見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十三話
「フォレ?」
俺とアンのやり取りを見ていたフォレが、突然その口を開いた。
「こういう時はおじちゃんに「ありがとう」って言わないと」
「……うん、そうだな。フォレの言う通りだ」
フォレは実に良い事を言う。
「あぅ」
フォレの頭を撫でると、気持ちよさそうに声をあげるフォレ。光やアミィを撫でる時も嫌がられないし、実は俺って頭を撫でる才能があるんじゃないか?
俺はフォレの頭を撫でながらそんな事を考え、そのままアンに視線を移し。
「こういう時はフォレの言う通り「ありがとう」で良いんだよ。それが俺にとって一番嬉しい言葉なんだから」
別に感謝されたくてしてる訳じゃないけど、遠慮されるぐらいなら感謝された方が嬉しい。
俺がやってる事は、迷惑じゃないんだって思えるから。
「でも、それは……うーん……」
俺とフォレ、二人に同じ事を言われたアンは、腕を組んで悩むような仕草をする。
確かに、会って間もない――ていうか、ほぼ初対面の相手に食べ物を沢山分けて貰うのを申し訳なく思うのも分かる。
逆の立場なら、俺だって同じ事を考えるかもしれない。ていうか考える。
でも、アンはまだ子供なんだ。そんなに遠慮しなくても、子供は大人に甘えてもいいんだから。
「それじゃあ。えっと、ありがとうございます」
アンは悩んだ末に、俺の厚意を受け入れる事を選んだらしい。
「ああ、どういたしまして」
なら、俺もそれに応えないとな。
腰を直角に曲げ、深々と頭を下げてお礼を言うアンに対して、俺はそう答えた。
それから、食糧庫に大量の食糧を置いてから、俺達が三人で食堂に戻ると。
「あ、三人共おかえりなさい」
マリーが食堂で俺達の事を出迎えてくれた。
「ただいま。悪い、だいぶ待たせたみたいだな」
ちょっと食糧庫に行って来るだけのつもりだったけど、予想外に時間が掛かってしまった。
マリーには申し訳ない事をしたな。
「いえ、そんなに待ってないので大丈夫ですよ」
だが、マリーは特に気にした風もない様子だった。ありがたい事だ。今度またキノコ料理でも考えて振舞おう。
「それじゃあ早速始めましょうか。アンちゃん、大丈夫?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
マリーは早速アンに声をかけ、そのまま魔導具と水魔法の使い方をレクチャーしようとしてくれた。
それじゃあ、俺はそろそろ一度帰ろうかな。
「じゃあアンはマリーにお願いするとして、俺は一度宿に帰るよ」
あんまり遅くなると、心配したフーリ達が、俺達を探しに来るかもしれない。そうなる前に帰らないとな。
「はい。私もアンちゃんに一通り教えたら帰りますね」
「ああ、分かった」
水を出すだけなら、そう時間は掛からないだろうし、昼飯は一緒に食べれるぐらいの時間には帰って来るかな。
そう考え、孤児院を後にしようとしたのだが。
「え? おじちゃん、帰っちゃうの?」
フォレがキョトンとした顔で尋ねてきた。
「ああ、そろそろ帰らないと、皆が心配するからな」
今日もやる事は色々あるから。
パレードは今日もやってる筈だから、光は王城に帰るだろう。見送りの一つでもしてやらないといけない。
昨日の市場でもう一度買い物もしたいし、急遽出場が決まった武闘大会に向けて、準備も始めておかないと。
王都の冒険者ギルドも時間があれば覗いてみたい。
そう、何気にやる事は多いのだ。
そんな事を考えていると、フォレの表情が、段々悲し気に歪み始め、今にも泣き出しそうなものへと変わっていった。
……え?
「フォ、フォレ? どうしたんだ?」
何で急に泣きそうになってんの? 俺何かした?
今の会話に、フォレを泣かせる要因が無かったか思い返してみたが、思い当たる節は無い。いや、今回に関してはマジで何も心当たりが無いぞ?
