怪獣対巨人!赤灼鋼帝レッドカイザー 始まりの炎と無限の宇宙

牧名もぐら

第十話 アバンシュ-3

 アバンシュという意味がかつてエーテル界を統べた王の名だと聞かされ、レッドカイザーは訝しんだ。
「私が宇宙を平定する以前、宇宙には混沌しかなかったはずだ。そこに王がいただと? 私は宇宙の始まりからあるとされるが……いや、はじまりの時は既に忘却してしまっているのだが……そのような存在はいなかったはずだ。私が自我を確立し、宇宙を灼くことをやめたときには、原始エーテル生命がようやく像を得つつあるところだった。そう記憶している」
 これに対して、モノクは非常に興味深そうな態度を見せた。そして逡巡し、再び意味を投げた。
「よかろう、では私の知るエーテル界の歴史を語ろうではないか、この宇宙の王レッドカイザーよ」
 そうしてモノクは滔々と語りはじめた。

 宇宙の始まりのことはよく分かっていないが、その頃には始まりの炎と呼ばれる巨大なエーテルが宇宙を灼いていたとされる。その薪と焚べられていたのがエーテルであった。
 エーテルはただ燃え盛る炎の餌食となるのみだったが、ある時からこれが逃避反応を見せる。原始的な反応はしかし炎の前に無意味で、瞬く間に灼き消された。それがやがて立ち向かうようになり、いずれ像を得始める。数多の原始エーテル生命が逃げるためにではなく立ち向かうために進化した、というのは非常に興味深い点ではあるが、そのような経緯からエーテル生命は非常に好戦的な気質を備えているのだ。
 炎が宇宙を灼く時代が終わる頃、原始エーテル生命は爆発的な進化を遂げるようになる。発達という概念を獲得したのだ。それまで炎の前に使い捨てであったエーテル生命は自ずと進化をした。どうやってか? もちろん、闘争によってだ。
 抗うべき存在がいなくなった時、エーテル生命は互いに攻撃を加えるようになった。その攻撃性は、根源的な部分では変化のしようがなかった。なぜなら、闘争こそがエーテル生命の根源だからだ。閉じた有限の宇宙で、逃げることは能わない。であれば立ち向かうしかない。
 私が生まれたのはエーテル生命の進化が一通り終わった頃だった。我々は徒党を組み、領界を拡げるため戦った。多くの生命を消し、また失った。今では悠久のさらに永劫の彼方のことだ。その感情は既に失ってしまったが、私は世界の在り方を理不尽に思った。
 なんと言おう、心に火が灯ったのだ。
 今にして思えば、あれが始まりだったのかもしれん。いや、こちらの話だ。
 私はかつて宇宙を灼いた始まりの炎を探した。広大な宇宙を永い時をかけて旅をし、襲いくる敵と戦い、そうした果てに炎の化身を見つけ出した。私は宇宙の平定をそれに願い、それは聞き届けた。
 名は、アバンシュ。炎はそう名乗った。
 炎は宇宙を灼くようにエーテル生命を打ち消した。あの光景は今でも覚えている。恐ろしく、美しかった。アバンシュさまの征く後には、エーテルの残滓すら残らなかった。そうだ、私はついていった。私が宇宙を灼くよう求めたのだから、それを見届けねばなるまいと思っていたのだ。そして終のときには、我が身が灼かれるのだろうと覚悟していた。
 あるとき、ある生命の最期に放った一撃が私に痛烈な一撃を与えた。我が核心に届き、エーテルへ還ることは免れぬ一撃であった。アバンシュさまと違い、私は並のエーテル生命だ。それが炎と共にエーテル生命の激しく闘う場所へ飛び込むのだから、いずれはそうなるのだと分かっていた。私はその運命を受け入れた。
 だが、生き延びた。アバンシュさまが炎を分け、私は力と新たな運命を授かった。
 いずれ我々のもとに仲間が集い、それらと共に宇宙平定のための旅をした。仲間たちはいずれも強く、それらの存在のために平定は実現したと言っても良いだろう。
 アバンシュさまは宇宙平定を成し遂げた。エーテル生命を統治し、無用な争い、巨大な争いを禁じた。エーテル界は単調だが、平穏なときにあった。
 そんな折だ。アバンシュさまは炎を御することに不安があると述べた。そして自らの後継となるべく子を成すことにした。誕生した新たな王の名は、アドゥロといった。
 アバンシュさまはアドゥロについて満足をし、ご自身は隠居なされた。アドゥロは当面上手くやっていたが、この頃からエーテル界に乱れが生じはじめた。小さな戦いが起こりはじめ、新たな王の政に従わないものが出始めた。
 そうしてアドゥロは何をしたと思う? 下位世界侵攻だ。アバンシュさまはアドゥロを言葉一つで止めることができたはずだった。しかし、新たな王は他のエーテル生命から歓迎されていない。偉大なる前王が異を唱え、その権力が失われることを恐れた。
 だからアバンシュさまは、下位世界の戦士として戦いはじめた。暗に下位世界の侵攻などは不可能だと知らしめ、諦めさせるために。
 しかしそう長い時を待たぬうちに、下位世界の戦士がアバンシュさまだと明らかになってしまった。アバンシュさまは逃亡を余儀なくされ、私はその頃からあのお方がどうしていたのかは、部下から聞く他に知れるものはなかった。
 だが、私の中にある炎が徐々に強くなっていくのは感じていた。いや、強く……とは違うな。荒ぶるようになったというのが正しいだろう。
 そして忘れもしないあの瞬間が訪れた。エーテル界から物質界へ大量の門が開いた。下位世界からどうして穿たれたのかはわからない。その場にいたものの証言では、あらかじめ下位世界からあけられた門でアドゥロが現界し、下位世界から多量の門を開けたというのだが……にわかには信じがたい。下位世界でこそ過剰に働く性質のエーテルなどあるものか? しかし不思議なことに、門を開ける力、アバンシュさまが“器”のエーテルと呼んだそれは、下位世界で真価を発揮した。
 そうだ、私はアバンシュさまのために下位世界から数多の門を開け、同胞を送り込んだのだ。その直後だった。アバンシュさまの最強の配下であったエバログが突如エーテルへ還り、その中から……炎が現れたのだ。尋常ではない炎がな。
 炎はすべてを灼いた。仲間を、敵を、友を、そしてエーテル界の王も。
 私は配下とともに逃げ出した。炎はついに消えることなく、宇宙消滅のときが訪れようとしていた。そして一際巨大な炎の並が起こった時、宇宙を覆っていた壁が消え、私の中にあった炎も消えた。
 そうして我々は、この無限宇宙で時を過ごすこととなったのだ。

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