見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

四十話

「別にそこまでは言わないわ。ただ、そういう面があったって話」

 俺があまりにも悲しい想像をしていると、光がそれを察したのかフォローを入れてくれた。
 ……フォローだよな?

「んにゃ」

 ユキはこの状況を理解しているのかいないのか、呑気に毛繕いをしている。

「……もうそれでもいいや。お前はかわいい! それでいいじゃないか!」

 その姿を見て、俺はもう考えるのをやめた。
 別に都合のいい飼い主扱いでもいいじゃない! かわいければいいじゃない! そう考える事にした。

「兄さん……」

 光が哀れみの籠った眼差しを俺に向けてくる。
 やめろ! そんな目で俺を見るんじゃない!

「お前は俺の事好きだよなー」
「んにゃ?」

 俺がユキを抱きかかえて言うと、ユキは可愛らしく鳴いて答えた。そのまま俺の鼻の頭をペロッと舐めるおまけ付きで。
 こういう事するから甘やかしたくなるんだよなぁ。

「もうそういう事でいいから、そろそろ寝ない?」
「いや、そういう事って……」

 反論出来ないのが悲しい。
 だが、光の言う事は尤も。明日に備えてそろそろ寝た方が良いのは確かだ。

「まあいいや。それじゃあ俺は床で寝るから、光がベッド使っていいぞ」

 俺は足の上に乗せていたユキをベッドの上に下ろしてから立ち上がり、光にベッドを譲ろうとしたのだが。

「え? そんなの悪いわ。ベッドが一つしか無いなら、一つのベッドで一緒に寝ればいいじゃない」

 光は俺の提案を断ると、逆に一緒のベッドで寝ようと言ってきた。何そのマリー・アントワネット理論。
 いやいや、いくら何でもそれは色々と問題があるだろう。流石にそれを認める訳にはいかない。

「いや、俺は床に布団敷くから大丈夫だ」

 いくら光が言っても、こればっかりは譲れない。
 それが伝わったのか、光は諦めた様に溜息を一つ吐くと。

「はぁ、分かった。私がベッド。兄さんが床で布団。それでいいわ」

 不満気な顔で俺のベッドに腰かけながら、そう言った。
 流石にこの歳で、義理とはいえ妹と一緒のベッドで寝る訳にはいかないからな。光が納得してくれたみたいで良かった。

「折角兄さんと一緒に寝れると思ったのに……」
「何か言ったか?」
「別に?」

 光が何かボソッと呟いたのが聞こえたので尋ねたのだが、何故か拗ねた様にそっぽを向く光を見て、俺は頭を捻った。
 何か怒らせるような事言ったっけ?

 少し考えてみたが、今のベッドの件ぐらいしか心当たりがない。
 でも、俺は別に変な事言ってないよな?
 そう思って再び光に視線を向けると、光は既に寝る準備を始めている所だった。

「さて、と。布団はどこにあるかな、と」

 ストレージを開いて布団探していると、ある事に気が付いた。

「あれ? 寝袋しか無くね?」

 そう。ストレージの中に、布団が無かったのだ。
 そういえば、寝袋は王都に来る前に買った記憶があるが、布団を買った記憶はない。今まで特に必要性を感じていなかったから買ってなかったけど、ここに来てそれが仇となった。

 ゆっくりとベッドの方に視線を向けると、光は既に準備を終えたのか、今はベッドの上でユキと戯れている。
 まあ準備と言っても、せいぜい布団を綺麗にならす程度だから当然なんだけど。

「?」

 その様子を俺が見ている事に気が付いたのか、光が俺に視線を向けてきたので慌てて逸らした。
 危ない危ない。危うくバレる所だった。

 もし今「布団が無い」とか言ったらどうなるだろうか? 間違いなく光は「じゃあ自分と一緒にベッドで寝よう」とか言い出すだろう。

 最悪それでも良いのは良いんだけど、それはあくまで最終手段。そうならないに越した事は無い。

 何とか出来ないものかと思い、もう一度ストレージ画面を眺めているが、イマイチいい解決策が……あったわ。

「布団が無いなら、作ればいいじゃない」

 何でこんな簡単な事を思いつかなかったのか。無いなら作る。それが出来るのが俺のストレージじゃないか。
 そうと決まれば善は急げだ。

 えーっと、布団に使えそうなのは……コーカトリの羽根があるなぁ。これ使えば羽毛布団とか作れないかな?
 試しに選んでみると、案の定羽毛布団の項目が出ていたので、すぐに生産してみた。