いたって普通の会話だった筈だ。じゃあ何でフォレは泣きそうになってるんだ?
「ど、どうしたのフォレ?」
「フォレちゃん、どこか痛いの?」
突然の事態に、アンとマリーも動揺している様で、慌ててフォレに近寄ってフォレを気遣っている。
「お、おじちゃ……。おじちゃんが、帰っちゃ……うって」
俺が? 帰る? うん、確かに帰るって言った。フォレに聞かれたから、特に何も考えずに答えた。
……え、それ? 俺が「帰る」って言ったから、フォレは泣きそうなの?
俺は自分を指差しながらアンとマリーに視線を送ると、二人は無言で頷いた。
つまりフォレは、俺が帰るのが寂しくて、それで泣きそうになってる、と?
「マジか……」
フォレが泣きそうになるぐらい、俺との別れを惜しんでくれるのは素直に嬉しい。例えおじちゃんと言われても、な。
だが、嬉しい反面困った事にもなった。
俺がこのまま帰るのは簡単だ。泣きそうなフォレを無視して、さっさと帰れば済む話なんだから。
だが、そんな事をしたら、俺の良心が即死する。泣きそうなフォレを無視して帰るなんて、俺には到底出来ない。出来る筈がない。
でも、だからと言ってこのままずっとここにいる訳にもいかないし。
「フォレ、わがまま言わないの。お兄さんは帰らないといけないんだから」
「……うん」
コクン、と。泣きそうなのを必死に堪えて頷いたのが、目に見えて分かった。
両手をギュッと握りしめ、膝の前に置いている。喋ると泣きそうなのか、無言で俯いている。
いっその事泣いてわがままを言ってくれた方がまだマシだった。
年相応に泣いて喚いて、周りを困らせるぐらいしてくれた方が、俺としても言い聞かせやすかった。
だが、これでは流石に怒る訳にもいかない。だってフォレはわがままを言う訳でもなく、黙って言う事を聞こうとしている。
我慢しようとしている。
どうしよう。このまま帰って良いのか? フォレが泣きそうなのに? でも、流石に帰らないと心配するよな。
光とか、心配通り越して怒ってそうだし。
「フォレちゃん、カイトさんはまた来てくれるから、ね?」
マリーは何とかフォレを元気付けようと、声をかけている。
「またって、いつ?」
だが、そんなマリーに、フォレの純粋な質問が繰り出される。
「え? えっと……カイトさん」
「そこで俺に振るの!?」
まさかの展開。え、これなんて答えればいいんだ? 明日か? 明後日か?
……いや、違うな。
「ごめんな、フォレ。ちょくちょく遊びに来るから、それで許してくれないか?」
ここで曖昧に答えても、却って傷つけるだけだ。ここは素直に話した方がいいだろう。
「……うん、がまんする」
「そうかそうか、いい子だ」
俺はフォレの目線に合わせて屈み、その頭を優しく撫でる。
「いい子にしてたら、お土産いっぱい買って来るからな」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
こんな小さな子供が、わがままも言わずに我慢するんだ。それぐらいしても罰は当たらない。
だからこそ、適当な事も言ってはいけない。
「……はやく帰ってきてね?」
「出来るだけ、な?」
フォレの言葉に、最後にもう一撫でしながら答え、そのまま立ち上がると。
「それじゃあ、今度こそ帰るな」
マリーとアンの方に向き直りながら告げた。
「……お兄さんって、子供の相手するの上手いですよね。昨日もみんなの相手をしてくれてましたし」
「そうか?」
確かに子供は好きだから、多少上手い自信はあるけど。でも、アンに言われるとは思わなかった。
「本当です。アミィちゃんの時といい、アンちゃんの時といい、今回はフォレちゃんまで。カイトさんって、意外と面倒見がいいですよね」
「意外とは余計だ」
いや、確かにそう見られても仕方がないのかもしれないけど。
「私の時って……私はもう子供じゃありませんけど」
マリーの言葉に納得がいってないのか、アンがボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
いやいやアン、お前もまだ立派な子供だからな?
