見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
三十六話
しばらく部屋で休んでいると「トントン」と、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「兄さん、夕飯出来たわよ」
続いて俺の名前を呼ぶ光の声が部屋の中に響く。
「はいはい、今行きますよ、と」
光の声に軽く返事をして、俺はベッドから起き上がった。
確か今日の晩飯はキノコ鍋だったな。肉も魚も野菜も全部新鮮で、作ったのは光だ。味は期待できる。
それに「アレ」の調理も頼んである。光が「アレ」でどんな料理を作ってくれたのか、今から楽しみで仕方がない。
今日の晩飯を想像し、俺は期待に胸を躍らせながら光の部屋へと向かった。
「あ、来たわね兄さん。それじゃあ始めましょうか、鍋パーティ」
光の部屋に着くと、そこには渡り鳥亭に泊まっている俺以外のメンバーが、既に勢揃いしている。
俺を出迎えてくれた光は、部屋の中心に置かれた大きなテーブルに、両手で持っていた鍋を置いている所だった。
フーリはそれを眺めながら静かに席に着いており、マリーは今にも飛び掛からん勢いで鍋を凝視している。
冗談みたいに見えるけど、目がマジなんだよなぁ。
ヴォルフとロザリーさんも既に来ており、備え付けられた椅子に座って、料理が運ばれてくるのを待っている。
そういえばヴォルフとロザリーさんとは、ここに来て初めて一緒に飯を食べるな。
二人共妙にソワソワしている。皆で飯を食う機会なんてなかなか無いから、落ち着かないんだろう。
まあ最初は誰でもそういう反応になるよな。でも、食べ始めれば自然と馴染むだろうし、特に問題は無いだろう。
賢者の息吹では時々一緒に飯を食ってたんだから、きっとすぐに慣れる筈だ。
「あ、にいたん」
「ユキ、お前光の部屋にいたのか?」
「うん、お昼寝してた」
今はもう晩飯の時間なんだが? お昼とは一体。
まあ気にしても仕方ないだろうし、ツッコむだけ無駄だろう。なんかドツボにハマりそうな気がするし。
で、後はアミィだけど、一体どこにいるんだ?
「お兄ちゃん、ちょっとどいてくれる?」
「すみません、コノエさん。通して貰えますか?」
「ん? ああ、すみません。どうぞどうぞ」
アミィの姿を探していると、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには追加の料理を運ぶアミィとニーナさんの姿があった。
そっか。そういえばアミィは光の手伝いをしていたんだったな。道理で探してもいない筈だ。
だが、ニーナさんまでいるのか。ちょっと意外だ。
いや、別にニーナさんがいるのが悪いとかじゃないぞ。ニーナさんが事自体は別に何もおかしくはないんだ。ニーナさんだって人間なんだから、飯の一つも食うに決まってる。
意外なのは、ニーナさんがこの場にいる事だ。
(ニーナさんも晩飯に呼ばれてたんだな)
そういえばニーナさんって、普段飯はどうしてるんだろう? 痩せ細ってるとかはないから食ってはいるんだろうけど、飯食ってる所見た事ないんだよな。
いやまあ、まだ三日しか泊まってないんだから、見た事なくても別に変じゃないけど。
そんな事を考えている間に、二人は運んできた料理をテーブルの上に並べ終えており、後は食べるだけの状態となっていた。
「も、もういいですか!? もう食べていいですか!?」
マリーがテーブルの上に並べられた料理を、我慢の限界だとでも言いそうな勢いで、食い入るように見つめて……いや、睨み付けている。
それを見て光が苦笑を漏らし。
「ええ、大丈夫ですよ。それじゃあ、いただきましょうか」
「いただきます!」
アミィとニーナさんが席に着くのを横目で確認して言うと同時に、マリーが迷わず鍋に手を伸ばした。
その速度、まさに神速! と、流石に冗談ではあるが、そのぐらいマリーの反応速度は早かった。
器を手に持ち、最初に鍋の中のキノコを器に入れる。入れる。また入れる。また……って、ちょっと多すぎやしませんかねマリーさんや?
