ごみ人間 『お前がおらんと、おもんない』って言わせたる♡

相度@益太

夏休み7

「うぁ、なんや…」

「起きぃ、総一郎」

「へ? マサヒロ? …なん、ぅぅ、あ、あたま、いぃ痛ッ…」

「解ってる、でも我慢せぇ、バイクで移動すんぞ」

「はぁ?」


 完全に寝起き状態、自分がどタマ金属バットでパッカーンいかれた事も忘れとる。でも、取り敢えず目が覚めて良かった。

「ヨッシーぃぃ! 帰んでぇぇ!!」

 俺の張り上げた声に呆然とパッ金を見詰めとったヨッシーが振り向いた。

「晃ぁ、バイクや。早よ、ヨッシー乗せろ!!」

 自分の仲間に何してんか知らんけど、兎に角あの糞パッ金とは、これ以上関わったらあかん。絶対、アイツDQNやろ。そんな思いが頭の中で渦巻いとった。

 晃が原付のエンジンをかける。
 黒のヂョグZZ typeR。ダブルゼータタイプアール
 通称、ゼーダブアール。


 晃は、喧嘩はイマイチやけど、バイクの運転にだけは定評がある。せやから、集団で走る時はポリ相手にケツ持ちを任される事もある程や。

 晃の乗った原付が、最短最速でヨッシーの方に向かって行く。それと同時に糞DQNも動き出しよった。

 首から血が噴き出とるソイツを、なんかゴミみたいに放り出して、ヨッシーに、向かって走り出した。


 倒れたソイツが動いて無い。
 それが、めちゃくちゃおそろしい…

 今すぐ走って行って、ちゃんと生きとるんか、確認したかった。でも、そんな場合と違う。全員、無事に此処を離れる為に、俺が、警棒型スタンガン、タイターンでもう一発、あの糞DQNを殴って止めるしか無い。

「北野、総一郎のこと、頼んだ。富田林駅のロータリーで落ち合おうや」

「ええけど、ヒロはどうすんねん」

「もっぱつ、あのアホに喰らわせて、ヨッシーと晃、連れて後から行くわ」

 スタンガンを握り締めて、強がって笑顔を見せてやる。必死の表情で、目ん玉ひん剥いた北野と目が合うた。

「頼むでぇ、総一郎落とすなよ」

「任せぇ!」


 北野が総一郎の手を引っ張り上げて起こそうとしとるんを見て、俺は警棒を握り締める。

 精一杯…
 力の限り。


 ボケが、寝といたらええのに。糞パッ金が。

 ほんまの事言うたら、怖かった。一番に、逃げ出したかった。もしかしたら、人を殺しとるかも知れん相手や。

 最悪、死ぬかも知れん。
 シクったら、自分がどんな目に合うんか、そう考えたら怖く無い方がおかしいやろ。


 せやけど、バイクにヨッシーが飛び乗っても、スピードが出るまでの、走り出しのちょっとの間にヨッシーが引き摺り下ろされる可能性が高過ぎや。

 行くしか無い。
 此処でかますしか無いやろ。

「おらぁぁ! ヨッシー、バイク乗れぇ!!」

 俺は、叫び声を上げて、走り出そうとしたんや。ヨッシーを無事に逃す為に。





 多分、嫌、きっと…

 その瞬間、目に入ったその光景を、一生、俺は忘れる事が出来へんと思う…

 右肩を掴まれたヨッシー。パッ金のパンチを防ぐ為に確かに左腕でガードしてた。筈やった…


 バガァン!!


 聞いた事も無い酷い轟音。
 ほんで、血飛沫が噴き出した。

 折れ曲がった左腕。
 受け入れる事の、到底出来ん光景。首の無いヨッシーの身体。どちゃって言う嫌な音。足元にサッカーボールぐらいの何かが転がって来よった。


 嘘やろ?


 知っとる奴が、目の前で肉塊になる。

 ほんな経験した奴が、この国に何人おる?。そんなこと、普段から想像して生きてる奴、ひとりでもおるか? 

 此処って、ほんまに日本なんか?

 もう一回、足元を凝視する。
 間違い無かった。

 なんかが腹の底から込み上げて来た。

 俺は、それを迷わず吐き出した。

 ゲロの味、強烈な酸味、それが俺を現実に引き戻す。

 糞親父の怒った目、初めて殺されると思った恐怖。2階から飛び降りて逃げようとして掴まれた。暴れたら、引き摺り倒されて、動けんように羽交締めに…

 なんでこんな嫌なこと思い出すねん!

 俺の人生、最後かも知れん瞬間やのにぃ!! 糞がぁ!!

 背中見せて逃げたら、死ぬ思た。
 スタンガンで殴り倒す、それ以外に道が無い。なんでか知らん。やけど、そう思たんや。

 お袋の言葉に腹が立って、手ェ出してしもうたあの日と同じ、ブチ切れた親父の目が脳裏で俺を睨んどった。

 パッ金に向かって行く方が、死ぬ確率が高いとしか思えんのに、俺の身体は前に出とった。

「オラァァ!!」


 何がどうなったんか、ほんまによう覚えてない。ただ、死ぬ気で突っ込んだ。力込めて、警棒振り回した。

 肉を叩く、嫌な感触が今も手に残っとる気がする。

「うわぁぁぁぁ!!」


 パッ金の顔って言うか、目がおかしい。
 完全に逝っとる。
 なんやねん!

 なんでヨッシーがあんな惨いことになんねん!


「マサヒロォ! 逃げぇぇぇ!!」

 晃の叫び声、俺の横を擦り抜ける様に原付が物凄いスピードでパッ金の身体に直撃した。直前で飛び降りた晃。

 両手で防いで、晃のゼーダブアールを抑えたパッ金。その横っ面を警棒で思いっきり、殺す気で殴って顔面にスタンガンの電気を流したった。


 弾けるように倒れるパッ金。

 その時やった、ウー、ウーって普段やったら聞きたく無い音がして、公園の柵の向こう側に赤いランプが回っとるんが見えた。

「ポリや、晃ぁ、動けるかぁ?」

 この時点で、パッ金は最低でも気絶、最悪死んどると俺は思うてた。どタマにスタンガンって危険過ぎるんやで。

 それやのに…

 頭を押さえてムクリと起き上がったんや。もう、コイツは人間やと思えんかった。

「嘘やろ? コイツ…ゾ、ゾンビなん?」

晃がびびった表情で、そう呟いた。

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