俺とアンのやり取りを見ていたフォレが、突然その口を開いた。
「こういう時はおじちゃんに「ありがとう」って言わないと」
「……うん、そうだな。フォレの言う通りだ」
フォレは実に良い事を言う。
「あぅ」
フォレの頭を撫でると、気持ちよさそうに声をあげるフォレ。光やアミィを撫でる時も嫌がられないし、実は俺って頭を撫でる才能があるんじゃないか?
俺はフォレの頭を撫でながらそんな事を考え、そのままアンに視線を移し。
「こういう時はフォレの言う通り「ありがとう」で良いんだよ。それが俺にとって一番嬉しい言葉なんだから」
別に感謝されたくてしてる訳じゃないけど、遠慮されるぐらいなら感謝された方が嬉しい。
俺がやってる事は、迷惑じゃないんだって思えるから。
「でも、それは……うーん……」
俺とフォレ、二人に同じ事を言われたアンは、腕を組んで悩むような仕草をする。
確かに、会って間もない――ていうか、ほぼ初対面の相手に食べ物を沢山分けて貰うのを申し訳なく思うのも分かる。
逆の立場なら、俺だって同じ事を考えるかもしれない。ていうか考える。
でも、アンはまだ子供なんだ。そんなに遠慮しなくても、子供は大人に甘えてもいいんだから。
「それじゃあ。えっと、ありがとうございます」
アンは悩んだ末に、俺の厚意を受け入れる事を選んだらしい。
「ああ、どういたしまして」
なら、俺もそれに応えないとな。
腰を直角に曲げ、深々と頭を下げてお礼を言うアンに対して、俺はそう答えた。
それから、食糧庫に大量の食糧を置いてから、俺達が三人で食堂に戻ると。
「あ、三人共おかえりなさい」
マリーが食堂で俺達の事を出迎えてくれた。
「ただいま。悪い、だいぶ待たせたみたいだな」
ちょっと食糧庫に行って来るだけのつもりだったけど、予想外に時間が掛かってしまった。
マリーには申し訳ない事をしたな。
「いえ、そんなに待ってないので大丈夫ですよ」
だが、マリーは特に気にした風もない様子だった。ありがたい事だ。今度またキノコ料理でも考えて振舞おう。
「それじゃあ早速始めましょうか。アンちゃん、大丈夫?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
マリーは早速アンに声をかけ、そのまま魔導具と水魔法の使い方をレクチャーしようとしてくれた。
それじゃあ、俺はそろそろ一度帰ろうかな。
「じゃあアンはマリーにお願いするとして、俺は一度宿に帰るよ」
あんまり遅くなると、心配したフーリ達が、俺達を探しに来るかもしれない。そうなる前に帰らないとな。
「はい。私もアンちゃんに一通り教えたら帰りますね」
「ああ、分かった」
水を出すだけなら、そう時間は掛からないだろうし、昼飯は一緒に食べれるぐらいの時間には帰って来るかな。
そう考え、孤児院を後にしようとしたのだが。
「え? おじちゃん、帰っちゃうの?」
フォレがキョトンとした顔で尋ねてきた。
「ああ、そろそろ帰らないと、皆が心配するからな」
今日もやる事は色々あるから。
パレードは今日もやってる筈だから、光は王城に帰るだろう。見送りの一つでもしてやらないといけない。
昨日の市場でもう一度買い物もしたいし、急遽出場が決まった武闘大会に向けて、準備も始めておかないと。
王都の冒険者ギルドも時間があれば覗いてみたい。
そう、何気にやる事は多いのだ。
そんな事を考えていると、フォレの表情が、段々悲し気に歪み始め、今にも泣き出しそうなものへと変わっていった。
……え?
「フォ、フォレ? どうしたんだ?」
何で急に泣きそうになってんの? 俺何かした?
今の会話に、フォレを泣かせる要因が無かったか思い返してみたが、思い当たる節は無い。いや、今回に関してはマジで何も心当たりが無いぞ?