その様子を、ヴォルフとニーナさん、そして光は呆気に取られて見ている。
いや、この光景を見て呆気に取られるのが半数以下って時点で色々おかしいけど。俺達は見慣れてるからなぁ。
って、そういえばロザリーさんは驚かないんだな。
確かマリーとロザリーさんは随分と仲が良かった筈だから、この光景も初めてじゃないのかもしれない。
ちなみにユキも初めて見る筈なのだが、その光景を気にも留めずに、光によそって貰った鍋を美味しそうに口に運んでいる。
いやまあ、別にいいんだけどね? ユキが満足そうならそれで。
ていうか、猫舌じゃないのかよお前。
「おい、カイト。マリエールはいつもあんな感じなのか?」
ヴォルフが言う「あんな感じ」とは、間違いなくキノコを取りまくるマリーの事だろう。いつもか。そうだなぁ……。
「ああ、大体あんな感じだな。いつも通りだ」
マリーはキノコを目の前にすると基本あんな感じだから、間違ってはいない。
「マジかよ……」
ヴォルフは信じられないといった風に呟き、再びマリーに視線を向けた。と、その時だった。
マリーはキノコで山の様になった自分の器を見つめると。
「……おつゆが入りません」
「「「「当たり前だろ!」」」」
この場の全員の心がシンクロした瞬間だった。
「え? え? 皆どうしたんですか?」
その状況をイマイチ理解していなさそうなマリー。本当、キノコが絡むとマリーはポンコツになるんだから。
「まったくマリーは……っと、そんな事よりも「アレ」だ」
マリーに気を取られてすっかり忘れていたが、俺にとって今晩のメインはキノコ鍋ではない。
俺にとってのメイン。それは、前回失敗とまではいかなかったまでも、イマイチ旨く調理する事が出来なかった「コーカトリの肉」だ。
肉質は普段食べている肉よりも固く、パサついて噛み切れないと言われ、あまり人気がないらしいが、俺には分かる。
あれは日本で言う地鶏の様な食材なのだと。
そういえば、何で地鶏ってあんなに固いんだろう?
いや、あの食感がまた旨いんだけど。普通の鶏とは違った育成をしてるとか? それとも餌が違うのか?
などと考えても、この世界で答えなんか出る筈もない。手軽に調べ物が出来るインターネットの凄さというものを再認識した瞬間だった。
「まあそれはいいとして、早速頂くとするか」
目の前のコーカトリの肉を見て、そう考えた。
調理法は至ってシンプルで、俺が初めてコーカトリの肉を食べた時と同じ、炭火焼きの様だ。
「見た目は俺の作ったのと同じだな」
そう、同じ。それはつまり、俺の考えは間違いではなかったという事になる。となると、調理過程に多少の違いがあったのか、それとも何かが抜けていたのか。
どっちにしても、食べてみない事には違いなんて分からないが。
「ではっ」
コーカトリの炭火焼きを一切れ箸で掴み、それを口に運ぶ。
そのまま口の中に放り込み。
「っ!? うっま! 何だこれ!?」
一口噛んだ瞬間に理解した。これは俺が作った炭火焼きとは根本から違う。そう、これが本当のコーカトリの炭火焼きだとしたら、俺が作ったのはただのゴムだ。
例えこの世界のコーカトリ料理よりはマシだったとしても、これとは比較にすらならない。
そのぐらい違う。
「どうしたんだ、カイト君……っと、原因はコレか」
俺が突然声をあげた事に驚いたのか、フーリから怪訝な表情で見られたが、俺の手元にある物を見ると、フーリは何かに納得した様子だった。
「カイト君、これはコーカトリの肉か?」
「「「コーカトリ!?」」」
フーリの言葉に、ヴォルフとロザリーさん、そしてニーナさんが驚きの声をあげた。
まあ普通はそういう反応になるのかな? この世界だと、コーカトリの肉を好んで食べる人なんて、ほとんどいないみたいだし。
「おい、カイト。それコーカトリの肉なのか? よくそんなもん食えるな……」
「カイトさん。あの、えっと……美味しい、んですか?」
ヴォルフとロザリーさんの反応はもっともだ。ていうか、この世界では反応が普通だ。
「運んでる時「何の肉なんだろう?」とは思ってましたけど、まさかコーカトリだったなんて」
