見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二話
「お兄ちゃん引っ越すの!?」
「いや、まだまだ先の話だからな?」
開会式も無事終わり、アミィと落ち合ってさっきの話をすると、いきなり食ってかかられた。
いやまあ確かにいきなりすぎる話ではある自覚はあるけど、そこまで驚く事なくない?
「それに、いつまでも宿屋暮らしっていうのも問題だろ?」
金銭的にも体裁的にも。
「それは――確かにそうだけど……でもっ!」
俺の言いたい事が頭では理解出来ているのか、アミィは何か言おうとしたようだったが、上手い言葉が見つからなかったのか、言葉を詰まらせていた。
「別にペコライから出て行く訳じゃないからさ」
アミィが俺に懐いているのは理解している。あれだけの好意を向けられれば、それに気付かない方がどうかしている。
でも、それとこれとは話が別だ。
俺はこの世界で、ちゃんとした生活基盤を整えたいんだ。
「……ウチじゃ、ダメなの?」
悲し気なアミィの声が、心に刺さる。確かに、賢者の息吹にも定期契約みたいな制度はある。
でも、それはあくまで宿屋として。
住まいにするのとは少し違う。
「アミィ、悪いけど……」
「まあまあカイトさん、そんなに急いで答えを出さなくてもいいじゃないですか」
アミィの言葉に答えようとした時、横からマリーが割って入ってきて、俺の言葉を遮る様に止めてきた。
「まだ正式にどこに住むかも決まってないんですし、そう慌てなくてもいいと思いますよ?」
「それは……まあ、そうだな」
確かにマリーの言う事にも一理ある。別に今すぐ出て行く訳じゃないし、なんならしばらくは今のままという可能性も充分ある。ていうか、その可能性の方が高い。
そう簡単に済む場所を決められるとは限らないしな。
「え、そうなの? ペコライに帰ったらすぐに出て行くとかじゃないの?」
「いや、流石にそれはないよ?」
いくら何でも、ペコライに帰ってすぐに賢者の息吹から出て行くなんてしない。ていうか出来る訳がない。
そんな事したら、俺は新しい住まいを見つける前にホームレス生活を送る羽目になってしまう。それは流石に勘弁だ。
「なあんだ、慌てて損した。それを先に言ってよ、お兄ちゃん」
アミィは安心したのか、ホッと息を吐き、胸を撫で下ろしていた。
「それなら、まだ引き止める時間はあるって事だよね」
ボソッとアミィが呟いたのが聞こえた。いやまあ、確かに時間はあるけど、それでいいのか?
「残念だけどそうはいかないわ。だって兄さんは私と王都で暮らすんだから!」
内容はどうあれ、話が纏まりそうなタイミングで、光がそこに割り込んできた。頼むから引っ掻き回さないでくれませんかねぇ!?
「え、どういう事ですかヒカリさん?」
ほら、何も知らないアミィが困惑してるじゃないか。
「簡単な話よ。アミィちゃんは開会式には参加してた?」
「あ、はい、一応」
「なら褒美の件も知ってるわね。私は勇者杯で優勝して、兄さんに王都に移り住んで貰うつもりよ」
ドヤ顔で胸を張るヒカリ。
「そうはいきません。私達が優勝して、カイトさんには私達と一緒にペコライに帰って貰います!」
それに対し、マリーも負けじと反論した。
二人の間に再び火花が散り始める。いや、あのね? 二人共本人差し置いて勝手に盛り上がらないで貰えますかね?