いたって普通の会話だった筈だ。じゃあ何でフォレは泣きそうになってるんだ?
「ど、どうしたのフォレ?」
「フォレちゃん、どこか痛いの?」
突然の事態に、アンとマリーも動揺している様で、慌ててフォレに近寄ってフォレを気遣っている。
「お、おじちゃ……。おじちゃんが、帰っちゃ……うって」
俺が? 帰る? うん、確かに帰るって言った。フォレに聞かれたから、特に何も考えずに答えた。
……え、それ? 俺が「帰る」って言ったから、フォレは泣きそうなの?
俺は自分を指差しながらアンとマリーに視線を送ると、二人は無言で頷いた。
つまりフォレは、俺が帰るのが寂しくて、それで泣きそうになってる、と?
「マジか……」
フォレが泣きそうになるぐらい、俺との別れを惜しんでくれるのは素直に嬉しい。例えおじちゃんと言われても、な。
だが、嬉しい反面困った事にもなった。
俺がこのまま帰るのは簡単だ。泣きそうなフォレを無視して、さっさと帰れば済む話なんだから。
だが、そんな事をしたら、俺の良心が即死する。泣きそうなフォレを無視して帰るなんて、俺には到底出来ない。出来る筈がない。
でも、だからと言ってこのままずっとここにいる訳にもいかないし。
「フォレ、わがまま言わないの。お兄さんは帰らないといけないんだから」
「……うん」
コクン、と。泣きそうなのを必死に堪えて頷いたのが、目に見えて分かった。
両手をギュッと握りしめ、膝の前に置いている。喋ると泣きそうなのか、無言で俯いている。
いっその事泣いてわがままを言ってくれた方がまだマシだった。
年相応に泣いて喚いて、周りを困らせるぐらいしてくれた方が、俺としても言い聞かせやすかった。
だが、これでは流石に怒る訳にもいかない。だってフォレはわがままを言う訳でもなく、黙って言う事を聞こうとしている。
我慢しようとしている。
どうしよう。このまま帰って良いのか? フォレが泣きそうなのに? でも、流石に帰らないと心配するよな。
光とか、心配通り越して怒ってそうだし。
「フォレちゃん、カイトさんはまた来てくれるから、ね?」
マリーは何とかフォレを元気付けようと、声をかけている。
「またって、いつ?」
だが、そんなマリーに、フォレの純粋な質問が繰り出される。
「え? えっと……カイトさん」
「そこで俺に振るの!?」
まさかの展開。え、これなんて答えればいいんだ? 明日か? 明後日か?
……いや、違うな。
「ごめんな、フォレ。ちょくちょく遊びに来るから、それで許してくれないか?」
ここで曖昧に答えても、却って傷つけるだけだ。ここは素直に話した方がいいだろう。
「……うん、がまんする」
「そうかそうか、いい子だ」
俺はフォレの目線に合わせて屈み、その頭を優しく撫でる。
「いい子にしてたら、お土産いっぱい買って来るからな」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
こんな小さな子供が、わがままも言わずに我慢するんだ。それぐらいしても罰は当たらない。
だからこそ、適当な事も言ってはいけない。
「……はやく帰ってきてね?」
「出来るだけ、な?」
フォレの言葉に、最後にもう一撫でしながら答え、そのまま立ち上がると。
「それじゃあ、今度こそ帰るな」
マリーとアンの方に向き直りながら告げた。
「……お兄さんって、子供の相手するの上手いですよね。昨日もみんなの相手をしてくれてましたし」
「そうか?」
確かに子供は好きだから、多少上手い自信はあるけど。でも、アンに言われるとは思わなかった。
「本当です。アミィちゃんの時といい、アンちゃんの時といい、今回はフォレちゃんまで。カイトさんって、意外と面倒見がいいですよね」
「意外とは余計だ」
いや、確かにそう見られても仕方がないのかもしれないけど。
「私の時って……私はもう子供じゃありませんけど」
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