ニーナさんは光を手伝っていたから、この肉の存在を知ってはいたんだろうけど、何の肉かまでは分からなかったみたいだ。
その後、俺があんまりにも「旨い」と言いながら食べるからか、ヴォルフ達も恐る恐るといった感じで一口食べると、その旨さに驚いた様だった。それを見ていた他のメンバーも、結局全員が手を伸ばした。
「兄さん、夕飯出来たわよ」
続いて俺の名前を呼ぶ光の声が部屋の中に響く。
「はいはい、今行きますよ、と」
光の声に軽く返事をして、俺はベッドから起き上がった。
確か今日の晩飯はキノコ鍋だったな。肉も魚も野菜も全部新鮮で、作ったのは光だ。味は期待できる。
それに「アレ」の調理も頼んである。光が「アレ」でどんな料理を作ってくれたのか、今から楽しみで仕方がない。
今日の晩飯を想像し、俺は期待に胸を躍らせながら光の部屋へと向かった。
「あ、来たわね兄さん。それじゃあ始めましょうか、鍋パーティ」
光の部屋に着くと、そこには渡り鳥亭に泊まっている俺以外のメンバーが、既に勢揃いしている。
俺を出迎えてくれた光は、部屋の中心に置かれた大きなテーブルに、両手で持っていた鍋を置いている所だった。
フーリはそれを眺めながら静かに席に着いており、マリーは今にも飛び掛からん勢いで鍋を凝視している。
冗談みたいに見えるけど、目がマジなんだよなぁ。
ヴォルフとロザリーさんも既に来ており、備え付けられた椅子に座って、料理が運ばれてくるのを待っている。
そういえばヴォルフとロザリーさんとは、ここに来て初めて一緒に飯を食べるな。
二人共妙にソワソワしている。皆で飯を食う機会なんてなかなか無いから、落ち着かないんだろう。
まあ最初は誰でもそういう反応になるよな。でも、食べ始めれば自然と馴染むだろうし、特に問題は無いだろう。
賢者の息吹では時々一緒に飯を食ってたんだから、きっとすぐに慣れる筈だ。
「あ、にいたん」
「ユキ、お前光の部屋にいたのか?」
「うん、お昼寝してた」
今はもう晩飯の時間なんだが? お昼とは一体。
まあ気にしても仕方ないだろうし、ツッコむだけ無駄だろう。なんかドツボにハマりそうな気がするし。
で、後はアミィだけど、一体どこにいるんだ?
「お兄ちゃん、ちょっとどいてくれる?」
「すみません、コノエさん。通して貰えますか?」
「ん? ああ、すみません。どうぞどうぞ」
アミィの姿を探していると、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには追加の料理を運ぶアミィとニーナさんの姿があった。
そっか。そういえばアミィは光の手伝いをしていたんだったな。道理で探してもいない筈だ。
だが、ニーナさんまでいるのか。ちょっと意外だ。
いや、別にニーナさんがいるのが悪いとかじゃないぞ。ニーナさんが事自体は別に何もおかしくはないんだ。ニーナさんだって人間なんだから、飯の一つも食うに決まってる。
意外なのは、ニーナさんがこの場にいる事だ。
(ニーナさんも晩飯に呼ばれてたんだな)
そういえばニーナさんって、普段飯はどうしてるんだろう? 痩せ細ってるとかはないから食ってはいるんだろうけど、飯食ってる所見た事ないんだよな。
いやまあ、まだ三日しか泊まってないんだから、見た事なくても別に変じゃないけど。
そんな事を考えている間に、二人は運んできた料理をテーブルの上に並べ終えており、後は食べるだけの状態となっていた。
「も、もういいですか!? もう食べていいですか!?」
マリーがテーブルの上に並べられた料理を、我慢の限界だとでも言いそうな勢いで、食い入るように見つめて……いや、睨み付けている。
それを見て光が苦笑を漏らし。
「ええ、大丈夫ですよ。それじゃあ、いただきましょうか」
「いただきます!」
アミィとニーナさんが席に着くのを横目で確認して言うと同時に、マリーが迷わず鍋に手を伸ばした。
その速度、まさに神速! と、流石に冗談ではあるが、そのぐらいマリーの反応速度は早かった。
器を手に持ち、最初に鍋の中のキノコを器に入れる。入れる。また入れる。また……って、ちょっと多すぎやしませんかねマリーさんや?
