【完結】 外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ノベルバユーザー542862

大テイマー時代へ


アイリス考案のデートプランで、放課後の校内をブラつく2人は、ドラゴンクランの中庭で興味深い催しが開かれていると聞いて、さっそく足を運んでいた。

中庭に来ると、そこでは広い石畳みに描かれたおおきな魔法陣の真ん中で、モンスター二体が激しい戦いを繰り広げていた。

「使役術の競い合いか?」

一目見て、それが怪物学会で開かれている月間決闘大会に似ていると気がつく。

「ドラゴンクランで使役術は流行ってるのか?」
「アルバート、あれ見て」

アイリスの指さす先、魔法陣の外にテントが立っていた。
テントには「使役術サークル」の文字が書かれている。

「使役術サークルって……」
「わたしが昔買ったサークルね。ふふ、わたしたちが学校にいない間に大きくなってるみたいだわ」

校舎も教師陣も、2年前とはさして変わっていなかった。だが、こういったところには大きな時間の経過が感じられる。アイリスにとってこの経過を見つける事も、学校散策での楽しみだった。

「っ、あれは……アイリス様とアルバート様なのでは?!」

なにやらテント方面が騒がしい。
ひとりの女子が、駆け寄ってくる。
制服ローブを白いパーカーの上に重ねた銀髪の少女だ。

「お久しぶりです! ノエルですよ! お忘れですか?」
「ああ……奨学金の奴か」

アルバートは薄っすらと、かつてのごく短い在学期間で学院での出会いを思い出す。アイリスが眠りについてからは、治療に専念するため、休学したので、学院でのアルバートの知り合いはごくわずかだった。

だが、そんな学院時代の記憶のなかで、友達がゼロであったわけではない。

ノエルは数日間だが、たしかに友達っぽく話してくれていた。

「あらノエル、久しぶりね」
「お久しぶりです! アイリス様が回復なされて本当によかったです!」
「ありがとうね。ところで、これは何の騒ぎなの?」

アイリスは魔法陣内での戦いを見て言う。
ノエルは自信たっぷりな笑顔で、胸を張って「のんのんのん!」と指を立てて左右に動かした。

「騒ぎ、なんて言葉で片付けてもらっては、このノエル・ラヴータは困ってしまいます!」
「ほう。どういう事か聞かせてくれ」
「よくぞ聞いてくれました、アルバート様!」

アルバートへ明るい笑顔を見せる、

「私には夢があるんです! これはその計画の第一段階なのです!」
「夢だと?」
「はい!」

ノエルは走ってテントへ戻って、何やら大きな旗を持ってきた。

旗を芝に突き立てると、風属性式魔術でその風を吹かせて、旗をなびかせる。

旗には気合いの入った文字で

『使役術の祭典、開幕!!』

と書かれている。

「怪物学会での研究員として過ごした時間が、私に気が付かせたんです! 使役術がいかに素晴らしい魔術なのかを!」
「そんなに感銘を受けてくれたのなら、学生たちを受け入れた甲斐があるというものだ」
「ええ。なので、私は使役術普及のため大会を開催するんです。使役術を競い合う大会、テイマーのための大会を! それが私の夢です!」

アルバートは目を大きく見開く。

使役術普及のため、それを競技として大会を開く。

使役術の普及は本来アダンが、そしてアルバート自身が掲げていた人生をかけて成そうしていた目標だった。

刻印継承での事件から、フレデリックの一件でだいぶ遠回りしてしまったが、今こそ、そこへ立ち返るべきなのではないだろうか。

アルバートは新しい目標を見つけたような気がした。

「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「あ、アルバート?」

燃え尽きような魔術師の心に、再び火が灯った。

──1ヶ月後

アルバートはドラゴンクランに通いながら、アイリスとの結婚式の話を進め、同時に革新的なプロジェクトも進めていた。

プロジェクトの名は『テイマーオリンピア』

一定のレギュレーションを定めた中で行われる、使役術を競い合う祭典である。

ドラゴンクランの使役術サークル部長ノエル・ラヴータと、副部長リバーは、怪物学会の融資窓口を通じて、この大会を開催する準備を整えつつあった。

アルバートとアイリスは彼らに協力し、使役術の第一人者として、レギュレーションの作成に取り組んでいた。

この日、アイリスとアルバートは中庭のベンチに腰掛けながら、大会規定の原案と睨めっこしていた。

「ねえ、アルバート、使役術師ひとりが登録できるモンスターの数なんだけど、これじゃ多すぎると思うの」
「そうか? 100くらいでちょうど良いと思うが。たくさん戦った方が興行として盛り上がるってカールネッツは言ってたしな」

アルバートはジャヴォーダンで一番の闘技場を運営する腐れ縁の男の顔を思い出す。

彼は業界の大ベテランだ。
アドバイスは役に立つはずだ。

「それは使役者のいない闘技場での話でしょ? 限度があるわ。100匹も同時に使役できる魔術師なんていないわよ」
「いるが」
「アルバート以外、いないわ。あなただって怪書がないと、ラビッテを手に乗せるのが限界じゃない」
「ちょっと待ったそれには異議を申し立てよう。俺のモンスターのテイムだってできる。先日は野生のブラッドファングを俺一人で捕まえたんだ」
「わかったわよ、もう。とにかく、いざ大会で戦わせるとしたら、せいぜい数匹を同時にコントロールするのが関の山でしょ?」