「えっと……つまり、ヒカリさんが優勝すると、お兄ちゃんを王都に移り住ませるように、王様にお願いするって事ですか?」
「ええ、そうよ。理解が早くて助かるわ」
アミィの言葉に光が満足気に頷く。いやだから、俺の意見をですね――。
「でも、それって出来るんですか?」
いい加減光にツッコミを入れようかと思っていたら、アミィから予想外の質問が投げかけられた。
それには俺だけではなく、マリーと光、更には状況を静観していたフーリでさえ虚を突かれたかのような表情になっていた。
場に沈黙が流れる。
「えっと、アミィちゃん。それってどういう事?」
その沈黙を最初に破ったのは、マリーだった。
「いえ、確か王様は「可能な範囲で」って言ってたと思うんですけど、人を勝手に移住させるなんて、そんな勝手な事を王様がするのかなって思って」
人の移住。確かに陛下の力なら造作もない事かもしれないけど、それをするリスクもある。
単純に、勝手に移住させられる人間の不平不満もあるし、周りからは「陛下の一存で住まいを奪われる可能性がある」という認識が、国民に少なからず生まれてしまう可能性がある。
それは陛下にとって、あまり良い選択とは言えないだろう。そう考えれば、そんなリスクを負ってまで、俺を無理矢理王都に移り住ませる可能性はあまり高くないかもしれない。
移り住まないかという交渉はあるかもしれないけど、そこまで強引な事はしない筈だ。
「そっか、その可能性があったか」
光の願いがかなえられるのかどうかなんて、考えもしなかった。
「そ、そんな事は……」
光は明らかに動揺している。賢い光の事だ。多分俺が思い付いてないリスクまで考えているのかもしれない。
その上で、アミィの言う事は尤もだと思っているのだろう。
「……私、陛下に確認してくるわ!」
「え、ちょっ!?」
「兄さん達は先に宿に帰ってて!」
光が突然踵を返し、脱兎の如く駆け出そうとする。
「ユキはどうするんだ!?」
「私が後で連れて来るから!」
そう言うと、光はあっという間に駆け出して行ってしまった。それを、ただ黙って見送る事しか出来なかった俺達。
……えぇ。ユキを迎えに行くって言うから一緒に部屋に向かってたのに。
「何というか、勇者ヒカリは少々行動的過ぎる一面があるな」
いや本当、フーリの仰る通りです。
もう少し落ち着いて行動してくれればいいんだけど。日本にいた頃はこんな感じじゃなかったんだけどなぁ。
「これでヒカリさんが諦めてくれればいいんですけどね」
光が走り去った方角を眺めながら、マリーが呟いた。
確かに。光には悪いけど、俺はまだ果ての洞窟の探索を辞めるつもりはない。なら、拠点はどうしてもペコライに構えておいた方が良いのは確かだ。
いつになるかは分からないけど、いつかは光も一緒に住むのもアリだろう。
だが、その「いつか」は今じゃない。今は目の前の目標を達成する事が先決だ。それを光にもちゃんと、出来れば理解して貰えたらいいんだけど。
「……とりあえず、帰るか」
いつまでもここにいても、何もする事は無い。光は今から陛下と話をするのなら、しばらくは戻ってこないだろうし。
俺がそう言うと、三人共頷いて応えた。別に光を待ってても良かったんだけど、思いの外開会式で疲れたから、出来れば早く帰って宿で休みたい。
ユキは光が連れて来るって言ってたし、心配しなくても大丈夫だろう。
ていうか、開会式でユキの姿を見かけなかったけど、ユキは開会式に参加しなかったのか? 確か光が「あんたも参加するのよ!」とか言って無理矢理引っ張って行った気がしたけど。
……ま、いっか。
ちょっと気になるけど、その辺は後で光に聞けばいいだろう。多分今夜も光は渡り鳥亭に泊まるつもりなんだろうし、時間はある。
そう考え、俺は三人と一緒に渡り鳥亭へと帰るべく歩き始めた。
「それじゃあまた後でな」
「はい、また後で」
「ああ」
「また後でね、お兄ちゃん」
渡り鳥亭に無事に帰って来た俺達は、一度それぞれ自分の部屋へと戻る事にした。
時刻は昼過ぎ。思ったよりも早く帰って来たから、これから何をするかとか全然考えてなかった。
「いっそ飯食ったら孤児院にでも顔を出すか?」
今から少し休んだら適当に昼飯を済ませて、晩飯前にちょっと孤児院に顔を見せてもいいかもしれない。
フォレとも約束したし、勇者杯が始まったら顔を出す時間も無くなるかもしれないからな。
「いや、まだまだ先の話だからな?」
開会式も無事終わり、アミィと落ち合ってさっきの話をすると、いきなり食ってかかられた。
いやまあ確かにいきなりすぎる話ではある自覚はあるけど、そこまで驚く事なくない?
