燃費最悪の外れスキル【時空剣】のせいで追放された俺、燃費問題を解決して最強となる。戻って来ていいと言われるがもう遅い。
強くなるには
選考会まで残り6か月、あまり時間はない。
俺は日々特訓していた。
新しく開発した撃つ時空剣の連射速度と、命中精度を高めるためだ。
時空に裂け目というなの発射口をつくり、瞬時に5メートル先の的を狙うのは、なかなか難しいものなのだ。
そして、問題がまたしても発生した。
それは、練習するほどにララが減る事だ。
これは守銭奴心に来るものがあった。
剣を異界からこっちにもってくるので100ララ。
撃ちだすエネルギー代で50ララ。
時空剣を構成する魔力を粒子に返還すれば、剣の構築にかかった魔力は帰ってくる。
だが、すべてのララを回収できるわけじゃない。
ゆえに俺は一日20本だけと、練習量を定めて一発一発、丁寧に練習を続けた。
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ノエルの先生になって4か月後。
夜、むすっと怒った様子の彼女に呼び出されていた。
「最近、我が師は自分の練習ばっかりなのです! もっとこのノエルシュタインの面倒をちゃんとみるのです!」
出会い頭に、いきなりお叱りを受ける。
「それは……本当にごめんな、俺が悪かったよ」
高い給料もらっているのに。
自分を優先してしまった。
俺はなんて浅ましい人間だ。
これじゃ先生失格だ。
「そんなに今のお給料に満足できないなら、4,500ララに増やすのですよ、これでしっかりやる気だしてください!」
ん?
「ろ、え、4,500……?! なんでいきなり……」
「すごく教え方上手くて、私に寄り添ってくれて、毎晩、私の成長ノートつけて、メニューを考えてくれて……私としても安く雇うのは心ぐるしいのですよ!」
「褒められてる……。はは、ありがとな、ノエル」
俺はぷいっとそっぽ向く彼女の金髪を、わしゃわしゃと撫でた。
こうしてなんだかんだ給料が一気に1.5倍に増えた。
真面目に働いてみるものだな。
──1週間後
「できない! もう無理……やめますッ!」
彼女が癇癪を起こしはじめた。
「真剣なんて重たすぎなのです! こんなもの人が振るために作られてません!」
「そうはいっても、いつまでも木剣じゃ仕方ないからな」
1週間前に真剣の連取に切り替えてから変ではあった。
が、ここにきて爆発したか。
「無理です、もうやだ、手首痛いです……全部無駄だったんですよ…」
「そんなことないよ、治癒ポーションあるから、治して頑張ろう」
俺は空間の裂け目から小瓶を取り出す。
時空剣をとりだすための穴は、アイテムをしまっておくのにちょうどいいのだ。
「いいですよ、もう……薄々感づいてました、私には才能ないって」
「……」
「我が師のお給料をあげたのも、それでなにか変わるかもって思ったからなのです。ははっ、ははは……なんて浅ましい考えなのでしょうね。笑ってください」
彼女の心の軋轢がどれほどかわかってやれなかった。
彼女はずっと悩み続け、そうしてついに折れてしまったんだ。
「ピアノを嗜む事しか知らない貴族の娘では、立派な剣士になんてなれないんです」
「……やめるのか?」
「やめます!」
「そう、か」
俺はノエルが地面に捨てた真剣を拾う。
「ノエルは『剣姫』のレイみたいになりたいんだよな」
「それは、10秒前までの話なのです! カッコよくて、綺麗で、優しくて。そんな、騎士に憧れました……だけど」
ノエルは半ば涙目になりながら「私なんかには、無理なのですよ……っ」と、ちいさく繰り返していた。
昔の自分の姿が重なる。
父親の背中を追って、6歳の頃、初めて木剣を握った。
あれから10年、剣を振り続けた。
毎日、毎日、毎日──。
「俺も最初は真剣が持てなかった。剣を振っても村の奴らには才能無いって馬鹿にされたよ。実際、あんまり物覚えがよくなかった」
俺は真剣を手に庭石に近寄る。
そして、横凪に振り抜いた。
「ふぇ?」
ノエルは真っ二つに切れた庭石を見て、目を白黒させる。
「俺はモーリアにいる14歳の剣士の中じゃ、たぶん2番目に強い。レイがいるから1番じゃないだけだ」
「音が、しなかった……」
「俺と他の剣士たちにある差が何か、お前にはわかるか?」
ノエルは目をパチクリさせ、真剣な表情で考えこむ。
「今できる事をひとつずつ」
「っ」
「ひとつずつ、俺は積み上げただけだ。昔も、今も。面倒臭い時も、疲れてる時も、親に怒られて不貞腐れた時も、親友に裏切られた時も──剣を手に取って庭に出続けた」
俺は真剣をノエルの手に差しだす。
「そうやって、靴紐を結び、空き地の土を踏み続けることが、強い剣士を作る」
ノエルは剣を見つめる。
「今できる事をひとつずつ」
「……今できる事をひとつずつ」
「目標を定め、ひとつずつ重ねる。そうすれば、必ず成長できる」
ノエルは俺から真剣を受け取ると、先ほどとは間違えた面構えで、素振りを再開した。
その晩、俺の部屋には『幽界の姫』なる人物からの感謝状と、月給が6,000ララに修正された給与明細が置かれていた。
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