彼女の言っている事は正しい。
だが、たくさん戦わせたい願望は捨てがたい。

「でも……!」
「でもじゃない!」

その後、2人はドラゴンクランの使役術専攻の学生や、怪物学会の研究員たちに調査を行い、使役術者の平均所有モンスター数が1.7体であるという情報を得るのだった。

大会規定はどんどん改定されていき、少しずつその形は出来上がっていった。

──2か月後

テイマーオリンピアの準備が着々と進むある日のこと。

アルバートとアイリスは深刻な顔をして、婚約の儀式を行っていた。

数奇な運命のせいで失った時間を取り戻すためだ。

アルバートは、慎重に婚約指輪をアイリスの左手薬指に嵌めようとする。

「む」

おかしな事が起こっていた。
婚約指輪が嵌まらないのである。

「はまらない……まさか、指が太す──」
「わー!! そんな事ないから! ちょっと貸してよ、もう!」

顔を真っ赤にして、アイリスはアルバートから婚約指輪をもぎとる。

「あ、あれ? なんで!」

どんなに嵌めようとしても、薬指が指輪を通ってくれなかった。まるで婚約する事を見えない悪魔の手が邪魔してるみたいだった。

「なにこれぇ……もう訳わかんわよ……」

意気消沈するアイリスとは違い、アルバートには一つ心当たりがあった。

「アイリス、この事は俺に任せてくれないか」
「どうする気なの?」
「まあ、いいから」

アイリスに婚約指輪が嵌まらない問題は、アルバートに一任される事になった。

──翌日

アルバートは都市間を繋ぐ転移ゲートステーションにやって来ていた。

遥か遠方の都市まで家から通えるようになったジャヴォーダン市民たちは、早朝から、転移ゲートステーションへやってきて、ほかの大都市や、王都へと出勤していく。

こんな光景は怪物学会がなければ考えられなかったものだ。

アルバートはこの偉大な都市を繋ぐ発明を見るたびに、文明の発展に貢献したという充足感に満たされる。

彼が本日向かう先は、ある貴族のところである。

朝日が昇る前の、まだ薄暗い王都が見える。
転移ゲートステーションを出て、仕事へ向かう人々に紛れながら、魔導列車で第三段層へと上がり、駅を降りてしばらく歩く。

目的の屋敷へとやってきた。
門には『ウォルマーレ家』と書かれたプレートが付いていた。

──数時間後

アルバートは家の客室に通され、ティーを出されてもてなされていた。

机を挟んで、アルバートの向かい側に座るジャクソン・ウォルマーレは、えらく顔色が悪い。

揺れる瞳は、アルバートが何をしに来たのかを探っているのか、あるいはただ恐れているのか。

長い沈黙を破ったのは、アルバートの方だった。

「昨日の今日でのアポイントメントだったのに、時間を作ってくれてありがたく思う」
「は、はは、当然さ。アダンとウォルマーレの仲じゃないか」
「ウォルマーレ殿、スクロールも探してくれたようでだな。助かる」
「……むう」

ジャクソンは机上の、青く光る文字が書かれた羊皮紙を見て、怪訝に眉根をひそめる。

「兄貴が父に代わって家を継いだ時期に、放棄したと思っていたんだが」
「大事なモノだ。無くさず呪いが掛かってるのかもしれない」
「ふん。いっそ燃やしてしまえばよかった」

吐き捨てるように話す彼は、見るからに不機嫌そうだった。

「君はやっぱり、怒っているのか、ウォルマーレ殿」
「はは、別になにも気にしてない……本当さ、気にしてない。なんせ俺様は名家の令嬢と結婚できる器だ。主席の座だって夢じゃない。協会員ですらない追放者になんか価値はないんだ」

ジャクソンは腹の奥で堪えるように笑うと「アイリスはくれてやる」と澄まして言った。

「君がアダンを目の敵するのは構わないが、彼女のことは悪く言うな」
「視察団に俺様の父親がいた。お前のせいで父は死んだんだ。なのに、その責任も取らずに、お前だけ幸せそうになりやがって!」

ジャクソンは勢いよく立ちあがると、アルバートの胸ぐらを掴んだ。

「俺様の人生はめちゃくちゃだ! お前のせいで!」
「君の父親は視察という名の学会襲撃に進んで参加し、結果命を落とした。恨むなら無謀な選択をしてしまった父親を恨め」
「ははは、ほら出た! 強者はいつだってそうだ! のらりくらり、自分がやったことに責任を持たない! なにがノブリス・オブリージュだ、クソ喰らえ!」

机上の羊皮紙を掴んで、アルバートの目の前に突きつける。

「はは、はは、この『破れぬ誓約』がある限り、お前たちは真に結ばれることはないんだろう?! ざまあ見ろ、この俺様を差し置いて、使役魔術の天才だとか呼ばれやがって、てめえにはムカついてたんだよ! ああ、せいせいするぜ!」
「襟が伸びる」