「それに、いつまでも宿屋暮らしっていうのも問題だろ?」
金銭的にも体裁的にも。
「それは――確かにそうだけど……でもっ!」
俺の言いたい事が頭では理解出来ているのか、アミィは何か言おうとしたようだったが、上手い言葉が見つからなかったのか、言葉を詰まらせていた。
「別にペコライから出て行く訳じゃないからさ」
アミィが俺に懐いているのは理解している。あれだけの好意を向けられれば、それに気付かない方がどうかしている。
でも、それとこれとは話が別だ。
俺はこの世界で、ちゃんとした生活基盤を整えたいんだ。
「……ウチじゃ、ダメなの?」
悲し気なアミィの声が、心に刺さる。確かに、賢者の息吹にも定期契約みたいな制度はある。
でも、それはあくまで宿屋として。
住まいにするのとは少し違う。
「アミィ、悪いけど……」
「まあまあカイトさん、そんなに急いで答えを出さなくてもいいじゃないですか」
アミィの言葉に答えようとした時、横からマリーが割って入ってきて、俺の言葉を遮る様に止めてきた。
「まだ正式にどこに住むかも決まってないんですし、そう慌てなくてもいいと思いますよ?」
「それは……まあ、そうだな」
確かにマリーの言う事にも一理ある。別に今すぐ出て行く訳じゃないし、なんならしばらくは今のままという可能性も充分ある。ていうか、その可能性の方が高い。
そう簡単に済む場所を決められるとは限らないしな。
「え、そうなの? ペコライに帰ったらすぐに出て行くとかじゃないの?」
「いや、流石にそれはないよ?」
いくら何でも、ペコライに帰ってすぐに賢者の息吹から出て行くなんてしない。ていうか出来る訳がない。
そんな事したら、俺は新しい住まいを見つける前にホームレス生活を送る羽目になってしまう。それは流石に勘弁だ。
「なあんだ、慌てて損した。それを先に言ってよ、お兄ちゃん」
アミィは安心したのか、ホッと息を吐き、胸を撫で下ろしていた。
「それなら、まだ引き止める時間はあるって事だよね」
ボソッとアミィが呟いたのが聞こえた。いやまあ、確かに時間はあるけど、それでいいのか?
「残念だけどそうはいかないわ。だって兄さんは私と王都で暮らすんだから!」
内容はどうあれ、話が纏まりそうなタイミングで、光がそこに割り込んできた。頼むから引っ掻き回さないでくれませんかねぇ!?
「え、どういう事ですかヒカリさん?」
ほら、何も知らないアミィが困惑してるじゃないか。
「簡単な話よ。アミィちゃんは開会式には参加してた?」
「あ、はい、一応」
「なら褒美の件も知ってるわね。私は勇者杯で優勝して、兄さんに王都に移り住んで貰うつもりよ」
ドヤ顔で胸を張るヒカリ。
「そうはいきません。私達が優勝して、カイトさんには私達と一緒にペコライに帰って貰います!」
それに対し、マリーも負けじと反論した。
二人の間に再び火花が散り始める。いや、あのね? 二人共本人差し置いて勝手に盛り上がらないで貰えますかね?