 時間にして数秒もかからないような時間だった。
 ストレージから、出来上がったソレ――羽毛布団を取り出して、部屋の床に広げた。

 サイズは普通のシングルサイズ。見た目はふわふわしていて、触ると手の形に合わせる様に沈み込む。
 魔物の素材を使っているのに、寝心地は良さそうだ。

 この世界で魔物の素材が重宝されるのもよく分かる。
 だって、こんなに質のいい布団を作れるぐらいの素材なんだから。

「さて、あとは寝るだけだな」

 布団の準備も終わり、後は明日に備えて寝るだけだ。
 俺が敷き終わった布団の中に入ると、それを見ていた光もベッドに寝転がり。

「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、兄さん」

 光に一言声をかけ、俺達はそのまま眠りについた。



「寝たかしら?」

 兄さんが「おやすみ」と言ってしばらくすると、兄さんが寝ている布団の方から小さな寝息が聞こえ始めたので、私はベッドから起き上がった。

 そのまま兄さんが寝ている布団に向かうと、そこには安らかな寝息を立てる兄さんの姿があった。
 久しぶりに見る兄さんの寝顔。それは、日本にいた時から全く変わっていなかった。

 変わったとすれば、少し若返って見えるぐらいかしら。

「まったく。相変わらずなんだから、兄さんは」

 私が一緒に寝ようとした時、兄さんはそれをダメだと言ってきた。
 昔はよく一緒に寝ていたのに、最近は全然一緒に寝てくれない。
 どうせ「年頃の男女が~」とか考えているんだろうけど。

「せっかく、久しぶりに兄さんと一緒に寝れると思ったんだけどな」

 どさくさ紛れで一緒に寝るつもりだったんだけど、失敗してしまった。もう少し慎重にいくべきだったのかしら?

「もう、兄さんのケチ」

 目の前でぐっすりと眠る兄さんの頬に人差し指を近づけ、その頬をツンツンと突いて遊んでみる。

 ツンツンッ。

 何度か突く度に、蚊でも払うかの様な仕草をする兄さん。
 その度に手を引っ込めては、再度兄さんの頬っぺたを突く。
 そんなやり取りを繰り返し、改めて思う。

「兄さんって鈍すぎじゃないかしら? 色んな意味で」

 もうかれこれ十年以上一緒に暮らしているのに、私の気持ちに気付いた様子は全く無い。

「そこが兄さんの良い所でもあるのかもしれないけどさ」

 頬を突く存在がいなくなり、再び幸せそうに寝息を立てる兄さん。その姿を見ていると、何とも言えない感情が沸き起こってくる。

 今すぐ兄さんに「異性として私を好きになった欲しい」なんて贅沢を言うつもりはない。それは高望みしすぎだっていうのは、自分でもよく分かっている。
 他の子と仲良くしないで欲しい、なんて事も、もちろん言うつもりはない。

 兄さんがマリーさんやフーリさんとパーティを組んでいる事も、アミィちゃんに「お兄ちゃん」って呼ばれてる事にも、文句を言うつもりはない。
 私と同じ立場なら嫉妬する人もいるだろうけど、私は違う。

 そんな事言うつもりは毛頭ない。ないけど、せめて「私の気持ちにほんの少しでも気が付いてくれたら」とは考える。
 でも、今のままじゃあそれも難しい。

 なまじ十年以上も一緒に兄妹として育ってきた事で、兄さんにそういう感情が湧く気配がない。兄さんにとって私は、あくまで義理の妹でしかない。
 でも、それでも……。

「……もう! 絶対に振り向かせてやるんだから!」

 幸せそうに眠る兄さん。その頬を再度突きながら、私は改めてそう決心した。

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