【完結】 外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ノベルバユーザー542862

黒液の正体


眼前で液体がふくれあがる。
アルバートはすぐさま強化魔術を使おうとするが、発動はまったく間に合わなかった。

「アイリス!」
「アルバート!」

交換される互いを案じる叫び声。

「? …あれ?」
「大丈夫ですか、アルバート!?」

アイリスのことをかばったつもりが……。

彼が気がついた時、彼は鬼気迫る表情をうかべ、いつの間にか彼女に抱っこされて壁際にいた。

不可解な現実に、アルバートは「あぁ、【錬血式】のチカラですか……」と納得し身震いしながら声をもらす。

「今の爆発に反応できるんですね……」
「もちろん。見直してくれましたか?」
「そりゃ、もう」

アルバートはアイリスという少女を怒らせてはいけないと確信した。

床に下ろしてもらい、怪我がないことを確認して、爆心地をおがみにいく。

床にはグロテスクな二つ頭のファングの遺体があるばかりだ。

「爆発ですね」
「みたいです。なぜ爆発したのでしょうか」
「一般論として触媒の強度にたいして、内包する魔力が過剰だと、このような結果になりやすいですね」
「たしかに。では、アイリス様の血では、魔力が過剰すぎると」

というわけで、アルバートはアイリスより弱そうな奴に協力を仰ぐ事にした。

書庫前へ出てきて、待機していた銀髪の少女に話しかける。

「アルバート・アダン、なんの用だ!」
「血をもらおうと思いまして」
「断る!」

アイリスが説得したところ、サアナは渋々アルバートへ血を提供することに同意してくれた。

「勝手にあたりの物にさわらないでくださいね」

アルバートはにこやかだが、圧のある声でサアナを牽制して魔術工房へ招きいれる。

サアナは口をへの字に曲げて「アイリス様、あやつを信用してよいのですか?」と耳打ちする。

「大丈夫ですよ。アルバートは先にわたしを信用してくれたのですから」

そう言われてサアナはしょぼんとする。

「で、アルバート・アダン、どうすればいいんだ」
「そうですね、いくつかサンプルを用意してしたので、これらに血を垂らしてください。順番にです」

アルバートはそう言って、番号をふった札をゆかのうえにたてていく。
サアナを招き入れる前に発動しておいた怪物召喚が時間差で発動して、床から黒いグツグツと煮える液体がでてきた。

サアナは緊張した面持ちで、1番に血を垂らした。

1番はファング2体分の『元』だ。

「これでいいのか」
「っ、即爆発しない? これは好調の予感がする」
「話を聞いているのか」
「ん? しかし、血液と黒液が結びついている……この結合現象はどこかで見た気がするな」
「おい、アルバート・アダン、私の話を──」

サアナは不機嫌に声を荒げようとした。

しかし、その瞬間、アルバートは「あっ!」と声をあげて、サアナに近寄った。

「へ?」
「頭をさげろ!」

アルバートはサアナを抱えこむようにだきしめて、重厚な作業机の下に転がりこんだ。

すぐのち、爆発音が聞こえて血肉の雨が魔術工房を盛大に汚してしまった。

「ええぇぇえ?!」

「チッ、また失敗か」
「みたいですね。惜しいところまで行ったのですが」
「根本的に血では──あるいは、血だけでは足らないのかもしれませんね……」

目を点にしてうろたえるサアナの事を完全に無視するアルバートは、「あ、」となにか閃いたように声をもらした。

「サアナ……お前、もしかしてスライムなのでは?」
「何をとち狂ったこと言っているんだ、アルバート・アダン」

アルバートは驚異的閃きを得ていた。

それは、書庫の資料でチラ見した記憶のある『スライム』という単語と、それに関してなぜかエドガー・アダンは関心をもっていたことに起因していた。

通常ならば、弱いばかりで、経験値をろくに落とさず使い用がないモンスターの筆頭候補……それが、スライムというモンスターだ。

しかし、なぜか伝説の魔術師はそんなスライムを熱心に調べていた。

さらに言えば、もうひとつ閃きの源泉があった。

「そうか、もしかしたら!」

起き上がろうとするアルバート。

「おいこら、サアナ……じゃなくて、サアナ様、邪魔です、はやく退いてください!」
「ッ、今呼び捨てに──ぶへっ」

サアナを押しのけて、アルバートは書庫へと駆けあがっていく。

今すぐには使わないと思って、しまっておいたその資料を棚をひっくり返す勢いでさがしていく。

「錬成血液……接合剤……魔力充足……装填率、乖離、分解、構築…再生……スライム染色」

アルバートは血液と黒液のまざりあう現象を、どこかで見たことがあった。

「父さん、あなたの研究は無駄ではなかったかもしれません」

出来損ないの魔術師ワルポーロ・アダン。
彼が子供の頃のアルバートによく見せていた魔術のなかに『スライムの染色』があった。

通常、青色をしたスライムの色を赤や緑といった別の色に変えるだけの子供遊びの範疇をでない魔術。

結局、アルバートが5歳の頃に、虹色に輝くスライムを開発してしまったせいで、ワルポーロはやる気を無くして研究をやめてしまった。

だが、今、かつての彼のスライムの染色研究は、その題材をサウザンドラ血液とモンスターの『元』に置き換わってカタチを為そうとしている。

「これだ!」

アルバートは古びたエドガー・アダンの資料と、比較的新しいワルポーロの著書『スライム染色の道のり』を手にとった。

出版ギルドや魔術協会に持ち込んだが、けして世に出るのことのなかったワルポーロの本。

「使わせていただきます」

アルバートは資料を抱えて、魔術工房へと降りていった。

──しばらく後

不機嫌を顔にはりつけて、魔術工房の床を掃除するサアナはティナになぐさめられていた。

「掃除のコツをお教えしますね!」
「ぐぬぬっ、アルバート・アダンめ……!」

当の本人はサアナなど眼中にはない。

「黒液の性質はスライムに近しい。しかし、違う」

アルバートはファング1匹分の『元』を、金属のヘラでわけながら言う。

「あ、アルバート、それは平気なのですか?」

通常、『元』すべてが正常にカタチになることでモンスターが誕生するのに、わけてしまっては可哀想な結果を招くのではないか?

と、アイリスは眉をひそめていたのだ。

しかし、結果はそうはならなかった。

時間が経過してそこに現れたのは、半分になったファングの死体ではない。

「ぷるるん」
「これは……!」

アイリスは驚きに目を見開く。

アルバートはソレを持ち上げて、神妙な顔つきで「なるほど」とつぶやいた。

「ぷるるん」

「赤黒いスライム……はて、どうしてこんなモノが産まれるのか……」
「それも2匹です」

アイリスも床の上のスライムを持ちあげて、抱きかかえる。

2人の魔術師はむずかしい顔をして、お互いの持つスライムに視線を落とすのであった。





          

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