見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十話

 アンの髪に髪飾りを付け終えると、俺はその姿をザッと眺めた。うん、よく似合ってるな。
 アンが水魔法を使う為とはいえ、出来る限り見た目にも拘りたい。

 いっそ髪飾り以外のアクセサリーもいいかと思ったけど、パッと思いつくものが無かったんだよな。いい加減髪飾りばかりじゃ味気ないって分かってるけど、なかなかアクセサリーを作るのって大変なんだ。

 イメージを固めるのも難しいし。
 まあその辺はおいおい考えるとして、今はアンにきちんと説明しないと。

 アンは何が起こったのか分かっていない様だったが、自分の髪に手を当てると、髪飾りに気が付いたのか。

「あの、これ何ですか?」

 と、尋ねてきた。
 どうやら何かが付いているというのには気が付いたが、それが髪飾りだとは気付いてなかったみたいだ。

 普通手触りとかで気付かない? いや、もしかしたら今まで髪飾りなんて付けた事ないのかもしれないな。
 深くは聞くまい。

「それは特別な髪飾りだ」
「特別な髪飾り?」
「ああ、特別だ。それを付けてると、アンも水魔法を使えるようになるんだ」

 アンに分かる様に説明すると、最初は言葉の意味が分かっていない様で小首を捻っていたが。

「みずまほう? 水、魔法? ……水魔法!?」

 何度か呟いた後、ようやく言葉の意味が理解出来たのか、アンは驚きの声をあげた。
 おお、良いリアクション。

「お、おお、お兄さん!? 水魔法って……水魔法ってどういう事ですか!?」

 いや、あの、そう何度も聞かなくても聞こえてるから。ちゃんと説明するから。

「実はな、それは魔導具なんだ。魔導具は知ってるよな?」
「え、まどうぐ……って、魔導具!? この髪飾り、魔導具なんですか!?」

 アンは魔導具という言葉に更に驚いていた。なんか魔導具だって話すると、みんな驚くんだよな。
 やっぱりそれだけ、この世界では魔導具は貴重って事なんだよな。

 まだ実際に買った事がないから、頭では理解してても、イマイチ実感が湧かないんだよな。

「あの、その、これ、さっきプレゼントって。それって、えっと、その、つまり……」

 アンが何かを言おうとしているが、大分焦っているのか、言葉が出て来ない様だ。

「アン、一回落ち着くんだ。ほら、深呼吸して。はい、吸って」
「は、はい。すぅー」
「吐いてー」
「はぁー」
「吸ってー」
「すぅー」
「はい止めて!」
「っ!」

 ピタッ、と。アンは律義に俺の言う通り、呼吸を止めた。このままちょっと様子を見てみようかな。あ、顔が赤くなってきた。

「カイトさん、からかったらかわいそうですよ。アンちゃん、吐いていいよ」
「ぷはぁ!」

 俺がアンをからかおうとすると、マリーが間に入って止めてきた。いや、こういう時はちょっとからかうぐらいが焦りも消えると思ったんだけど。

「アンちゃん、これで少しは落ち着けた?」
「え? あ、はい、そうですね」

 マリーの言葉に頷くアン。うんうん、無事に落ち着けたみたいだな。

「アンちゃん、焦らなくていいんだからね。ゆっくりでいいから」
「はい。ありがとうございます、マリーさん」

 マリーが諭す様に言うと、アンはようやく落ち着きを取り戻したのか、一度頷いてから答えた。
 まあ過程はどうあれ、アンが落ち着いた様で何よりだ。

「お兄さん、取り乱してすみませんでした」
「いや、いいよ。気にするな」

 アンはマリーから俺に向き直ると、一度頭を下げて謝ってきた。いや、そう素直に謝られると、からかおうとした俺が悪いみたいで居心地が悪くなるから。
 いや、実際悪かったのかもしれないけど。

「カイトさんも、何か言う事があるんじゃないですか?」

 そう考えていると、マリーからツッコまれたが、これは助け舟なのかもしれない。
 俺が自然に謝れるように、っていうマリーなりの気遣いを感じる。なら、無駄にする訳にはいかないな。

「そうだな。アン、俺もからかおうとして悪かった」

 マリーの言葉に頷いてから、俺はアンに一言謝っておいた。

「いえいえ、気にしないで下さい。お兄さんは私を落ち着かせようとしてくれたんですよね? それなら感謝こそしても、怒ったりはしませんよ」

 ……随分と大人びた考え方が出来るな、アンは。この子、本当に子供か?
 いや、子供なんだけど。随分と子供らしくない考え方をする子だ。

「そ、そうか? それなら良かったけど」

 俺はアンの言葉に内心驚きながらも、何とか普通に返す事が出来た。
 ……普通、だったよな? 変じゃなかったよな?

