見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十九話
「おはようございます、カイトさん」
「おはよう、マリー」
あの後俺は、本当にすぐ眠ってしまった。
マリーが先に寝てしまって、緊張の糸が切れたのが大きかったのだろう。ただ「若い男女が同じ部屋に泊まっておいて何もない」というのは、如何なものかとは思わないでもないけど。
「ん? どうかしましたか?」
「いや、別に。何でもない」
「? そうですか?」
マリーは小首を傾げ、よく分かって無さそうな顔をしている。まあマリーと一緒の部屋に泊まって何かあったら、それはそれで問題がありそうだから、何もなくて良かったんだけど。
ただ、こうも何事も無かった様にされると、ちょっとだけ悲しい気持ちも湧いてくる訳で。
「さて、アンちゃんはもう起きてますかね?」
「さあ、どうだろう? 微妙じゃないか?」
孤児院の朝がどのぐらいの時間から始まるか分からないが、俺達よりも早く起きている事があるだろうか?
アミィみたいに朝から宿屋の準備があるなら話は別だが、そうでないならそんなに早起きしなくてもいいと思う。
あくまで俺の予想だけど。
だが、一昨日ここに来た時、子供達が何かの作業をしていたんだよな。もしかしたら、孤児院への寄付金が減ったから、少しでも稼ごうとして仕事をしていた可能性もある。
それなら、朝早くから作業をしているという可能性もあるけど。
「とりあえず、食堂まで行ってみるか」
ここで考えていても仕方がないしな。
「そうですね。でも、その前に顔を洗いたいですけど」
「そうだな。表の井戸を使わせて貰おうか?」
「はい」
そうと決まれば、とりあえず外に出ないとな。
俺達は顔を洗うべく、孤児院の外にある井戸へと向かった。
井戸に行くと、既にアンは起きており、井戸で水汲みをしている所だった。
「あ、お兄さん、マリーさん、おはようございます」
アンは俺達の存在に気が付くと、水汲みをする手を止めて俺達の元に駆け寄ってきた。
「おはよう、早いんだな」
「おはよう、アンちゃん。もう起きてたんだね」
俺の予想を裏切り、アンは既に起きていた。それどころか、水汲みまでしていた。一体何時に起きたんだ?
ふと井戸の方に視線を戻すと、そこには既に水を汲み終わった桶が置いてある。
「水汲みしてたのか?」
フォレに水汲みをやめる様には言ったが、アンには言ってない。ていうか、水汲みをしない様に言ったのはアンだから当然なんだけど。
でも、これはアンにも充分重労働だろうし、出来れば他の人がやった方が良いと思うけど。
「はい。ちょっと前までは別の人がしてたんですけど、今は私がやってます」
俺が何を言いたいのか察したのか、アンは苦笑いを浮かべながら答えた。
「そうなのか。その「別の人」っていうのは、今は?」
元々水汲みをしていたその「別の人」というのは、多分男だろう。これはそれなりに力と体力が必要だし、それならガタイのいい男の方が水汲みは向いている。
だが俺が気になるのは、その「別の人」というのが、今どこにいるのかという事だ。
一昨日と昨日はフォレが。そして今日はアンが水汲みを担当している。それはつまり「別の人」が、今は孤児院にいないという事を意味している。
偶然孤児院にいなかったというのなら仕方がない。そういう日もあるのだろうと納得出来る。
でももしそうじゃなかったら? もしもその人が孤児院に来れないのなら? 例えば、王都から引っ越したとか。或いは病気とか。もしくは不慮の事故にあって、もう孤児院に来れないのだとしたら?
もしくは、その「別の人」もアン達と同じ孤児で、誰かに貰われたのだとしたら?