「えっと……つまり、ヒカリさんが優勝すると、お兄ちゃんを王都に移り住ませるように、王様にお願いするって事ですか?」
「ええ、そうよ。理解が早くて助かるわ」
アミィの言葉に光が満足気に頷く。いやだから、俺の意見をですね――。
「でも、それって出来るんですか?」
いい加減光にツッコミを入れようかと思っていたら、アミィから予想外の質問が投げかけられた。
それには俺だけではなく、マリーと光、更には状況を静観していたフーリでさえ虚を突かれたかのような表情になっていた。
場に沈黙が流れる。
「えっと、アミィちゃん。それってどういう事?」
その沈黙を最初に破ったのは、マリーだった。
「いえ、確か王様は「可能な範囲で」って言ってたと思うんですけど、人を勝手に移住させるなんて、そんな勝手な事を王様がするのかなって思って」
人の移住。確かに陛下の力なら造作もない事かもしれないけど、それをするリスクもある。
単純に、勝手に移住させられる人間の不平不満もあるし、周りからは「陛下の一存で住まいを奪われる可能性がある」という認識が、国民に少なからず生まれてしまう可能性がある。
それは陛下にとって、あまり良い選択とは言えないだろう。そう考えれば、そんなリスクを負ってまで、俺を無理矢理王都に移り住ませる可能性はあまり高くないかもしれない。
移り住まないかという交渉はあるかもしれないけど、そこまで強引な事はしない筈だ。
「そっか、その可能性があったか」
光の願いがかなえられるのかどうかなんて、考えもしなかった。
「そ、そんな事は……」
光は明らかに動揺している。賢い光の事だ。多分俺が思い付いてないリスクまで考えているのかもしれない。
その上で、アミィの言う事は尤もだと思っているのだろう。
「……私、陛下に確認してくるわ!」
「え、ちょっ!?」
「兄さん達は先に宿に帰ってて!」
光が突然踵を返し、脱兎の如く駆け出そうとする。
「ユキはどうするんだ!?」
「私が後で連れて来るから!」
そう言うと、光はあっという間に駆け出して行ってしまった。それを、ただ黙って見送る事しか出来なかった俺達。
……えぇ。ユキを迎えに行くって言うから一緒に部屋に向かってたのに。
「何というか、勇者ヒカリは少々行動的過ぎる一面があるな」
いや本当、フーリの仰る通りです。
もう少し落ち着いて行動してくれればいいんだけど。日本にいた頃はこんな感じじゃなかったんだけどなぁ。
「これでヒカリさんが諦めてくれればいいんですけどね」
光が走り去った方角を眺めながら、マリーが呟いた。
確かに。光には悪いけど、俺はまだ果ての洞窟の探索を辞めるつもりはない。なら、拠点はどうしてもペコライに構えておいた方が良いのは確かだ。
いつになるかは分からないけど、いつかは光も一緒に住むのもアリだろう。
だが、その「いつか」は今じゃない。今は目の前の目標を達成する事が先決だ。それを光にもちゃんと、出来れば理解して貰えたらいいんだけど。
「……とりあえず、帰るか」
いつまでもここにいても、何もする事は無い。光は今から陛下と話をするのなら、しばらくは戻ってこないだろうし。
俺がそう言うと、三人共頷いて応えた。別に光を待ってても良かったんだけど、思いの外開会式で疲れたから、出来れば早く帰って宿で休みたい。
ユキは光が連れて来るって言ってたし、心配しなくても大丈夫だろう。
ていうか、開会式でユキの姿を見かけなかったけど、ユキは開会式に参加しなかったのか? 確か光が「あんたも参加するのよ!」とか言って無理矢理引っ張って行った気がしたけど。
……ま、いっか。
ちょっと気になるけど、その辺は後で光に聞けばいいだろう。多分今夜も光は渡り鳥亭に泊まるつもりなんだろうし、時間はある。
そう考え、俺は三人と一緒に渡り鳥亭へと帰るべく歩き始めた。
「それじゃあまた後でな」
「はい、また後で」
「ああ」
「また後でね、お兄ちゃん」
渡り鳥亭に無事に帰って来た俺達は、一度それぞれ自分の部屋へと戻る事にした。
時刻は昼過ぎ。思ったよりも早く帰って来たから、これから何をするかとか全然考えてなかった。
「いっそ飯食ったら孤児院にでも顔を出すか?」
今から少し休んだら適当に昼飯を済ませて、晩飯前にちょっと孤児院に顔を見せてもいいかもしれない。
フォレとも約束したし、勇者杯が始まったら顔を出す時間も無くなるかもしれないからな。
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