見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十六話

「でも、そうか。参加するのか、ヴォルフとロザリーさん」

 誰も知り合いは参加しないと思ってたから、二人が参加するのは何気に嬉しかったりする。
 二人なら、きっと予選も突破するよな。なら、本戦ではライバルか。

「……鍛えるか」

 元々存在すら知らなかった様な大会だけど、参加する以上は勝ちたいと思うのは当たり前だ。
 それが、ヴォルフ達も参加するなら尚の事。

 俺もこの前一応Cランク冒険者になった事だし、同じランクのヴォルフに、実は勝手にライバル意識を燃やしてたりする。
 ……負けたくないな。

 パレード見学もしたいけど、合間に特訓もしないと。何か楽しくなってきたな。
 陛下に言われて仕方なく参加するつもりだった武闘大会だったけど、俄然やる気が出てきた。

「本戦まで少しでも特訓しないとな」
「そうだな。あれでヴォルフ達の実力は本物だ。簡単に勝てる相手ではない」

 やっぱり。そりゃそうだ。ヴォルフ達の実力は、スライム狩りの時に見た事あるが、ハッキリ言って強かった。

 ヴォルフの力強い一撃での連続攻撃とか、まともに喰らったらかなりヤバそうだ。ロザリーさんも、土魔法と鞭を駆使した遠・中距離戦は、間合いを計るのも難しく、それに加えて土壁を作って防御も出来る。

 しかも、まだ何か隠してそうなんだよな、ロザリーさん。

 正直まともに戦いたくない相手だ。

「だが、それは私達も同じだ。簡単に勝たせてやるつもりはない」

 フーリは不敵に笑い、心底楽しそうな顔で言った。
 簡単に勝たせるつもりはない、か。どちらかと言うとフーリは真正面からヴォルフを返り討ちにしそうなイメージがある。

 ヴォルフとフーリが同じ前衛同士で戦った場合、フーリが負ける姿が想像出来ないからだ。

 いや、ヴォルフは強いと思う。これは紛う事ない俺の本心だ。だが、フーリはそれ以上に強い。それだけの話だ。
 爆炎に加えて炎熱剣、更には大規模な火魔法……いや、アレは最早火魔法と言える規模じゃないかもしれない。

 ボスコーカトリと戦った時に見た「ファイアランス」とかいう魔法は、ランスとは名ばかりだったからな。
 一応先端は槍状になってはいたが、あれは槍というより大砲だ。しかも大型の。

 それを牽制感覚でポンポン放つのだから手に負えない。
 しかも本人はそれで全然魔力切れにならないというのだからこれまた驚きだ。あのマリーでさえも時折魔力回復薬飲んでるのを見た事があるのに。

 フーリの炎熱剣って、確か魔力の消費を抑える為って言ってたけど、別に抑えなくても良くない?

 それを思えば、むしろそのフーリを魔力切れまで追い込んでたシンって、本当にとんでもない奴だったんだな。

「ただいまー」

 と、そんな事を考えていたらマリーが帰って来たのか、部屋の外から帰りを告げる声が聞こえてきた。

「おかえり!」
「帰ったか」

 部屋の中からでも聞こえる様に気持ち大きめの声で返事を返し、フーリはマリーを出迎える為に部屋の外へと出て行った。

「お兄ちゃん、ヴォルフさん達とも戦うの?」
「ん? ああ、二人が本戦に進んできたらな」

 正直俺も予選から参加した方が良いと思うんだけど、陛下の推薦じゃあ下手にわがままを言うのも憚られる。相手は一応この国の王なんだし。

「ケガしないでね。お兄ちゃん」

 アミィは俺の事を心配して気遣う言葉をかけてきた。

「心配してくれるのか? ありがとな、アミィ」

 そんな健気なアミィを見ていたら、無性にその頭を撫でてやりたくなったので、迷わずアミィの頭に手を伸ばす。

 そのまま撫でようとすると、アミィはそれに気が付いたのか、自分から撫でやすい様に頭を差し出してくる。

「お兄ちゃんって……ううん、何でもない」

 アミィは俺が撫で始めるのと同時に何かを言いかけて、しかしそこで言葉を区切ると話を中断してしまった。

「ん? 何だよ、気になるだろ?」

 一度言いかけてやめられたら、言われた方としては気になって仕方がないんだけど?