アンはこれからも水汲みを続けなくてはならなくなる。
それはちょっと良くない状況だ。
「その人は、孤児院の一番年上のお兄ちゃんだったんですけど、この間身請けしたいっていう貴族様に引き取られちゃって」
「あ、身請け。あー、そうか。身請けか……」
やっぱり「別の人」は、アン達と同じ孤児だったか。
水汲みを担当していたのは、どうやら孤児院にいた子供の一人だった様で、その子が貴族に引き取られたから、代わりにアンが水汲みをしている、と。
それはなんというか、どうしようもないよな。だって、孤児院から貴族に引き取られるなんて、孤児の立場からしたら夢の様な話だろうし、それを引き留める訳にはいかなかっただろう。
その子からしても、断るなんて考えはなかっただろうし。
これはどうしようもない「仕方がない」事だ。
「それでアンちゃんが水汲みを……」
マリーも俺と同じ考えに至ったのか、何とも言えない表情をしていた。
アンみたいな子供が水汲みをしているのはどうにかしたいけど、だからと言って引き取られた子が悪い訳ではない。
だからこそ、何と言えばいいか、という話だ。
「でも、最近は大分慣れてきたんですよ。ほらっ!」
アンは俺達が何か言いたそうにしているのに気が付いたのか、力こぶを作る様な仕草をして誤魔化そうとした。
ちなみに、アンの細腕にはとても小さいが、一応力こぶが出来ていた。
「どうにか出来ないものか」
井戸から水汲みをしなくても、水を確保する方法、か。
パッと思い浮かぶのは、手押しポンプとかだろうか? でも、この世界に手押しポンプなんてあるのか?
仮に俺がストレージで作るとしても、構造を全く知らない物を作る事なんて出来るか? それに、もし作れたとしても、手押しポンプをどう設置する?
俺は手押しポンプの設置なんてした事ないから無理だ。
となると、別の方法になるけど……。
「あ、そうだ。その手があるか」
「どうかしたんですか?」
「ああ、ちょっとな」
俺がぼそっと呟くと、アンがそれに反応して尋ねてきたので、曖昧に答えておいた。
それからマリーに視線を移し。
「なあマリー。水魔法で作った水って飲めたりする?」
「え、水魔法で、ですか? はい、問題なく飲めると思いますけど……あ、もしかして」
「ああ、マリーの想像通りだ」
マリーに尋ねると、問題なく飲めるという事が分かった。なら残る問題は一つだけだな。
話している途中でマリーも俺が何をしようとしているのか気が付いた様で、少しの期待を込めた視線を送って来た。
「? 何の話ですか?」
そして、アンだけがその状況を理解出来ておらず、俺とマリーを交互に見ては不思議そうな顔をしていた。
うん、普通はそうなるよな。
俺はストレージの中を確認し、アレがあるかを探してみた。
「えっと、確かまだあった筈……お、あったあった」
ストレージにアレがある事を確認した俺は、早速それを使って「ある物」を生産した。
それをストレージから取り出して、アンの方に向き直り。
「なあ、アン。水魔法に興味はあるか?」
「え? 水魔法……ですか?」
突然予想外の質問をされたからか、キョトンとした表情をしていた。
「ああ、水魔法だ」
聞き返された俺は、迷いなく頷く。すると、今度は話が理解できたのだろう。少し考える様な仕草をした後。
「えっと……それはまあ、はい。水魔法というより、魔法自体に興味はありますけど」
と答えた。
「そうか。なら好都合だな」
たった今作った「コレ」が無駄になる事はなさそうだ。問題は、アンにも使えるかどうかだけど、まあ大丈夫だろう。
「アン、お前に良い物をあげよう」
「え? 良い物……ですか?」
アンは訳が分からないといった顔をしている。
そんなアンの髪に、俺はたった今作った物「水魔法の髪飾り」を付けてあげた。
アンは突然髪を触られた事に驚いたのか、一瞬だけ「ビクッ」となっていたが、その後は特に文句を言う事もなく身を委ねてくれた。
俺が言うのもなんだけど、それでいいのだろか?
