怪獣対巨人!赤灼鋼帝レッドカイザー 始まりの炎と無限の宇宙

牧名もぐら

第九話 イャノバ-3

 ふたりはヤプマクの肉を腹に収めると、家造りに挑戦した。まずは小型の小屋を作ってみて、それが丈夫にできたのなら大きめの縮尺で再設計して本番に取り掛かる段取りでいた。しかし、この練習用の小屋からすでに難関で、それにイャノバは延々四苦八苦していた。
 木材を加工し、凸や凹の形に部分部分を削り組み合わせ、乾燥させて防腐した蔦を編んだもので結びつけ、粘土を塗って補強し、これが骨組みの基礎となる柱なのだが、そこに屋根を乗せる構造が難題だった。焼け残った里長の屋敷を参考にしているのだが、構造を読み解くのはウタカで作業するのはイャノバだ。ウタカの伝えることを今一飲み込めないままイャノバは感覚的に作業し、その度にウタカが点検してはここの強度が足りないとかこれでは雨漏りをするとかを言った。
 イャノバは一生懸命で、ウタカも彼を支えたかった。しかし、イャノバにはものを作るという才能がまるでなく、練習につくる小屋の欠点は段々と構造的なものより、イャノバの工作技術の方に寄るようになっていた。粘土の完成を待たなければいけないから、早くても一つ試作する度に二日が必要だった。そして失敗作は打ちこわし、槍や弓、漁業道具や木柵などの防衛設備として再利用する。
 ウタカはまた新しく木材を切り出し始めたイャノバの様子を見ていた。斧で力任せに割り斬って、表面を削り、分厚い石製のノミで不器用にもなんとか細かい形を整え、キリでウタカの編んだ縄を通すための穴をあける。その力仕事を自分ができれば、習作の小屋などあっという間にできるだろうにとウタカは思わずにいられなかった。
 ウタカの目はイャノバの体に注がれた。力む度に縮張する腕、着物を脱いであらわになった背中の筋は盛り上がり、重労働に汗が滴ってその体をしっとりと湿らせる。たまに漏らす吐息はまさに男の色そのもので、イャノバの体は確実に大きくなっていた。
「だめだ、ウタカ! おれは少し体を動かしてくる」
「……え? あ、はいっ」
 ぼうっとしていたウタカにイャノバはそう言うと、短槍を持ってさっさと作業場から離れていった。ウタカはため息をついてイャノバの背中を見送る。
 イャノバは家屋を組み立てることは必要なことだと分かっていて、そのために情熱を捧げるべきだと考えていた。しかし、性根が仕事に合わない。時間をかけると鬱憤が溜まっていき、どこかへ槍の素振りでもしにいく。少ししたらまた戻ってきて、少し作業し、また運動に出かける。これを三度繰り返したら日は傾いて、イャノバは最後の哨戒をし、ウタカの作った飯を腹に入れて床に入るのだ。
 二人で暮らしはじめてすぐはウタカにもやることが多くあった。魚を取り、調理し、薬をつくり、縄を編み、土を混ぜて粘土をつくり、それが乾燥しないよう暗所に入れて……半年も経てば食料の備蓄は十分だし、他のものも多くの予備ができていた。ウタカは暇を持て余しがちだった。
 夜、イャノバとウタカは同じしとねで横になった。最初は互いに背を向けあっていたが、ウタカは寝返りを打ってイャノバの背中を暗闇の向こうに見た。イャノバは寝ている、とウタカには直感でわかった。彼の背に手を伸ばして、ゆっくりと触れた。
 熱かった。
 ウタカは唇を噛んで、手を握りこむようにして爪を立てた。
 イャノバはひとりだった。ウタカは、自分が彼の力になれていないと分かっていた。イャノバは苦悩をともにできる男、戦士を欲している。ウタカには悟られまいと振る舞っているようだが、全て筒抜けだった。イャノバの振る舞いの根源には孤独があり、この里が滅んでしまったことへの絶望があった。ふたりでは里を復興することなど適わないとすでに分かっていたが、それを口にすることはない。自分の胸にそういった思いが浮上するたび、深い海の底へと押し込んでいるのだ。
 ウタカはだから、自分のわがままを言えない。イャノバにどう思われるのかが恐ろしく、それによって深い溝ができた時、イャノバは本当に孤独になってしまうからだ。
 ウタカは闇の中でイャノバの背中に額を押し当て、いつものようにこすりつけた。

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