「気にしないで、お兄ちゃん。本当に何でもないから」
「カイトさん、ただいまです!」
「あ、ああ、おかえり」

 だが、アミィは答えてくれる事は無く、話は部屋にマリーが入って来た事によりそこで終わってしまった。
 何だったんだ、一体?

「どうかしたんですか?」
「……いや、何でもない」
「そうですか?」

 俺が何でもないと答えると、マリーは不思議そうな顔をしていたが、深く追求してくる事はなかった。

「おかえりなさい、マリーさん」
「あ、アミィちゃん、ただいま」

 アミィも何でもなかったかのようにマリーと話し始めてるし、案外本当に何でもなくて、俺の気にし過ぎなのかもしれないな。

「それで、アンはどうだった?」

 そう考え、俺も再びマリーに声をかけた。

「お兄ちゃんの中で、私はまだ子供なんだね」

 アミィがすぐ傍で何か呟いた様な気がするが、あまりにも声が小さすぎて、その言葉が俺の耳に届く事は無かった。



「それじゃあアンはすぐに水魔法が使える様になったのか?」
「はい。アンちゃんは筋が良かったので、水を出すだけならすぐに出来る様になりましたよ」

 マリーの言葉は、俺にとってとても嬉しい物だった。
 水を出せるようになった。それはつまり、もう無理して水汲みをしなくてもよくなったって事だ。

 それだけでも、アレをアンにあげて良かったって思う。

「水魔法? カイト君、もしかしてアンに魔導具を?」
「ああ、作ってあげたぞ」
「そうか。いや、そうだな。流石はカイト君、といったところか」

 フーリは正面で腕を組み、ウンウンと何度も頷いている。もうこのやり取りにも大分慣れたな。

「アンちゃん、喜んでましたよ。これで水の心配しなくて済むって」
「そっか。それなら作った甲斐があるな」

 これでアンの負担が減るなら安いものだ。労力的にも金銭的にも。だって魔石って本当に安いし。
 またおばちゃんの店で買い足しておかないとな。

「そういえば、ヒカリさんはもう帰ったんですか?」
「ああ、ついさっき。ほとんどマリーと入れ替わりだったな」

 もう少しだけ早く帰ってくれば、一言ぐらい話も出来たかもしれないけど、タイミングがずれちゃったな。
 まあ光が速攻で帰ったっていうのもあるけど。

「そうですか。でも、王都にいればまた会う機会もありますよね。ヒカリさんはカイトさんの妹ですし」
「ああ、多分な。なんなら武闘大会では間違いなく顔を合わせるだろうし」

 正直会えない可能性の方が低いだろうな。下手すると今日また会ってもおかしくないんだし。

「さて、みんな揃った所で、そろそろ昼飯の準備でもしようかな」
「あ、もうそんな時間ですか?」
「色々とあってすっかり忘れていたな」

 この四人が揃うのは、何気に久しぶりだ。
 最後に四人で飯を食ったのっていつだっけ? 確かシンとの戦いの後だから、もう二ヶ月ぐらい前なのか。

 全員酒場にはいたから、そんなに前の事の様には感じないけど、もうそんなに経つのか。

「お兄ちゃん、私も手伝おうか?」

 俺がストレージを眺めながら昼飯は何を食べようか考えていると、アミィが手伝いを申し出てきた。
 気持ちはありがたいけど、折角王都まで来てるんだから、アミィには羽を伸ばしておいて欲しい。

「いや、大丈夫。俺一人で問題ない」

 だからこそ、この申し出は断らせて貰おう。

「それよりも、折角王都まで遊びに来てるんだから、アミィはこういう時にこそ思いっきり遊んでおいた方がいいぞ」

 普段から酒場で仕事をしてるアミィには、こういう時にこそゆっくり羽を伸ばして貰わないとな。

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