「ほら、俺からのプレゼントだ」
「おはよう、マリー」
あの後俺は、本当にすぐ眠ってしまった。
マリーが先に寝てしまって、緊張の糸が切れたのが大きかったのだろう。ただ「若い男女が同じ部屋に泊まっておいて何もない」というのは、如何なものかとは思わないでもないけど。
「ん? どうかしましたか?」
「いや、別に。何でもない」
「? そうですか?」
マリーは小首を傾げ、よく分かって無さそうな顔をしている。まあマリーと一緒の部屋に泊まって何かあったら、それはそれで問題がありそうだから、何もなくて良かったんだけど。
ただ、こうも何事も無かった様にされると、ちょっとだけ悲しい気持ちも湧いてくる訳で。
「さて、アンちゃんはもう起きてますかね?」
「さあ、どうだろう? 微妙じゃないか?」
孤児院の朝がどのぐらいの時間から始まるか分からないが、俺達よりも早く起きている事があるだろうか?
アミィみたいに朝から宿屋の準備があるなら話は別だが、そうでないならそんなに早起きしなくてもいいと思う。
あくまで俺の予想だけど。
だが、一昨日ここに来た時、子供達が何かの作業をしていたんだよな。もしかしたら、孤児院への寄付金が減ったから、少しでも稼ごうとして仕事をしていた可能性もある。
それなら、朝早くから作業をしているという可能性もあるけど。
「とりあえず、食堂まで行ってみるか」
ここで考えていても仕方がないしな。
「そうですね。でも、その前に顔を洗いたいですけど」
「そうだな。表の井戸を使わせて貰おうか?」
「はい」
そうと決まれば、とりあえず外に出ないとな。
俺達は顔を洗うべく、孤児院の外にある井戸へと向かった。
井戸に行くと、既にアンは起きており、井戸で水汲みをしている所だった。
「あ、お兄さん、マリーさん、おはようございます」
アンは俺達の存在に気が付くと、水汲みをする手を止めて俺達の元に駆け寄ってきた。
「おはよう、早いんだな」
「おはよう、アンちゃん。もう起きてたんだね」
俺の予想を裏切り、アンは既に起きていた。それどころか、水汲みまでしていた。一体何時に起きたんだ?
ふと井戸の方に視線を戻すと、そこには既に水を汲み終わった桶が置いてある。
「水汲みしてたのか?」
フォレに水汲みをやめる様には言ったが、アンには言ってない。ていうか、水汲みをしない様に言ったのはアンだから当然なんだけど。
でも、これはアンにも充分重労働だろうし、出来れば他の人がやった方が良いと思うけど。
「はい。ちょっと前までは別の人がしてたんですけど、今は私がやってます」
俺が何を言いたいのか察したのか、アンは苦笑いを浮かべながら答えた。
「そうなのか。その「別の人」っていうのは、今は?」
元々水汲みをしていたその「別の人」というのは、多分男だろう。これはそれなりに力と体力が必要だし、それならガタイのいい男の方が水汲みは向いている。
だが俺が気になるのは、その「別の人」というのが、今どこにいるのかという事だ。
一昨日と昨日はフォレが。そして今日はアンが水汲みを担当している。それはつまり「別の人」が、今は孤児院にいないという事を意味している。
偶然孤児院にいなかったというのなら仕方がない。そういう日もあるのだろうと納得出来る。
でももしそうじゃなかったら? もしもその人が孤児院に来れないのなら? 例えば、王都から引っ越したとか。或いは病気とか。もしくは不慮の事故にあって、もう孤児院に来れないのだとしたら?
もしくは、その「別の人」もアン達と同じ孤児で、誰かに貰われたのだとしたら?
