……! ついに、ジブラルタを抜かしたぞ! やった、すごい、あのダンゴムシを倒しただけで一気に4レベルもあがった!」

凄まじい経験値の塊だ。

そうかそうか……。
あの巨大ダンゴムシ……。
ふふ、そうか、そうか……。

「ふはは」

俺は良いことを思いついてしまった。

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