その様子を、ヴォルフとニーナさん、そして光は呆気に取られて見ている。
いや、この光景を見て呆気に取られるのが半数以下って時点で色々おかしいけど。俺達は見慣れてるからなぁ。
って、そういえばロザリーさんは驚かないんだな。
確かマリーとロザリーさんは随分と仲が良かった筈だから、この光景も初めてじゃないのかもしれない。
ちなみにユキも初めて見る筈なのだが、その光景を気にも留めずに、光によそって貰った鍋を美味しそうに口に運んでいる。
いやまあ、別にいいんだけどね? ユキが満足そうならそれで。
ていうか、猫舌じゃないのかよお前。
「おい、カイト。マリエールはいつもあんな感じなのか?」
ヴォルフが言う「あんな感じ」とは、間違いなくキノコを取りまくるマリーの事だろう。いつもか。そうだなぁ……。
「ああ、大体あんな感じだな。いつも通りだ」
マリーはキノコを目の前にすると基本あんな感じだから、間違ってはいない。
「マジかよ……」
ヴォルフは信じられないといった風に呟き、再びマリーに視線を向けた。と、その時だった。
マリーはキノコで山の様になった自分の器を見つめると。
「……おつゆが入りません」
「「「「当たり前だろ!」」」」
この場の全員の心がシンクロした瞬間だった。
「え? え? 皆どうしたんですか?」
その状況をイマイチ理解していなさそうなマリー。本当、キノコが絡むとマリーはポンコツになるんだから。
「まったくマリーは……っと、そんな事よりも「アレ」だ」
マリーに気を取られてすっかり忘れていたが、俺にとって今晩のメインはキノコ鍋ではない。
俺にとってのメイン。それは、前回失敗とまではいかなかったまでも、イマイチ旨く調理する事が出来なかった「コーカトリの肉」だ。
肉質は普段食べている肉よりも固く、パサついて噛み切れないと言われ、あまり人気がないらしいが、俺には分かる。
あれは日本で言う地鶏の様な食材なのだと。
そういえば、何で地鶏ってあんなに固いんだろう?
いや、あの食感がまた旨いんだけど。普通の鶏とは違った育成をしてるとか? それとも餌が違うのか?
などと考えても、この世界で答えなんか出る筈もない。手軽に調べ物が出来るインターネットの凄さというものを再認識した瞬間だった。
「まあそれはいいとして、早速頂くとするか」
目の前のコーカトリの肉を見て、そう考えた。
調理法は至ってシンプルで、俺が初めてコーカトリの肉を食べた時と同じ、炭火焼きの様だ。
「見た目は俺の作ったのと同じだな」
そう、同じ。それはつまり、俺の考えは間違いではなかったという事になる。となると、調理過程に多少の違いがあったのか、それとも何かが抜けていたのか。
どっちにしても、食べてみない事には違いなんて分からないが。
「ではっ」
コーカトリの炭火焼きを一切れ箸で掴み、それを口に運ぶ。
そのまま口の中に放り込み。
「っ!? うっま! 何だこれ!?」
一口噛んだ瞬間に理解した。これは俺が作った炭火焼きとは根本から違う。そう、これが本当のコーカトリの炭火焼きだとしたら、俺が作ったのはただのゴムだ。
例えこの世界のコーカトリ料理よりはマシだったとしても、これとは比較にすらならない。
そのぐらい違う。
「どうしたんだ、カイト君……っと、原因はコレか」
俺が突然声をあげた事に驚いたのか、フーリから怪訝な表情で見られたが、俺の手元にある物を見ると、フーリは何かに納得した様子だった。
「カイト君、これはコーカトリの肉か?」
「「「コーカトリ!?」」」
フーリの言葉に、ヴォルフとロザリーさん、そしてニーナさんが驚きの声をあげた。
まあ普通はそういう反応になるのかな? この世界だと、コーカトリの肉を好んで食べる人なんて、ほとんどいないみたいだし。
「おい、カイト。それコーカトリの肉なのか? よくそんなもん食えるな……」
「カイトさん。あの、えっと……美味しい、んですか?」
ヴォルフとロザリーさんの反応はもっともだ。ていうか、この世界では反応が普通だ。
「運んでる時「何の肉なんだろう?」とは思ってましたけど、まさかコーカトリだったなんて」
ニーナさんは光を手伝っていたから、この肉の存在を知ってはいたんだろうけど、何の肉かまでは分からなかったみたいだ。
その後、俺があんまりにも「旨い」と言いながら食べるからか、ヴォルフ達も恐る恐るといった感じで一口食べると、その旨さに驚いた様だった。それを見ていた他のメンバーも、結局全員が手を伸ばした。
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