「それで、さっきの話に戻りますけど。その、この髪に付いている物って」
「おう。髪飾りな、それ」

 アンは未だに自分の髪に何が付いているのか分かっていなかった様だったので、ここできちんと教えておかないと。

「あ、これ髪飾りなんですね。さっき、これを付けながら「水魔法の魔導具」って言ってましたけど、何か関係があるんですか?」

 アンは自分の髪に付いた髪飾りを片手で触りながら、俺に尋ねてくる。
 何て説明すればいいだろうか? ハッキリと言うと、関係あるどころか、それ自体が魔導具なんだよなぁ。

「実を言うとだな」
「はい」

 俺が神妙な顔つきでアンに一歩迫る。真面目な顔して、と。

「これが、魔導具なんだ」
「……これが魔導具、ですか? やっぱり、そういう事なんですね」

 アンは自分の髪に付けられた髪飾りを取り外し、それを手の平の上に乗せてからじっくりと眺め始めた。
 見た目はマリーやフーリにあげた物と全く同じ。更に言うなら、色もマリーと同じ青色だ。

「……綺麗」
「え?」

 しばらく眺めた後、アンが漏らしたのはそんな言葉だった。

「あ、いえ。これ、綺麗だなって思って」
「あ、うん、そうか。それは良かった」

 予想外の反応に驚いたが、アンの言いたい事はよく分かる。
 各属性の魔石って、薄っすら透き通ってて綺麗なんだよな。もっと濃度が濃い物もあるみたいだけど、アクセサリーに加工するならこのぐらいが丁度いい。

 伊達に宝石代わりにされてないって事だ。なんなら宝石よりも綺麗ですらあるからな。
 希少性を考えれば宝石の足元にも及ばないだろうけど。いやでも、物によっては宝石よりも価値がある物もあるかもしれない。

「でも、これって凄く高価な物ですよね?」

 アンは両手で大切そうに髪飾りを持ち、俺の方に差し出しながら尋ねてきた。その行動は「こんな高価なものは受け取れない」と言ってる様にも見える。
 だが、それはアンの誤解で、なんなら一個銀貨一枚程度で作れる代物だ。

 世間一般に出回っている魔導具と比べると、その価値には文字通り、天と地ほどの差がある。

「いやぁ、それがその魔導具、別にそんな大層なものじゃないんだ」
「嘘、ですよね? 魔導具が高価な物だって事は、私でも知ってますよ」

 これは本当の事だ。アンに詳しく説明出来ないのがもどかしい。

「えっとね、アンちゃん。コレは本当に高価なものじゃなくて」

 マリーもアンにどう説明していいか分からないみたいで、言葉を探しているみたいだ。

「マリーさんも、そんな気を使わなくてもいいんですよ。流石にこんな高価な物を頂くなんて出来ませんから」

 アンは口ではそう言いながらも、目線は魔導具の方をチラチラと見ている。多分、この魔導具の便利さを理解しているのだろう。
 だからこそ、どうにかして誤解を解きたいんだけど……いや、待てよ?

 何も無理して誤解を解かなくても良くないか? 要はアンがこれを使ってくれればいいのであって、高価なものだと誤解してるかどうかは、また別の問題だ。
 そう、例えばだけど。

「フォレの為、とか」
「「え?」」

 俺がボソッと呟いたのが聞こえたのか、アンとマリーが同時に声をあげた。

「いや、これをアンが使えば、もうフォレが無理して水汲みをしようとは考えなくなると思うんだ」

 そう。俺が考えたのは、ここにいない第三者、フォレを理由にするというものだ。
 これならきっとアンにも納得して貰えるんじゃないかと思うけど。

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