アンはこれからも水汲みを続けなくてはならなくなる。
それはちょっと良くない状況だ。
「その人は、孤児院の一番年上のお兄ちゃんだったんですけど、この間身請けしたいっていう貴族様に引き取られちゃって」
「あ、身請け。あー、そうか。身請けか……」
やっぱり「別の人」は、アン達と同じ孤児だったか。
水汲みを担当していたのは、どうやら孤児院にいた子供の一人だった様で、その子が貴族に引き取られたから、代わりにアンが水汲みをしている、と。
それはなんというか、どうしようもないよな。だって、孤児院から貴族に引き取られるなんて、孤児の立場からしたら夢の様な話だろうし、それを引き留める訳にはいかなかっただろう。
その子からしても、断るなんて考えはなかっただろうし。
これはどうしようもない「仕方がない」事だ。
「それでアンちゃんが水汲みを……」
マリーも俺と同じ考えに至ったのか、何とも言えない表情をしていた。
アンみたいな子供が水汲みをしているのはどうにかしたいけど、だからと言って引き取られた子が悪い訳ではない。
だからこそ、何と言えばいいか、という話だ。
「でも、最近は大分慣れてきたんですよ。ほらっ!」
アンは俺達が何か言いたそうにしているのに気が付いたのか、力こぶを作る様な仕草をして誤魔化そうとした。
ちなみに、アンの細腕にはとても小さいが、一応力こぶが出来ていた。
「どうにか出来ないものか」
井戸から水汲みをしなくても、水を確保する方法、か。
パッと思い浮かぶのは、手押しポンプとかだろうか? でも、この世界に手押しポンプなんてあるのか?
仮に俺がストレージで作るとしても、構造を全く知らない物を作る事なんて出来るか? それに、もし作れたとしても、手押しポンプをどう設置する?
俺は手押しポンプの設置なんてした事ないから無理だ。
となると、別の方法になるけど……。
「あ、そうだ。その手があるか」
「どうかしたんですか?」
「ああ、ちょっとな」
俺がぼそっと呟くと、アンがそれに反応して尋ねてきたので、曖昧に答えておいた。
それからマリーに視線を移し。
「なあマリー。水魔法で作った水って飲めたりする?」
「え、水魔法で、ですか? はい、問題なく飲めると思いますけど……あ、もしかして」
「ああ、マリーの想像通りだ」
マリーに尋ねると、問題なく飲めるという事が分かった。なら残る問題は一つだけだな。
話している途中でマリーも俺が何をしようとしているのか気が付いた様で、少しの期待を込めた視線を送って来た。
「? 何の話ですか?」
そして、アンだけがその状況を理解出来ておらず、俺とマリーを交互に見ては不思議そうな顔をしていた。
うん、普通はそうなるよな。
俺はストレージの中を確認し、アレがあるかを探してみた。
「えっと、確かまだあった筈……お、あったあった」
ストレージにアレがある事を確認した俺は、早速それを使って「ある物」を生産した。
それをストレージから取り出して、アンの方に向き直り。
「なあ、アン。水魔法に興味はあるか?」
「え? 水魔法……ですか?」
突然予想外の質問をされたからか、キョトンとした表情をしていた。
「ああ、水魔法だ」
聞き返された俺は、迷いなく頷く。すると、今度は話が理解できたのだろう。少し考える様な仕草をした後。
「えっと……それはまあ、はい。水魔法というより、魔法自体に興味はありますけど」
と答えた。
「そうか。なら好都合だな」
たった今作った「コレ」が無駄になる事はなさそうだ。問題は、アンにも使えるかどうかだけど、まあ大丈夫だろう。
「アン、お前に良い物をあげよう」
「え? 良い物……ですか?」
アンは訳が分からないといった顔をしている。
そんなアンの髪に、俺はたった今作った物「水魔法の髪飾り」を付けてあげた。
アンは突然髪を触られた事に驚いたのか、一瞬だけ「ビクッ」となっていたが、その後は特に文句を言う事もなく身を委ねてくれた。
俺が言うのもなんだけど、それでいいのだろか?
「ほら、俺からのプレゼントだ」
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