アルバートはジャクソンの手首を掴み捻りあげる。コキッ、という音が聞こえて、ジャクソンの手首はおかしな方向へ曲がった。

「うぎゃああああああ?!」
「おっと、すまん。折るつもりはなかった」

ジャクソンは絨毯のうえに転がり「くそ野郎がぁあああ!」と涙を流しなから叫ぶ。

「ぅう、ぅう! コケにしやがって……! エドガー・アダンの才能を継いだだけの七光りが……っ!」
「……まあ否定はしないが」

実際、あの人のおかげでやってこれたところは多分にある。



「とはいえ、誤解を恐れずに言うなら、俺は当代最強の使役魔術師だと思ってる」
「うるさい!! ナルシストが!!!」
「まあ、そう噛みつくなよ。俺も君の立場は不遇だと思ってる」

元々ウォルマーレはエドガー・アダン時代の影響を受けて、使役術の秘術に傾倒した魔術家だ。

だが、現在まで存続できている当時の魔術家は多くない。
ほとんどが才能がないにも関わらず、エドガーへの憧れと流行のためにだけに、一族郎党、無意味な研究に投資してしまったせいだ。

『使役学の父』はたしかに使役術を100年進めた。
だが、ほかの誰もそれについて行けなかった。

かくして第一次使役術ブームは廃れた。

多くの魔術家は2代と持たず、没落した。
その点、3代目まで来ているウォルマーレ家は健闘している。

ただ、研究の進捗もなく、過去数年間で発表した論文がたったの2つだけとなると、かなり厳しい立場にあるのは間違いない。

「率直に言って、貴家が生き残るには別の手柄が必要だろう。もし君が優れた使役魔術師だと言うのなら、それを証明する良い舞台があるぞ」

アルバートは『破れぬ誓約』のスクロールを拾いあげ、代わりにテイマーオリンピアのパンフレットを、倒れるジャクソンの顔横に落とした。

「怪物学会が主催するテイマーの祭典だ。初代チャンピオンの栄光を掴めば、この家を取り巻く状況も少しは変わるかもしれない」
「使役術の大会、だと……?」
「予選はもうじき終わる。明日が最後の予選会だ」

それだけ言い残すと、アルバートは足早にウォルマーレ邸をあとにした。

──3週間後

ついに『第一回テイマーオリンピア』が開催されることになった。

場所は本大会主催者である怪物学会の本拠地ジャヴォーダン城だ。

あえて硬めの使役魔術師という言葉ではなく、テイマーを採用したのはキャッチーさのためである。

アルバートはエドガー以来の、第二次使役術ブームを本格的に巻き起こそうとしていた。

その甲斐あってか、本日のジャヴォーダン城には、魔術師でも詠唱者でもない市民らだけで、実に2,000人を越える来場者があった。

第一回大会にしては破格の成果だ。

参加選手は予選を勝ち抜いた、選ばれし18名だ。

詠唱者、魔術師かは問わない。
ただ、純粋な実力だけを判断基準として勝ち抜いたテイマーたちが揃っている。

決闘場を見下ろせる高台の来賓席から、アルバートは会場全体に姿が見えるように立ち上がった。

「厳しい予選を勝ち抜きし選手諸君、まずはおめでとう。これからの時代の伝統の先駆けたるこの舞台にたどり着いたこと心より称賛する」

アルバートが見下ろす選手のなかには、ノエルやリバー、そしてウォルマーレ家のジャクソンの姿があった。

「スポーツマンシップにのっとった正々堂々たる試合を期待する。──栄光を掴め」

短い激励が終わると、会場全体から拍手がパラパラと聞こえてきた。

来賓席のアイリスは不安そうな顔で、アルバートに耳打ちする。

「どうしてジャクソンを?」
「仲良くなって『破れぬ誓約』を無効化してもらわないと」
「その割には手首折ったじゃない」
「あれは手違いだ。ジャクソンが悪かった」
「はあ……」

──────────────────

この日、のちに世界の最古のテイマー大会とされる『テイマーオリンピア』初代チャンピオンが生まれた。

怪物学会のこの試みは、人々の心に熱を灯した。
簡易刻印の販売は人々に気軽にモンスターへのアプローチを可能にし、モンスター収納用の銀の鞄の販売は、モンスターを旅する者たちのパートナーにした。

翌年に設立された『テイマーリーグ』は人々に競技使役術を浸透させた。
法外な優勝賞金は若者に夢を抱かせた。

ひとりの学生から得た着想から、アルバート・アダンは世界を動かした。

すべての人間がモンスターを友にできる時代。
すべえの人間がテイマーとして夢を追い、活躍し、歓声を求められる時代。

それは新しい文化の創造だった。

『テイマーリーグ』を通じて、テイマーたちの活躍の場として、年間を通じて大小多くの試合が用意され、より大きな国際大会も設置されていった。

こうして魔術王国から大陸全土へ、テイマーは急速に普及していく事になった。

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